三年と最下層と隠しボスと
そうして、束の間の休息の後にダンジョンの前へと集合をした。
「ゆっくりと休めたかしら?」
「はい!」
元気よく返事をするヒカリちゃん。他のメンバーを見渡してもその表情はやる気にあふれている。
なにせ、これが終われば今まで苦汁をなめさせられ続けていた魔人達を倒すために動けるのだ。気合も入るというものだ。
「アクレージョ。んで、本当にこのダンジョンを踏破すりゃ動けるんだな?」
「シルヴィア、どうだった?」
ロウガくんの質問に対してシルヴィアくんに確認を取る。休んで居る時も動いてくれたシルヴィアくんには感謝だ。笑顔でこちらを見る。
「うん、学園長からも確認はとったよ。魔獣の住処であり危険な前人未到のダンジョン踏破。それを達成した王選候補が号令を取るのであれば協力してくれるだろうってね。少なくとも、学園側では全面的に協力するって話だ」
そう、今まで足りなかったものの一つ。それは魔人たちに対抗するのに提示できる実績だ。
どれだけやる気があるとしても、模擬戦で実力を示したとしても魔人という未知の存在に対してどこまで出来るのか。それがわからない。だからこそ、最悪の想定をして被害を抑えるために貴族たちは動けなかった。
しかし、未知の……それこそ、過去今まで誰一人として最下層を見たことのないダンジョンを踏破したとなれば、それこそ魔人達に対して「彼らなら出来るかもしれない」と思わせられるのだ。
「意外と素直ね。心配はしていたのだけども」
「まあ、学園長も色々と悩んでいたから渡りに船だったんだと思うよ。これから各貴族に対して配置を調整したり色々と大変だろうけどね」
「うむ……オレ達ですら大変なのだから、宰相の立場ともなると想像出来ない苦労だろうな……」
今この瞬間にも各貴族からやってくる情報をまとめたり、問題を解決するために奔走している。
この騒動が終わったら学園長も隠居しそうだな。
「学園長にも苦労させるわね」
「でも、喜んでいたけどね。ようやくこの騒動から開放されるかもしれないって」
まあ、そう思うのも仕方ないよな。
身近な人間が裏切ってる可能性に晒されながら、被害報告を聞き続けて仕方なく相手を待つ戦略を取る。ただでさえお爺さんなのにやせ細るのは学園の生徒たちすら本気で心配する程だった。
「まあ、学園長はもう本当にいつ倒れてもおかしくないですからね……」
「見てるだけで心配になりますよね」
「少なくとも、僕たちが失敗したら学園長が本当に倒れかねない。失敗はできないよ」
「あら、失敗なんてありえないわ……さあ、行くわよ。最下層に」
「はい!」
レイカ様、ヒカリちゃん、シルヴィアくん、ロウガくん、ツルギくん、カイトくん、ホークくんの七人でダンジョンへと潜っていく。今見ても豪華なメンバーだ。プリンセス・ブレイドというゲームのメインメンバーが揃っているなど感動しそうな光景だ。
最後のボス戦。これで長いダンジョン攻略が終わり……そして、メアリちゃんを助けるために動けるのだ。だからこそ、失敗も犠牲も許されない。さあ、最後の階層へ行こうじゃないか。
三十三階層に降りてきた。この大所帯だと、魔獣も警戒をしているのか現れずにすんなりと辿り着いた。そこには激闘の後と壊れた斧の破片が散らばっていた。これが例の倒したミノタウルスの残骸か。
その戦いの痕跡は、どれだけ大変だったのかを物語っている。だというのに、大きい怪我もなく攻略したヒカリちゃんたちの成長を実感する。
「……貴方達も成長したのね」
「急にどうしたんだい?」
「この跡を見ればどれだけ激闘だったのか分かるもの」
そう言いながら三十三階層から降りていく。
三十四階層に降りてから、ふと気づいたことを尋ねた。
「そういえば、聞き忘れたけども……この階層はどういう魔物だったのかしら?」
「ああ、この階層の魔獣か? ……なあ、お前ら。ありゃどう言えばいいんだ?」
「怪物でしたね。いや、本当に。説明が難しいですね……」
「色々な魔獣のごった煮みたいな奴だったな。口も沢山あったぞ」
「攻撃方法も多彩だったな。魔力による毒なども使ってきた」
口々にそういうが、具体的な答えは出てこない。それだけ全員が良く分かっていないのだろう。
……やはりこれはキマイラか。伝説上の様々な動物が融合した怪物。最下層に行く前に出てくるボスで状態異常系の面倒なボスだった覚えがある。
そんな魔獣だと言うのに、あの後に目立った怪我もなく倒せたのは本当に凄いことだ。
「そんな魔獣を被害なく倒せたのは見事ね」
「何だ気味が悪いな。どんだけ褒めるんだよ」
そういうロウガくんだが、ちょっと顔が赤くなっている。照れてるみたいだ。
「師匠、俺たちも成長をしているのだぞ。最下層だってきっと楽に倒せるに決まっている!」
「ええ、調子に乗るわけではありませんがちゃんと全員で連携をすれば負けることはありません」
皆知らない間に成長をしているのだ。俺は自分だけで何でもやらなければならないと思い込んでいたかと反省をする。
なにせ次はのボスは……
「そう、それなら心強いわね。最下層の魔獣に会いに行くわよ。覚悟は良いかしら?」
「はい!」
返事を聞いて全員の表情を見渡す。その言葉に勿論とばかりに視線を返された。
ならば、大丈夫だ。あの何度だって全滅してきたボスにだって勝てる。そうして、最下層へと踏み込んだ。
最下層はとんでもなく広い空洞だった。下手をすれば、そこに小さな村や街を作れるのではないかと思うほどに。
「……とんでもなく広い空間ですね……それに、周囲には魔石がこんなにも」
「わぁ……すごい綺麗です」
キラキラと光るのは魔力を吸収して煌めいている魔石だ。これだけの量があれば、一国に配備する武器を全て用意しても余るくらいだろう。このダンジョンの下層は魔石による魔力の発光で照らされているのだが、最下層は日の高い昼間のように明るい。
その光が魔石同士で反射して幻想的な光景になっている。その光景に目を奪われていると……ズゥンとまるで地鳴りのような音が聞こえる。
「なんだろう、この音は……?」
そういうシルヴィアくんに、他の全員が周囲を確認する。
「……師匠たち、あれ」
カイトくんが上を見て、指を指している。あっけに取れられて言葉も忘れた様子だ。
同じように見たロウガくんが、目を擦って何度も見返す。
「……おい、俺の見間違いか? 目がおかしくなったか?」
「いや、キシドー殿……正しい。俺の目にもおかしいものが見える」
「……ふむ。拙者も大物取りは何度か経験はあるが……」
天井からゆっくりとその怪物は舞い降りてくる。
そのサイズは、それこそケロベロスほどの大きさもある。
「ここまでの大きいトカゲ退治は初経験だ」
ツルギくんのマイペースなその言葉に、咆哮する。
魔獣だと言うのに、その咆哮には物理的な衝撃があった。全てが規格外の怪物。
「……まさか、お伽噺でしか聞いたことがないよ……」
「まさか、魔獣はこんな伝説の怪物をも再現するんですか!?」
全員が混乱して戸惑っている。そう、ゲームでも登場した最強のボス。
ケロベロスと同じ大きさを持ち、朱雀と同じ飛行能力を持ち、ミノタウロスのような破壊力を持ち、キマイラのような多彩な攻撃をしてくる怪物。
「レイカさん……アレって」
「ええ、そうね」
そして、あらゆるファンタジー作品で登場する最も雄大で有名な怪物。
「ドラゴンの魔獣。さあ、あれを倒すわよ」
最強の隠しボス、ドラゴンが現れた。
ゲームのボスといえばドラゴンはロマンであり王道なので初投稿です




