学園と選挙の終わりと
『……ありがとうございました! シルヴィア様の素晴らしい演説と、今までに見たことのない表情に心動かされたことでしょう! さあ、最後の演説は……今年の剣舞会優勝者であり誰もが認める実力者! レイカ・アクレージョ様です! この剣聖徒も負けるつもりはないという言葉には誰もが惹きつけられる何かがあります! さあ、それでは願いします!』
そして壇上に立ち、生徒達がレイカ様を見る。
……さて、レイカ・アクレージョという人間をアピールするためにどうするかを考えていた。
言葉を重ねるよりも実力で見せるのがレイカ様なのだが……こういう状況ではレイカ様はどうするかをシュミレートしてきた。そして、自分なりの答えはでた。
「レイカ・アクレージョよ」
最初はシンプルな挨拶。レイカ様を知っている人間は不思議そうな表情をしている。
レイカ様にしてはおとなしいスタートだからだろう。過激な発言とか飛んでくると思ったのだろうが……少し趣向を変えている。
「……ここにいる貴族なら、私の父が亡くなっているのは知っているでしょう? アクレージョ家を盛り上げて、すぐに病気で死んでしまったわ。そして、私が当主を引き継いだ」
これに関しては意外と有名だ。なにせ、陰謀論とか他国のスパイ説みたいな噂で盛り上がったからな。
そのくらいイケイケの貴族の突然の死は衝撃的だったのだ。
「短い時間でも、父は私に様々なことを教えてくれたわ……その中で私が一番覚えているのは、貴族としての在り方。そして、勝ち上がるということ」
この父の発言に関してはレイカ様としての記憶で覚えている。
ゲームでは描写されなかった父親は、優しく時には厳しいとても良い父親だった。そして、何よりも優秀な貴族だった。レイカ様としての記憶でここまで鮮明に覚えているのは、本当に尊敬して、大好きな父親だったのだろう……レイカ様ファンとしては複雑な気持ちだけどさ!
「父が亡くなってからも、私はその父の言葉を信じてここまで走ってきたわ。父は病気に負けた……なら、その父の代わりに私が誰にも負けないと誓った」
そして学生たちの顔を見渡す。
感動的なスピーチ……なんかじゃない。俺はレイカ・アクレージョなのだ。
「――貴方達は諦めてるのでしょう? 始祖魔法を持つ才能に勝てないなんて自分を慰めて、最初から勝負をしていない」
その言葉に、ザワザワと声が上がる。まあ、急にそんな煽る発言をされたらざわつくだろう。
それに、始祖魔法というのは一種のステータスだ。この国における重要な力であり、始祖魔法を使えるというだけで貴族の位は高くなる。だからこそ、始祖魔法の使い手を自分の血筋にどの貴族も入れようとするしそこから外れた貴族は上に登ることを諦めることも多い。
「始祖魔法を使える貴族は確かに才能があって優秀な人間だわ。でも、最初から勝つつもりもない貴族が多すぎるのよ。私は始祖魔法なんて使えないけども、私は始祖魔法を使う貴族に勝ち続けてきた」
この演説はなんてことはない。レイカ様クーデターにも繋がるような……この国の始祖魔法を持つ血筋こそが最も優れているという常識に反発することだ。
当然ながら、応援している人間が減るかもしれないが……それ以上の効果があると思っている。そして当然ながら観客から反論の声が上がる。
「そんなの、アクレージョ様が優秀だからだろ! やっぱり才能じゃないか!」
「そうね。私は優秀で才能がある。それは事実よ……なら、私と同じ才能があれば貴方は諦めなかったのかしら? 始祖魔法の使い手と勝負をして勝とうなんて思えたのかしら?」
「そっ、それは……」
誰かの声は言葉に詰まる。当然だろう。
勝とうではない。始祖魔法を使える血筋と縁をつなぐ。それが貴族としての在り方の一つだからだ。そういう意味だと、ゲーム時点から反骨精神の塊のレイカ様は凄いな!
「成り上がりの始祖魔法も関係ない血筋。だというのに、こうして剣舞会を勝ち上がり、そして剣聖徒という場に立っている。才能があっても誰だって辿り着けるわけではないことは理解してるわ。そして、私がここに居ることに幸運が重なったのも事実よ。それでも、ここに来れたのは私が上を目指して勝とうとしたから」
そして、もう一度生徒を見渡す。真剣に聞いている彼らに向けて言う。
「――貴方達に夢を見させてあげるわ。始祖魔法なんて関係はない。血筋でも才能でもない。意思があれば、どこまでだって上を目指せる。そんな夢を」
劇薬のような言葉だが、それでも思うだろう。
剣聖徒になった生徒はいつだって始祖魔法の使い手だ。剣舞会だって、上位に行けても優勝するのはいつだって始祖魔法の血筋の人間だ。でも、レイカ・アクレージョはそんな物を乗り越えるんじゃないかと。
もしかしたら、自分だって……あの人のようになれるんじゃないかと。
「ここだけの言葉のつもりはないわ。剣聖徒になるのは通過点よ。だから、私に投票をしなさい」
レイカ様の言葉に飲まれた生徒達に言い聞かせるように宣言する。
「今まで、誰も見たことのない景色を見せてあげるわ」
その一言を言い残して壇上を降りる。
最初は沈黙……そして、ゆっくりとまばらな拍手が起きる。刺激の強い演説だったから当然だろう。
「……すごい演説だったよ。僕ですら飲まれかけた」
「そう、なら十分ね。あとは結果を待つだけね」
シルヴィアくんにそう言われたのなら、十分だろう。
後は座して結果を待つだけだ。
『……はっ、し、失礼しました……何というアクレージョ様らしい演説だったのでしょう……それは、不遜とも言える演説でした。過去に始祖魔法によって成り立ち、今日まで来たクラウン国……その伝統に対して喧嘩を売るような言葉です……しかし、それでも我々は否定は出来ません! なぜなら、彼女は結果を! そして、何よりもその実力を見せてきてくれました! 彼女が、どこまで行くのか……どんな景色を見せてくれるのか! はっきり言えば私も興味はあります! さあ、それでは投票の時間となります! それではお手持ちの票をどうぞ!』
そして投票が始まる。
長かったような短かったような剣聖徒……それも、ここで終わりだ。
『さあ、投票が終わりました!』
しばらく待っていて、あっさりと投票自体は終わる。
まあ、それも当然だろう。スムーズなものだし、ここであんまり時間がかかることはないからなぁ。開票とかすぐに終わるんじゃないかな……
『……さて、終わりましたのでここで解説を呼んでおります! それはホーク・セイドー様です!』
『どうも。ホーク・セイドーです』
「……セイドー?」
思わず声に出た。
えっ、何してるんだあいつ。さらっと実況の隣に座って解説を始めていた。
『さて、投票結果ですが……どうなると思いますか?』
『そうですね。カーマセさんが辞退をしたことで随分と票が浮きました。シルヴィアさんはとても人気がある生徒ですからね。少なくとも、四割の生徒は投票するであろうとは見込んでいます』
『四割ですか……それでは、いかにしてアクレージョ様が残りの票を奪えるかということですね』
『そうなりますね』
めっちゃ楽しそうに解説をしているホークくん。いや、いいんだけどね……十分役には立ってたし。
でも、わざわざ解説する必要はあるのか……?
『さて、開票が始まりました! 投票された票は集計をされて、この日のために用意された掲示板に表示されます。これは魔道具玩具店さんによって開発された新しい魔道具だそうです』
『はい。魔道具でいろいろな玩具を作っているんですよ。もしも興味があれば、魔道具玩具店を一度ご覧ください。もしも支持する声が多ければ学園にも支店を出そうと思います』
……なるほど、商売をしてるだけか。
王様になるのが目標だとしても、まあそれとこれとは別だからな……あと、ホークくんはそういうのが好きな奴である。ゲームでも、お金とかアイテム販売に関わるイベントが多かったし。
集計された票がカウントされて、掲示板に表示された数字が変わっていく。
『さあ、全生徒525票となりますが……現在は100票がアクレージョ様、150票がシルヴィア様となっております!』
『約半分くらいの票が開封されましたがシルヴィアさんが優勢ですね。とはいえ、アクレージョさんも十分に食らいついてます。事前の調査だと、6割はシルヴィアさんに投票すると答えていたのでここでこのラインなら十分勝機はありますね』
『さて、更に開封され……おお、徐々にアクレージョ様が追いついてきています!現在はアクレージョ様が200票、そして、シルヴィア様が225票!』
『そうですね。先程の演説の効果もあるんでしょう。刺激は強いですが……それだけ魅力がある。アクレージョさんがどういった光景を見せてくれるのか気になるのでしょう』
ここまで来て祈ったりはしない。俺が祈るならレイカ様だけだからな。
ふと投票結果を見ている生徒を見ると祈るように目を瞑っている女子生徒が結構見える……どうしたんだ?
『さて、ついに並びました! 260票でシルヴィア様とレイカ様が同数です! 残り、5票! これが運命の別れです!』
『ここまで切迫するとは……とはいえ、偏らなかったのは演説が拮抗していたからですね。どちらも素晴らしいですが、過激すぎるアクレージョさんとイメージと変わってしまうシルヴィアさんの演説。票を入れる生徒達も相当に悩んだのでしょうね』
同時に開封され……なんと、2票ずつ。つまり残り1票だけになる。
『こんなことがあるのでしょうか!? 262票で並びました! 最後の一票が勝者を決めます!』
『……これは凄い……とはいえ、分析はできます……しかし、最後の票が見えてからにしましょう』
分析ということは……何か知ってるのか? ホークくん。いや、それよりも投票を待つしかない。
そして、最後の票が開封され……
『……書かれていた名前はレイカ・アクレージョ様! レイカ・アクレージョ様です! ここに、アクレージョ様が剣聖徒へ選ばれました!』
『おめでとうございます』
「……おめでとう。アクレージョさん」
「そう、勝ったのね」
シルヴィアくんは、どこか爽やかに笑みを浮かべて称賛してくれる。
……無事、シルヴィアくんとの勝負を下して……俺は剣聖徒となることが出来たのだった。
後少しで学園闘争編が一区切りなので初投稿です
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もっと沢山の人に楽しんでもらえるように今後も精進して初投稿していきます!




