三年と報告と成長と
さて、休日を終えてからダンジョンの入り口で待っている。予定では今日帰ってくるはずだ。
そして、本を読みながら待っていると……三年組とヒカリちゃんがダンジョンの入り口へと帰ってきた。
「おかえりなさい」
「……ただいま、帰りました……レイカさん……」
「おう……呑気なもんだな、アクレージョよぉ……」
ボロボロの四人が戻ってくる。チートなツルギくんがいるとはいえ、流石に苦労をしたのだろう。
まあ、とはいえ気絶したり致命的な怪我をしてる子はいない。ああも言っておきながら大丈夫なのか心配をしていたのだが……本当にみんな強くなっている。それこそ、レイカ様がいなくてもなんとかなるほどに。寂しいような、嬉しいような。
「私が居なくてもなんとかなったみたいね」
「ええ……まあ、それ相応に苦労しましたが」
「それ相応じゃねえよ。何だよありゃ。化け物じゃねえか。危うく死ぬかと思ったぞ」
「中々に戦い甲斐があったな」
シルヴィアくんの返答にロウガくんが突っ込み、マイペースに答えるツルギくん。
まあ、本当にダンジョンの下層にいる魔獣は怪物だからなぁ……ゲーム的にも、今まで普通の動物だったのにファンタジー系の姿をした魔獣が出てくるのでとんでもなく考察が盛り上がっていたのを思いだす。しかし、それを相手にして勝てたのなら上々だろう。気になったので聞いてみる。
「それで、どんな魔獣だったの?」
「ええっと……なんというか……」
「二足歩行をしている牛でしたね」
「おう、馬鹿力でな。しかもでっけえ斧を使ってたんだよ」
……あー、ミノタウロスか。
確か、設定的には過去に存在したとある貴族が作った武器に魔獣が発生し、それを使うために進化した特徴的な魔獣だったかな?
「武器を使うのは珍しいわね」
「拙者の家に伝わっていた話だと、過去に剣聖の同級生が使っていた武器であろうな」
「知っているの? ツルギ」
「伝承ではあるが、地下には武器を作るための素材などが潤沢に存在している。それを目的に採掘作業などが盛んだったそうだ。とはいえ、危険であることに違いはなく護衛のために貴族が付いていくのが習わしだった」
何気にツルギくんは昔の話に詳しいな。
おそらく出自から自分の先祖について色々と調べたりしたのだろう。
「ある時、魔獣が大量に発生して帰れなくなる事件が起きたのだ。その時に、採掘員を逃がすために一人殿を務めて逃した貴族がいた。その貴族を助けに行くも、大量に発生した魔獣を前に救出を断念。これ以上被害が増えぬようにとダンジョンと命名されて立ち入りを制限されたのだ……その時の忘れ形見であろうな。あれ程の大きさの武器を使う先達と戦ってみたかったものだ」
「なるほど……そういう過去があったんですね。道理であの魔獣をみて関心していると思いました」
「まあ、あのバカでかい武器と何回も打ち合ってたからな……アホかと思ったぜ」
「とはいえ、お主も最終的には打ち合っていたろう」
楽しそうだなぁ……やはり知らないボスを倒すというのは盛り上がるものだ。
しかし、こういうこぼれ話を聞けるのも面白い。ダンジョンと呼ばれるようになった経緯やら、立ち入りが制限されることになった話などは興味を惹かれる。
「それで、その斧はどうしたの?」
「壊しました……流石に、残しておけるような相手ではなかったので……」
「そう。なら仕方ないわね」
ヒカリちゃんの言葉に素直に諦める。見てみたかったが、まあ無理だったら仕方ない。
さて、立ち話もなんだ。
「それで、医務室が必要なのは?」
「まあ、一応全員行くけど気絶したり動けなくなったのは居ないね。だから緊急性はないよ」
「まあ、無理をしたのはしたが……思ったよりは動けたな。というよりも、急患を運び過ぎなんだよ普段から」
ロウガくんの正論。ヒカリちゃんとツルギくんも確かにと頷いて同意する。
だってしょうがないじゃないか! といいたいが、実際に急患を出してないからな……ううむ、やはり主人公補正と言うかなんというか……ちょっとばかりダンジョン踏破者として悔しい気持ちも芽生える。
「……次は私も」
「ダメです」
「ダメだよ」
「アホか」
総出で突っ込まれる。そこまで……? と思うが、まあそれだけ心配させてたんだろう。
「冗談よ。ただ、いい気分転換をできたから機嫌が良くてつい言っただけよ」
「おや、それは聞いてみたいですね。アクレージョさんがどういう休日を過ごしたのか」
「はい! 私も聞かせてください!」
「……まあいいわよ」
シルヴィアくんにそう言われて、ヒカリちゃんにもせがまれる。
仕方なくそのまま医務室に付き添って、休みの間の話をすることになるのだった。
医務室にやってくると、そこにメアリちゃんの姿はなかった。
なんでも、午前中の内に目覚めてそのまま家に呼ばれて帰ってしまったらしい。心配ではあるが、追いかけるわけにも行かない。なので、そのまま四人の治療風景を眺めながら休日にあったことをつらつらと話した。
「――それで演劇の感想会を終えたわけよ。ご期待に添えたかしら?」
「なんというか、真っ当な休日ですね」
「逆に不気味だな」
二人からそんな風に言われる。本当に失礼だなコイツら。いやまあ、普段が普段だけどさ。
ヒカリちゃんが反応がなくて気になり、見てみると俯いている。
「……るい」
「ヒカリ?」
「……ズルい! ズルいです! アラタちゃん、レイカさんとそんな楽しそうな一日を過ごしたなんて……!」
突然そんな事を言い出すヒカリちゃん。
表情は完璧に駄々っ子みたいな不満げな表情になっている。可愛らしいけどもズルいと言われても……
「別に、ヒカリとは一緒にいたじゃない」
「でも、全部ほとんどダンジョンじゃないですか! 喫茶店だって、ダンジョン帰りに私が誘って行くことがほとんどなのに!」
「……そうだったかしら?」
「そうですよ!」
強く断言されると、そうだったかな……という気分になる。
確かに、ヒカリちゃんと一緒に行動するときはほとんどダンジョンだ。今までは忙しいので、それ以外のときは一緒に行動することは少なかったし……
「まあ、道中で聞いたけど本当にダンジョンに連れて行き続けたみたいだから、ヒカリちゃんも休ませようって話になってね」
「おう。というか、マトモな人間にやらせることじゃねえぞ」
「拙者が山籠もりをしていたときよりも厳しい内容だったな」
「散々な言われようね」
まあ、そうなるのも仕方ないと言うか……ここに関してはゲーム知識のせいでもある。
ゲームでは主人公はどのくらいやって大丈夫なのかというのはステータスでみて分かるし、現実のヒカリちゃんも最初こそは遠慮してたのだが途中から「行けるんじゃないかな?」でやってみてエスカレートした部分はある。
(いや、ゲーマーの性というか……最強の主人公を目指したかった部分があるというか……)
レイカ様だけ強くなってはいけないという理由が半分、ゲーマー的に強くなれるポイントなので無茶をしても強くなってほしかったのが半分だったり……
「……でも、一理あるわね」
「……えっ!? アクレージョさんが素直に休ませることを認めた!?」
「熱でもあんのか」
「薬ならあるぞ」
「失礼ね、貴方達」
いや、今までの積み重ねなんだけどさ。
ヒカリちゃんは何も言ってないと思ったら、驚きすぎて目を白黒させていて声が出てないようだ……これが日頃の行いというやつか。
「この数日で休んで、意味があると思ったのよ」
「それならよかった。なら、次の階層はアクレージョさんとノセージョさんを除いた全員で挑んでくるよ」
「あら、いいの?」
「いいさ。二人が今まで頑張りすぎてたんだ。なら、ちょっとばかり僕たちが頑張るのも良いと思ってね」
そういって笑顔を浮かべるシルヴィアくん。
……まあ、お言葉に甘えるとしよう。
「そうね。なら、ヒカリ」
「……は、はい!? なんでしょうか!?」
「予定を合わせて、一緒に出かけましょうか」
まあ、そのほうがヒカリちゃんも嬉しいだろうと思って提案をしてみる。
「……きゅう……」
「ノセージョさん!?」
「おい! 意識失ってんぞ!」
……気絶した。多分疲れと嬉しさで色々混ざって限界を迎えたのかもしれない。
「……これ、私のせいなのかしら?」
「ふむ……原因はアクレージョ殿であるな」
ツルギくんの正論に、思わず遠い目をしてしまう。
負傷者無しのはずが、気絶者を俺のせいで出してしまうのだった。
次は主人公とデート回なので初投稿です
PV数が突然伸びて驚いていますが、こうしてみてくださる人が増えてとても嬉しいです
物語も佳境へと向かっているので、ぜひお楽しみ頂ければ幸いです




