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三年と敗北と特訓と

「……ししょう……?」

「あら、目が覚めた?」


 さて、場所はオウドー家の屋敷にある一室。そこで、カイトくんの目覚めを待っていた。

 オルカと俺は椅子に座ってカイトくんの様子を見ていた。看病のためにメイドも色々と準備をしてくれていたので特に出来ることはなく雑談をしていたのだが……ようやく目が醒めたらしい。


「おはよう。しばらく寝ていたのよ? そろそろ日が上がる頃かしら」

「そうか……師匠、小兄様は……」

「逃げたわ。この屋敷にあった鍵の欠片を奪ってね。完全にしてやられたわ」

「鍵……」


 聞いたところによると、この家で鍵を持っていることを知っているのはオルカだけだったらしい。

 元々当主代理として、この家を守る立場にあったオルカは鍵に関してを聞いていたのだという。それに関してオルカはこう言っていた。


「情報を漏らさねえためには、知る人間を減らす。当主じゃなくて、裏切らねえ信頼できる代理が知ってる方が都合が良いと考えたんだろうな。だから、鍵に関しては宰相と一部の貴族、そして俺だけしかしらねえ……が、それもバレたみたいだがな」


 おそらく、相手には独自の情報網があるのだろう。

 カイトくんはボソリと呟く。


「小兄様……どうして……」


 そう言って、静かに泣くカイトくん。こういう時は空気を読んで静かに見守る。

 ドルフが言っていたからな……最後まで説得を続けていたと。それだけ信じていたということだろう。

 ……そしてカイトくんが涙を拭ってようやく調子を戻す。


「……すまない……もう気持ちは切り替えた。師匠は大丈夫だったか?」

「ええ。相手は鍵を見つけて逃げるのが優先だったみたい」

「そうか……師匠に怪我がなくてよかった」

「個人的には追いかけたかったけども……流石に魔獣たちの襲撃を処理をしなければオウドー家そのものが危険だったわ。だから、仕方なく諦めて魔獣への対処を優先したの」

「追いかけるのは危険だと思うぞ。闇魔法を使われたが……全く知らない魔法だった」


 そういうカイトくんに、そうねと同意する。実際、あの闇魔法を使う男と本気で戦って勝てたかと言うと……ううむ、わからない。

 闇魔法に関してはゲーム情報が殆どないから予想もできないのだ。それに、始祖魔法の才能がないとそれだけで戦いは辛いものになるのだ。


「しかし、魔獣の襲撃か……大兄様、被害の方は……?」

「兵士にだいぶ被害が出た。半数はしばらく使えねえ。アクレージョ達が手伝ってくれなきゃ間違いなく酷い目にあっていた」

「……そうか」

「だが、いい報告もある。発生源であった汚染地帯を魔獣の襲撃のために利用された。そのおかげであの汚染が消えている。少なくとも、お前は一旦学園に戻れ。後は俺がなんとか出来る範囲だ」


 汚染地帯であった山がほとんど平地と同じ程度の汚染具合になっていたので、魔獣に対する警戒を低くしても良くなったのだ。悪いことだけではない。

 しかし、戻っても良いという言葉に反応するカイトくん。


「大兄様!? 家が大変な時にオレが居ないのは……!」

「ここから忙しくなるだろう。それに、お前には悪いが仕事がある……あのバカをどうにかすることだ。アイツをどうするのかはお前に任せる……俺には、もうその役目は出来ねえ」


 そういうオルカは辛そうな表情をしている。

 闇魔法の力を使うドルフに対して何も出来ないと言うのは正しいだろう。あくまでも常識的な強さであるオルカが勝つというのは難しいと言わざるを得ない。それならば、始祖魔法を使えるカイトくんに任せるのが当然だろう。

 おそらくカイトくんにすべてを任せてしまう事は本当に辛いはずだ。だが、その辛さを飲み込んで任せられるからこそオルカは尊敬される兄なのだろう。それを察したのか、うなずくカイトくん。


「……分かった、大兄様……オレが後はケリをつける」

「ああ」

「それでカイト、私達が居なかった時に何があったのか……説明してくれるかしら?」

「……うむ。まず、師匠たちが屋敷を離れてから少しして魔獣の襲撃が突然起きたんだ。今までにないパターンだったが、それでも襲撃自体は小規模なもので、オレも大兄様の担当する場所で簡単に指示を飛ばして無事に対処できていた……そこでドルフに呼ばれたのだ。大事な話があると」

「気が緩んだ瞬間か」

「うむ……そしてドルフと一緒に屋敷の当主部屋までやってきた。そこで、オレは聞かれたのだ……鍵の場所を。だが、オレはその事実も知らなかったので知らないと答えた。そこで、ドルフの様子がおかしくなっていった」


 ……この屋敷に鍵の存在があるとは知っていたが場所までは知らないと。

 なるほど、だからこそ屋敷を破壊したりしなかったのか。もしも鍵が瓦礫の下になってしまえば持っていくことはできなくなる。


「何故知らないのかと罵倒され、そして自分の無力さを嘆き始めたのだ……ドルフがおかしくなったと心配していたら、突然オレに剣を向けたんだ。必死に説得をしながら傷つけないように頑張っていたが……突然、闇魔法の力を使い始めた。驚いていると、全く知らない力を使って……そして気づいたらオレは一瞬のうちに意識を失ってしまったんだ」

「なるほど……油断は禁物よ。ただ、聞いていると闇魔法を使う人間は精神に影響があるみたいね」


 ジャードもそうだが、ドルフも突然感情がコントロールできなくなっているようだ。

 ゲームでも闇魔法によってレイカ様の様子がおかしくなるシーンが散見された。ううむ、使う人間にも害があるらしい。負の感情が増幅されるのだろうか。その言葉にオルカが呟く。


「だからといって、あいつが許されたり事情があったなんて言われる道理はねえよ。悪いなカイト、嫌な役目を背負わせて」

「いいや、大兄様……オレもちゃんと思い切るべきだった。この結果はオレの責任だと思っている」

「そうか……なんだ、立派になったじゃねえか」


 そう言って頭を撫でるオルカに、くすぐったそうな顔を見せる。

 悲しい事実の連続だったが、それでも決して落ち込んだままで居ないのはオウドー家の強さなのだろう。

 しかし、厳しいことになってきたな。


「王宮の鍵、四大貴族に任された鍵が奪われた……あと、どれだけ鍵が残っているかね」

「オレが聞いた話じゃ、残り一つだ」


 そんな風に答えるオルカ。


「あら、知ってるの?」

「ああ。とはいえ、あくまでも今代の鍵の管理者がオレだったから聞いた話だが……鍵は王宮に一つ、四大貴族の誰かが一つ、そして最後の一つはどこかに隠されているらしい。緊急時はその三つを使って王宮にある神器を取り出すって話だ」

「隠されている最後の鍵ね……それが見つかってしまえば王選のための神器が奪われるわけね」

「だろうな。だが、最後に隠されている鍵に関してはオレも知らねえ……少なくとも、大丈夫かどうかは宰相に聞くのが良いだろう」

「ええ。そうするわ」


 残り一つか……時間の問題かもしれないな。

 と、ふと気づいたようにカイトくんが質問をする。


「……そう言えば師匠、ノセージョとホオズキは? 居ないようだが……」

「あの二人なら魔獣退治で競争させてるわ」

「……なんでだ?」


 当然の疑問を聞くカイトくんに説明をする。


「これが終わった後に、私と一緒に出かける約束をしているのよ。そうしたら予想外に張り切った二人が今も競争しているわ。兵士も怖くて浄化作業に集中してるし、手伝えないからこうして様子を見ているの」

「ああ、助かっちゃいるんだが……ありゃ怖い。魔獣に同情しそうになった。カイト、お前もちゃんと友人は選べよ?」

「大兄様がそこまで言うなんて……ははっ、あの二人はいつもどおりなんだなぁ」


 そう言って笑うカイトくん。少しだけ、沈んだ気分も解消できただろう。

 実際、ヒカリちゃんは顔を合わせると一緒に落ち込みそうだからと言っていた。ちゃんと気遣っているのだ。メアリちゃんもそういう空気を読める子だし。なんだかんだ、人に恵まれている。


「でも、大丈夫なのか師匠? そんな約束をして拗れたりとかは……」

「あら、大丈夫よ?」


 そう言って余裕の笑みを浮かべる。

 なあに、嘘は言ってないし……どっちが早いかの話でしかないからな。その表情を見て、ブルリと体を震わせるカイトくん。


「……師匠、一体何を……?」

「お楽しみよ。ああ、カイトも帰ってきたらちゃんと準備をしておくのよ」

「準備……?」

「ええ。戦う準備を」


 その言葉を聞いて理解したのか……絶望の表情を浮かべるカイトくんだった。



 さて、数日後。クラウン学園に帰ってきてから呼び出されたメアリちゃんはウキウキとした表情をしている。

 ヒカリちゃんはお留守番だ。ちなみに、最初は泣きそうなくらいに悔しがっていたのにどこに行くか聞いて死ぬほど喜んでいてメアリちゃんに不気味がられていたりする。


「レイカ様!」

「あら、元気は良さそうね」

「はい! あいつに勝ってレイカ様とデートですもの! もうテンションが上がりっぱなしで……! まあ、アイツ変な反応でしたけど」


 そう言いながら飛び跳ねそうなくらいに喜んでいる。

 うんうん、やる気があるのは良いことだ。こっちも嬉しくなる。


「それで、ここはなんですか?」

「ダンジョンよ。聞いたことはあるでしょう?」

「噂には聞いたことは……」

「今から二人で一緒に潜るわ。しばらく期間が開いたから、間引きもしないといけないものね」


 ニコニコしているレイカ様を見て、さすがのメアリちゃんもなにかヤバいのではないかと思ったのか恐る恐る質問をする。


「あの……ダンジョンに潜って何を?」

「何をって……決まっているでしょう?」


 武器を構えてメアリちゃんの手を引く。


「魔獣退治に決まってるじゃない」


 力不足を感じたなら、レベリングあるのみ! ダンジョン最後の階層に挑む前の準備を二人っきりでやるのだった。



「ああ、助けないから自分の身は自分で守りなさいね」

「えっ、レイカ様!?」

そして始まるデスマーチにメアリちゃん参戦なので初投稿です


累計20万PVありがとうございます! 気づいたら30万字も超えて随分と長い話になっていました

徐々にエンディングに向かっていますので、この物語に皆さんお付き合い頂ければと思います

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― 新着の感想 ―
[一言] 徴兵の悪夢再び。 目指すはカンスト(限界)を越えた、その先か? んでうっかり完全攻略して、最後のかg(o゜∀゜)=○)´3`)∴
[一言] そうだ敵わないなら敵うまでレベリングすればいいんだ デートのついでにレベルが上がるとか一石二鳥でよかったねメアリちゃん…
[良い点] 黒幕は最後の鍵の場所を知っているの予感がします。 レイカさんとデートw レイカさんもあしらうの仕方を慣れて来ましたねw 確かに、勝てない強敵が現れたら、デスマーチでレベリングあるのみです
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