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三年とダンジョンと語り合い

 さて、ダンジョンの魔獣退治というのはとんでもなくハードだ。

 切れ間なく襲いかかってくる魔獣、視界が悪くどこから襲いかかってくるかわからない恐怖、そして時間間隔の狂う暗闇に潜り続けていつ終わるかわからない道中。全てが肉体と精神を削っていく。

 そんな初めてのレイカ様ダンジョンアタックに付き合わされたメアリちゃんだが……


『いやあああああ! 無理です無理! 助けてくださいレイカ様! 五匹同時に襲ってきているんですけども! というか、全部大型じゃないですかこれ!? えっ、自分で倒せって本気ですか!?』

『ひゃああっ!? れ、レイカ様! あの! 足元が床じゃなくて魔獣なんですが! えっ? 踏み潰して足場にしろって……ちょっと、レイカ様!?』

『レイカ様あああぁ! 流石に! これは死にますから! 後ろから壁が迫ってきてると思ったら全部魔獣で……狭い通路までダッシュで逃げる!? レイカ様! こういうのもなんですけど、おかしいんですか!?』

『あー! 死ね! 死ね! クソ! デートだってのに! なんでこんなクソみたいな魔獣共と遊ばないと駄目なんだよ! レイカ様とのデートを邪魔する魔獣共消えろ!』


 このように、見事に順応してきている。ヒカリちゃんよりも適応が早いのは向き不向きかな?

 最終的には貴族になる前の素の言葉になっている。まあ、急いでいたので今回に関しては三十階層まで休憩なしで突撃コースだったからなぁ。初見にしては相当にハードだろう。

 そうして、道中で一段落した所でメアリちゃんに質問をする。


「メアリ」

「あー! クソが! 纏わりついてくんな魔獣が……え? あの、レイカ様? さっき、あたしのことを名前で……?」

「ダンジョンに潜ってみての感想はどうかしら?」

「え? 感想ですか? そ、そうですね……なんというか……案外なんとかなるんだなぁって……」

「いい答えね」


 まあ、確かにそれに気づくだろう。

 ダンジョンというと、四方八方を魔獣に囲まれていて常に襲われ続ける。実力ないものであれば帰ってくることは出来ない……のだが、案外生還者は多い。まあ油断したら普通に死ぬけども。


「そう、なんとかなるのよ。それについて理由はちゃんとあるわ。ダンジョンというのは独自の生態系になっていて、魔獣達が常に飢えている地上に比べて執着が薄いのよ。だから、なんとかなる場面が多くなるの」


 そう、ダンジョンに居る魔獣は魔力がある程度満たされている状態なことで餌に対する執着が地上の魔獣に比べて薄いのだ。だからこそ、王候補レベルの実力があればピンチに見えても何とかなってしまう。


「なるほど……そうだったんですか。あっ! も、もしかして、これはレイカ様がギリギリのラインで私を鍛えるために……!?」

「違うわよ」

「えっ」

「まあ、死なないように手助けはしようと思ったけども……そこまで考えてはいないわ。どうせ、ここで負けるならそれまでだもの。だから放置してたわ」


 別に狙ってない。なんとか切り抜けたのはメアリちゃんの実力である。

 レイカ様流はスパルタなのだ。この先の戦いは安全は保証されていないから優しくするよりも厳しいほうがいい。ここで乗り切った成功体験を積み重ねることで諦めない気持ちを作り上げるのだ。


「……あ、あの……安全な進み方とか無いんですか?」

「無いわよ。とはいえ、最初に比べれば随分と楽になった方よ? 最初の頃は地形も把握できない中で行ける所まで潜って、大丈夫かどうかを身を持って確認していたもの。流石に私でも死にかけたことが数回あったわ。それに比べれば安全ね。共倒れはないもの」

「……そ、そうなんですか……やっべぇ……」


 メアリちゃん、思わず素の言葉がこぼれている。

 まあ、実際問題ゲーム知識があるから大丈夫だろと思ってたら現実だと思った以上に大変で危なかったんだよな。何度か食われて汚染されかけたりしたし。

 そうして、一息つくメアリちゃん。


「でも、ここで一段落ですよね! ここまでの道中は本当に大変でしたし地上に戻って……」

「終わりじゃないわよ?」

「え」


 表情が固まるメアリちゃん。

 まあ、大体は半分くらいか。一応、出来ることなら相手が動く前に最後の五階層に挑みたいので……


「残り十五階層の魔獣を倒したら戻るわ。今がちょうど半分ね。ここから本番よ」

「……」


 無言になるメアリちゃん。表情は見れないがすごい顔をしてるのかもしれない。ヒカリちゃんですら、レイカ様に対して苦言を呈してたしな……


「あの、レイカ様……」

「さあ、行くわよ。疲れたら言いなさい。休憩の時間を作るわ」

「……レイカ様って、本当に人間……?」


 もはや畏怖の込められた視線を向けられながら、更に下へと潜っていくのだった。



 所変わって地上では、ヒカリがダンジョンの前で待っていた。そこに、シルヴィアがやってくる。


「やあ、ノセージョさん」

「あ、シルヴィアさん」


 挨拶をする二人。レイカという存在がいない二人の間に流れる空気はどこか平和なものだ。

 とはいえ、それを物足りないと思っているのも事実ではある。


「今日も待ってるのかい?」

「はい。今回は付いていかなかったので、せめてお出迎えは一番にしたいと思っているんです」

「なるほど。本当にアクレージョさんのことが大好きなんだね」

「はい! 一番尊敬している人ですから!」


 元気に答えるヒカリちゃんに微笑むシルヴィアくん。


「アクレージョさんは人に恵まれているね……昔、お茶をした時には想像出来ないくらいだ」

「そうなんですか? あまり昔のことは知らなくて……」

「それなら、アクレージョさんのいろいろな話を教えてあげようか?」

「はい! お願いします!」


 食いつくヒカリちゃんに苦笑しながら色々と話をするシルヴィア。

 レイカがさる貴族と大喧嘩をした話や、学園で実力を見せつけて教師をコテンパンにした話、そしてシルヴィアが聞いた面白いエピソードを話す。

 それを楽しそうに聞くヒカリは、ふと会話の途中に疑問が湧いて質問をする。


「……そういえば、以前から不思議なことがあるんです」

「それで、アクレージョさんはグーで……おや、なんだい?」

「ダンジョンに挑んで強くなるのってどういう理屈なんですかね? レイカさんは確信をしているみたいですけども……」

「まあ、当然の疑問だろうね。あくまでもこれは教国の学者などの学説だから真実とは限らないんだけど、いいかな?」

「はい」


 シルヴィアは前置きをしてダンジョンに挑むと強くなる理由を説明をする。


「人は魔力を吸収すると強くなる、これは周知の事実だ。魔力の大きさは生物としての強さに直結して、魔力の成長に限りはない。ただ、普通に生きているだけでは吸収する魔力はそう大したものじゃないし、生きているだけで消費する魔力のほうが多いんだ」

「そうなんですか?」

「うん。だからそんなに簡単に強い人間が生まれてこないし、魔力の消費が激しいから簡単に強くなれない……まあ、特例はあるんだけどね?」


 その言葉を聞くヒカリに、シルヴィアは意味深な笑みを向ける。


「……特例ですか?」

「始祖魔法の使い手さ。始祖魔法の使い手はね、魔力を吸収しやすくて体に留めやすい体質なんだ。だからこそ、強くなりやすいと言われている」


 その言葉に驚くヒカリ。


「そ、そうなんですか?」

「あくまでも学説だけどね。そして、魔獣を倒すと強くなる理由だけど……魔獣っていうのは魔力で出来た存在だ。だから、彼らを倒した時に大量の魔力を放出する。その魔力を体が吸収して強くなると言われているんだ」

「なるほど……あれ? でも、その理屈だとダンジョンである必要はないんじゃ……」

「ダンジョンは特殊でね。高濃度の魔力に満ちていて、魔獣が常に食い合っている。その特殊な環境だと、消費する魔力以上に体へ魔力が供給されている量が多いと言われているんだ」

「……たしかにしっくり来ますね。その説明だと」


 その説明で納得をするヒカリ。


「まあ、本当かどうかはわからないけどね。まあ、だからこそアクレージョさんのしているダンジョンへの挑戦は理にかなっているんだ……まあ、命を天秤に賭けている事を除いたら……ね」

「そうですね……本当に……」


 二人して思いっきり沈んだ顔をする。

 今ではレイカに好意的な二人をしても、それほどまでにどうかと思っているのだった。


「……まだ時間はあるけど、近いうちに最後の鍵が彼らに奪われると思っている」


 シルヴィアは、そんな風に言う。

 それは、闇魔法を使う彼らを止めれないという宣言に近いものだった。


「それほどまでに強大で、厄介な存在だ。だからこそ、僕たちは残された時間で強くならないといけない……謎に満ちたダンジョンの最下層にいる魔獣を倒す……そんなリスクを背負ってもね。とはいえ、こんな方法を使わないのが一番なんだけども」

「大丈夫です」

「……言い切るんだね」


 その言葉に笑みを浮かべるヒカリ。


「レイカさんが大丈夫だって言っていたんです。だから、私は信じます」

「……なるほど。確かにアクレージョさんにそう言われたら大丈夫な気がしてくるよ。いつだって、無理を通してきた彼女だからね」


 そんな風に言うシルヴィア。どこか背負っていた重圧が少しだけ軽くなったような表情を浮かべる。

 ふと、足音が聞こえる。ダンジョンの入口を見るとそこには……


「……あ! レイカさん! お帰りなさ……」

「ああ、ヒカリ。出迎え感謝するわ」

「……ぐぎゅう……」


 レイカが、背中で気絶しているメアリを背負ってやってきた。


「……め、メアリちゃんはどうしたんですか?」

「疲労が限界で気絶したのよ。休めって言ったのにだらしないわね……だから、今日は休んで明日もう一度行くわ」

「……」


 そう言いながら、医務室に向かって歩いていくレイカを見送りシルヴィアが一言。


「……本当にアクレージョさんに任せて大丈夫かなぁ……?」

「だ、大丈夫です……きっと……!」


 そうやって自分に言い聞かせるように言うヒカリだった。

説明回になりましたが、次からレベリングボス戦に突入する予定なので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふふっ、メアリさんも今日が有りましたね(笑)
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