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学園と学長と報酬と

『……先日の事件もあります。そして僕として大きかったと思うのは、女子生徒たちに流れていた噂でしょうね。『シルヴィア様が勝った暁には、レイカ・アクレージョはシルヴィア様に嫁入りする』という噂が流れていましてね。それでシルヴィア様に憧れている女子生徒たちは勝たせるわけには行かない……なんて言う動きもあったんですよ』

『そ、それは事実なんですか!?』

『確認は取れていませんが……二人で何かの約束があったのは事実でしょう。だからこそ、動かないはずの固定票が動いて接戦になったのでしょうね』

『なるほど……選挙というのは、どういう噂で動くかわからないものですねぇ』


 そんな終わった後の分析を聞き流しながら……というか、どこから流れた噂なんだよ。ちらりとこっちを見たホークくんが笑みを浮かべ……あ、わかった。

 多分、避難騒動の時に噂を聞いて広めたなあいつ。シルヴィアくんガチ恋勢を利用したわけだ……悪いやつだなぁ。

 まあ、勝ったのでこちらかは文句は言えない。そのままシルヴィアくんに向き直る。


「これで、私はソトノー国に行けないわね」

「そうだね……とはいえ、実はソトノー国へ行くこと関しては撤回をしようと思っていたんだ。でも、どっちにしても君はこの国に残っていたのは見事だと思うよ」


 とんでもないことを言い出すシルヴィアくん。

 えっ、どっちにしても行かなくてよかったの!? 内心では結構緊張してたのに!?


「……どういうことかしら? 答え次第では……」

「いや、怒らないでほしいんだ。理由としては……国内の状況が変わったからだよ。謎の魔獣を操る組織。そして、突然現れた魔人……はっきり言って、彼らの存在はこの国を揺るがす。そして、それは決して良い方向に向くことはないだろう」

「そうね。それは同意するわ」


 なにせ闇魔法に飲み込まれず利用しようとしていたレイカ様ですら、国を相手に戦争を仕掛けるような所業をしたのだ。

 そんなレイカ様から数段格落ちする連中が闇魔法を覚えた所でコントロールできずに酷い暴走をする未来が見える。


「アクレージョさん、僕はね……君がこの国に余計な騒動をもたらすと思っていた。先王が亡くなり、次代の王が決まるまでの空白の期間だ。他国はこのタイミングでクラウン国に圧力をかけるだろう。国内ですら、どんな思想の持ち主が動くかわからない。そんな状態で貴族として力を持つアクレージョさんが騒動をもたらせば……きっと良くない状態になる。そう思っていたんだ」

「あら、心外ね」

「でも事態は僕が思っていたよりも余裕はなかったみたいだ。学園への襲撃に……知っているだろうけど、王宮への侵入者。この国を僕の想像する以上に厄介な存在が狙っている……だからこそ、アクレージョさん。君のような強くあれる人が必要になると思ったんだ」


 ……なるほど、本来のルートと違ったせいで予想のしてない騒動が起きた。

 そして、それを受けたシルヴィアくんは「こんな状態の国内では身内で争っている場合ではない」と認識を変えたらしい。

 その、なんだ……ごめんな……俺がルートを変えなかったら多分起きなかったタイプの騒動だし……うっかり押したらダメなスイッチを押して騒動になってる気分だ。


「……国外に送られないからといって、勝ちは譲らなかったけどもね」

「あはは、そうだろうね。これは間違いなく……まあ、変な噂もあったみたいだけどアクレージョさんの力だよ。そこには一点の疑いもないさ」


 爽やかに認めるシルヴィアくん。クソ、イケメンだなコイツ……

 全然推しとかでもないのに、ちょっと絆されそうになる。メインキャラは人格者が多いからついつい心を動かされるんだよな……俺も何周もプレイしてるブレファンなんでメインキャラには愛着があるんだよ。

 と、そこで足音が聞こえそちらを見る。


「レイカさん! おめでとうございます! 剣聖徒ですよ! 本当に剣聖徒になれて……泣いちゃいそうでした!」

「おめでとうだ、師匠! ふふ、やはり俺の認めた師匠なことはある!」


 と、ヒカリちゃんとカイトくんも走ってくる。そのままヒカリちゃんに飛びつかれて抱きしめられた。

 その勢いでうっかり倒れそうになるが、気合で持ちこたえる。


「……ヒカリ、離れなさい。邪魔よ」

「あっ、ご、ごめんなさい! つい嬉しくて……」


 そう言って恥ずかしそうにしながら離れるヒカリちゃん。まあ、自分の事のように喜んでくれるのはちょっと嬉しいので許そう。


「師匠、さすがだ。完璧な人間であるシルヴィア殿に勝つとは……やはり、師匠は師匠だったな! それと、シルヴィア殿も素晴らしかったぞ!」

「……一応、僕の擁立者だったはずなんだけどなぁ……」


 思いっきりぞんざいな扱いをされて、そうボヤキながらも優しい笑みを浮かべるシルヴィアくん。

 ……カイトくんは弟みたいな感じなんだろう。というか、掘り下げたらそこら辺の設定ポロッと出てきそうだな。多分ブレファンに聞かせたら興奮して倒れそうなタイプの。


「それで、どうしたんだい? 二人が揃ってやってくるなんて。まだ選挙の色々なことが残っていると思うし、ここは入れないはずだよね?」

「……ああ、そういえばそうね」


 あ、そう言えばそうだ。よく考えればやることがまだ色々と残っているし実況席も……あれ、ホークくんはもう居ない。まだ会場ではざわついてるし、インタビューみたいなこともするつもりだと思ったんだけどな。

 疑問符を浮かべる俺とシルヴィアくんに対して、二人が言ったのは意外な言葉だった。


「うむ、それなのだがな……」

「その……学園長さんに呼ばれたんです。私もカイトくんも……そして、お二人も」

「学園長に?」

「はい。選挙の片付けや後のことはいいので、学園長の元に向かって欲しいと」


 シルヴィアくんと顔を見合わせる。

 学園長。原作でも要所しか出てこないこの国の宰相にして現在の最高権力者である重要人物。

 ……それが呼び出すなんて、一体何なのだろうか?



 学園の人気のない廊下を通り、奥に用意された簡素な扉を四人でくぐる。

 中は貴族の学園としては質素に思える部屋。


「いらっしゃい。仕事をしながらで申し訳ないが、これで揃ったようだね。」


 奥には白い髭を蓄えた優しい顔の老人が座っていた。

 彼こそはクラウン国宰相であり学園長。ゲームだと学園長で呼ばれている。優しそうに見えるが、とんでもないやり手の宰相であり、彼がいるから王の不在の間も他国と渡り合えていると言われている。

 こちらを見て笑みを浮かべながらも書類を片付けている手は止まらない。


「突然でしたが如何なされましたか?」

「立ち話もなんだからね、席に座りなさい」

「早く頼むぜ」


 その言葉に座るシルヴィアくん。学園長室の来客席にはロウガくんにホークくん……それと、ツルギくんも座っていた。学園を休んでいたはずだが、呼び出されたのだろう。まだ調子は悪そうだ。

 カイトくんも座り、ヒカリちゃんもキョロキョロしながら席につく。学園長室の来客用の椅子には王候補が勢揃いだ。ついでにレイカ様も座る。一番偉そうな感じで。


「アクレージョ、よくそんな態度で座れんな」

「あら、キシドー家は細かいのね」

「……その肝の太さは感心するな」

「くくっ……やはり書類で見るよりも、こうして出会った方が分かるものがある。さて、王候補の諸君を呼んだのは他でもない……王選についての話だ」


 その言葉に場の空気が変わる……と、その前に聞きたいことがあった。


「あら、私も呼ばれているのだけども?」

「おや、すまない。歳を取るとどうにもうっかりしてしまう。王選の話よりもアクレージョくんの話から先にするとしようか」


 その言葉に場の空気が弛緩した。

 まあ、本当にうっかりしたのだろう……王宮には魔人が襲って盗難。死者も出ているし、なんなら学園でも騒動が起きて対応に追われている。王が不在の間の業務もあり……うん、過労で倒れてもおかしくないくらいには忙しいだろうからな。


「さて、レイカ・アクレージョくん……君を呼んだのは礼を言いたかったからだ。先日の学園の襲撃やこれまでの騒動の尽力。クラウン国宰相として、そしてクラウン学園の学園長として感謝を述べよう。ありがとう……君のおかげで生徒達が無事に済んだ」


 そう言って手を止めて頭を下げられる。本気の感謝だ。

 ……これ、この世界だと相当に凄いことだ。いうなら、一国の大統領に呼ばれてそこで感謝状を貰うようなレベルだぞ。流石に貴族としての礼を述べる。


「感謝を受け取りましたわ、宰相様。アクレージョ家当主として、より一層のクラウン国の発展に尽力いたします」

「ああ……そして、言葉だけでは足りない。貢献には見合う報酬が必要だ。さて、以前打診されたダンジョンの使用権……こちらは受理しよう。だが、この程度では足りないのだよ。君の貢献には英雄としての報酬が必須だ。何か望みはあるかな? 宰相としての権限の限りで叶えよう」


 そう言って笑みを浮かべる宰相。流石に予想を超えた提案に目を白黒させてしまう。

 まず、現在の宰相は不在の国王代理。つまり、国王に好きにしろと言われたレベルの報酬だ。アクレージョ家に勲章を貰い、剣聖一族のような特権階級を望んだり……もしくは、望む家系の血筋を婿や嫁に貰うことができるというほどの報酬。

 とはいえ、ここで品格も求められる。荒唐無稽だったり、下らない報酬はアクレージョの格を下げるので頼むことは出来ない。


(……ううむ)


 報酬なぁ……


(あの闇魔法で暗躍してる奴らが邪魔なんだよな……マジで)


 魔人とかいう謎の存在も厄介であれば、闇魔法の使い手達に魔導書を奪われている現状も面倒だ。

 このままだと、俺の望むエンドに辿り着く前に国が大変なことになりそうな気配がする。


(というか、レイカ様がクーデターを起こすとしてもだよ)


 ここで王になりたい! なんて言いながらクーデターを起こしてもそれどころじゃないし、何なら便乗して魔人とかが襲ってきたら台無しだ。

 俺の望みはレイカ様として己の矜持を全うしながら死ぬ。闇魔法に抵抗して自分を貫いたりとか、上を目指して敗北の末に死ぬとかそういうエンドがレイカ様としてのエンドだ。


(……つまり、騒動に関わる立場にいればいいのか?)


 ここらへんである程度自分のスタンスをはっきりさせつつ、騒動の火種になる……別にここで断られてもいいのだ。

 王になるためという口実で暗躍してる闇魔法の奴らをぶっ倒して手土産に、そこでうっかり闇魔法に飲み込まれて王になるために騒動を起こしヒカリちゃんと一騎打ち……そして負けて、矜持を通すためにデッドエンドを迎える……

 これだ!


「決めたわ」

「ああ。どんな要求だろうか?」


 ……流石にレイカ様でも、覚悟がいるな。この要求。

 そして、息を吐いて言う。


「……私も王選に参加させなさい」


 ……その衝撃の一言で場は騒然となるのだった。

たぶん次の話で学園騒動編が終わるので初投稿です(見通しの甘さ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかここまでぎりぎりとは思わなかったです、レイカさんがよく勝てましたね! 恋話は意外に大きいですw レイカさん、格好いいけど、いつも物凄いことを思い付きますね。
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