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三年と悲哀と戦いと

「ところで、闇魔法で魔獣を操れないの?」

「む、無理だ! 格上の魔法には干渉が出来なくて……」

「そう、なら隠れてなさい役たたず」

「分かった!」


 そう言われて恥もなく速攻で茂みに飛び込んで隠れる男。ドンドンと生き汚くなっていくな……まあ、見てる分には面白いし面倒なことをしないからいいけども。

 しかし……


「ホーク、大丈夫かしら?」

「はい……でも、実感しました。僕は甘い人間ですね」


 魔人に変貌した二人を見て、心の底から悲しそうな表情を浮かべるホークくん。

 彼のストーリーは覚えている。彼が王を目指していた理由は自分の一族のためだった。セイドー家は、魔法には優れていても実力では劣りやすい。そのためトラブルにも巻き込まれることは多く、王を排出した数も少ないので軽んじられている。

 だからこそ、彼は自分の一族のために王を目指していたのだ。だからこそ、自分の一族に裏切られるのは相当に辛いだろう。


「彼らを国外に追放したのだって、いずれ彼らが更生して帰ってくることを期待していたんです。彼らの場所は用意しています……例え罪を犯したとしても、家族で争うというのは悲しいですからこの国から離したのに……」

「おい、だからといって……」

「分かっていますよ。だからこそ、悲しくて……怒りがこみ上げているんですよ。彼らは目先の金に釣られて違法行為に手を染める愚か者ではあった。ですけども……こんな怪物にされるような悪ではなかったんです」


 ホークくんは、確かにどちらかと言えば悪側に位置する人間だ。

 王選候補でも、腹が黒くてルールの上なら違反ギリギリまでやるし商魂逞しい人間だ。それでも、彼は身内や自分の認めた人間に対しては誰よりも優しくて情が深いのだ。

 それはゲームで見た通りで……ゲームよりも悲しい状況だ。それでも、ホークくんは強い人間なので立ち向かえるはずだ。


「……そうね。だからこそ、これ以上の醜態を晒させないように倒してあげましょう。おまけが付いているけど……全力なら余裕でしょう?」

「ああ」

「そうですね」


 二人はもう戦闘に向けて気持ちを切り替えた。目の前にいる魔獣と2体の魔人。

 半年前までなら、敗北をしたであろう状況。だというのに、不安は表情に一つもない。


(成長してるからな。だからさっさと終わらせよう)


 せめてホークくんにつらい思いをする時間を減らして欲しい。

 そんな思いと共に戦闘が始まるのだった。



 さて、魔人の恐ろしさは何よりも魔獣と人間のハイブリットのような強さだ。

 魔獣のように生物の限界を超えた身体能力を持ち、魔獣と違い体の維持に使わない魔力などを身にまとい鎧としている。とはいえ、理性はなくなり目の前にいる敵……それも始祖魔法を使う人間を狙う獣同然になるデメリットはあるのだが。


「ちっ、武器がこれか」


 ロウガくんがボヤく。持っていた武器は当然ながら先程まで使っていた細剣。本来使っている大剣はというと、傭兵団が持っているはずだ。

 しかし、反応がないとなれば……やられた可能性はあるか。


「アクレージョさん、キシドーさん。僕の魔法で倒します。二人は時間を」

「あら、いいの?」

「ええ。本来の武器でなく無理はできないでしょう? まあ、魔法の準備で行動できなくなりますが……」

「まあ、気にすんな」


 そのまま突撃してくる魔人を剣で受け止めるロウガくん。鈍い音でぶつかり合い、そのまま弾き飛ばす。魔力と腕力で押し切る戦い方は健在だ。

 本来の武器でなくても勝てることは勝てるが……それだけ時間はかかるだろう。


「んで、セイドー! どの程度時間を稼げばいい!」

「二分でお願いします!」

「あら、短いわね」

「その代わり、僕は一切動けませんし妨害をされたらまた最初からです。それでもいいですね?」

「いいぜ、その魔法ってのを見るのも面白そうだ!」


 そう言って片方の魔人を止めに行くロウガくん。自分でケリを付けさせて欲しいホークくんの気持ちを汲み取ったのだろう。

 俺はもう一体の魔人の足止め。魔法の準備を始めたホークくんに向かっているのに向かって攻撃。魔法剣で両断するつもりで一閃。だが、通らない。

 やはり闇魔法の防護は硬いな。こっちも本来の武器ではないので、少々力は落ちているがそれでも十分威力は出るのだが……


(今度、武器も仕上げないとな)


 ゲームで使ってたヒカリちゃん達の専用武器もあるし、レイカ様に見合う武器探しもしておきたい。

 と、魔人を足止めしているところに放置していた大型の魔獣も突撃してくる。どうやら狙いはロウガくんだったらしく、地面に押しつぶすように魔獣がのしかかってきたのを回避する。

 魔獣と激突した魔人はというと……特に問題はなさそうだ。


「同士討ちをしてくれると助かるけど、そうもいかないみたいね」

「だな。それに、魔獣で回復される恐れもある」

「なら、魔獣から狙う?」

「そりゃ無理だろ。魔人のほうが数段厄介だ」

「それもそうね」


 軽く言い合いながら、魔人に向かっての攻撃。

 戦い方はいうなら、一撃離脱。魔獣以上に危険な、触れたら死ぬ攻撃を触れさせないように魔力を纏わせた剣で弾きつづける。

 一撃、二撃、三撃と打ち合い続ける。半年前の戦いでは見えなかった攻撃が目で追えるのは成長を実感する。


「そっちは大丈夫かしら? 武器が不慣れなようだけど」

「二分程度保たせるならこの程度はハンデでもねえよ」


 そういいながら、武器に魔力を纏わせて魔人を剣で殴りつけるように攻撃するロウガくん。

 相変わらず武器が変わっても戦い方は豪快だ。見ていて気持ちがいい。また今度本来の武器で戦う場面を見てみたいものだ。

 ……と、懲りずに突撃してくる魔獣。だが、むしろそれはありがたい。


「ロウガ」

「おう!」


 ダンスでも踊るように立ち回り、魔人の動きを誘導。

 知性の低さは、その動きに対する違和感を感じ取らせない。そして、ロウガくんと俺は背中合わせになり、そのまま打ち合わせでもしていたかのように華麗に回避をする。

 当然、突撃してきていた魔人同士が正面衝突する。


「お見事」

「そっちもな」


 ダンジョンアタックでこういった会話をせずに動きを合わせる練習もしたのだ。まあ、というか出来ないと死ぬんだけど。

 さらに、そこに魔獣まで突撃して三匹がもつれ合う。大成功だ。


「面白いように引っかかるわね」

「飢えた魔獣程度の知能しかねえからな……ん?」


 と、突然魔獣が震えるはじめ、そして突然体が崩壊する。

 魔獣の下から魔人が出てくる。それも、先程よりも感じる魔力を強くして。


「……そういえば、魔人は魔獣を捕食するんだったわね」

「とはいえ、体力が回復した程度で……」


 瞬間、魔人は弾丸のように地面を蹴ってロウガくんの元へと飛び込んでいく。


「ちっ、はええな!」


 そして攻撃を受け止めたロウガくん。先程よりも相手の動きが早いので対処が遅れかけた。


「……っ!? ロウガ!」


 一瞬見失った魔人の行方を探して、冷や汗が流れる。

 それは、ロウガくんの死角に隠れて拳を振り抜こうとしていた。間違いなくアレを喰らえば死ぬ。


「ごめんなさいねっ!」

「なっ、ぐおっ……!?」


 回避できないと判断した俺は、魔人ではなくロウガくんを蹴り飛ばす。

 一瞬困惑した顔だったが、理解して甘んじて攻撃を受け入れて吹き飛ばされるロウガくん。そして、先程まで居た場所に魔人の攻撃が空を切った。


「ごほっ……助かった。連携をとったのか?」

「そうね……もしかして、魔獣の捕食をすると強くなるのかしら?」

「かもしれねえな……とはいえ、知性は感じねえが」

「もしくは、あのジャードという男が逃げ切ったから完全に制御不能になったのか」


 そう、先程まで明確にこちらに狙いを定めていたが、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。魔力の摂取で魔獣に近づいたか、それとも先程言ったように制御されていたのが手放されたのか……まだ闇魔法というのは謎が多い。

 わからないことが多いが……それでも、これで終わりだ。


「まあ、十分時間は稼いだわね」

「んじゃ、最後の足止めと行くか」


 そのまま魔人に突撃。連携をしてくるのであれば、こちらも同じように連携して相手の合流を防ぐ。

 攻撃、回避、相手が一箇所に固まるように誘導していく。そして……


「――アクレージョさん、キシドーさん。退いてください。十分です」

「おう!」

「任せるわ」


 その言葉に一瞬で離脱する。

 魔人はこちらを追いかけようとするが、強い始祖魔法の気配を感じてそちらに視線を移した。

 その魔獣と同じ、魔力に引き寄せられる習性が仇となった。


「――せめて、静かに眠りなさい。『天上の光』」


 剣を構え、魔力を込め、そして準備に全力を注いでいたホークくん。そして、キーとなる言葉によって魔法が発動する。

 ゲームでは魔法を使った戦闘では随一。その火力は比類するキャラが居ない程のロウガくんとは別ベクトルの砲台キャラと呼ばれていたその実力を発揮した。

 太陽から射す光のような閃光と共に、視界が一瞬真っ白に染まる。そして、恐ろしい魔力がホークくんから放たれた。


「――こりゃすげえ」

「……凄いわね」


 光が可視化されたかのような魔力の奔流による砲撃。その光線は、魔人に回避すら許さず直撃する。

 分かりやすい表現でいうなら……始祖魔法を使った超極大のレーザーだ。これはシルヴィアくんどころかヒカリちゃんですら使えない、魔法を研鑽し続けたセイドー家の当主であるホークくんだけが出来る魔法だ。


「――ふぅ……」


 ホークくんが息を吐くと、魔力の奔流が消える。そこには、魔人が存在していた痕跡すら残っていない。

 始祖魔法によって塵すら残らず崩壊したのだろう。そして、その余波は……


「……森がえぐれてるわね」


 着弾地点の範囲数メートルが文字通り抉られていた。

 始祖魔法の力を指向性を持って攻撃に使うとこうなるのか……怖いな。


「……これが僕の弔いです。死に際の醜態なんて見たくないですからね」


 そう言って目を瞑るホークくん。こうして、この国に潜む敵を探し出す作戦は終わりを告げるのだった

魔法少女ホークくんとかいう名前が付きそうなビームなので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおぉ、皆もなんか大幅に成長している、中々凄いです! 魔砲少女ホークちゃんでしょう(笑)
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