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三年と年下と気苦労

 さて、断ることは出来ずにあの後に準備をしてオウドー家の前にまでやってきたのだが……


「レイカ様!」

「レイカさん!」

「師匠!」

「……帰りたいわ」


 すでにオウドー家の屋敷の前で待っていた三人がまるで餌を前にした雛のように群がってくる。

 三人揃って仲良く出待ちをしているとは流石に思わなかった。まあ、むしろ家から出る時に一緒に行きましょうとか言われる覚悟はしていたのでむしろ拍子抜けと言っていい。

 いや、駄目な方向に慣れるな俺。


「それで……」

「レイカ様、聞きましたよ! あの一緒に捕まえた闇魔法を使うクズを使って、この国に潜んでいた敵を見つけ出したなんて凄いです! やっぱりレイカ様は本当に凄いお方です! できればそのお話を聞かせていただけたら……」

「レイカさん! 魔人に出会ったと聞きましたけど、お怪我はないですか? 聞いたら、相当に大変な戦いだったみたいで……傭兵の方達にも怪我があったと聞きました。だから、心配で……」

「師匠! 聞いたぞ! 魔人と戦うのであればオレも呼んでほしかった! オレも前よりも強くなった! だから、その成果を見せれたと思うのだ! とはいえ、今回の件でオレの成長を見せれるかもしれないが……」

「うるさいから一人ずつ喋りなさい」


 誰も譲らずに全員が一気に喋りだす。なんで一人ずつ喋らないんだ。その言葉に何やら相談をする三人。適当でいいじゃん。

 しかし、話しかけてきた内容も三者三様の内容だな……メアリちゃんはレイカ様を持ち上げて、ヒカリちゃんはレイカ様を心配。カイトくんは俺も誘ってほしかったである。それぞれの個性が出てるなぁ……

 ……と、現実逃避してたら何やらヒートアップしている。


「何言ってるのよ! レイカ様が怪我なんてするはずがないでしょ!」

「万が一がありますし、魔人なんて危ないじゃないですか! 見てない所なんですから、心配くらいは……」

「心配なんて、レイカ様にはむしろ無礼でしょう? やっぱり、あたしの方がレイカ様の事を理解できているのね!」

「いえ、レイカさんが凄いのは当然じゃないですか! だから心配をするべきなんです! むしろ、そちらの方がレイカさんの理解が足りないと思いますよ!」

「なによ!」

「なんですか!」


 当然のように言い合いになる二人。うん、仲いいよね多分。というかレイカ様絡みだとなんでこう低レベルになるんだろう……というか、本人を前にして理解度の話をしないで欲しい。関わりづらいよ。

 と、そこで流石に趣旨からズレすぎていると気づいたのか仲裁に入るカイトくん。


「いやいや、お前達。お互いのことに不満があるのだろうが今日は別件なのだし……」

「うるさいわね。関係ないんだから黙ってなさい」

「ごめんなさいカイトくん、今はそれどころじゃないです」

「いや、だが……」

「「今は黙ってて!」」

「は、はい……うぅ……オレの家の事情なんだがなぁ……」


 完全に言い負かされて、のけ者にされるカイトくん。

 よく頑張ったよ。でも相手が悪い。そりゃシルヴィアくんだって仲裁をしたくないよな。俺だって嫌だもん。まあ、ちょうどカイトくんが冷静になったならダシにして話を変えよう。


「……そろそろ本題に入るわ。カイトに聞くから静かにしなさい」

「分かりました、レイカ様!」

「はい、レイカさんがそういうなら……」

「……師匠……なんだか納得いかないぞ」

「諦めなさい。私も納得出来てないから」


 レイカ様の一言で二人が言い争いを止める。

 ちゃんと理由があってレイカ様が仲裁すれば止まるんだよな……場合によっては、レイカ様が巻き込まれて詰め寄られるのが問題なだけで。


「……本当は仲がいいのではないか?」

「私もそう思うわ」


 そんな風にボヤくカイトくんに同意する。多分この二人、めっちゃ仲が良いと思う。


「レイカ様! こんなヤツと一緒にしないでください! いい子ぶりした堅物と!」

「それはこっちのセリフです! 素行の悪い不良さんと一緒じゃないですから!」

「いいから静かにしなさい。カイト、本題をお願い」

「うむ、分かったぞ師匠」


 ……ちゃんとブッキングしないように調整しなかったシルヴィアくんにタカってやろう。そんな風に思うくらいに苦労を感じながらカイトくんの話を聞くことにするのだった。



「……まず、事の起こりは数日前からだ。オウドー家の敷地は魔獣の生息する地帯から近い……まあ、これは四大貴族全員に当てはまるが」

「……なんでそういう立地になっているんですか?」


 ふとした疑問を聞くヒカリちゃん。


「市井出身だと、詳しく知らないでしょうね。市井の民を魔獣から守る。それが貴族の役目よ。だからこそ、魔獣が何かの間違いで大量に襲撃してきた時に堰き止める防波堤としての役割があるのよ。この国は四方に魔獣の生息地があるの」

「うむ、師匠の言う通りだ。クラウン国は魔獣という人類の大敵に囲まれている国なのだ。均衡は保たれているが、過去に魔獣の大発生や魔獣の大移動によって大国が枯れ地になったり、滅びた実例は何件もある。だからこそ、国の四方を魔獣から守れるように四大貴族の屋敷があるのだ」


 東西南北で、東にブレイド家、西にキシドー家、南にオウドー家、北にセイドー家という配置になっている。

 市井を囲むようになっており、いうなら大量の魔獣が襲撃してきた時に市井よりも先にそちらを狙うための作り方をしているらしい。ゲーム中でも説明はあるのだが、屋敷がもっと密接してたら好感度調整楽になるから一箇所に集えとか言ってたな。ゲーマー、実利を求めすぎてそういう事を言ってしまう。


「とはいえ、あくまでも国の危機になるレベルの魔獣の襲撃を想定だからそこまで危機的な状況は起こっていない。普段はあくまでも魔獣を監視して、定期的に間引きをしている程度で済んでいる」

「場所によっても出没する魔獣の数には開きがあるわ。キシドー、オウドーの面する方面は魔獣が多くて、ブレイドとセイドーは魔獣の数が少ないのよ」


 なので同じ四大貴族でも戦闘能力方面に特化したり、魔法に特化したりする特色が生まれたのだ。

 その説明にヒカリちゃんが感心している横で、メアリちゃんも同じような顔をしている。まあ、スラム出身だから知らなかったんだろうな……


「……なるほど……検閲じゃないから国越える時に追いかけられなかったのか……」

(……あー、まあ基本的に人の取り締まりはしてないからな。四大貴族家の近くを抜けてスラムの人間は移動してんのか)


 四大貴族はあくまでも魔獣を監視している。なので、人間の場合は抜け道が多いのだろう。

 まあ、これを指摘して修正されるとレイカ様も動きづらいのでそのままにするが。だって悪役令嬢だしね!


「さて、話を戻すぞ。オウドー家の監視している方面は平原だ。過去の戦争や争いによって汚染されている地帯が多いので、魔獣が多くなっている。だが、基本的に飢えていてお互いに共食いをするほどに凶暴だ」

「浄化をしないんですか?」

「している。毎日、当家の人間が浄化を進めているが汚染範囲の広大さと、浄化中に襲いかかる魔獣の数の多さによってまだまだ浄化には時間がかかる見込みだ」


 昔はどうやら魔獣を利用して戦争をした国なども多かったらしい。その戦場となった南側の平原は気づいたときにはどうしようもないくらいに汚染されていたらしい。その魔獣を利用した平原近くの国は汚染と魔獣によって壊滅したとか。自業自得である。


「だが、ある程度は管理しきれている。魔獣の抑制に成功していたのだが……最近、奇妙な魔獣が増えているのだ」

「奇妙な魔獣?」

「何故か手近な魔力を狙わずに迷わずオウドー家に襲いかかってくるのだ。そして、対応していると途中で力尽きて崩壊する……生物でいうなら餓死をしているんだ。本来ではありえない行動だ」


 それはおかしい。体を保持する魔力を求めて襲いかかるのが魔獣だ。確かに魔力の吸収効率が良い方を狙う習性はあるが、それは機械的なレベルの行動で餓死寸前であれば迷わず維持を優先する。

 その異常性にカイトくんも悩んでいるのか難しい顔をしている。


「本来であれば次期当主であるオレが調査に赴くべきなのだが……国自体がこの状況だ。迂闊に外に出向くことも出来ない。なので、どうにかしてその元凶を調べたいのだ」

「なるほど……確かに何らかの意図が関わってもおかしくないわね。いいわよ」

「あたしもレイカ様が良いというならお手伝いします!」

「私はどちらでもお手伝いしますね!」

「……まあ、なんでもいいわ」


 二人の言動はスルー。突っ込んでたら日が暮れる。

 しかし異常な行動をする魔獣か……調査の対象としては面白い。平和とは言わず、ここでさらに敵の尻尾を掴める事を期待するのだった。

今回は説明パートだったので初投稿です


いつもご覧頂きありがとうございます。応援や評価など励みになっております

最近、少々投稿時間が変則的になっているのですがこのペースは続くと思います

妙な時間の更新にはなりますが、空いた時間に読んで頂ければと思います

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