三年と戦いと真実と
戦い方はカイトくんと似ているが、より苛烈で、より過激な戦い方だ。
その双剣はカイトくんよりも刃の大きい剣を使っている。大きければ扱うのは難しくなるが、その分威力はあがる。その剣をまるで自分の手の延長線上のように扱うオルカ。
それはカイトくんにない体格を生かした破壊力。昔のロウガくんが二本の剣を使って連撃をしてくるようなイメージかもしれない。
(……思った以上に強いな……さすが、オウドー家を守り続けてきた長兄ってだけはある)
「レイカ様!」
「いいわ。貴方達は周囲の警戒をしていなさい」
「ちっ、やっぱり強いな! アクレージョさんよぉ!」
「……そちらもね」
攻撃を受け続ける。重たいが、今のレイカ様なら十分に受け止められる。
二撃、四撃、八撃……攻撃をするほどに早くなり、攻撃をするほどに重くなる。そう、理想を超えた双剣使いの完成形と言っても良い姿がそこにあった。
しかし、違和感がある。オルカは弱いわけではない……いや、むしろ強い部類だ。だが……
「……貴方」
「無駄口を叩いている時間はねえぜ!」
「そう」
おそらく惑わされないようにだろうが、聞く耳を持たない。
更に攻撃をしながら剣に魔力を纏わせ……魔力剣の状態になる。
流石にそれを余裕で受け止めるのは難しい、攻撃を見切り、回避。回避しきれない攻撃は剣で弾く。相手に息もつかせない攻撃の連続。レイカ様でも、ちゃんとした土壌の上で戦えば万が一はある。攻撃をするほどにエンジンがかかり、ドンドンと強くなる。昔のカイトくんが目指した姿がこれか……という納得がある。
しかし強いが……それでもおかしい。
「ちっ……やっぱり強いな……! これでも、ガキの頃から負けたことはねえってのに!」
そう言いながらも、オルカも違和感を感じているのか表情が不審げなものになる。
「……何故、先に行くのを止めるのか聞いても良いかしら?」
「断る! 聞きたきゃ、俺を倒してからにしろ!」
聞く耳を持たず攻撃を続けるオルカ。
それは、自分の違和感ではなくなにか別のものを信じているようだ。
(……やっぱりこれは)
今まで闇魔法に関連するなら魔獣などの襲撃を警戒をしていた。だが、オルカの戦い方はあまりにも真っ当だ。そこには搦手も卑怯な手段も含まれていない。
そう……真っ当すぎるのだ。
「……あの、レイカ様!」
「何かしら」
「加勢します! だって、周囲には何もいないですから!」
「……いえ、その必要はないわ」
やはり居ないか。その事実が分かれば、ある程度答えは見えた。
オルカの苛烈な連撃に対して回避し、攻撃を弾いて……そこで、雑にも見えるような一撃を放った。
だが、オルカには見え見えの一撃。一見すれば当たるように見えないフェイントでしか無いような攻撃に対して回避をしなかった。フェイントであるなら、詰めるべき……当然の思考だろう。
だからこそ、この一撃が不意打ちとして役に立つ。
「『魔力開放』」
「何っ……!?」
先程の一撃が、ガクンと軌道を変えてオルカに向かっていく。
昔、ロウガくんにも使った魔法を剣に当てて起動を修正する大道芸。あれをさらに進化させた「どこからでも突然軌道が変わる一撃」だ。
簡単に言うと、武器から魔法を特定方向に放ってロケットブーストのように推進力を付けて動かしている。ダンジョンアタックを繰り返しているうちに「これ出来るんじゃね?」と思いやってみたら出来た。ノリとしては徹夜で考えた最強理論みたいだったけどやはりレイカ様のポテンシャルは無限大だな!
その一撃に反応しきれず、モロに食らったオルカ。
「ぐがっ!?」
躱すこともできず、胴体に直撃する。
この一撃の厄介なのは魔法剣の魔力を上手く利用して居る所だ。今までみたいに魔力をぶつけての修正は、いうなら苦し紛れの一発なのだが、これは威力そのままで体に無理をさせず攻撃できる。なんなら連携すらつなげることが出来るのだ。
初見殺しであり、見られても対応しづらい厄介な手。レイカ様の生み出した魔剣だ。
「これで終わりね」
その一撃を喰らい、地面に倒れ伏す。峰打ちにはしているが、あれだけの勢いの一撃を喰らえば流石に骨くらいは折れているかもしれない。
その倒れたオルカの前に剣を突き立てて、勝利を宣言する。
「さて、喋る気になったかしら?」
「クソ……すまねぇ、ドルフ……カイト……」
「あの、レイカさん……?」
泣き出しそうな表情でそう呟くオルカに、ヒカリちゃんも違和感を感じたのか声をかけてくる。
分かっている。だからこそ、ここで聞き出さないといけない。
「聞きたいのだけども」
「殺すなら殺せ」
「殺さないわ。必要ないもの」
その言葉に、視線を揺らすオルカ。
剣を打ち合わせれば、ある程度は人格を把握できる。だからこそ、オルカも違和感を感じたのかもしれない。だが、それでも認められないのか否定をするオルカ。
まずは現実を見せるべきだろう。
「……まずは急いで汚染地帯に行くわ。この目で見ましょう。ヒカリ、担いであげて」
「分かりました!」
そういうと、ひょいとオルカくんを抱えあげる。
それを見て、驚愕の表情をするメアリちゃん。うん、分かるよ。オルカくんもマジかよみたいな表情をしている。
「ねえ、あんた……もしかして軽いの?」
「……そんなわけはないだろう。少なくとも平均よりも重い」
「気にしないことよ」
ダンジョンアタックの日々で鍛え上げられたヒカリちゃんはとんでもない事になっていた。
成長性のある主人公に、やりこみ要素ダンジョンで鍛え上げまくった結果はこうなるのか……殴るだけで魔獣とか倒せそうだよな。
「……どうしました? 行かないんですか?」
「行くわよ。急がないと手遅れになるかもしれないから」
そういって汚染地帯に急ぐ。予想があたっているならば……
「これが汚染地帯……ですか?」
「えっと……何が違うの? あたしが見てもそこら辺の平地と同じに見えるというか……」
そこは、確かに汚染されている。
だが、山肌は見えて、平地よりもちょっと汚染が酷い程度になっている。そう、噂に聞いたレベルには至っていない。
「馬鹿な……ここまで汚染が消えている事など……」
「いつ確認したの?」
「……俺は数ヶ月前だ。それ以降は弟が確認をしていた……」
そう言いながら、その表情は絶望に染まっている。
思い当たった事実にショックを受けている状態に聞くのは可哀相だが……しっかりと確認をするべきだろう。
「私達はドルフから「オルカが怪しい」と言われたわ」
「そんなはずは……ない……」
「貴方はドルフから何を言われたの?」
それは確信を持った質問。ゆっくりとだが、オルカは答える。
「……「シルヴィアではなく、予定のない貴族が来る。その中でも、ホオズキという者は相当怪しい。そしてアクレージョと関係が深い。警戒をするべきだ」……こう言われた」
「なっ!? そんなレイカ様に失礼な事を!? ぶっ殺してやりましょうかそいつ!」
「なるほど。利用されたわね」
怒るメアリちゃんを手で諌めつつ納得した。
そう、シルヴィアの代理としてヒカリとアクレージョだけが来るならオルカも疑いをかけることはなかった。
だが、メアリちゃんは元々疑われている怪しい存在だ。だからこそ、信頼しているはずの人間に「怪しい」と言われたら疑いを向けるのは当然だろう。
「いつから言われたの?」
「お前たちが来る前だ……だから、警戒をしていた」
「私達は貴方の様子がおかしいから、警戒をしたほうが良いとドルフに言われたわ」
「どういう、ことだ……?」
「分かっているでしょう」
信じたくないのか、苦しそうな表情をするオルカ。
「裏切ったのよ。貴方の弟が」
「ドルフが……? そんなことが……」
おそらく、汚染地帯を利用して魔獣を生み出していたのだろう……この汚染の山が消えるほどの戦力を。
そして、この状況……オウドー家にはドルフとカイトくんの二人だけだ。
「不味い事になったわ。カイトが危ないかもしれない」
「……っ! 急ぎましょう!」
「そうね。そろそろ貴方は走れるかしら?」
一応、オルカに聞いておく。流石にこれ以上抱えて走らせると消耗するかなと思ったからだ。
「……大丈夫だ……多少ダメージは有るが……」
「なら運びます! 急がないと……!」
「いや! いい! 走れる! 降ろしてくれ!」
そう叫ぶオルカ。流石に女の子に荷物みたいに抱えられて走るのはプライドがズタズタになるのだろう。
そして、4人でその汚染された山を後にする。
(……無事でいてくれよ、カイトくん)
こんな展開になると予想してなかった俺は、公明正大で……優しすぎるカイトくんの無事を祈るのだった。
最近、睡眠欲に負けて夜にちゃんと寝ているので初投稿です




