三年と動きと次なる狙い
「……ということよ」
「なるほど……作戦の方はそんな事になったんだね。まあ、上手く行ってよかったよ」
数日後、俺は学園事務でシルヴィアくんに報告をしていた。
あの後、傭兵団はなんとか生きていたが魔道具による爆発で重傷。しばらくの間は療養するとのこと。ジャードには逃げられ、魔人の手がかりはなかった。巻き込まれた貴族二名に関してはフォローを入れて解放して……などと激動の日になった
そして、ホークくんはすぐさまに自分の家に連絡を入れてジャードの家を捜索したが……
「生憎だけど、手がかりはなかったわ」
「やっぱりか……流石に家には残してなかったのかな?」
「いいえ、ジャードの家の人間が皆殺しにされていたのよ」
その言葉にさすがのシルヴィアくんも絶句する。
凄惨な現場というわけではなかったらしいが、それでもその所業にはホークくんですら取り乱したらしい。
「……皆殺し?」
「ええ、ジャードに親しい人間すべて死んだの。争った形跡もなしで、家にバタバタと倒れていたそうよ。そして、検死をしたらしいのだけども死後から少なくとも数ヶ月は経過していたの」
「……数ヶ月前に死んでいた? それはおかしいんじゃないかな? そんな事になれば、誰かが気付いて……」
「ここで不思議な話があるの」
それは、ホークくんがジャードに関連する人間の聞き込みをしていた際に聞いたことだ。
闇魔法に繋がるであろう情報の一つ。
「ある貴族がこういったらしいの。「おかしい、数日前にジャードくんとそのご家族にあったのに」ってね」
「……もしかして、死体を操っている?」
「ええ、セイドーもそう思うと言っていたわ。細かくはわからないから、セイドー家ではジャードに関連する人間の脈拍を測ったり、健康診断をしたりと大忙しみたいよ。それに副産物として数人、音沙汰なしで行方不明になっている親族が見つかったりもしたって。ジャードの仕業か別件か……で更にそれも調査が必要。芋づる式に問題が露呈したんですって」
「なるほどね……そりゃあ大変だ」
様子を見に行ったら目の下にクマを作って顔を青くしていたからな。ホークくん。流石にレイカ様も心配しちゃったよ。
その情報を聞いて、シルヴィアくんからも話を始める。
「こっちも大変だったよ。ブレイド家の元家長……まあ、僕の腹違いの兄弟だね。それがジャードの事件から数日で消息を絶ったよ。関係者の誰にも行き先を告げずにね」
「あら、手を出す前に逃げたのね」
「やっぱり、アクレージョさんもあの人が怪しいって情報は抑えてたんだね……随分前から、僕に隠れて国外とかと取引をしていたみたいなんだ。それも、犯罪組織の関係者とね」
なんてことのないようにいうシルヴィアくんだが、その表情は悲しげなものである。
まあ、腹違いの兄弟で仲は良くないとはいえ……ここまでの重大な事件を起こす人間だとは思いたくないのだろう。だが、逃げ出したことで間違いなく黒になった。
「彼の家を調査したけども……随分と、色々な違法品を輸入してたみたいだ。それも魔法関連をね……魔導書や重要そうな物は彼が持っていったみたいだけど、それでも放置された違法な魔導書だけで小さい書庫が埋まる程度にはあったよ」
「あら、それは気になるわね」
「あはは。アクレージョさんは自分の家にあるだけで我慢してもらえるかな? 最近、ちょっと本を買うペースが速いみたいだからね」
「……気をつけるわ」
空気を変えようかと軽口を叩いたら、さらっと今持ってる違法な魔導書を見逃すから今後は控えろよと釘を刺されてしまった。
笑顔だが目は笑ってない。まあ、バレてるかもなーとは思ったけどちゃんと抑えられてるかぁ……
「そして、キシドー家でも問題が起きたよ。彼の家の長兄……一番上のお兄さんを知っているかい?」
「ええ、居ることは知っているわ。とはいえ、学園を卒業した後の動向は知らないのだけども……」
「彼はクラウン国の諜報部に所属してたよ。過去形だけどね。半年前に内偵任務の際に失踪してそこから行方不明。最初は優秀だけど失敗して処理されたかと思っていたけども……彼も闇魔法関連と見るべきだね」
「そう……もうこの国、ボロボロじゃないかしら?」
「お恥ずかしながらね」
そう言って疲れたような表情を見せるシルヴィアくん。
今の状況、考えてみればとんでもないな。四大貴族のうち、三家から裏切り者が出ているわけだ。ロウガくんは実兄、シルヴィアくんは腹違いの兄弟、ホークくんはライバルの従兄弟……肉親とかの裏切りと考えれば、本人たちも多少はショックを受けるよな。
「私からの労いは要るかしら?」
「気持ちだけ……いや、学園長を労ってほしいかな。今回のことで相当数の貴族が闇魔法に関わりありと判断されて処罰された。最近は本当に痩せてきて枯れ木みたいになっているんだよ」
「……それを聞いたら本当に同情するわ」
国の中核からこんだけ裏切り者が出て、その後始末に奔走……
想像するだけで怖くなってきた。もうお爺ちゃんなのにな……学園長……
「……とまあ、悪いニュースを並べたけど……それだけじゃないよ。まず、この状況自体は今こそ悪いけど最良ではあるんだ」
「ええ、そうね。今までは姿の見えない敵だったけども……ある程度姿は見えてきたもの」
そう、悪い話だけではない。この国に潜んでいた敵があぶり出されたと考えれば、今が一番底の状況だと言える。
今まで危惧していた状況のいくつかは改善された。それに、他にもいいことがある。
「アレはどう?」
「えっと……ああ、彼か。非常に協力的だよ。おかげでいくら解明できていることが増えてきた。まあ、流石に暗殺の危険はまだ消えてないけども彼が国の手に渡ったという事実が大きかったんだろうね」
スラムで捕まえた闇魔法使いの男だが、あの事件の後に国に引き渡した。
今までは貴族の中にいる不穏分子に始末される危険があったが、大勢の検挙に合わせて、闇魔法に関わっていたらしき立場のある貴族の失踪。暗殺されたり口封じされるリスクは大きく減ったので引き渡したのだ。教国からも研究者を呼んで、闇魔法の解読と対策について事情聴取をしている。上手く行けば、一般の兵士でも魔人に対抗することが可能かもしれない。
「一歩ずつだけど前進しているね……最近、忙しすぎて王選のことを忘れそうだよ」
「……確かに、私も言われないと話題にしないくらいに優先度が低くなっていたわ」
確かに、ゲームだと二年生から剣聖徒を選出した後に最後の王選の結果発表が待っているはず。
まだ時期としては剣舞会が近いくらい。なので時間はまだまだある。
「それで、急に王選の話をしたのは理由があるのでしょう?」
「うん、悪いんだけど頼み事があるんだ」
おや、珍しい。シルヴィアくんは面倒事は自分で片付けるタイプなので、同じ王選候補には頼み事はしないはずなのだが……
「オウドー家……カイトくんの家に行って欲しいんだ」
「カイトの家に?」
「数日前から、原因不明の魔獣の襲撃が続いているらしい。別に魔獣自体の強さは大したことはない……だけども、その頻度が異常なんだ」
「どの程度の頻度なの?」
「連日、1日に二回の襲撃」
「それはおかしいわね」
魔獣というのは魔力を狙う。魔力に引き寄せられて、魔力を餌にして動く。逆に言えば魔力がなければ寄り付きすらしない。
そして、もう一つ。体の維持のために慢性的に魔力を必要としているので、魔力を消耗する行動を好まないのだ。あまり遠征をしたり、待ち伏せや襲撃をしない。目についた魔力の持ち主を捕食する。だから襲撃という時点でおかしいのに、それが1日に二回ともなれば何らかの意図がある。
「彼の家は、失踪者や行方不明者は居ない。だからといって、それで内通者がない証拠はない。だからこそ、王選候補が出向いての調査をして欲しい」
「そうね。貴方は動けないものね」
「……申し訳ないけどね。キシドーくんにセイドーくんも同じだ。家のことで動けないからこそ、アクレージョさんに頼みたいんだ。どうかな?」
「そうね。分かったわ」
断る理由もないので受ける。
「いやあ、本当に助かるよ……アクレージョさん達四人で頑張ってね」
「……待ちなさい。四人?」
「うん。四人」
突然の発言に嫌な予感がすごいしている。
別々に依頼を受けるなどであれば何も思わなかった。そこにロウガくんやホークくん、シルヴィアくんが混じってるなら受け入れただろう。
「……メンバーは」
「ホオズキ、ノセージョ、カイトだね。そこにアクレージョさんを入れて四人。いやあ、本当に助かるよ。流石に僕もあの剣幕で直談判しにきたノセージョさんとホオズキさんを納得させる方法はこれしかなくてね。もしも断られてたらどうしようかと……」
「今から断るわ」
「残念だけどそれは無理かな。まあ……苦労するだろうけど頑張って」
申し訳無さそうな表情でそう言われる。
軽い気持ちで受けたおつかいはレイカ様大好きなメンバーによって、とんでもなく苦労しそうだなぁと他人事のように思うのだった。
私達、レイカ様大好き貴族です! みたいな三人とのクエストなので初投稿です




