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三年と平穏の終わり

 ダンジョンから帰ってきた皆は大きな怪我もなかった。レイカ様もヒカリちゃんも居ないというのに無事だったのは本当に強くなったのだろう。

 しかし、そのメンバーにメアリちゃんはいない。それに気づいて、労いよりも先にシルヴィアに詰め寄る。


「シルヴィア」

「……アクレージョさん、流石にすぐに分かったよね」

「説明をしなさい」


 その言葉は自分で思っている以上に怒気が含まれている。他の皆が困惑している。

 ブレイド家が隠蔽をしていたと言うが、現在の当主はシルヴィアくんだ。つまりは、知っている可能性は高い。


「……メアリ・ホオズキの失踪に関してはここに居る皆にも説明するよ。学園事務室に来てくれるかい?」

「えっ!? ホオズキさんが……!?」


 ヒカリちゃんが驚く。他の面々も失踪について聞いて驚きを隠せていないようだ。

 他の面々も同様に、驚きを隠せていない。それほどまでに突然な話だったからだ。


「納得が行くまで聞かせてもらうわ」

「……うん。それじゃあ休む暇もなくて申し訳ないけど、来てくれるかな?」


 全員が頷く。学園事務室へと歩きながら、頭の中で考え続ける。

 メアリちゃんの失踪……一体何が起きているのか。焦りのようなものが心に残り続けるのだった。



 そして学園事務室。そこに集まった王候補達がいる室内でシルヴィアくんは話し始める。


「……事の起こりは先日、ホオズキさんが医務室から帰ってからの話だ。僕が彼女の調査を命じていた部下から不思議な情報があったんだよ。ホオズキ家の屋敷に人がいないってね」

「人が居ねえだと?」

「うん。全く誰も居ない状態だったよ」


 ゆっくりと伝えるシルヴィアくんの表情はどこか陰りがある。

 そんなシルヴィアくんにカイトくんが質問をする。


「しかし、調べていたのであれば予兆くらいは分かるのではないか? いきなり屋敷全体で失踪するのはおかしいと思うのだが……」

「……ホオズキ家というのはね、元々は諜報部の管理する「火種になりかねない危うい存在」を保護するための貴族位なんだ。とはいえ、これに関してはつい最近判明した事なんだけどね」

「そんな家があるんですか?」

「火種になる存在を隠匿する貴族位だから、それを一般的に知られるわけに行かないからね。まあ、元々の設立自体が複雑な経緯だから学園長ですら知らなかったんだよ。建国以来、諜報部でのみ管理されてきた保護するための貴族位……だったんだけども、前々からどうやら利用するための動きがあったらしい」

「諜報部……ああ、なるほど」


 諜報部というのはスパイをしたり、表立って出来ない事をしてくれるこの国の秘密組織だ。ゲームではヒカリちゃんは関わらないので詳しい描写はないが、レイカ様の立場だと何かと話を聞いたりする組織だ。そこが動くとなると誰かの意図が関わる。

 そして、ピンとくる名前が思い浮かび苦々しい顔を浮かべたロウガくんが吐き捨てるようにいう。


「……ああ、そうか。ロウコウの奴か」

「そうだ。キシドー家長兄であるロウコウ・キシドーの裏切りがキッカケになった。隔離をするはずのその家につれてきたメアリ・ホオズキを表舞台に立たせることでね。どこから裏切っていたのかわからないが、今回の彼女の入学から作戦のうちだったんだろう。彼女について、何かしらの利用価値を認めて連れて行ったのかもしれない」


 ……まあ、いうならこの国の暗部とも言える組織の人間が裏切ればそうなるか。

 ゲームの裏話として、ヒカリちゃんも本来ならそういう貴族家に囲われるはずだったのだが、先王が遺言でヒカリちゃんの事を暴露したので仕方なく市井の人間という立場のまま学園に入学するという措置になったらしい。


「だからこそ、僕は情報を伏せたんだ。これに関して分かってしまえば、混乱が起きるから防ぐため……そして、事実を知った君たちの誰かが暴走しないようにだ」

「……ああ、なるほど。数人は動きそうですからね」

「ああ!? 誰のこと言ってんだ!」

「キシドー殿! 言い争いをする場ではないぞ!」


 ……まあ、ロウガくんは気が気ではないだろう。なにせ、身内の恥だ。キシドーくんの事実確認の言葉ですら過剰に反応してしまった。

 それに、俺もメアリちゃんを素直に誘拐されたと聞けば間違いなく動いていた。レイカ様がそこで引く理由などはないからだ。


「だからこそ黙ってたんだ。僕が隠蔽をすれば、まず最初に僕を問い詰める事に動くだろうからね。一旦冷静になるためにもこういう場を設けたかったんだ。」

「……貴方はそれでいいのかしら? メアリが攫われて冷静でいろと」

「良いわけがないよ」


 そういうシルヴィアくんは、衝動を押さえつけるように手を握りしめている。

 その表情は静かに怒っていた。この場にいる全員が気圧されそうなくらいに。


「今にも怒り狂いたいほど許せない。でも、その思いを我慢して奴らを捉えるために頑張っている。それを無駄にするわけにはいかないんだ。たとえそれが、大切な後輩が巻き込まれたとしても。もしかしたら、それすら利用されるかもしれないのだから」

「シルヴィアさん……」

「……分かってくれたかな? ホオズキさんの捜索は続けているが僕たちが動くわけには行かないんだ」

「では、ダンジョンはどうしますか? この状況で……」


 そんな風にセイドーくんが聞くが、俺の答えは決まっている。


「最後の階層に挑むわ」

「……いいのですか?」

「相手の土俵に登る必要はないわ。それに、メアリは助けることは決まっている。なら、ここで私達がするべきなのは決めたことを通すことよ」


 腸が煮えくり返りそうなくらいにムカついている。

 しかし、ここで相手の思うツボになって動くのは間違っている。


「でも、レイカさん……」

「メアリ・ホオズキは私が認めた人間よ。それに、助けられて喜ぶわけがないでしょう」

「……そうですね」


 どこか納得できない顔のヒカリちゃん。理屈では分かるが、感情では納得できないのだろう。

 そうだ。理屈の上では正しい……だが、そんなお行儀のいい理屈で終わらせるわけがない。


「ここにいる全員、明日は休みなさい。明後日に最下層に挑むわ」

「……アクレージョさん?」

「気が変わったわ。相手の動きを待つだなんて悠長な事は辞めよ」


 レイカ・アクレージョの認めた人間に手を出して無事で済ますつもりはない。


「最下層を攻略。そして回復次第、全勢力を動かしなさい。裏切りも捨て置きなさい。魔人共を叩き潰すわよ。やられっぱなしは性に合わないわ」


 やられっぱなしなど認められるわけがない。なぜなら俺はレイカ・アクレージョなのだから。


「……まあ、そっちの方がらしいよね」

「かはは! そうだな! お前らしいや!」

「承知した」

「……まあ、身内の恥もありますからね。いいでしょう」

「うむ! 師匠らしいと思うぞ!」


 いろいろな反応が帰ってくるが……否定的な意見はない。

 そしてヒカリちゃんを見る。そして、ヒカリちゃんの答えは……


「……はい、わかりました。色々と喧嘩をする相手ですけども……それでも、メアリさんを助けたいです!」

「決まりね」


 そうして、学園事務室を出る。それぞれに決意を込めて。

総力戦までのカウントダウンなので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の土壌に登る必要はないわ 相手の土俵に上がる?
[良い点] メアリさんの方がピンチに陥るとは意外です。地位は偉くないし警戒心も十分そうですから。流石には中々心配ですね。。。
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