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三年と情報収集とオウドー家

 やってきたのは城壁の門があるのだがその左側。そこで兵士の宿舎から情報を聞こうとしているのだが……


「だから! わりいけど、兵士たちには話をさせてやれねえっていってんだろ!」

「あら、理由は?」

「寝てねえからだよ! 常識で考えろ! あんたが外部から来たお偉い貴族様だろうがなぁ! ここに居る奴らは魔獣の襲撃に備えて鎬を削ってたんだ! 勝手な都合で振り回すんじゃねえ!」


 そんなふうに止められていた。相手はオウドー家の人間らしい。かなり背が高くて、熱血感という感じの男。まあ見覚えはあるんだけど。

 と、そこに慌てて割り込むカイトくんに対しても、その男は怒鳴りつける。


「カイト! テメーも止めろ! 今日の数時間は本当にデカいんだ! ここで英気を養わねえといつ養うんだよ! やっと寝られるって泣いてる奴もいたのを見ただろうが!」

「た、確かに大兄様(おおにいさま)の言うとおりだ! とはいえ、事件解決のためなのだ……なんとかならないか? ここで解決できれば結果的には……」

「なるわけねえだろ! ここで睡眠を削っちまったらいつ解決するか分からねえのに消耗が増える! 最悪の場合をどうすんだよ!」

「む、むう……それはそうなんだが……」


 オウドー家にいるカイトくんのお兄さんが彼、オルカ・オウドー。ゲームでも登場するキャラクターだ。

 いうなら口の悪い武人だ。とはいえ、本来はめっちゃ優しい人なので発言内容も完全に兵士たちに気を使っているし人格者なのが見て取れる。


「なら、貴方から聞けるかしら?」

「あぁ? 俺からだと? それ自体は別に構わねえさ……だがなぁ、外から来たお前に何が出来るってんだ! カイトの知り合いだが、偉い貴族だか知らねえけどな!」


 そう言いながら、こちらを睨むように見るオルカ。

 それを見て、ヒカリちゃんとメアリちゃんがちょっと気圧されながらもレイカ様の前を守るようにオルカに立ちふさがる。


「あの、お気持ちはわかりますけど失礼ではないですか! レイカさんも魔獣を退治してお手伝いをしたのですから!」

「そうよ! 貴族のくせに礼儀もなってないのかしら! あたし達がいたから、この休息だって取れてるのよ!?」


 そこでレイカ様の代わりに怒り始める二人。それを見て、更にヒートアップする……かと思いきや予想と違う反応を見せる。


「……いや、確かにそうだな。悪い、俺も熱くなりすぎた。だが、あんまり時間は取れねえ。数時間後の襲撃に備えるから時間のかかる質問は無理だぞ」

「な、なによ。急に素直になって」

「あ、謝ってくれるならいいのですけども……」


 二人共、突然の反応に困惑している。もう仲良しだろ二人共。

 まあ、俺もわりとこの反応は予想外だった。ゲームで知っているんだけどイメージと違う……と思っていたら、カイトくんが耳打ちをしてくれた。


「すまない……オルカ大兄様も兵士達のために、ここ最近はロクに休みも取らずに頑張っていてな……だからこそ、それで少々機嫌が悪いのだ。もしも気に触ったらオレから謝罪させてもらう」

「いいわ、別に気にしていないし」

「それなら良かった……大兄様は勘違いされるが、とてもいい人なのだ……」


 ホッとした表情のカイトくん。というか、むしろ兵士のために自分の体を切り売りして頑張っているのを聞くといいやつだと思っている。貴族社会でこういう奴は嫌いじゃない。

 そして口は悪いが、根は悪いやつじゃなさそうなオルカから話を聞くのだった。



「襲撃した魔獣について気づいた事だぁ?」

「ええ。なにか気になった点はないかしら? 私達も気づいたことはあるけども、ここで何度も戦った人間からの意見が聞きたいの」

「なるほどな……あー、急にそう言われても難しいな……すこし考えてみるぞ」


 そう言って悩みながら記憶をさかのぼっている。

 こうして悩んでいる顔はカイトくんにどこかにてるなーとか思っていると、オルカは思いついたように答える。


「ああ、そうだ。中型の魔獣が多いな。それも同じようなサイズの奴ばかりだ。大型も小型は見たことがねえ。普通の魔獣とは違う」

「……なるほどね、助かるわ」


 俺たちも気づいたやつだ。まあ、あの壁にぶつかり続ける魔獣を観察というのも難しいだろう。魔獣達が群がりまるで巨大な一匹の生き物のように動いていると細かい部分で観察はしきれないからな。

 とはいえ、俺達の情報に確証が付いたことは事実だ。今回だけの特例というわけじゃないらしい。


「他にはある?」

「他にだぁ? ……クソ、思いつかねえな。あのクソ魔獣共は突然現れるんだ。まるで突然発生したみたいにな」

「あら、いい情報じゃない」

「ああ、もう一つ……襲撃の時間がやけに規則的だ。午前と午後の二回。多少の細かい時間は違うが、ほぼ同じ時刻ってのは奇妙だろ。魔獣の野郎が時計を持ってるとは思えねえ」

「そうね、情報感謝するわ」

「おうよ。まあ、状況を変えてくれるってんなら期待するぜ」


 そう言ってオルカと別れる。

 なんだかんだ、いいやつだった。個人的には嫌いじゃない。


「……情報としては目新しいものはないけど、確証は取れたわね」

「なら、次は小兄様(ちいにいさま)……あー、ドルフ小兄様に話を聞きに行こう」

「三人兄弟なんですか?」


 ヒカリちゃんの質問に頷くカイトくん。


「うむ。なにせ、始祖魔法の才能は引き継がれるとは限らない。大兄様も小兄様も始祖魔法の才能には恵まれなくてな……四大貴族ともなれば始祖魔法の才能を持つ子が居ないとそれだけで軽んじられる。だからこそ、子供が多くなるのだ」

「……それ、結構ドロドロした話になりそうですねー。あたしはあんまり知らないですけど」

「あるわよ。先祖返りって言う現象があって、過去に始祖魔法の血筋を取り込んだ家の子供が突然始祖魔法の才能に目覚めることがあるの。貴族家なら生んだ家が本家に食い込んだり、市井の子供を見つけて無理やり養子にする……なんてことも昔はあったのよ」


 ロウガくんの家もそうだが、始祖魔法の才能というのは本当に発現するかどうかは運なので子沢山になりやすい。そして始祖魔法の有無の性質上、末っ子が多いのだ。

 ちなみにロウガくんは上のロウソーお兄さんも始祖魔法の才能を持っている。なので本来、ロウガくんは関係ないはずだったのが詳しく調べたら圧倒的に才能が勝っていたのでロウガくんが王選に選ばれた経緯があったりする。


「うわぁ……私もそうなってた可能性はあるんですかね……?」

「流石にそれはないわ。貴方は特殊だもの」


 前王の隠し子だからね。血筋が血筋だし、前王が遺言で隠し子の存在を暴露したので誰も手出しができないのだ。

 と、そこでカイトくんが足を止める。


「小兄様」

「ん? ……ああ、カイトか」


 そこには先ほどとは真逆の冷静な参謀と言った見た目の線の細い美男子。彼がドルフ・オウドー。カイトくんのもうひとりのお兄さんだ。

 ゲーム情報だとオウドー家でも一番魔法が得意であり、冷静で三兄弟の中で一番頭が回るとか。

 ……勇者、戦士、魔法戦士。なんというか、製作者の「王道でしょ?」って顔が思い浮かぶな。そんな風に思いながら会いに行くのだった。



「やあ、君たちが話に聞いていた子達だね……ありがとう。君たちの頑張りで兵士達もゆっくり休めているよ」

(こっちの人は優しいですね。なんというか言葉も柔らかいです)

(そうね。あたしの好みじゃないけど、さっきの奴よりモテそう)


 コソコソしゃべるヒカリちゃんとメアリちゃん……何? 仲良くなってるの? と思ったが、多分状況が状況なので一時共闘みたいな感じなのだろう。

 オルカ、評価低いなぁ……まあ口悪いからしょうがないのかもしれないけど。

 見た目は本当に線の細い美男子という感じだ。薄幸そうな笑みを浮かべて、こちらを見ている。


「アクレージョ……話は聞いているよ。カイトがよく話題にしていてね。師匠が、師匠が~って……」

「小兄様! その話はいいじゃないか! 今はするときじゃないだろ!」


 顔を赤くして止めるカイトくん。あざといな~!


「はは、止められちゃったね……それで、聞きたい事は?」

「魔獣の襲撃について何か情報はないかしら?」

「うーん……オルカにはもう聞いたかい?」

「ええ、魔獣が中型ばかりなことと時間が決まっていることを気にしていたわ」

「なるほど、オルカもよく気づいたね。中々彼は僕にそういう話をしてくれなくてね。でも、オルカもいいところに目をつけるなぁ……」


 そう言って微笑むドルフ。

 そして、物憂げに考えてから語り始める。


「……そうだね。僕が気づいた範囲だと、魔獣はおそらくどこからかやってきていると思うんだ」

「その根拠は?」

「餓死をする個体がいるのは聞いたと思うけど……ほとんどが衰弱している状態だ。例えば、どこからか発生したなら発生した瞬間から衰弱しているのはおかしいだろう? 生物ならまだしも、魔獣だ」

「……確かに、一理あるわね」


 なるほど、確かに近隣から突然発生しているのならもっと魔獣は全体的に元気であるだろうということか。

 そう言われれば納得ができる。今日が初めて襲撃に対応した俺たちには判断しきれないが、何度か戦った人間がいうならそうかもしれない。


「だからこそ、どこかから連れてきている発生源を捜索するのが良いと思うな」

「そうね、参考にさせてもらうわ」

「左の門を守るオルカが忙しいから手伝いは無理だと思うよ。右の門を守っている僕も、ちゃんと計画を立ててるから人は動かせない。それは覚えておいてね?」

「うむ。そして魔人や始祖魔法の力を持つ人間が必要な時にオレが居なければ問題が起きる。だからこそ、今まで対抗できなかったのだ」


 そういうカイトくん。ちゃんと考えている。始祖魔法を持つ人間がいないと魔人を殺し切ることは難しいのだ。


「もしも捜索で人を動かすならオルカの方がいいだろうね。良くも悪くも、オルカの力でカバーを出来るから」

「あら、信頼しているのね」

「そりゃあそうさ。兄弟だからね」


 そう言って笑みを浮かべるドルフ。イケメンは何やっても絵になるなぁ……


「そう、その言葉覚えておくわ」

「うん、頑張ってね。期待をしているよ」


 そしてドルフと別れる。

 さて、カイトくんの二人の兄に聞いた情報。これを生かしてこの後にどうするか……それについて思考を巡らせるのだった。

起きてから腹痛でダウンをしていたので初投稿です(遅刻理由)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒカリさんとメアリさんはなんか仲良しですねwww
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