三年とチンピラと無双と
「ここの部屋ね」
「じゃあ、あたしが行きますね!」
メアリちゃんは凄い楽しそうにウキウキしながら扉を足で蹴破る。
すると、そこには団長が先程の禿頭の男たちにロープで拘束されていた。魔道具を使ったせいでバレて拘束されたのだろう。中には数人のガラの悪い男たちが武器を持って構えていて、そして檻の中に魔獣……いや、魔獣か? スライムのような状態になっている。
これは親玉に詳しいことを聞かないとダメだな。
「……おや当主さん、お早いお着きで」
「あら、愚鈍に見える?」
「ははは、いやいや期待以上ってことですぜ」
「てめえ、何をヘラヘラしてんだ! お前ら、そこのガキをぶっ殺せ。捕まえて好きにしていいぞ」
そう言いながら団長の顔面を蹴り飛ばして黙らせる禿頭の男。
周囲の男たちはニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを取り囲む。対抗するように隠し持っていた短剣を取り出す。刃引きをした対人用の剣だが、この相手ならこれで十分だろう。
「へへ、護身用か? そんなオモチャで……」
「ホオズキ、二人任せるわ」
「分かりました!」
そう言って悪い笑みを浮かべて向かっていくメアリちゃん。……なんだろう、猟犬みたいだな。素直で命令されたら噛みつきに行く感じ。
そんな事を考えながら、自分が相手をするゴロツキを確認する。5人程度で魔力の気配はなし。まあ、所詮チンピラだ。この世界では誰もが魔力を持っているが、それを使えるか否かは知識と才能によるものが大きい。だから、市井に住む人間は魔力を使う事も出来ないような程度なのだ。
クラウン学園では当然のように全員が魔法を使っているが、普通はこのように……
「てめえ! 何……がっ!」
「一人」
「うおっ!? はや……げほっ!」
「二人」
「ま、魔法だ! こいつら、魔法を……ぐげっ!」
「三人」
一瞬で沈黙するチンピラたち。まあ当然だ。魔法を使えるのと使えないのには大きな差があり、傭兵でもないチンピラならこの程度だ。ゲームによく出てくるザコ敵に近い。
なにせ、小型の魔獣ですら一般人からしたら出会えばどうしようもない怪物なのだ。それを片手で倒せるような貴族と戦闘能力は隔絶している。
「おい! ボスに連絡しろ!」
「ひ、ひいい!」
「逃げたのが一人」
禿頭の男の指示に従って、店のさらに奥へと走っていった男はあえて見逃す。
この事件の黒幕がいるのであれば、そこにお荷物が居たほうが探しやすい。もしも置いて逃げたならそれはそれで情報を引き出せる。
「さてと……」
「おい! 止まれ! こっちを見ろ!」
「……?」
いきなり言われて、そちらを見ると禿頭の男が拘束している団長に短剣を突き付けていた。
「この男を殺されたくなけりゃ、武器を捨てろ!」
「……お手本みたいなセリフね」
なんか生で聞けたらちょっと感動してしまうな。素直に戦って勝てないから人質作戦に出たらしい。しかし……
「逃げたのを追うわよ。準備しなさい」
「はいよ、了解でさ」
そういうと、拘束されていたはずの団長はロープを落とす。入ってきたときには既に拘束を外していたのを確認していた。団長はあえて全員を逃げさせないように捕まっていたのだ。
手品のように拘束していたロープを落とされてポカンとする禿頭の男に、団長は笑みを向ける。
「おうハゲ野郎、さっきのお返しだ。おまけを付けて返すぜ」
腰の入った見事なストレートが禿頭の男の顔面に減り込む。そのままの勢いで吹っ飛んでいき、そのまま白目をむいて気絶させた。
お見事と拍手をすると、こちらを見て一礼する。
「どうもどうも。それじゃ、行きますか。魔道具で連絡入れたんで、こいつらは回収しときます」
「いい仕事ね。メアリも行くわよ」
「あ、もう行きますか?」
と、言いながら寄ってくる。見てみれば、任せた二人は見るも可愛そうなくらいにボコボコになっていた。
「……やりすぎじゃないかしら?」
「いえ、あのクソ野郎共、アクレージョ様に酷いことを言ったので教育をしてたんです。あたしとしてはまだ足りないんですが……」
「目的じゃないわ。さっさとさっきのを追いかけるわよ」
「はい!」
そう言って三人で店の奥に走る。
……走りながら背後からちょっとした会話が聞こえる。気になって聞いてみる。
「おい、おっさん」
「おお? なんだいお嬢さん?」
「おっさんは、アクレージョ様のなんだ?」
「はは、俺は当主さんの手駒だよ。傭兵ってやつさ。まあ、今回も当主さんの依頼で任されたってわけだ」
「……そう。でも、アクレージョ様にあんまり舐めた態度してたらぶっ殺すからな。覚えとけよ」
「ははは……こわっ……」
さっき団長、真面目な声で怖いって言ってたな……どんな顔してたんだメアリちゃん。
正直気になるが、絡むと絶対に碌なことにならないので心の中に好奇心を飼い殺しておくのだった。
そして最後の扉を開けると広い部屋。そこには数個の檻に、先程のようなスライム状の魔獣らしい何かが檻に入っている。
「ひい! ぼ、ボス! アイツです!」
「……おやおや、どこの手の者ですか?」
檻の前で作業をしていたのは、胡散臭い笑みを浮かべた優男。逃げてきた部下は、泣きながら縋り付いている。
どうやらあれが黒幕らしい。
「答える義務はないわ。とはいえ、余裕そうね」
「いずれ愚か者が手を出してくると思っていたので。おそらくこの地域を支配しているマフィアの手の物でしょうが生憎でしたね」
そういうと、近くにある短剣を握り魔力を発動させる。剣を纏った魔力は黒色か。
「ハンターですかね? 多少は魔法を使えるらしいようなので……この私が直々に相手をしてあげましょう。光栄に思うと言いですよ」
「あら、当たりみたいね」
おそらく魔力剣なのだろう。貴族崩れか? 剣に闇魔法を纏わせて戦うようだ。
しかし、ご愁傷さまなのはどちらなのか……
「二人は私がやるから待機してなさい」
「あいよ」
「はい!」
「おや、三人同時でもいいんですよ?」
余裕そうな表情を浮かべて剣をこちらに突きつける。
おいおい、カッコつけていいのはレイカ様だけだ。短剣に魔力を通して燃え上がらせ、その事実を目の前の男に分からせてやるとしよう。
さて、今まで闇魔法というのは魔獣を操る力。そして魔人になる方法しか見ていなかったので実は闇魔法を使う人間とは初めて戦うのだが……
「あら、これもダメなのね」
「くっ! ううっ……!? 無駄、ですよ!」
短剣を打ち付けると、まるでゴムをハンマーで殴ったような跳ね返される感覚がする。
先程から数発、様子見で防御できるように攻撃をしているがレイカ様の一撃ですら正面から打ち合えば無効化出来るようだ。
「はぁ、はぁ……ふふ、この力は……貴方の魔力を消してしまうのですよ……!」
「消耗は大きいのかしら?」
「ふふ、そういう貴方は……やせ我慢が、得意なようですねぇ……!」
どうやらこちらの魔法剣を見て、相当に無理をしていると判断したようだ。まあ、前までなら消耗をしていただろうが……今のレイカ様だと普通に使えるのでやせ我慢ではなく本当に余裕ではある。
ゲームだと、ここで魔獣を使って反撃してきたのでその警戒はしているが……魔獣は動かす気配は見えない。
「……受けてみようかしら?」
まあ、正直に言えば……予想をしていたよりも圧倒的に弱い。なので、つい闇魔法について観察している状態だ。
まあ、初めて見た闇魔法を使う人間なので、どういう事をしてくるのかを観察している。初見の行動をしっかり観察しちゃうのはゲーマーの習性みたいなもんだ。そして今度は相手の攻撃を誘うように隙を見せる
「そこです!」
「……あら?」
そして、誘われるままに攻撃をしてくる。武器で受け止めると、ガキンと音がして弾かれ……ん? 妙な感覚がある。
先ほどと違って、ゴムで弾かれるような感覚ではない。ヤスリで削られたような喪失感とちょっとした疲労感があった。
「ふふ、受け止めれたようですが……もう貴方の力は私のものですよ!」
「……ああ、なるほど」
魔力を吸い取るのか。やはり魔獣と同じ理屈のようだ。先程よりも心なしか相手の男も元気が戻っている。
攻撃をすれば魔力を吸収して、防御をするときには弾き返すと。ううむ、中々に厄介な性能をしている。とはいえ、見ている限りで消耗は大きそうだし、切り替えも必要なのだろう。
他に行動はあるのか……?
「他にはないの?」
「はは! 強がりですか!? 貴方はもう……」
「ないならいいわ」
そういって、真面目に攻撃をする。
「なっ!? はやっ……」
「まず、魔法剣の使い方がなっていない」
まずは短剣で連撃を入れる。必死にこちらの攻撃を受ける男の胴体に蹴りを入れる。
「げはっ……!?」
「隙だらけで、攻撃も遅い。こんな場所で落ちぶれているのも納得ね」
そのまま、手に持っている男の剣を弾き飛ばして胴体に一撃を入れる。
ヘドを吐きながら悶絶する男。
「……終わりね」
「さすがアクレージョ様! とっても素敵でした! おら、おっさんも拍手しろ!」
「……なんですかい、この子」
二人に拍手されながら、そんな質問が飛んでくる。
「……知らないわ」
雑魚戦でこんなに褒められてもなぁ……という気持ちが芽生える。
さて、拘束をして後は情報を……
「当主さん!」
「……ああ、なるほど」
その言葉に視線を上に向けると……檻から魔獣が抜け出して形を成している。
流石にイベント戦がここで終わるわけじゃないか。街中に魔獣が出現すれば相当に被害も出て、大騒ぎになるだろう。
(第二ラウンドってわけか)
「一匹も逃さないようにするわよ」
そういって、檻から開放された魔獣達を退治するために剣を構えるのだった。
低レベルでやるイベントをレベル上げすぎると、無双ゲーしちゃうので初投稿です




