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学園と陰謀と苦戦と

 さて、休みが明けた。昨日はレベリングなどの悩みに対する答えが出たので、スッキリとした気分だ。

 授業も終わり、レイカ様用に開けられている控え室へと足を向ける。その道中の廊下で、生徒達の噂話が聞こえてくる。


「新聞、見た? やっぱりアクレージョ様が……」

「シルヴィア様の擁立者のキシドー様が、あそこまで褒めている方なら……」

「俺はやっぱりシルヴィア様かなー」

「私は最初からアクレージョ様を応援していましたわ!」

「あの視線いいですわよね……」


 聞こえてくる噂話にも好意的な意見が増えている。というか、毎回思うんだけどレイカ様に対して明らかに趣味が偏った意見が散見されるのはなんだ。ちょっと怖いよ。

 そして教室に入ると、得意げな表情をしているホークくん。うん、ちょっとムカつくな……とはいえ、結果を出しているので文句は言えないが。


「どうですか、アクレージョさん。いい結果が出ているでしょう?」

「そうね。でも、数字に出ているのかしら?」

「ええ、アンケートを取りましたが……シルヴィアさんが6割、レイカさんが3割、カーマセさんが1割。随分と票が動いたでしょう?」

「……そうね、素直に驚いたわ」


 1割もシルヴィアくんから奪い取れたのか! という驚きがくる。

 確かに効果のある戦略だとは思うが、そこまで結果が出てくるとは思わなかった。大抵はもっと小さい振れ幅になるだろうが……流石は購読率の高い新聞。効果覿面のようだ。


「大きいのはキシドーさんからの意見と、オウドーさんがアクレージョについて持ち上げていたことが大きいですね。擁立者というのは、支持層にも関わります。擁立者であるオウドーが認めるアクレージョというのは、意見を変えるには十分すぎる結果でしたね」

「そうね。でも、まだよ。シルヴィアから2割を奪い取らなければ勝ち目はないわ」

「そうですね……とはいえ、シルヴィアさんはここから苦しい戦いになりますからね。追う側としては、勝ち目は十分にあります。」


 その強気な言葉に、こちらも余裕が出てくる。

 たしかに、元々ある票を奪い取るという方が楽だろう。このまま攻める手を休めなければ、きっと勝利は容易い。


「それで、次はどうするつもりかしら?」

「そうですね。戦略としては噂話を利用した戦略なども考えていて……おや?」


 ふと外を見るホークくん。自分も視線を向けると、声をかけた生徒に笑顔で握手をしているシルヴィアくんだった。

 そしてシルヴィアくんもこちらに気づいた。そして、余裕を浮かべた笑みを浮かべる……まるで、この程度ではまだ勝てないと挑発しているようだ。そして、そのまま学園事務室の方向へ歩いていく。見送って呟く。


「……気に入らないわね。あの笑み」

「確かに気になりますね……とはいえ、あまり不当な手段は来ないでしょう。ダーティーな手段でも使わないと難しいでしょうが、シルヴィアさんはそういう手段は好まないでしょうからね」

「そうね……でも油断はできないわ」


 原作をやっているからこそわかる。シルヴィアくんはここで終わるような人間ではない。プリンセス・ブレイドの顔とも言える完璧超人王子様がここであっさり勝たせてくれるわけがない。

 次の手を考えながら、シルヴィアくんが何をしてくるのか……それが分からず、不穏な空気は消えないのだった。



 そして次の日の放課後。

 控え室に入るとそこでは難しい顔をしたホークくん、浮かない顔のヒカリちゃん。いつもと変わらないツルギくんがいた。

 あの表情を見るに……やはりシルヴィアくん側からの仕掛けが合ったのか? そしてホークくんは入ってきたレイカ様に気づく。


「ああ、アクレージョさん……やられましたよ」

「どういう手段で来たのかしら?」


 その質問に、申し訳ないと頭を下げる。


「これはあまり考えていませんでした。シルヴィアさんはあまり搦手は使わないと思っていましたが……こういう方向で攻めてくるとは」


 そして、見せるのはクラウン新聞……ん? いや、違うな。


「これは?」

「えっと、それは校内新聞ですね。最近出来たんですよ。クラウン新聞は週に一度なので、他にも読める新聞がほしいという事で同級生の人が上級生も巻き込んで作っているんです。読んでる人がいっぱいいるんですよ」


 ヒカリちゃんの説明を聞いて納得する。確かに、内容を見ると学内に関する情報がメインだ。無料で配布されていて、誰にでも楽しめるらしい。

 そして、その内容は……


「……コザ・カーマセを褒めるような内容ね……掲示板についても触れてるわね」

「ええ、僕の掲示板を利用されましたね」


 内容を確認してみると……なるほど、少し前から学校側と交渉が成立して掲示板クエストが正式に認められたらしい。報酬としては単位や内申に加点をしたり、学内の備品の貸し出しなどの報酬を選べるそうだ。

 そして、その学園掲示板について答えているのが……


「セイドーではなく、カーマセが答えているのね」

「はい。というよりも、現状で彼が最も掲示板依頼の達成に貢献しているんですよ。報酬ではなくて、学園のためということで。報酬で釣り合いが取れないような依頼、中々達成されない依頼を優先的に片付けて助かっている人が多いという事で評価されています」

「カーマセさんが、最近学内でよく忙しそうに走り回っているのをよく見てますから他の子も噂してます。カーマセさん、有名な人ですから」

「……それがどう繋がるのかしら?」


 確かにカーマセがしていることは偉いとは思うが……シルヴィアくんに繋がるのか?


「どうやら、調べたところによるとシルヴィアさんから新聞を作っている生徒に「カーマセくんがこういう事をしているよ」と情報を渡してインタビューをするように仕向けたようなんです。学内新聞もクラウン新聞も中立なので、賄賂などの効果はありません。ですが、善意の情報提供なら断ることはしないんですよ」

「それで、シルヴィアの票でも増えたの?」

「いいえ。シルヴィアさんの票はむしろ減少傾向ですが……カーマセさんが無視できない上昇傾向があります。現状、シルヴィアさんとカーマセさんで票が二分されていますね」


 その言葉に、理解して納得した。

 ……そうきたかぁ!


「……なるほど。動かせる票をカーマセに動かしているのね」

「ええ。シルヴィアさんが今になって何か行動を起こしても票はそう動きません。シルヴィアさんという人間は完璧すぎるんですよ。優秀で100点に近い人間だからこそ、票を入れる人間は減点方式で判断します。ここから票を奪い取ることは難しい……ならば、敵の敵を使えばいい」


 シルヴィアくんのそれは上手い手段だ。なにせ、レイカ様側から対策がしづらい。

 例えばの話、今からシルヴィアくんがボランティアをしても今までの彼から考えればそれは『当然』なのだ。むしろ、突拍子のない善行は票稼ぎに見られて評判を下げる。特にアクレージョなどに流れた人間からは行動はそう感じられやすいだろう。

 しかし、カーマセという期待していない生徒の行動は評価される。そしてホークくんは更に続ける。


「元々、票が流れてきた層は票が動きやすい層です。こういう新聞などの媒体を利用すれば、意見がころっと変わってもおかしくない。好意的な意見もあり、彼の活動はあくまでも剣聖徒に関係ない、善意の行動だったのが効果的でしたね」

「……善意の行動?」

「ええ。掲示板依頼は何度か言いましたが報酬が設定されています。当然、苦労に対して報酬の見合わない依頼や面倒なので解決されない依頼があります。彼はそういう依頼を見つけては達成していたようで……カーマセさんは言動こそは突飛な部分はありますが、善良で他人のことを考えている人間ですからね」


 そうなのか……カーマセくん、いい子なんだ……あまり知らなかったから思い入れはなかったが、そういうのを聞くとちょっと感情移入しちゃう。

 シルヴィアくんも、カーマセくんのこういう行動などをよく見ていたからこそ気づいたのだろう。そういう強みはレイカ様になくて、シルヴィアくんにある強さだ。


「カーマセさんは人格的に優れていますし、座学の成績も優秀です。だからこそ、優秀ではありますが苛烈な部分や厳しさのあるアクレージョさんを評価しない層が流れるんですね。そして、その2人に対抗するシルヴィアさんには、今まで築き上げてきた信用と実績があります。おそらく、4割程度の生徒は間違いなくシルヴィアさんに確実に投票するでしょう。だから、今後はシルヴィアさんとカーマセさんからどうやって票を奪い守るのかを考えないといけません」

「……苦しくなってきたわね」

「ええ。下手な人気取りをしてもアクレージョさんは評価されませんでしょうし……ううむ」


 ううむ、凄い手を使ってくるなシルヴィアくん……軍師はいないはずだし、一人で行動しているはずなので優秀さが際立っている。まあ、ゲームに比べれば平和的なのでそこは安心だ。

 ゲームだと直接賄賂を贈って買収する。他の候補の悪評を流して票を下げさせる。そういえば、あえてダンジョンに誘って戦闘不能にすることで不戦勝にする手段とかあった覚えが……プレイヤーが一番の外道かもしれない。


「難しいわね。ヒカリ、ツルギ。何かある?」

「え、えっと……レイカさんとお話をできる場を設けて……」

「却下」


 多分、普通に票に繋がらないしなんなら票が減る可能性も高い。それで狂信者が増えるんでしょ? やだよ。


「ふむ……実力を見せるというのはどうだ?」

「面白い意見だけども……場がないわね」


 剣舞会を直接見てない生徒に、実力を披露して見るのは面白い。強さに憧れる生徒は多いから票にも繋がるだろう。

 しかし、その見せるための場が用意出来なければ意味はない。


「私が対抗して掲示板依頼をする……いえ、ないわね」

「そうですね。カーマセさんの掲示板依頼に関しては、カーマセという人間だから効果がありましたから。突然アクレージョさんが掲示板で依頼を初めて、他の生徒のために頑張っているって言ったらどう思いますか?」

「気味が悪いわね」


 というか、レイカ様はそんなことしねーよ! ってキレると思う。

 難しい。さっきのシルヴィアくんに対する話に近いものがあるが、イメージというものを崩すと逆に票が減る可能性も高い。そして、相手が相手なので獲得に繋がらない可能性の方が高いのだ。


「昨日まで相談した作戦はシルヴィアから票を奪う方法だったけども……カーマセに票を奪われると結局は一人勝ちされてしまうから、そっちの対策も必要ね」

「そうですね……残り三日以内で票を動かす方法を考えないと」


 そして全員で意見を出し合ってみる。効果的な手段を考えないといけないのだが、すぐに方法は思い浮かばず解散となった。

 帰りながらもずっと頭を悩ませる。票に繋がる方法……方法……

 ここで何か事件でもあれば良いんだけどなぁ……

お酒を飲みすぎたせいでめっちゃ遅れたので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[一言] すみません、書き間違った。自分を曲げないこそレイカさんだと言いたいです。 でも冷た過ぎると人気が足りず勝機が薄くなるですから難しい所だと思います。
[良い点] シルヴィアさん、まさかここまで完璧な人間ですか!?レイカさんのスペックを持ってしても対抗出来ないの感じですね。。。 カーマセさんの票を利用するか、反則ではないの上、相当巧い手段だと思います…
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