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三年とライバル関係

 メアリ・ホオズキとの出会いから数日後……


「それでは、自己紹介をしてもらおう」

「はじめまして、メアリ・ホオズキと申します。転入生ですが、遠慮はいりません」


 学園長室ではなく、とある空き教室に王候補が全員集められて挨拶をしていた。

 それは、前から言われていた正式な顔合わせだ。そして、メアリちゃんは強気な発言の後にグルリとこの場に居る王候補の顔を見回して自信に溢れた表情で宣言をする。


「あたしが王になります。この場の誰にも負けるつもりはありませんし、負ける気もしないです……例え、アクレージョ様相手でも負ける気持ちはもうありませんから」


 そう言ってこちらをまっすぐに見つける。それは、歴戦のライバルに向けるようなまっすぐな挑戦者の目。

 ……あれー? なんか少年漫画みたいなスタートになってない? 思っていたのと違う。ゲームだともっとドロっとしてたような……


「あら、名指し?」

「ええ。あたしが尊敬しているのは、アクレージョ様だけなので。他の奴はどうでもいいです」


 サラッと凄いことを言い出す。えっ、というか尊敬してるって何? この前ビビらせたと思ったんだけど、何を間違えたんだ?

 そして周囲から「またかよ」みたいな視線が送られる。いや、俺は何もしてないよ。むしろ嫌われる要素しかなかっただろ。無礼な発言もなんかスルーされてるし。


「あの、レイカさん。ホオズキさんとは……」

「ねえ、貴方。アクレージョ様でしょ? なんで名前を呼び捨てにしているのかしら?」


 と、気になって聞こうとしたヒカリちゃんに突然つっかかるメアリちゃん。

 えっ、何? 何が起きているんだ?


「それは最初からそう呼んでいるからで……」

「へぇ、貴方はどこの貴族? ……ああ、そういえば先王の隠し子だったから入学したノセージョって居たわね。それって貴方かしら?」

「……それだとどうしました?」

「いえ、別に? ただ、アクレージョ家の当主に対して失礼だとは思わないのかしら? やっぱり貴族じゃないと礼儀とかはなってないんだなって思っただけ」


 うお、バチバチな嫌味をいうなぁ! むしろストレートすぎて新鮮なくらいだ。ゲームだともっと嫌味な貴族が多いし。

 その言葉に、ムッとした表情のヒカリちゃん。


「これは信頼の証です! レイカさんは嫌がってないですし、辞めろとも言われてません!」

「本当ですか、アクレージョ様? まさかそんな……」

「……別にいいわ。今更だもの」


 一応言っておく。今更ヒカリちゃんに様を付けられたらそれはそれでちょっと違和感あるしもう訂正する気はない。

 とはいえ、最初の方に辞めろっていった記憶はあるけど……ここまで自信満々に言われたら気のせいだった気がしてきた。


「なっ!? あ、アクレージョ様!? それが許されるんですか!?」

「その子は実力を見せてきたもの。そうでないならもうとっくにこの学園には居ないわ。だから特例よ」

「そうなんです! 分かりましたか!」

「そう、ですか……クソ、いい子ちゃんがアクレージョ様によぉ……」


 ヒカリちゃんは得意げな表情に。それを見てメアリちゃんがぐぬぬとなっている。小さい声でめっちゃ口汚いこと言ってなかった?

 ……なんだろ、原作でも確かにメアリちゃんは悪役ポジションだからいざこざはあったけどこんな感じじゃなかったんだよな……と思っていると、シルヴィアくんに肩を叩かれて小声で言われる。


「アクレージョさん」

「……なにか言いたいことがあるかしら?」

「多分君が原因だから、フォローはしておいてね? 僕たちは特に何もしないから」

「……私のせいなの?」

「はは、古い言葉で言うだろ? 「女の諍いに手を出す男は死ぬ」って」


 この国に伝わる格言を言って、さらっとレイカ様に全面的な責任を押し付けたシルヴィアくん。なんなら、メアリちゃんとヒカリちゃん以外の視線がお前の役目だぞと意志を伝えてきている。

 ……なんでこうなった?


「……そろそろいいかね? 転入生の自己紹介だけで終わらせるわけにはいかぬのだが」

「おっと、そうでしたね。なら僕から自己紹介を……」


 と、そこでようやく学園長からストップがかかり場の空気が戻る。

 そして、一人ずつメアリちゃんに自己紹介をしていくのだった。



「――挨拶も必要ないと思うけど、私がレイカ・アクレージョよ」

「はい、アクレージョ様! 今後ともよろしくおねがいします!」

「……うむ、これで全員の挨拶が終わったようだな」


 学園長がそう締める。メアリちゃん、他の自己紹介はほとんどどうでも良さそうな反応だったのにレイカ様のときだけ反応がすごい良かったな。

 もう周囲の反応も慣れきっている。一応、絶世の美男子なんだけどな……王候補の皆。


「さて、これからの王選ではあるが……選出に関しては例年と変更はない。王に相応しき能力、そして人格者となるために日々の努力をするのだぞ。これは学園長として、そしてこの国の宰相としての言葉だ」


 まあ、つまりは「候補が増えたからと言って特に変えることはないから変なことを考えずに真面目にやれよ」ということだ。これはメアリちゃん向けにわざわざ言ったのだろう。

 そのまま多忙な学園長は去っていき、教室には王候補だけが残される。


「……さて、どうしますか?」

「どうするも何も、あたし達は敵ですよ? 仲良くランチでも食べるんですか?」

「まあまあ、競い合う相手だけども今年の王選は少々違っていてね。というのも、学園や王宮に王戦のタイミングを狙ってきた侵入者がいたんだ。競い合うと言っても、流石に外敵がいる状態で内紛をしている場合じゃないからね」

「……ほー、なるほど。そんな事情があるんですね。なら了解です。ランチでもディナーでも参加しますよ」

「……お腹空いてるのかい?」


 シルヴィアくんの説明に、納得したらしいメアリちゃん。

 ゲームでメアリちゃんの事を知っているが、もしかしたらゲームと違って暗躍してる奴らと繋がりがあるかもしれないと観察していた……が、自然な反応に動揺も見られない。おそらく演技などはしていないようだ。


「仲良くするとまでは行かなくても、この国に忍び込んでいる害虫を退治するのが優先よ。それで納得できるかしら?」

「はい! 納得しました! それで、どんな事をしているんですか!? あたしもアクレージョ様を見習いたいので、ぜひともご指導ご鞭撻をして頂ければ!」

「……面倒だから教えないわよ」

「なら、見て覚えます!」


 ……やけにメアリちゃんからの好感度が高い。なんでだ。

 というか、ヒカリちゃんみたいに付いてくるのが増えるのか……ちょっと懐かしい気分だ。と、そこでおずおずとヒカリちゃんがメアリちゃんに声をかける。


「あの、ホオズキさん……レイカさんが困っていますから」

「はぁ? 別にアクレージョ様が困っているなんていってないでしょう? 貴方の勘違いじゃない?」

「むっ……そんなことはないです! ね、レイカさん!」

「どうなんですか? 困ってませんよね、アクレージョ様?」


 メアリちゃんとヒカリちゃんから挟まれてそう聞かれる……いや、なんでこんな事に。というか、二人共俺の想定では好感度低いはずなんだけど。

 なんとか角の立たない答えでも……と答えを考えていたら面倒になってしまい、適当に答える。流石に俺のイメージするレイカ様でもこんな状況に答えは用意していない。


「……どっちでもいいわ。好きにしなさい」

「ふふん! ほら、あたしの方が正しい! アクレージョ様は迷惑してないわ」

「むむむ……!」

「おお、すげえな。アクレージョが疲れてるぜ」

「ふうむ、師匠もあんなふうに困ることがあるのだな」


 すっかり観戦ムードで眺めているカイトくんとロウガくん。誰か助けてくれ……といいたいが、最初のシルヴィアくんの言葉を思い出す。

 ……これを何とかしないといけないのかぁ。先行き不安なレイカ様を放置してシルヴィアくんが話を進めていく。


「さて、特にないなら解散かな。まあ、ホオズキさんも困ったことがあれば頼ってくれればいいからね。王選候補である前に、この学園の生徒だからね」

「はい、ありがとうございます。なにかあればちゃんと頼りますね!」


 そういってレイカ様を見て笑顔を浮かべるメアリちゃん。

 ……嫌そうな顔を思いっきり浮かべてしまった。え、もしかして困ったらレイカ様が頼られるの?



 そして数日後。噂に聞いていると、どうやらメアリちゃんもすっかり馴染んだらしい。

 転入生ではあるが案外気さくであり、人好きのする性格だからすっかり馴染んで他の同級生からも評判が良くなった……約一名を除いて。


「レイカさん! あの子はダメです! 何かと私の邪魔をしてくるんです」

「……その話、何度目?」

「覚えてません! そのくらい何度もあったんです! どれだけ言っても直してくれないし……!」


 そう、それはヒカリちゃんだった。今日も放課後になる前に学校を抜けて喫茶店でお茶をしながら胡乱な表情で怒るヒカリちゃんの愚痴を聞いていた。ああ、ケーキ美味しいなぁ……

 どうやらヒカリちゃん、学校で相当にメアリちゃんに突っかかられているらしい。ゲームでもメアリちゃんとヒカリちゃんはこんな感じだった覚えはあるのだが、王子様に助けられたり慰められたりだったはずなんだが……まあ、本来ここにレイカ様は居ないからなぁ……


「この前のテストで、総合点で同点だったのに「あはは! 転入生のあたしと同じ程度なのね?」って言うんですよ! 同点なのに勝ち誇られて……!」

「それは勉強をしなさい」

「それと、授業で模擬戦をする時も毎回私を相手にしてくるんです! それはいいんですよ。でも、実践ではなんでもありとは言っても隠し武器を使ったり、魔道具を使ったりするのは流石に卑怯だと思いませんか!?」

「勝ったの? 負けたの?」

「当然勝ちましたけども! 負けたらレイカさんに顔を合わせられませんから!」


 ヒカリちゃんが今まで見たこと無いくらいに憤慨している。

 まあ、色々とキャラ設定は知っているしゲームと性格がだいぶ違う事を除けばそのまんまなのでどっちに対しても肩入れはしない。まあ、事情もあるだろうしヒカリちゃんとメアリちゃんはいずれ、対決することになるからね。なのでメアリちゃんのフォローを入れておく。


「別に暗器も魔道具も使って問題ないわよ」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ……とはいえ、搦手頼りは魔獣と戦う時に意味がないからあまり使われないだけよ。確かに剣を使うことに意味はあるわ。でも、それに拘ることは不要なのよ。強さの形は一つじゃないと覚えておきなさい」


 実はそうだったりする。なのでゲームでもアイテムを持ち込んで剣舞会でアイテムを投げまくって優勝する鬼畜外道主人公ちゃんとかもいるのだ。


「そ、そうですか……反省します」

「……ふと、思ったのだけども」

「はい」

「ホオズキの方も、貴方のことを「頭の固い真面目ちゃん」って思ってそうね。案外仲良くなれるんじゃないかしら?」


 まあ、性格が真逆なので一見すると仲良くなれそうに見えないだろうが……本質的に似てるんだよね、二人共。まあこれはゲームプレイした視点からもあるんだが。

 その言葉に面白いくらいに反応を返すヒカリちゃん。


「無理です! 仲良くなれません! あの子とは水と油ですから!」

「……ホオズキも、全く同じことを言うと思うのよね」


 そんな呟きは聞こえなかったのか、怒りながらムシャムシャとスイーツを食べ始めるヒカリちゃん。


(……とはいえ、平和だなぁ。愚痴程度で済んでるし)


 王選ではあるが、学生らしい平和な時間だ。

 とはいえ、そろそろイベントが起きる時期だ……そのために備えておかないといけないと思いながら、ヒカリちゃんの愚痴を聞いてあげるのだった。

個人的にガラと口の悪い女の子は好きなので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! ゲームではメアリさんとレイカさんが会えなかったですか? なお、接点ありとは思わなかったです。 ガラと口の悪い女の子、私個人はそこまで好きじゃないけど、そうい…
[一言] 思ったより毒吐くけど期待通りの三角関係いいですわゾ~
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