三年とデートと不穏と
さて、あの後は三人からダンジョンの話を聞きながら帰宅をした。
その後、ヒカリちゃん以外の三人はダンジョンに行く予定をカイトくんとホークくん含めて相談して決めるとのことだ。まあ、それはそれとして俺はとんでもなく頭を悩ませていた。
「……困ったわね」
「お嬢様、どうされました?」
「ルドガー、後輩を労うためにはどこにいけばいいかしら?」
「……労い、ですか?」
その質問をすると、キョトンとした表情を浮かべるルドガー。
……まあ、珍しいのは認める。レイカ様がそんな事を言うなんて思わなかったんだろう。俺も思わなかった。しかし、ヒカリちゃんを過剰に戦わせていたのは確かだ。ゲームですら休息はさせるのに流石に甘えすぎたと反省した。
「それでしたら、先日のように演劇ではいかがでしょうか?」
「演劇ね……労いとしてはどうかしら? 演目も詳しくないわ。それに二番煎じというのはつまらないでしょう」
「ふむ。確かに楽しい時間の共有はできますが疲れを癒やすという点であれば向いていないかもしれませんね。それに、目新しさという面では確かに劣るかもしれませんね。失礼いたしました」
そう言って謝るルドガー。まあ、そこまで気にしているわけではないが……まあ、同じというのもヒカリちゃんに申し訳ない気がするのだ。
だからといってどこに行くか……本当に悩ましい。出掛けれても市井までが限界だ。外に出すぎるとトラブルに巻き込まれる可能性もあるし、一日で終わるのが好ましい。
「難しいわね」
「……ふむ、お嬢様。それでは先日カーマセ様から教えていただいたこちらはいかがでしょうか?」
「あら、何かしら?」
ルドガーから教えてもらった行き先……それはいいと、採用をする。
さて、普段から苦労をさせてるヒカリちゃんをゆっくりと休ませてあげようじゃないか。
「レイカさん! おまたせしました!」
「別に待っていないわ」
さて、数日後にヒカリちゃんと待ち合わせだ。ちなみに他の皆は今日ダンジョンに挑むらしい。偶然だが日付が被ったようだ。
見送りは出来なかったが、気にしないで休んでこいとシルヴィアくんから連絡が来た。そういった気を回してくれるのでありがたい。
「それで、今日はどこに行くんですか?」
「行き先については考えてきたわ。ついてきなさい」
「はい!」
子犬のようについてくるヒカリちゃんと共に、ルドガーに聞いたそこにやってくる。
その場所を見て、困惑する表情を浮かべるヒカリちゃん。
「……ここですか?」
「そうね。ここよ」
「あの、貴族様のお屋敷のような……」
「ええ。間違ってないわ」
それは、とある貴族の屋敷。それも相当に庭の広い屋敷だ。
入ってもいいのか良いのか悩んでいるヒカリちゃんに、気にする必要はないとばかりに門の中へと踏み込んでいく。慌ててついてくるヒカリちゃん。中を見て、驚きの声を上げた。
「わぁ……! 凄い……!」
「確かに見事なものね。聞いたけども、カーマセ家の関係者が開放している庭園だそうよ」
そこには色とりどりの花。花、花。
それがまるで庭を飾り付けるように咲き誇っている。花について詳しくはないが、それでも綺麗だと思える程に見事だ。
カーマセが新しい事業として、庭園による新しいスポットを作っているらしい。貴族にもメリットがあるとか。ちなみにホークくん率いるセイドー家も協賛していると聞いて商売の話にどこでも関わってくるなと関心したものだ。
「わぁ……こんなに綺麗なお庭、初めて見ました……レイカさん、すごい綺麗ですね!」
「そうね。学園どころか普通の貴族の家でもここまで見事な庭園はないわね」
「いらっしゃいませ、お客様。こちらは初めてでしょうか?」
綺麗な庭を見て喜んでいるヒカリちゃんの前に一人のメイドがやってくる。
そこで自分がはしゃぎすぎたと気づいたのか顔を赤くするヒカリちゃん、メイドは慣れたものなのか笑顔で対応する。
「もしよろしければ、私からご案内を致しますが」
「えっ、あの……」
「そうね。お願いするわ」
「かしこまりました」
どうやら初めての人間には案内をしてくれるらしい。サービスが行き届いている。
「あの、レイカさん……」
「教えてもらいながらゆっくりと見るのも良いものよ」
「――はい、そうですね!」
そう言って笑顔で頷くヒカリちゃん。
ふとメイドさんを見ると笑顔を浮かべている。ちょっと照れくさくなり、すぐに庭園の案内をお願いするのだった。
メイドさんの案内でゆっくりと話を聞かせてもらう。庭園を開放した経緯から、バラに始まってキンモクセイやらマリーゴールドといった俺でも知ってる花や知らない花の解説。話がうまいメイドのおかげでヒカリちゃんと二人で関心しっぱなしだった。
どうやら天気もよく、気候も安定しているので今年はとても綺麗に咲いているそうだ。悪い話も多いが、こうした小さな良い話もあるというのは、なんとなく嬉しい。
「――以上となります。それでは、ごゆっくりご覧になってください。日が落ちるまでは自由に開放しておりますので」
「ええ、助かったわ」
「あ、ありがとうございました!」
「はい。それでは失礼いたします」
そのまま一礼をして去っていくメイド。ううむ、いい教育をしている。
アクレージョ家はルドガー以外の執事は居ない。信用できて、秘密を厳守できるメイドというのも難しいしルドガーが一人でなんとかするから増やしてなかったのだ。
二人で花を見ながらゆっくりと歩き、雑談で軽く話をする。
「メイドというのもいいわね。中々優秀そうだし、気が利きそうだわ」
「レイカさん、メイドさんを雇うんですか?」
「……いえ、別に雇うつもりはないわね」
最初から実はちょっと考えていたことではあるが……あまり関わる人間を増やすつもりはないというのがある。確かに、今現在はゲームと展開は変わってしまった。
それでも、俺はレイカ様として生き続ける事を良しとはしない。もしも俺がレイカ様ではなくて、レイカ様に付き従う従者であれば……なんとしてもレイカ様に生きて貰おうとしていたかもしれない。
でも、俺自身がレイカ様になってしまった。俺の求めるレイカ様はその先には居ない。まあ、どうするかは今は考えていないんだけども……最後のデッドエンドは諦めていない。
「そうですか……新しいメイドさんとか、雇って良いと思いますけど」
「あら、いいの?」
「はい。もっと色んな人にレイカさんは囲まれていてほしいですから」
そんな風に言うヒカリちゃんを意外だと思う。
「そういう意見を言うのは珍しいわね」
「そうですか?」
「ええ、そうね」
なんなら、レイカ様に近づく人が増えるとちょっと嫌そうな顔をしてたくらいだ。
そう言うと、難しい顔をするヒカリちゃん。
「……うーん、説明が難しいんですけど……レイカさんって、なんというか……生き急いでる気がするんです」
「王になるためには今しかないのだから、当然の歩みよ」
「いえ、違うんです。そうじゃなくて……もっと違うところを見ていて、そこに向かって走ってるような気がしていたんです。誰にも一緒について来てもらうつもりのない方向に」
そう言われて、思わず内心でドキリとする。
……いや、流石にそうだよな。ずっと一緒にダンジョンに潜り、色々な騒動に関わり続けていたんだ。その間に、何かを感じ取ってもおかしくはない。
「あら、私が王を目指していないとでもいいたいのかしら?」
「……正直に言うと、わかりません。だって私はレイカさんじゃないですから。ただ、こうしてずっと一緒にレイカさんと居て思っただけなんです」
「……そうなの」
「はい。だから、レイカさんがアラタちゃん達と一緒に遊んでズルいって思ったんですけど……それ以上に、良かったって思ったんです」
突然そういうヒカリちゃん。予想打にしない言葉を言われて思わず困惑する。
「良かった? ズルいと言っていたのに?」
「はい。だって、私は一緒にいてもレイカさんに一緒に演劇を見たりすることは出来なかったんです。私に出来ないことをしたアラタちゃんが羨ましくて、ズルいっていったのを誤魔化したんです」
……花を見ながら、なんてことはなく呟くヒカリちゃんのその言葉には重さがある。
「ずっと、私がレイカさんの支えになりたいって思っていて……でも、色んな人と関わって、色々とやって……ふと思ったんです。私がやらなくても誰かがレイカさんを助けてくれるなら、私には私が出来ることをすればいいなって」
「そんな事を考えていたの?」
「はい。だから、もっとレイカさんにもいっぱい色んな人と一緒に居てほしいなって思うんです。あのホオズキさんも、レイカさんのために色々としてくれたから。だからメイドさんを雇ったり、色んな場所に行ったりしても良いと思います。もっとレイカさんがゆっくりと歩けるように」
「……そう」
ふと思った。今までダンジョンで話したりはしたが……こういう静かな時間にこういった話をしたことはなかった。
命懸けだったり、何かしらの騒動の中でしか話してこなかったが……そうだよな。ヒカリちゃんだって成長をするのだ。体だけではなくて、心も。
「……貴方の友達に怒られたわ。ヒカリに無理をさせ過ぎだって。ふと思ったのよ。周りに目を向けてもいいかとね」
「いえ、私は気にしないでいいですよ。好きでやってるので」
「怒られるのは私なのだけども?」
「なら、そのときは一緒に謝ります。だから、レイカさん。いっぱい頼ってください。その分、休んでくれたらいいですから」
「……考えておくわ」
そんな風に笑顔でいうヒカリちゃんは、どこか大人びて見えた。
静かな時間の中で花を見て庭園を歩く。気まずいわけではなく、静かに、それでいて優しい時間が流れていた。
「レイカさん、今日はありがとうございました」
「少しは休めたかしら?」
「はい。色々と言えましたし……気持ちも体も元気いっぱいです! 明日からがんばれますよ!」
「そう。私もいい気分転換になったわ」
そういうヒカリちゃんに嘘を言ってる様子はない。それならばよかったと思い、少しだけ考える事もあった。
こういう時間もいいと思い、提案をする。
「次はヒカリのエスコートで行きましょうか」
「えっ!? は、はい! わかりました!」
驚きの表情を浮かべて、そうやって笑顔を向けるヒカリちゃん。その笑顔に、やってよかったと思えた。
――そうして上機嫌で屋敷に帰ると、ルドガーが出迎えてくる。しかし、その表情は硬い。
「……お嬢様」
「ルドガー、どうしたのかしら?」
「少々お耳に入れたい話が」
そして、小声で衝撃の事実を伝える。
「ブレイド様が伏せていましたが……メアリ・ホオズキ様が失踪しました」
「……失踪?」
幸せな時間は長く続かない。
ゲームでもそうだ。物語の進行は、待ってくれないのだ。
少しだけ成長したヒカリちゃんとデートなので初投稿です
見ていたらアクセスが6000PVもあり驚きながら読んでくれた方に感謝です
ラストに向けて話が動き始めますのでご期待ください




