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三年とボス戦と その2

 さて、あの巨大なケロベロスの胴体を真っ二つにする作戦だが……考えていることがある。


「少なくとも、他の魔獣に比べてあの魔獣の動きは硬いと思わない?」

「……ええ、確かにそう言われれば……レイカ様の言う通り、なんというかぎこちないですね。魔獣でももうちょっとキモい動きをするのに」

「地上にあのサイズの魔獣が居ない事も考えて……予想ではあるけども、あの体を維持するために形状変化がしづらくなっているのでしょうね」


 魔獣の肉体の硬さといい、動き方が緩慢なことといい、体の質量が肥大化しすぎている弊害が出ているのだ。

 おそらく大型の魔獣などを捕食するために進化をしたのだろう。だからこそ、小さい人間を相手にするには不向きなのだ。


「普通の魔獣ならバランスを崩すことはないでしょうけど……あの魔獣なら体勢を崩して隙を作ることはできそうね」

「なるほど……試してみる価値はあると思うぞ師匠」


 カイトくんが同意をしてくれる。とはいえ、簡単にできることではない。

 まず、あの質量の魔獣の体勢を崩すためには普通に魔法を使うだけでは難しい。しかし、ちょうどよくメアリちゃんがあの魔獣に効果のある攻撃をしてくれた。


「メアリの魔道具を利用して、あの魔獣の体勢を崩すわよ。そして無防備になった胴体をヒカリが両断する」

「私が……」

「貴方だけが始祖魔法を使えるわ。出来るかしら?」

「……やってみせます」


 そう決意をするヒカリちゃん。その答えに笑みを浮かべる。

 カイトくんが、そこに恐る恐るといった声音で質問をする。


「師匠……申し訳ないのだが、もしも失敗したらどうするんだ?」

「あら、そんな事? そうね……その時考えましょうか。それでなんとかするわ」


 そういうレイカ様に対して、呆れるでもなく困惑するでもなく……それもそうかと納得をした表情で決意をする三人。

 ある意味ではレイカ様に染まってしまったとも見れるが……何よりもレイカ様を信じている証拠だろう。レイカ様がいうならきっと何とか出来るという信頼だ。


「さあ、行くわ」


 そして、ケロベロス討伐の作戦が始まる。



『まず、今までと違う方法で行くわ。先陣を切るのはカイト、貴方よ』

『む、オレか?』

『ええ。どうしても私が指示を飛ばすから先に動いていたわ。でも、次の動きに関してはカイトが動くほうが良いのよ。それも、相当に危険な方法を取るけども……出来るかしら?』

『……出来るに決まっている。オレも師匠の弟子だからな!』


 カイトくんが突撃をする。双剣を構えケロベロスへと駆けていく。

 そして……


「くうおおおおお!!」


 ケロベロスの体を()()()()()()()

 双剣を魔獣の体に引っ掛けながら、足から頭までドンドンと登っていく。小柄であり、身体能力が優れているカイトくんだからこそ出来る芸当だ。とはいえ、何度も出来る行為ではない。

 そして、ケロベロスの頭に辿り着いたカイトくんは双剣を使って連撃を入れていく。


「うおおおおお! ははっ、やはり! 頭のほうが柔らかいな!」


 体の維持のために硬いケロベロスといえども、体の上部に関して強度は薄いようだ。これは魔力の消費を抑えるためにだろう。

 カイトくんが斬り続ける。小さい傷だが、それでも不快に感じるのかケロベロスは振り払うように顔を大きく振るう。必死に剣を突き立てながら粘るカイトくん。


「くっ……! うおおお!」

「いいわ、そのまましがみついていなさい。メアリ、行くわよ」

「はい! 行きましょうレイカ様!」


 魔獣は自分の顔の一つについたカイトくんを振り払おうと集中している。だからこそ、他の注意が疎かになる。

 メアリちゃんと一緒に魔道具を持ち、前足と後ろ足へと駆け寄って設置する。


「メアリ、起動は任せるわ」

「ええ、十分離れたら爆発させますわね!」


 そう言って距離を開ける。

 ヒカリちゃんは集中をしている。なにせ失敗したら終わりの一発勝負であり、誰よりも責任が重たい。


「……爆発させます!」


 そして、魔力を込めると魔道具が爆発する。

 右半身の両足が爆発したことでバランスを崩したケロベロスがゆっくりと倒れていく。


「うおあああああああ!」


 そのままの勢いで吹き飛ばされていくカイトくん。

 そのまま地面へ落下……なんてさせない。そのまま俺が着地点を見切ってキャッチする。ぐお、重い。


「ぐっ……怪我は?」

「な、ない! 師匠! なんかこれ恥ずかしいぞ!」


 落下してきたカイトくんをお姫様抱っこの形でキャッチしたのだが、どうやらカイトくんは相当に恥ずかしいらしい。顔が真っ赤になっている。

 しかし、今は一秒が惜しい。


「ヒカリ!」

「……『光剣一閃』!」


 剣にまとった光は体の数倍の大きさに伸びていく。そして、その剣が魔獣の体に向かって振り下ろされた。

 触れた瞬間に、光剣と魔獣の体がせめぎ合う。バチバチと弾けながら、徐々にだがケロベロスに剣が通っていく。しかし、その速度はあまりにもゆっくりとしたものだ。


「はぁ、はぁ……! くっ、ううう……!」


 必死に剣を維持しながら振り下ろし続けるヒカリちゃん。おそらく想像を絶するほどの負荷がかかっているだろう。

 押さえつけられている魔獣が徐々に立ち上がろうとしている。このまま立ち上がってしまえば逃れられるだろう。


「……行くわ」

「師匠!? いてっ!」


 適当な場所にカイトくんを捨てて、走っていく。当面の目標はケロベロスの胴体だ。

 光剣とせめぎ合っている場所に剣を構え、そして振り下ろす。しかし、弾かれる。全くと言っていいほどに効果はない。


「……ちっ! 駄目ね」

「レイカ様! そこ危ないですよ!」


 メアリちゃんが叫んでいるが、ここで失敗をすればすべてが終わる。

 だが、このまま立ち上がるのを防ぐには闇雲に攻撃をするだけではいけない。


(考えろ。ここで俺が出来ること)


 普通に攻撃しては意味がない。始祖魔法とせめぎ合っていても通らないほどに硬いのだから。

 硬い……そういえば、爆弾の衝撃が効いていた。魔獣の体を維持するために相当に歪な体をしているのだろうと予想はしたが……つまりは物理的な攻撃のほうが効果的なのか?


(……試して見る価値はある)


 そして走って行く。今度は、倒れたケロベロスの頭の方へと。

 今のケロベロスは、倒れた所に光剣で押し付けられている状態だ。いわば、ピン留めされた標本の昆虫のような状態になっている。

 魔獣の頭はうぞうぞと動いている。必死に光剣から逃れようとしているのだろう。まずは安全な場所でイメージを固める。


「……『魔力開放』」


 剣に魔力を通す。そして、薪を焚べるようにドンドンと魔力を追加していく。

 剣で斬るのではない。今必要なのは大きい衝撃を与えることだ。剣を保護するように魔力で包んでいく。魔力が繭で包むように剣を覆った。


(……魔獣を倒す意味じゃ使わないだろうな、これ)


 魔力消費が大きいだけで、剣の機能を殺すような魔法。しかし、この場においては光明となるかもしれない魔法だ。


「……はぁっ!」


 そして、暴れるケロベロスの頭へと剣を叩きつける。

 すると、斬ろうとした時とは全く違う、ハンマーで地面を叩いたような感覚に襲われる。


「ぐっ……でも!」


 その一撃は予想通り効果的だった。

 がくんと、ケロベロスの頭が揺さぶられる。立ち上がろうとしていた体もそれに釣られてバランスを崩した。


「……まだね」


 ヒカリちゃんの剣はまだまだ時間はかかる。だから、それまでにどこまでこのケロベロスを押さえつけられるか……

 と、意識を一瞬だけとはいえヒカリちゃんに向けたのが失敗だった。


「なっ……!」


 そこにケロベロスの頭が襲いかかってくる。

 そうだった。頭が三つあるのだから、一つを攻撃したら残りの二つが狙ってくるに決まっている。

 回避など出来ないくらいの視界を覆い尽くすケロベロスに、俺は……


「レイカ様、危ない!」

「っ!」


 メアリちゃんが飛びついて、そのまま地面を蹴った。二人で転がっていく。傷だらけになり、体も変な捻り方をした。だが、そのおかげで九死に一生を得た。

 先程まで立っていた場所にケロベロスの頭が激突する。おそらく、直撃すれば全身の骨が砕けて死んでいただろう。

 

「ぐっ……助かったわ、メアリ」

「いえ、レイカ様を助けるのは当然ですから!」


 そういうメアリちゃんはボロボロだ。必死に走って、怪我も厭わずに抱えて飛んでくれたのだろう。

 ……レイカ様に憧れている子にここまでさせておいて、俺が情けない姿を見せるわけには行かない。


「……ええ、油断はしないわ。休んでいなさい」

「いえ、あたしは……」

「怪我をしたでしょう。足を」

「……そ、それは……」


 レイカ様を助ける時に飛んだメアリちゃんは、明らかに無理のある動きをしていた。少なくとも足の筋は痛めているはずだ。


「下がってい見ていなさい。私を誰だと思っているの?」

「……レイカ・アクレージョ様です!」

「その意味はわかるでしょう」


 そういって、もう一度暴れ狂うケロベロスの頭に向かっていく。

 さあ、後は根気の勝負だ!



 ――そして、どれだけ時間が経過したか。

 回避、殴る。回避、回避、殴る。回避。永遠に続くような錯覚に襲われる。

 間違えれば死ぬ。その緊張感で何とか保っているが、それでも限界は近い。魔力をひたすらに消費し、徐々に意識が掠れていく。


(……まだだ)


 だが、レイカ様である俺がここで限界を迎えるなんて許せるはずがない。


「まだ、私は出来る」


 口に出す。レイカ様の声でそう言われて、出来ないわけがない。

 なぜなら、レイカ様は俺の推しであり……憧れだからだ。だから、まだ頑張れる。

 そして、もう覚えてない何度目かの攻撃。だが、その瞬間にめまいが襲って体が揺れる。魔力の枯渇だ。


「しまっ……!」

「レイカ様ぁ!」


 メアリちゃんも間に合わない。

 ああ、ここで終わりだなんて……そんなの、認めるわけには――


「……?」


 まるで時計が止まったかのようにケロベロスの動きが目の前で止まる。

 そして、そのままドロドロと体が溶け出していく。これは……


「ヒカリ!」


 見れば、そこには両断された胴体。そして、意識を失って倒れているヒカリちゃんがいた。

 ……やり遂げたのか。


「……はぁ……勝てたわね」


 満身創痍だが……それでも勝利は勝利だ。そのまま俺はフラッと倒れてしまうのだった。

ワ○ダの巨像とかモ○スターハンターみたいなイメージで書いたので初投稿です


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