三年と死闘と覚悟
戦いは派手ではないが、長く苦しい戦いを強いられている。
「ぐっ、うううううう!」
メアリちゃんは、亀の突撃を剣で受け止めていた。剣を盾のように構えて魔獣を受け止めている。
魔法を使えないメアリちゃんが使える手段だ。しかし、体への負担もそうだが、焼いた傷の痛みが酷いのだろう、表情を歪めている。
しかし、後ろにはホークくんが魔法を準備している。だから、危険でも苦しくてもメアリちゃんはちゃんと受け止めるのだ。
「退きなさい、魔獣如きが」
だからこそ、そんなメアリちゃんの頑張りを無駄にしないために剣で斬りつけて亀を吹き飛ばす。
「くあっ……! ありがとう、ございます……レイカ様……!」
「礼はいいわ」
そのまま、落ちてくる魔獣の処理へ向かう。体力を削られるし、魔力の消耗もあるので見た目以上に大変だ。
玄武の方も見た目通りというべきか、やけに硬い。爆発をしたり、飛んだりのような常識からズレた動きはしてこない。だがその体の硬さはそれだけで武器になる。
降り注ぐ爆弾に、戦車のような魔獣が暴れる。シンプルなだけに、地力が問われる戦いだ。
「――『刺突の閃光』!」
作った時間によって、ホークくんの魔法が唱えられる。次なる攻撃は、残った羽に直撃して落とした。
しかし、先程の落とした羽を考えると……
「やっぱりこうなるわね」
その羽根は落下すると姿を変えて魔獣の姿になる。虎ということで、白虎と玄武が揃ったわけだ。
「……狙ったのは胴体だったのですが、ズラされましたね」
「ここまではあの魔獣の予定調和なのでしょうね」
ホークくんの呟きにそう答える。
相手の攻撃で羽根を落とさせて、消耗した相手に対して白虎と玄武に襲わせるのか。
「他に隠し種はあるのかしら?」
両方の羽を失った朱雀を見る。両方の羽を失ったというのに、それでもなお空中を滑空している……なんだろう、見た目が不格好な龍みたいだな。もしかしてあれで青龍とかいうのか?
降りてくる気配はない。隠しだねは終わったようだ。それを見てホークくんは呟く。
「……おそらく、あの空を飛んでいるのが本体なのでしょう。アレを倒さないと無理でしょうね」
「下の二体は違うと思う?」
「そうですね……あの魔獣達は飛んでいる魔獣の手足のようなもので、空を飛んでいるアレを狙わなければ倒せないかと」
ふむ、確かに。
魔獣の進化には色々な方向性があるが、安全圏から倒す事に特化した魔獣と考えるならそれは間違いではないだろう。
ひたすら羽から魔獣を落とし、羽自体が落とされれば魔獣として自立して襲いかかってくる。そして本体はその間も安全圏で逃げ続ける。うーん、対策できないと無理だったろうな。
(とはいえ、ホークくんがいるなら問題はない)
いうなら、どれだけホークくんが魔法を打てるまで耐えられるかだ。
「メアリ。どうかしら?」
「はぁ……ごほっ……まだまだ、行けます……!」
苦しそうではあるが、それでも気合はまだまだ十分なようだ。
メアリちゃんに必要なのは止める言葉ではない。
「そう。期待してるわ」
「……はい!」
そして、二人で剣を構える。後は準備が整うまで耐えるだけだ。
――玄武が突進をして守り、連携をするように白虎が飛び込んでくる。
普通の魔獣では見られない完璧な連携だが、こちらも連携で負けるつもりはない。
「レイカ様!」
「ええ」
玄武の突進を俺が受け止める。そこに白虎が牙を向けて飛びかかってくるが、そこにメアリちゃんが剣を叩きつける。
「レイカ様にっ! 触れるんじゃねえ!!」
メアリちゃんは叫びながら、そのまま白虎を弾き飛ばす。その勢いで白虎の体が削れる。
しかし、その削れた体は溶け出すことなく元に戻っていく。
「仕組みを理解しないと絶望しそうな光景ね」
「本当に……うざったいですね……このクソ魔獣共……」
メアリちゃんの言葉には本当に同意だ。
予想はしていたことだが、体を両断しても白虎と玄武は元に戻っていく。上の朱雀を倒さないと無限に再生するボスというわけだ。
「でも、そろそろでしょうね」
背後で魔力が渦巻いているのを感じる。ホークくんの魔法の準備ができているようだ。
何度か羽を落としたのと同じ魔法を撃ったったが回避されたのだ。それを受けて、ホークくんは出し惜しみをしないと宣言してこちらに時間を作ってくれと頼んだ。
魔人を倒したときと同じ魔法を使うのだろう。
「っ、レイカ様! 魔獣共の動きが!」
「流石に見過ごさないわね」
玄武も白虎も、迷いなくホークくんへと飛びかかっていく。
多少の攻撃をしても、体が削れても止まろうとしない。普通の魔獣ではない行動だが、それをやられるのが一番辛い。
(亀の方は止められても、あっちの方は……)
必死に押し止める。亀は動きが遅いからこそ、レイカ様の魔法でも十分に時間を稼げる。しかし、メアリちゃんは魔法も使えず止めるには手段が……
「ぐっ……ううう! 行かせるかよぉ!」
(おいおいおい!?)
メアリちゃんは、とんでもない方法で魔獣の動きを止めていた。
「メアリ、貴方……!」
「いいんです、レイカ様! こっちのほうが手っ取り早いんですから!」
武器を捨て、手で魔獣の口を掴んで動きを止めていた。
理屈の上では武器を介さずに掴むことは可能だ。始祖魔法の才能を持って魔力自体が多いならば不可能ではない。武器よりも動きを止めるという点だけで言えば素手のほうが楽だろう。
しかし、当然ながら武器を使わないなら汚染はされる。見ればメアリちゃんの手はジワジワと汚染されている。とんでもない苦痛が襲ってきているだろうに……
「時間を作るだけなら……あたしに出来るのは、これが精一杯なんで……!」
そういうメアリちゃんは、ホークくんにまだかと視線を向ける。
「……おまたせしました」
その言葉とともに、空の魔獣に剣を構える。
それを見て体を捻って必死に逃げようとする。しかし、その程度で逃れられるわけがない。
「塵も残らず消しましょう――『天上の光』」
その言葉とともに、視界を塗りつぶす光。そして、目の前にいる亀がドロドロと溶け出した。
ホークくんの魔力の奔流によって、天井が物理的に破壊される。そして、壊れた天井が落下してきた。落ちてくる瓦礫を必死に回避する。
「すいません! これで最小威力なんです! だから、瓦礫に関しては回避してください」
「先に言いなさい!」
申し訳無さそうな表情をするホークくんにそう怒鳴りつける。
ふと見れば、魔獣の死骸の前で倒れているメアリちゃんを見つける。腕は酷い汚染状態になっている。
そこに瓦礫が落ちてくる。
「ちっ!」
滑り込むように走ってメアリちゃんを掴んで抱きかかえる。
間一髪で間に合った。
「ダメね。帰還しましょう」
「ええ。そうしましょう」
そうして帰還する。
ふと、抱きかかえているメアリちゃんを見て頭をそっと撫でる。まあ、これくらいのご褒美はいいだろう。
「見事よ」
「……えへへ……」
苦しそうな表情をしていたメアリちゃんが、笑みを浮かべる。
さて、手遅れにならないようにさっさと医者に見せるとしよう。
ちょっと短いですが二体目のボス撃破なので初投稿です
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