学園とリザルトと予想外
その言葉を聞いて、ゆっくりと宰相は口を開く。
「……王選に出たいと?」
「ええ、私も王になる戦いに参加すること。それが望みよ」
この要求は荒唐無稽な部類なのだが、いいのだ。今回に関しては断られる前提でいっている。
そして、座っている王候補からいろいろと言われる。
「やっぱりか……そういう要求をするよね、アクレージョさんは」
「ははは! 宰相に直訴するのかよ! くはは! げほっ……あー、本当にイカれてるな!」
シルヴィアくんとロウガくんは分かっていたのだろう。反対でも賛成でもない反応だ。ロウガくんは爆笑してるけど。
「師匠が王選だと!? 当然構わん! いや、むしろ師匠と戦いたい! ぜひ王選に!」
「レイカさんが王選に……私も良いと思います! レイカさんはそのくらい凄い人ですから!」
賛成の立場をとっているのが、ヒカリちゃんとカイトくん。まあ分かってたらスルー。
「反対ですね。まず、王になるのに始祖魔法を使えない人間は参加できない……これは当然のルールですから。というか賛成は何を考えてるんですか」
反対の立場なのがホークくん。まあ、ライバル増やすつもり無いしね。こっちをさっきから何いってんですかアンタって目で睨んできている。俺もそう思う。
そして、宰相はこちらを鋭い目でみて聞き直す。
「……さて、その言葉がどういう意味を持つかを理解して言っているのだろうね?」
「ええ、当然よ。最初から私は上しか見ていないわ。そう、この国の頂点を」
挑発的な視線で宰相に返事をする。レイカ様なのだ。ここで引く選択肢はない。
こちらが冗談や酔狂で言っているわけではない。本気であるということが読み取れた宰相は目頭を押さえる。
「……先にしておいて正解だったようだ。過去にもそういう愚かな事を考えた貴族はいる……だが、分かっているだろう? 始祖魔法を持たぬ人間には王選に参加出来ぬと……」
「ええ、だからそれを曲げて貰うだけよ。今の貴方の権力があれば、特例でルールを曲げる程度はできるでしょう? それか、私が始祖魔法の才能に突然目覚めるのも手でしょうね」
まあ、宰相ならつじつま合わせてねじ込むくらいできるだろ? というレイカ様の詰め寄り方。
ここまで宰相に詰め寄って断られたら流石にレイカ様でも諦めるしかない。レイカ様はバカではないので、超えれないラインを乗り越えて消されるような真似はしないつもりだ。
そして、ここで断られたから無理矢理にでも認めさせるために……
「……いいや、認められない。始祖魔法の才能を持つという意味は大きいのだ。これは伝統であり……」
「おかしいことを言う」
と、突然ツルギくんが発言をする。まだ辛そうな表情をしているが、それでも発言をするということは……何か言いたいことがあるのだろうか?
「初代剣聖は、始祖魔法の血はなかったが王に推薦されたろうに。始祖魔法を持たずとも王にはなれるのであろう?」
「なっ……!?」
思わず声を上げるが、全員同じような反応をしていた。
初代剣聖は……始祖魔法を使えなかった? そんな情報は聞いたことがない。宰相を見れば、驚かずにツルギくんを見ている。
「ムラマサ家では、すでにそれは忘れ去られたかと思っていたのだがね」
「他の家のものは覚えておらぬだろうな。拙者は初代様の手記を見つけ、それを読んだので知っていたというだけの話だ」
「そうか……時代は変わるか」
そう言うと、ゆっくりと息を吐く宰相。
「……特例を許可しよう。レイカ・アクレージョ。王選の参加を認める」
宰相が突然そう告げて、この場にいる全員が呆気にとられる。
そんな反応を返す王候補に構わず宰相は続ける。
「そして、ここからの話は他言無用。この話が漏れた場合……家ごと消えてもらうことになる。そういう類の話だ。アクレージョ。君にも同様にしてもらう」
「分かったわ」
「……それで、どういう話でしょうか?」
宰相の話は、貴族の立場すら関係ない最重要の国家機密だということだ。緊張が走る室内で、宰相はゆっくりと告げる。
「……盗まれたものについての話だ」
そして、宰相は語り始める。
「まず、最初に……神器という物について知っているだろうね?」
その言葉にヒカリちゃん以外は頷いた。
「え、えっと……」
「ああ、君は市井の出身だったね。説明しよう……はるか昔、この国は恐ろしき魔女が支配していた。触媒すら使わずに魔法を自在に操り、誰にも勝てぬような怪物が……国民は管理され、オモチャとして生かされる日々……だが、それに抗おうとした人々が居た。魔女を倒すための魔道具を作り出し、魔女へ反乱を起こした。犠牲者を出しながらも一人の男が魔女を打ち倒したのだ……その時に使われた物が剣の魔道具。神器と呼ばれるものだ」
「え、ええ……? 本当ですか? なんだか、おとぎ話みたいな……」
「確認はできぬ。過去の文献の多くは時代と共に失伝してしまった……だが、それほどまでに強力な神器は実在している。それだけは事実だ」
そう、神器というのはゲームでも話にだけ出てくる隠しアイテムだ。
シナリオ中で一度だけ手に入るのだけども、チート武器の一言だった。シナリオだとゲームデータ以上にとんでもない武器で、主人公が本気の力を発動したら魔獣の軍勢を消し飛ばして地形を変えていた。「そりゃこの国以外は出てこないわ」「一国だけ核兵器持ってるのか?」とかユーザーで言われていたなぁ。
「……だが、神器は選ばれたものが使えるが……それは、始祖魔法は関係なく魔力の量で判断される。つまり、条件さえ満たせば誰にでも使えるものだったのだ」
「えっ、誰にでもですか!?」
「正確に言えば、魔力さえあるならば使い手は選ばないというだけだ。そして、王選はそれを管理するのに相応しき人間を選出するためのものだ。神器を使えて、そしてその神器を管理出来るものがこの国の王となるために」
……あー、そうだったんだ。そこら辺に関してはユーザーの間でも色々と説はあった。
王と言う割に、居なくてもなんとかなったり国として王の役割が不透明だったからもしかして別の役目があるのでは……? という考察だ。
「なっ……それでは、なんで始祖魔法の使い手だけが選ばれるのですか!? 王選に始祖魔法を使える人間を選ぶ理由は……!」
ホークくんの質問に答える宰相。
「誰にでも使えるという事実を知られぬ為に。それとは別に始祖魔法の使い手が神器と相性がいいこともある……神器はその人間の魔力の性質によって形を変える。場合によっては、あらゆる人間を殺戮する魔道具として顕現することになるだろう。始祖魔法の使い手であれば、そういった心配はないのだよ」
なるほど、そういう魔道具なのか。使える魔力によって変わる魔道具はあるのだが、それの凄いバージョンなのだろう。
……ん? でもゲーム中では主人公限定だったような……
「誰にでも使えるのなら、奪われる危険があるのではないの?」
「神器は魔力を覚える性質を持っている。一度覚えさせた人間がいれば、その人間が死ぬまで魔道具はその者以外には使えない武器となる……だからこそ、王選という儀式が必要なのだよ」
「なるほど。理解したわ」
そりゃ王選をするよね。魔力の多い人間がうっかり神器の使い手になればどうなることか……止める手段だって多分ないだろう。ゲームのデータであれだったもん。現実ならなおさら止めるのは不可能だ。
「……そして、先日の襲撃者に盗まれたもの。それは、神器を管理する部屋への鍵の一つだ」
「なんだと!? 大事ではないか!」
カイトくんが叫ぶ。
「神器が何者かの手に渡るではないか!」
「いや、まだ問題はない。代々、神器に繋がる部屋の扉は宰相と護衛長の二人に管理されている。宝物庫の鍵は私と護衛長が不在になってしまった非常事態用の、分割された鍵だ。王宮の鍵こそは奪われたが……全て揃わなければ意味はない」
「でも、守りきれるのかしら?」
「……魔人という存在、魔獣を操る技術……始祖魔法を使える人間は限られている。王宮の兵士だけで守りきれるとは言い切れない。だが、王選を短くすることは出来ない。それをすれば、下手人がどんな行動を起こすか分からぬからだ」
ここで急いで無理に王を決めて失敗をした場合には、取り返しがつかないからの判断だろう。場合によっては無理に選ばれた王を暗殺し神器を奪うことが狙いかもしれないからだ。
そして、宰相は俺達を見る。
「王選は滞りなく行う……だが、君たちが狙われることもあるだろう。こちらでも全力で対処をするが……手が届かない場合もある。十分に気をつけて欲しい」
「随分と悠長な対応ですね」
ホークくんの言葉もまあ確かに納得はできる。
気をつけろと言われても、襲われたらというのはあるだろう。
「危機を乗り越えられぬようでは王に相応しくないからだ。王選というのはこの国を守る最も相応しき者を選ぶ静粛な儀式だ。文句があれば辞退をしても構わない」
そういい切る宰相。まあ、神器を使う王は最大戦力であり本人の気質も求められるのだから当然といえば当然か。ここで下手な人材を選ぶと国自体が危なくなるのだろう。
「この話はここだけのものだ。辞退も穏便な方法で伝えよう……私以外に相談はしないようにしてくれ。私がこの王選に関する話は管理する。他の人間に漏らすことは同様の対応とする。だが、可能な限りで私は君たちを守ることを約束しよう」
「……なるほど、分かりました」
「理解してくれてよかったよ。それで、他に質問はあるかな?」
その言葉に、全員は黙る。特に質問はないのだろう。
「この場ではこれだけだ。すまないね、呼び出してしまって。それでは、解散をしよう……そして、アクレージョくん。剣聖徒おめでとう。王選での健闘を祈っているよ」
「あら、祈りなんて要らないわ。自分の力で切り開くのみよ」
「……くくっ……君が始祖魔法を使えていれば良かったのだがね……いや、詮無きことだな」
そして校長室から出て解散となる。それぞれ考えることがあるのだろう。何も語らずにそれぞれが帰路についていく。
……うん、まさか王選に普通に参加することになるとは思わなかった。予想外につい乗ってしまったが……さて、どうするか。そう考えるのだった。
そして、屋敷に戻りルドガーへヤバい部分を伏せて話をする。
「……というわけで、私も王選の参加を認められたわ」
「なるほど。偶然、始祖魔法の才能が見つかって……ですな?」
「ええ、そう。偶然見つかったのよ」
まあ、これに関しては確認だ。「表向きはそうなっているんですよね?」という。
「しかし……魔人に魔獣ですか……それらが王候補を狙うかもしれないと」
「ええ。王宮を狙ってきたのも学園に襲ってきたのも同じ手合い。おそらく、王候補たちも狙われる可能性は十分にあるわ」
「……他の王候補の犯行の可能性はあるのではないでしょうか?」
「ないわ。むしろ、それ以外の王宮関係者が怪しいのよ」
……あそこで宰相が話した理由は単純だ。王宮に裏切り者がいる可能性が高い。だから、王候補達に情報を出して信用を結びたかったということだ。だから執拗に自分の守れる範囲でという話をしていた。
王宮の裏切り者に騙される可能性がないとは限らない。だから、あれは宰相なりの警告だったのだ。分かってなさそうなヒカリちゃんとかカイトくん当たりにも忠告しとくか。
「なるほど……屋敷の警備も厳重に致しましょう。そういえばお嬢様……グリンドル傭兵団から連絡が」
「あら、何かしら?」
「お嬢様の指示通りに下手人の調査をしたそうですが……どうやら繋がる情報があったようで」
「あら、本当?」
「はい。それが……」
そして耳打ちをされる。
(……どうやら、キシドー家の分家に繋がったそうです)
(キシドー家に?)
(分家筋ではありますが、確かにキシドー家に連なる家です)
その言葉に、思わず聞き返してしまう。
頷くルドガー。とんでもない情報に混乱するが……ああいや、ロウガくんは関係ないだろうな。しかし、四大貴族が出てくるか……
「間違いない情報だと。詳しくはさらに調査をするそうですが……時間は要するとのことです。少なくとも来年辺りを目処にしてほしいと」
「情報がそこなら当然でしょうね。分かったわ……しばらくは剣聖徒にもなって目指すものはないものね。しばらくは休養することにするわ」
「休養ですか?」
「ええ。いずれ大騒動になるはずだもの。それまでに鍛えて力を蓄えておかないといけないわ」
「……それは休養と言わないのでは……?」
ルドガーのツッコミは無視。ゲームでもこの時期はイベントがないので来年に向けての強化とか好感度稼ぎの次期なのだ。
なにせ、ここから待っているのは原作とは変わってしまったルート。そして始まる陰謀。色々とあるのだ……無駄には出来ない。
そして、来年に待っている不安が一つだけある……それは、原作で出会うことのないキャラとの邂逅があることに。
(……どうなるんだろう)
不安はあるが……レイカ様を全うしてデッドエンドを迎える未来のため、覚悟を決めるのだった。
難産で遅れてしまったので初投稿です
さて、学園闘争編の終了です。次回より「王選襲来編」が始まります。舞台は3年生となり、それぞれのキャラクターが半月経過してちょっと成長します
いよいよエンドに向けて走り始めるストーリーとなっております。沢山ご覧いただき感謝でいっぱいです
楽しんで頂けるように頑張りますので、これからもご覧頂ければ何よりです




