三年と脇道と語り
さて、カーマセに暇潰しの方法を聞いた後に学外へと連れて行かれた
「――どうだったかな?」
「……そうね、意外と面白かったわ」
「おお、それならよかった!」
今は喫茶店でお茶をしている。先程まで、市井にある劇場で演劇を鑑賞していたのだ。
(……プリンセス・ブレイドの舞台を見た以来だったなぁ……演劇)
暇潰しの手段として丁度いいからとカーマセに連れて行かれたのだ。
オーナー特権で特別に席を用意してもらって演劇を見た後に、その感想会と称して喫茶店にやってきているのだ。
「アクレージョくんは気に入ったみたいだが……君たちはどうだった?」
そして感想を聞いた相手は……カイトくんではない。というか、まず予想打にしていないメンバーになってしまったのだ。
そして、そのカーマセの質問に答える。
「はい、わたしはとても楽しめました」
「……僕も同じく」
「最近の若い人間の趣味はわかりませんが、なかなか良く出来た劇でしたので十分に楽しめました」
まず、最初に感想を言ったのはアラタちゃん。彼女が誰かと言えばヒカリちゃんの親友だ。ゲームでは何度も見たことはあるが、縁がなくてレイカ様としては出会っていない。なのでここが初顔合わせだ。
そして次に発言したのは……トテ・モジミー。まあ、剣舞会でヒカリちゃんと準決勝を争ったらしい忍者の末裔だとかいう属性過多なメカクレの男の子。興味はあるがこっちも縁がなかった。そして最後に言ったのはルドガー。地味に一緒に見ていたのだ。
そして最後の一人はというと……
「……あー、なんで俺はここにいるんでしょうね」
「道連れよ」
グリンドル傭兵団の団長。カイトくんはどうしたのかと言うと、学校に用事があるので付いてこなかったのだ。なので本当に関係性のわからないグループになった。
経緯を説明すれば、カーマセ、レイカ様、ルドガーの三人で一緒に演劇を見に行った。一般席が空いていたのでそこで見ることになったのだが、突然隣の席の女の子が驚いた表情を浮かべたのに気づいて見れば、それはアラタちゃんで俺も驚いたのだ。
(まあ、絶対にレイカ様が居ない場所だもんな……)
そのままの微妙な雰囲気で演劇を見ていたのだが、見終わってからカーマセくんがアラタちゃんに気づいて一緒に話をしないかと誘ったのだ。
これに関してはカーマセくんの人脈と言うか交友関係が大きい。大袈裟ではなく学園の殆どの生徒と知り合いと言えるレベルで顔が広いのだ。そのままトテくんも見つけて誘い、大所帯になったから喫茶店で感想会をしようじゃないかと決定したのだ。
「あの~、俺は帰宅しても……」
「まあまあ、アクレージョくんの関係者であるなら遠慮せず。それに、こういった貴族以外の人の感想も聞いてみたいのでね」
立ち上がって帰ろうとする団長だが、全く邪気のないカーマセのキラキラとした笑みで見られて仕方なく席に座る。
団長がいる理由は、偶然見つけたからである。どうやらオフだったらしく、レイカ様を見つけてこの世の終わりみたいな表情をしていたのを連行したのだ。正直知ってる人間が居ないので味方を増やしたかったのが大きい理由だったりする。
「まあ、俺としては今回の演劇には不満はねえですが……」
「おや? 気に入らない部分があったかい?」
含みのある言葉にそう聞くカーマセ。
その言葉に団長はこちらを見て、いいんですかとこちらに視線を投げる。まあ、貴族相手だからいいにくいよね。
「いいわ。忌憚ない意見を言いなさい」
「……まあ、そういうことなら。まあ、出来は良いんですがありゃあ市井の人間にゃあ受けねえですね。いうなら玄人好みってやつでさ。見慣れてる人間にゃあ受けるでしょうが……」
「ほう、詳しく聞かせてくれるかな?」
「まず、見る側の想像に任せるのが多すぎるってもんでさ。そりゃあ、よっぽど上等な役者がいるならいいんでしょうがね。今回は新人のお披露目ってやつでしょうに。ありゃもうちょい役者の技量が……」
……驚いた。カーマセも団長の意見を真剣な表情で聞いている。
演劇、好きなのか……普段はいまいち何をしてるかわからない団長の意外な一面だ。しかし、熱が入ってきたのかこっちを放置して盛り上がり始める。
あれ? もしかして人選をミスったか……? と、熱く語りだす二人を見て思っていると突然肩を叩かれる。
「何かしら?」
「……アクレージョ様。わたしを知っているでしょうか?」
そういうのはアラタちゃん。直接的な面識はここが初めてなのでその質問は当然のものだ。
……まあ、よく知ってるんだけど。プリブレの主人公の大親友であり、プレイヤーが攻略対象の次によく見る顔と言っていい。大和撫子のお嬢様みたいな子でプレイヤーからの好感度も高い子だ。
「ええ、知っているわ。ヒカリの友人でしょう? アラタ・アカシア」
「し、知ってたのですか……」
「そうね。ヒカリが良く話しているもの。知っているわ」
その言葉に嬉しそうにするアラタちゃん。
「あ、そ、そうじゃありません! アクレージョ様に言いたいことがあるんです」
「あら、何かしら?」
「ヒカリちゃんを危険な場所に連れ回さないでください!」
突然そんな事を言うアラタちゃん。
「……あら、急にどうしてかしら?」
「二年生になってから、ヒカリちゃんはよく怪我をしたり寝込んだり……アクレージョ様が連れ回すようになってから、凄く大変そうなんです。王選が大変なのは分かっていますし、ヒカリちゃんも頑張っているのは知っています。でも、あの子は求められたら頑張っちゃう子なんです」
……ううむ、さすが親友。ヒカリちゃんのことをよく見ている。
ヒカリちゃんはアラタちゃんの言う通り、求められると答えてしまう人間だ。だからレイカ様が出す試練とも言える壁を全て乗り越える。
「だから、ブレーキを踏む人が必要なのにアクレージョ様がヒカリちゃんに対して頑張らせると……ヒカリちゃんがいつか、本当に戻ってこれないくらいに傷ついてしまいます! だから、これ以上ヒカリちゃんを頑張らせないでください!」
その表情は覚悟を決めた真剣な表情だ。
アラタちゃんは決して格の高い貴族ではないし、力があるわけでもない。アクレージョ家に睨まれれば、そのまま貴族社会で落ちぶれてしまう危険もある。
それでも親友のためを思って直談判をしたのだ……その姿は、とんでもなく格好いい。
「貴方の言いたいことは分かったわ」
「っ……!」
アラタちゃんは目を瞑る。まあ、レイカ様の答えがきっと自分に被害の及ぶものになると思ったのだろう。
「今していることが終わればもうヒカリには無理をさせないわ」
「……えっ?」
「私は強い人間が好きなのよ、アラタ・アカシア。貴方は正しいことを覚悟を持って伝えた。なら、それに報いるだけよ」
そう伝える。
本当にこの世界は素晴らしい。ゲームの主人公であったり攻略対象が強いのは当然だ。それだけではない……こうして決して表に立たないサブキャラの子たちまで魅力的で強いのだ。
レイカ様だってこれを見ればそういうだろう。
「……はぁ……うぅ……」
「何故泣くの」
「そ、その……あ、安心したら……勝手に……」
アラタちゃんが突然泣き始めて思わず動揺する。
……いやまあ、そうだよね! 怖いよね! 困って助けを求める視線を向けるが団長達は今も盛り上がってるし、ルドガーは我関せずで笑顔で眺めているし……ん?
「そこの貴方」
「……え? 僕……ですか?」
「ええそうよ、トテ・モジミー。このままだと埒が明かないから手伝いなさい」
「あ、はい……了解です……」
ずっと息を殺していたトテくんを巻き込んでアラタちゃんを泣き止ませることにするのだった。
今まで名前だけ登場してたキャラの顔出しなので初投稿です




