三年と暗躍と闇魔法
「……よ、よろしく頼む」
さて、闇魔法使いの男に二人を合わせた。噂話を流して屋敷の用意できてから傭兵団に準備をしてもらい、ここに住まわせているのだ。
二人は男を見てめちゃくちゃに睨んでいる。すっかり男は怯えてしまっている。思っていたよりも二人の闇魔法に対する恨みは強いのか……
「クソ……こいつが捕まらなきゃこんな事しなくてもいいってのに……」
「こいつのせいで、僕がこんな事をするはめに……」
違った。完全にとばっちりな恨みを受けていた。
とはいえ、なんだかんだいいつつ二人とも最終的にはやるという決断をしてくれたのは変わらないだろう。まあ、闇魔法を使う奴らが悪いってことで。
「……まあ、ここまで来たらやるしかねえか。んで、どうするんだ?」
「まず、最初にやってきた貴族にこの男を見つけさせるまでは妨害はなしよ」
「大丈夫ですか? ここで下手なことを言い出しませんか?」
「たしかにな。冴えねえ顔をしてっしよ」
ホークくんが男に指を指してそういう。
よくわからない奴らにボコボコに言われて居心地悪そうだなぁ~とは思うが、元はと言えば闇魔法に手を出して裏社会で犯罪行為を働いていたのだ。むしろ穏当な扱いだと言える。
「ええ、そうね。だから、逃げるための通路を予め準備しているの。それに、私の手駒も数人控えさせてるわ」
そう言って背後を指差す。そこには数人の傭兵が並んでいた。グリンドル傭兵団から使える人間を数人を貸してもらったのだ。
団長は忙しいし頼み事が色々とあるので不参加だ。居てくれると助かったんだがなぁ。
「そいつらは貴族の妨害に使うのか?」
「いいえ。妨害は流石に無理だろうから逃がす方に集中してもらうつもり。裏方仕事は得意らしいから多少危険なことでもしてくれるはずよ」
「……後ろを見たら、本気で嫌そうな顔をしてるぞ」
「あら、気のせいでしょ」
闇魔法を使えるかもしれない貴族に追いかけられると言ったらめっちゃ嫌そうな顔はされたが、抗議はされていないので大丈夫だろう
団長ですら「もうちょい穏当な方法だと思ったんですが、本気ですかい?」と言われたからな……まあ、やらせるんだけど。
そして、逃走の手伝いだけではなく監視も込めている。闇魔法の男が変なことをすればその時には適切な処置をして貰う予定だ。
「そうかい。んで、俺達はどうするんだ? 見られて直接対決するってわけにはいかねえだろ?」
「そうね。貴族なら私達の顔くらいは見たことはあるでしょうからね。下手に顔を見せるわけには行かないわ」
「そうですね。それどころの話じゃなくなりますし」
まあ、バレて報告された場合……穏当に終わっても年内は拘束されるだろう。
運が悪ければ処刑だってされる。なので、王選候補であるレイカ様たちの存在が露見することは許されない。
「どういう方法で妨害するんだ?」
「これを使うわ」
「……んん?」
そう言ってとある魔道具を見せる。
ぱっと見ただけでは簡素なローブにしか見えない。しかし、結構ちゃんとした技術が使われている魔道具なのだ。コレ自体を使うわけではないが、実演すると分かりやすいだろう
「ん? セイドー、知ってんのか?」
「いや、そんなまさか……その魔道具は……いやいや、気のせいですよね?」
ホークくんが反応している。「ここにあるはずがない物を見ている」という表情だ。まあ、それは正しい。
「あら、知ってるでしょう? だって貴方のお店の製品だもの」
「まさか!? いや、販売してませんよね!? 魔道具玩具店で作った『偽装の布』は!?」
「……なんだそりゃ?」
「こうなるわ」
いうなら、ゲームで使うとダンジョンとかで敵のエンカウントを無くす道具だ。よくある雑魚回避アイテムなのだが現実になると……使うと、レイカ様の持っている布が周囲の背景と同化する。とはいえ、完璧ではない。よくみたら違和感は感じ取れる。
いうなら魔力で使える迷彩装備だ。
「おお、すげえな」
「嘘でしょう!? それは前から開発していたはずの魔道具でしょう!? 実演したとおり、魔力を通すと周囲の背景に同化するのですが……まだ実験段階で販売してないはずですよ!?」
「あら、お得意様で協力開発者だから頼んだら融通してくれたわよ。色々と相談に乗って開発を進めたから向こうも快く渡してくれたわ」
「いつの間に……!? というか、謎の協力者貴方だったんですか!? 誰に聞いても答えてくれないと思ったら!」
「……思ったんだが、オモチャって範囲超えてねえか?」
ロウガくんのツッコミだが、ゲームでも魔道具どう見ても現実にあったらやばいよな……って代物は多かったので仕様だ。
この半年でゲームでもよく使うアイテムってどういう扱いなんだろうな……と気になって魔道具屋に定期的に顔を出していたりする。本来ゲームだと、最初は少ないラインナップだがヒカリちゃんが店員の頼み事を聞くと研究が進んでアイテムが並んでいくシステムになっている。こっちでも同じだったがヒカリちゃんがやってないので代わりに進めたのだ。そのおかげで店員がかなり融通をしてくれる。
「とは言ってもコレ自体が脆くて、時間制限もあるしそう何度も使えるものではないわ」
「でしょうね……それに同化すると言っても、大した同化は出来ないはずですよ。見れば分かる程度に背景と同じ色になる程度ですし、警戒をしているであろう相手には効果はないかと。それと、ローブを羽織ったまま激しい運動も無理でしょう」
「だから、ちょっと改造をしてもらったわ」
「……改造?」
「そうよ。少なくとも、用途が決まっているならその方向に改造することは出来るもの」
噂を流した段階でこれをしようと考えて準備をしていたので、ちゃんと用意ができた。というか、魔道具玩具店の開発者が物好きなマッドサイエンティストみたいなキャラなので変な要求に嬉々として答えてくれるのだ。
それに気づいたのか。複雑そうな表情をするホークくん。
「……あの、僕から強く言えば彼の暴走って止まりますかね?」
「無理じゃないかしら? 私が見た時に頼んでもない変な魔道具が色々転がっていたわ」
「そうですか……そうですよね……」
本当に苦労したような表情になるホークくん。まあ、マッドな研究者を抱えるのは大変だよな……
さて、ちょうど時間も良くなってきた。
「そろそろ来るはずね。各自持ち場に付きなさい。ああ、そうそう。貴方、下手な演技をしたら見捨てるわよ」
「なっ!? そ、そんな!?」
「だから精々迫真の演技をすることね」
闇魔法使いの男をちゃんと脅しつけてから持ち場に戻る。釘を差さないと棒みたいな演技になりそうだし。
さあ、貴族たちがやってくるのが楽しみだ。
レイカ様たちの相談から少しして、屋敷に5人の貴族が踏み込んできた。
似たような服を来ている三人の貴族と、気弱そうな少年と我の強そうな少年の組み合わせだ。
「なあ、本当に何もでないよね……?」
「さあて、どうだろうな……というか、怯えるならなんで来たんだ」
「僕の家みたいな弱小貴族は上からの覚えを良くしないと駄目だから、僕が行けって……そういう君は?」
「はは! 俺は名前を売るためだ。この後に新聞社に体験談を売り込む予定だぜ? 金にもなるしな!」
我の強そうな少年貴族と気弱そうな少年貴族はそんな会話をする。そして、静かについていく真剣な表情をした3人の貴族にも問いかける。
「なあ、あんたらは? せっかくだし理由を教えてくれよ」
「……まあいいだろう。この物件は私の家の関係者のものでね。噂の真偽を確かめに来た。この二人は当家の縁者だよ。今回は私がリーダーなので控えてもらっているがね」
そういう男に、我の強そうな少年は疑問符を浮かべる。
「……どこの家だよ? こんなボロ屋敷を持ってる家って」
「セイドー家だよ。私はその親戚筋になる。確認もせず放置する不甲斐ない本家に変わって見に来たのだよ。まあ、善意の協力者だからね、先程の発言は不問にしてあげよう」
「四大貴族!? 大物じゃねえか……! た、助かるぜ」
「だ、大丈夫かな……なにか家のものを壊したら怒られるんじゃ……」
二人はセイドー家の縁者だという三人にすっかり萎縮する。そんな様子を気にせずに、ドンドンと5人は奥まで踏み込んでいく。
様々な部屋を物色していくと、たしかに誰かが住んでいるらしい形跡を発見していく。それをみて、二人の少年は不安そうな表情になっていく。
「……間違いないな。誰かがいる」
「ひぃ!? ほ、本当にいるの……!?」
「だ、大丈夫かよ? 闇魔法だの、そんな話が最近噂として出てきてるってのに……」
「問題はない」
二人の言葉にそういい切る。その態度に安心して二人の少年は3人についていく。
そして最奥の部屋にたどり着く。そこの扉を開けると……そこには、怪しい男がなにかの実験器具をいじっていた。入ってきた5人を見て怯えた表情を浮かべる。
「ひっ!? な、なんだ!? どこの手の物だ!?」
「王家から要請を受けてきた者だ。お前が話題の魔獣に関連する奴だな? 大人しく付いてこい。さもなくば、それ相応の処理をさせてもらう」
「ほ、本当に居た……!」
「ま、まじかよ……!?」
少年達が驚いている間に、セイドー家の縁者とそのお付きの二人は容赦なく剣を構えてその男に向ける。指一つでも動かせば容赦なく切り捨てるという気迫を感じる。
それを見て冷や汗を浮かべる怪しい男。
「くっ、つ、捕まるわけには行くか! 行け! お前たちよ!」
「……ジャード様!」
「何っ!?」
突然何者かが襲ってきて、それを回避する三人の貴族。ジャードと呼ばれた中心人物は、二人の少年を睨みつける。
「何をしている。武器を構えろ」
「ひぃ! は、はい!」
「お、おう!」
二人も、それを見て怯えながら剣を構える。他の三人に比べれば腰が引けていて慣れていないのが分かる。
そして、襲撃してきた者を見て恐怖の声を上げる。
「な、何だコイツラ……!?」
「人型の……魔獣!?」
「……確かに魔獣に似た気配を感じるな……」
それは、人の形をしている魔獣のような何かだった。
魔獣のような真っ黒いヘドロのような色合いの体をしている。それが三匹も現れた。そして、それぞれが武器を構えて警戒している姿は、まるで魔獣ではなく意思を持った人間のようである。
「私の研究していた人型の魔獣だ! お前達、奴らを倒せ! 私は逃げさせてもらう!」
怪しい男はそう言うと、背後にあったらしき扉を開いて走っていく。
追いかけようとする貴族たちは魔獣たちの振るった剣による攻撃で足止めをされる。知性があるらしいと見たジャードは命令をする。
「……バカな……こんなものは……いや、聞けばいい。お前達! 協力をして魔獣を止めろ! 私はあの黒幕を捕まえる!」
そう言うと、ダッシュして人型の魔獣達を通り過ぎていく。反応しようとした魔獣たちに対して、お付きの二人が完璧な連携で足止めする。
残りの一匹が、完璧に止めようとすると二人の貴族もそれに倣って腰を引けながら突撃してきた。
隙だらけの攻撃だったが、それを見てまるで傷つけないようにするかのように攻撃をやめて回避をした魔獣。
「ジャード様、お気をつけて!」
「こちらで処理しておきます!」
「任せた!」
そのまま逃げ出した男を追いかけるジャード。
三匹の人型魔獣。そして、一人欠けた4人の貴族が対決する構図となるのだった。
突然現れた全身タイツを纏った人間のような見た目の魔獣の正体とは一体何なのか……という状況なので初投稿です




