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三年と闇魔法と罠と

「……くっ……うう……? 私は一体……?」

「あら、起きたみたいね」


 目を覚ました黒幕の男は、レイカ様を見て驚いた表情を浮かべる。


「なっ!? 魔獣は!? 私が気絶したのなら、彼らは開放されているはずだ!」

「あら、全部処理したわ」


 そう言って周囲に散らばっている死骸を見せる。

 当然ながらここに閉じ込められた程度の魔獣に負けるはずがない。逃げ出さないようにするのも案外簡単だった。というのも、魔力を失って腹が減っていたのか目の前のレイカ様たちを狙ってきたからだ。


(むしろ、こいつとそっちの部下が襲われないようにする方に気を使ったくらいだったし)


 そのままレイカ様とメアリちゃんの二人で魔獣は全て倒したのだ。

 倒された死骸の山を見て、表情を絶望に変える男。ちなみにメアリちゃんと団長は散らばった死骸を溶かしていっている。


「そんな……嘘だ……私の魔獣が……あれだけの数がいたのに……」

「さて、聞かせてもらうわよ? 闇魔法について」

「な……!? なに!? なぜ闇魔法の事を知っていて……!?」

「……何も事情を知らなそうね」


 ……うーん、本当になんだろう? 闇魔法を知っている割に弱すぎるし……

 疑問が浮かぶが、それも答えを聞けば解決するだろうと気持ちを切り替える。


「魔人化でもするのかと思っていたのに、拍子抜けね」

「ば、バカを言うな! 無理に決まっているだろう! それが出来るなら私はこんな場所には居ない!」

「あら、当たりみたいね」


 この男は魔人化について詳しく知っているのか? それだとするば……当たりの中でも大当たりかもしれない。


「詳しく教えなさい。嘘をついたら足先から砕いていくわ」

「ひっ!? い、言う! 言うから!」


 ……本当に拍子抜けするくらいに簡単で不安になるなぁ……まあ、実際に嘘をついたら砕くけどさ。

 もしかして、学園襲撃のイベント難易度が間違ってたんじゃ……ゲームだったらめっちゃ叩かれそうだな。そんな風に思いながら男から話を聞くのだった。



「……まず、最初に言っておく……私はそこまで組織について詳しいことは知らない」

「当然ね。そこまで立場があるならこんな場末で王様を気取る真似はしないでしょう」

「なっ、私は元々は栄誉ある貴族の子息であり……!」

「質問したことだけに答えなさい」

「うぅ……」


 面白いなこいつ。煽るとポンポン情報が出てくる。栄誉ある貴族と言っているが、おそらく没落したのか、家から追い出されたんだろうな。

 世襲ではあるのだが、血筋以上に実力が重視されるのがこの国だ。なので、実力のない長兄よりも実力のある次男が当主になるなんてパターンもよくある。


「……ある日、私の元に黒服の男がやってきたのだ。魔法の才能がなく、当主の座を追われた私に対して魔法の力を授けると言われた。その時の私は先のことが不安であり、それに縋り付くしかなかったのだ」

「まあ予想どおりね。続けなさい」

「わ、分かった……彼らは私のように魔法の才がない貴族、家を追われたものなどを集めていた。そして闇魔法を使えるように教育し、それぞれをその力で貴族社会に地位を作り上げていったのだよ。だから、今この瞬間にも闇魔法を使える奴らがこの国で立場を持っている」

「……なるほどね」


 既に食い込んでいるのか。とはいえ、闇魔法の魔導書が盗まれた時期を考えればそこから突然実力を表した人間だけに気を使えばいいのは救いかもしれない。

 闇魔法という力を教育して力を持たせる。それを利用して集まった人間の心を掴んでいく。一種の宗教みたいな感じだな。神と違うのは目に見える力が手に入ることか。


「なら、なんで貴方はこんな場所でケチな商売をしているのかしら?」

「そ、それは……」

「それは?」

「……私は偶然、闇魔法についての真実を知ってしまったからだ!」


 叫ぶようにそういう男。

 闇魔法の真実? と、そこで申し訳無さそうな表情でメアリちゃんが聞いてくる。


「あの、闇魔法っていうのは噂のですよね? 実在していたんですか?」

「ええ。詳しい話を言えば危険な力よ。魔獣を操って、とんでもない力を与える魔法。もしも話を聞いても関わらずに私に言いなさい」

「分かりました! それがアクレージョ様の助けになるなら!」

「頼むわね。それで、その真実というのは?」


 尻尾があれば振っているくらいに満面の笑みを浮かべて嬉しそうにしているメアリちゃんを尻目に、男に聞くと怯えるように言う。


「……闇魔法の才能がない奴らは、魔獣になるんだ。この力はいずれ身を滅ぼすんだ!」

「魔獣に?」


 何やら不穏なことを言い始めた。魔獣になる? 詳しい事情を話すように促すと、ポツポツと語り始める。


「ああ……集められた貴族達で闇魔法を覚えたのだが……使っている中で体調不良を訴える奴が多く居た。問題はないと言われて、それを信じて全員闇魔法を使い続けたんだ。なにせ、使うほどに今までの自分を超える強さを自覚できて、その組織での立場も保証される……何よりも気分が高揚して何でも出来るような感覚になれるからだ」

(闇魔法を使うと人格が変わるらしいけど……その影響かな?)

「私もその例に漏れず闇魔法を上手く使えるようになり、魔獣を操り闇魔法を纏わせ戦う力に酔っていた……だがある日、ある男が体調を崩した……闇魔法を中々覚えられなかった不出来な奴だった。だが、ようやく習得して自慢気に闇魔法を使っていて……突然、私の見ている前でその男は体中に血管のように黒い線が走り、そのまま黒い魔力に取り込まれて魔獣に変貌したのだ」


 ……途中までは魔人化と同じだが、そのまま魔力に飲み込まれたというのが大きな違いがあるな。


「そのまま魔獣になった男は逃げ出した。事後処理にきた講師の男に私は問いただした。私の質問に渋々だが答えてくれたのは……闇魔法は魔力を食らうという事実。そして、食われるのは闇魔法を使う人間自身も例外ではないということだ。魔獣になるのは、才能もなく闇魔法を使い続けた人間の末路だと。闇魔法を使える才能があれば食われることはないと言われた……だが、私はあの光景を覚えている……あの、悍ましい光景を……」


 そう言って震えだす男。

 確かに、自分の使っている力がいつか自分を魔獣に変えてしまうかもしれないというのは恐ろしいだろう。気になる部分を聞いてみる。


「逃げ出した経緯は?」

「……次のステップに進んだ私は、新しい闇魔法の習得に苦戦していた。毎日のように練習して、それでも使えない……だんだんその現状から魔獣になる恐怖に耐えきれなくなっていったんだ……だから、私は闇魔法で手頃な魔獣を捕獲して自分が魔獣に変貌したように見せかけたのだ。上手くいって何とか逃げ出したが……奴らに見つかるわけにはいかず、こうして闇魔法を使い生計を立てていたのだ」

「……なるほど」


 決死の覚悟で逃げ出してきて、存在が露呈すれば処分されるので裏社会でなんとか生き延びようとしたのだろう。

 ……とはいえ、そこで調子の乗って迎え撃とうとした当たりは本来の性格なんだろうが。さて、もう一つの疑問だ。


「闇魔法を使って、人間の姿のまま怪物になる……魔人と呼んでいるけども、あれは何?」

「アレにあったのか……私が習得出来なかった闇魔法の一つだ。闇魔法を使って魔獣の如き力を手に入れる……しかし、失敗すれば魔獣のように理性を失ってしまうお前の言う通り魔人化という闇魔法だ。これを使いこなせるか否かで立場が大きく変わる」

「……とすれば、理性を失っているのは不完全な状態なのね?」

「少なくとも、本来であれば理性を伴っている。もしも理性がないならそれは使い捨ての手駒だ。闇魔法を信仰している狂人たちも多いからな……自分を犠牲にしていいと本気で言っている奴を見て寒気がしたよ」


 そう言って嫌悪する表情で吐き捨てる。まあ、そういう立場から言うと君は俗物すぎるんだけどさ……しかし、ある程度相手の事情も分かってきたな。

 問題は、使い捨ての魔人であの強さなら理性を持って戦うとなると……闇魔法の使い手というのは、想像以上に危険だ。これはどこかで全員のレベリングが必須になるかもしれない。

 さて、聞きたい情報はこのくらいか。魔獣の死骸の処理も終わったらしい二人もこちらに寄ってくる。


「聞きたいことは聞けたわ」

「終わりですか? それならアクレージョ様、コイツはどうします? もし、処分するっていうならアクレージョ様の手を煩わせたくないのであたしがやりますけど」

「必要ないわ。身を大事にしなさい」

「は、はい! 気遣ってくれて感激です!」


 そう言って素敵! みたいな表情で見つめられる。いや、普通の気遣いだよ?

 メアリちゃん、頼んだら何でもしそうで怖いな……とはいえ、元々はスラムで生きてきたメアリちゃんだ。相当危ない橋も渡ってきたのだろう。だからこそ、これ以上汚れても良いと思っているのかもしれない。


「当主さん、処分しないなら爺さんに引き渡しますかい?」

「それも手ね……とは言っても、闇魔法を使う裏付けが取れた以上はあちらもリスクを抱えたくないでしょうから難しいわね。こっちで使えと言われると思うわ」

「ああ、そりゃ確かに。いくら裏社会で君臨するボスだとしても、元貴族の魔法使い……それもわけの分からねえ力を使う相手となりゃ怖いでしょうからね」

「なら、あたしがヤッちゃいますか?」

「別に必要ないわ」


 やる気満々すぎる……さっきから自分を殺そうとする物騒なメアリちゃんに、すっかりと男は怯えている。威圧させて大人しくさせる分には助かるんだが、別に意図してる発言じゃないんだろうな……

 とはいえ、処遇に悩む。闇魔法の知識を誰かに引き出されても面倒だ。しかし、処分するには情報が惜しい。悩んでいると団長が手を挙げる。


「ちょいっといいですかい?」

「あら、何かしら?」

「餌に使うのはどうですかい?」

「餌?」

「ええ。まあ俺の考えた方法なんですが……」


 そして、メアリちゃんと俺と団長の三人で話し合う。

 ……なるほど、それは面白いな。


「……あ、あの……私はどうなるんだ?」

「良かったわね。運が良ければ無罪放免よ」

「そ、それは本当か!?」

「ええ」


 そう言って笑みを浮かべるレイカ様に、先程以上に怯えた表情をする男。

 ……さあて、この餌に相手は食いついてくれるかな?

悪い顔をして企んでいる三人なので初投稿です

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