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休日と傭兵と闇の魔導書と

 さて、ホークくんにしてやられた翌日。

 学校が休みの日に出来ることはない。まあ、出来ないこともないが……レイカ様が他の貴族に賄賂を送ったり、応援を求めるのは解釈違いなのでしない。

 なので、珍しく報告があると連絡をとってきた傭兵団の団長と会談をしている。いつもどおりの胡散臭い笑顔を浮かべている。


「それで? そちらから連絡を取ってきた理由は?」

「ええ。当主様に聞きたいんですが……良い報告と悪い報告があるんでさ。どっちから聞きますかね?」

「あら、洒落た質問ね。良い報告から聞かせてくれるかしら?」


 ……おお、カッコいい質問だなぁ! そういうのはとっても好きなので内心でテンションはとんでもなく上がっている。

 でも、悪い報告か。一体どんな報告だ?


「了解でさ。まず、当主さんが求めていた闇魔法の魔道書についてなんですが……教国ってのは知ってますかい?」

「教国……ええ、知っているわ。魔法の収集を目的としている国だったかしら」


 ゲームでも情報だけは出てきた国だな。

 とはいえ、ゲーム中ではクラウン国とクラウン学園以外の国と関わることはない。まあ、ゲーム的に他国まで絡ませるとボリュームがとんでもないことになるからだろう。なので、本当に教国について知っているのは名前と魔法を収集している国だということだけだ。


「ご存知でしたかい。まあ、魔法に関しちゃあの国以上に詳しい国はありませんからね。うちの傭兵団の使えるやつを数名潜り込ませました。そんで色々と調査をさせましたが……あの国に、魔道書があるってことが判明したんでさ」

「ああ、以前言っていた話ね」

「ええ。あの国じゃ、危険な魔道書などの管理をする関係上、国への入国も出国も相当厳しく管理されてるんでさ。そんで、魔道書の持ち出しは相当に気を使っている。もしも、違法に魔導書を持ち出したとバレたら……ま、見せしめも兼ねて関係者とその親族まで全員皆殺しでしょうねぇ」


 こわっ! ……とはいえ、確かに他の貴族からそういう国ではあると聞いたことがある。

 魔道書の中でも危険性が高いものやら、世間を混乱に陥れるような魔道書を保管し管理している。だからこそ、世界の魔法のバランスを保つために中立であり、公平のために厳しい態度を取り続けている国……みたいな話は聞いた。もしも知りたいなら、教国で魔法を覚えて帰る以外に方法はないとのことだ。


「でも、貴方達は持ってこれるのね?」

「蛇の道は蛇ってことでさ。うちみたいな裏の手段を使う傭兵なら、多少のツテはありますんでね。教国の保護だって完璧じゃない。バレずに持ち出される魔道書ってのは幾らかあるんでさ……とは言え、そうして持ち出された魔道書を使った奴らは大抵は使いこなせずに自滅してんですがね」

「そうでしょうね。実力に見合わない魔法は身を滅ぼすだけだもの」


 魔法は使いこなせれば便利だが、この前のツルギくんとの戦闘で使ったような自爆も出来る危険な物だ。セーフティーはあるが、あくまでも使う人間が意識的にしているだけである。

 なので、ブレーキの無い魔法を使って体中の魔力を完全に使い果たし死んだ人間や、制御出来ずに周囲を破壊し尽くして自分も巻き込んで死んだ人間のような実例もある。だからこそ、学園で魔法をちゃんと教えているんだけども。


「だから、見合う人間なら使えるわ。私のような」

「ええ、そりゃ信用してますぜ。アクレージョの当主様は恐ろしいくらいに強いお方だ。……とはいえ、ここから悪い報告になるんでさ」

「悪い報告というのは?」

「その、欲しがってる闇魔法の魔道書が盗み出されたという事でしてね」

「――盗み出された?」


 思わず動揺して立ち上がりそうになったのを、なんとかこらえる。

 よし、落ち着け……闇魔法の魔道書が盗み出されたというのは一体どういうことだ? ゲームだったらレイカ様が持っているはずだ。それが盗まれた? 原作に存在しない出来事で混乱してしまう。


「ええ。調べたら、闇魔法の魔道書は存在自体が国家機密として口止めされてるような物だったそうで。盗まれて初めて関係者の口から魔道書の存在とそれが盗み出された事が判明したとのことでさ。当主さん、聞きたいんですがね」

「……何かしら?」


 混乱しながら団長を見ると……レイカ様に向けて鋭い目を向けている。隠し事を見破ろうとする目だ。


「そんな闇魔法の魔道書のことをどこで知ったんで?」


 ――なるほど、傭兵団側から見れば他国の機密になっている魔道書の存在を知っていることは疑わしく感じるな!

 くう、原作知識がこういう仇になるとは……しかし、ちゃんと説明をするための準備はしている。いや、ここで使う予定じゃなかったんだけどさ……


「……闇魔法というのは、存在は知られていても詳しいことはどこにも書いていないわ。でも、私は魔法が存在する以上は、誰かが作った魔道書だって存在しているはず……そう推理したからこそ、貴方達のような人間を使ったのよ。与太話と切り捨てずに金で動いてくれる人材をね」

「ほう、それだけで? アクレージョという貴族のために動いてくれる優秀な奴らもいたでしょうに」

「いいえ、もう一つ理由があるわ」

「もう一つの理由……それを教えてもらっても?」

「ええ……アクレージョが王になる。そんな発言を聞いても裏切らない馬鹿が欲しかったのよ。頭の固い優等生ではなくて、馬鹿をしてくれる不良をね」


 まあ、コレは全部本音だ。というか、そんなに深いことは考えてなかったし。選んだ理由、最終的にこの報酬じゃ不足だって言って裏切るタイプのカッコいい展開をしたいから! だったもん。

 それを聞いてしばらく見つめ合い……団長は、笑みを見せる。


「……なるほど、安心しましたぜ。当主さんは嘘はついてないみたいでさ。いやあ、最悪の場合は別口に盗ませて俺たちを生贄にする……なんて可能性も考えてたんでね。その時にゃ、色々と考えてたんですがその必要はないようで何よりでさ!」

「そう、信用してもらえたのなら何よりだわ」


 怖いこと言うなー。しかし、ちゃんと向こうも信用してくれたらしい。まあ、腹芸してるわけじゃないからな。というか事実はもっとシンプルだし……

 というか、使い捨てにするつもりはないのにあらぬ疑いにちょっとドキドキした。いやー、ここで変な裏切りとか起きたら目も当てられないところだったなぁ。と、気になり聞いてみる。


「……しかし、盗み出されたのはいつの話かわかるかしら?」

「あー、一週間前くらいでしたかね? まあ、ブローカーの話によりゃ盗み出されたらしい日の二週間前から、裏の人間の間で普段見慣れない奴らがコソコソしてたらしくて。んで、盗み出されたらしい日から急に見えなくなったってことでそいつらが犯人じゃねえかって噂されてますぜ」

「あら? それが分かっているなら捕まえたり出来るんじゃないのかしら?」

「それが不思議なことに……顔を覚えてねえんですよ。誰も」


 ……顔を覚えてないか。それで思い当たることがあり、団長に話してみる。


「私が一週間前に事故で怪我をしていたのだけども……」

「おや、大丈夫で?」

「ええ、治ったから問題ないわ。学園の……まあ、貴方達にわかるように言えば魔獣の住む森に侵入者がいたの。取り逃したのだけども、それが一週間前の話。生憎、魔法で顔を認識させないようにしてたみたいで誰も覚えてないの」

「……おや、ちとそれは話が繋がりすぎてますぜ? 教国と、クラウン国で顔の見えない不審な奴らですかい」


 闇魔法の魔道書を盗んだ人間が動き出した時期。

 そして、魔獣の森で何かをしていた侵入者。ふむ……何やら陰謀の気配がする。というか、ふと思ったんだけど……


(もしかして……本編で伏せられてたラスボス化前のレイカ様……教国にいたんじゃ)


 予想なんだけど……教国で魔法について自主的に習得しようとレイカ様が向かっていたら、偶然逃げ出す怪しい奴らに遭遇。

 まあ、原作レイカ様なら普通に捉えたりぶっ倒すくらいは出来るだろう。描写されてないから予想でしかできないが……その時に、盗み出された闇の魔導書を偶然手に入れたんじゃ?

 それによって闇魔法を習得したレイカ様が、その力を持って帰国。そのまま闇魔法の力を使ってクーデター事件を起こす……っていうのが流れだったんじゃないか? 言っててそんな気がしてきた。


(ゲーム的に描写されてないだけで、そういう偶然で世界を揺るがすような企みが潰れてた可能性あるのか……マジで?)


 もしかして、レイカ様が国内から動けなかったことで知らない企みが現在進行系の可能性が……?

 い、いや。とりあえず考えないでおこう! というか今はキャパシティーオーバーだ。とりあえずは剣聖徒にならないと話が始まらないしな!


「……この話は一旦保留よ。それで、闇魔法の魔導書については無理ということでいいかしら?」

「ええ。元がなけりゃ模写もできねえってことでさ。その代わり、今も教国にはうちの使えるやつは残してんで……他の魔道書が欲しいなら頼めば持ってきますぜ?」

「そう……なら、後でリストにして渡すわ。可能なものは持ってきて」

「了解で。まあ、報酬は割り引いてくれてもいいですぜ? 闇の魔導書については持ってこれなかったんでね」

「いえ、割引はしないでおくわ。その代わり……その盗んだ何者かについて。調べなさい」


 見つけられるかどうかはわからないが……それでも、このまま放置することは出来ない。

 まあ、原作と違う展開を防ぐための問題もあるし……闇魔法の魔導書を手に入れられるかもしれないという理由もある。だが、何よりもだ……


「私の物を勝手に奪って、無事に帰すつもりはないわ。生きていることすら後悔させましょう」

「はは……なるほど、なんとも強欲な雇い主で。なら、こっちでもその下手人については調べて追っておきますぜ」

「ええ。頼んだわ」


 そう言って去っていく団長。

 ……しかし、闇魔法の習得はどんどん遅れていくか……このままだと、どうしても実力的に足りなくなるかもしれない。手に入らないパターンも考えておくか……


(闇魔法抜きで、闇魔法使ってるラスボスみたいな実力が必要になると……レベルが必要だなぁ)


 まあ、遅れてもアドリブでなんとかなる。ただ、クーデターというかヒカリちゃんとレイカ様のバトルは学生の間じゃないと無理だ。というか、王が決まっちゃう。

 なので、闇魔法が間に合わなかった時のことを考えて俺がやるべきは一つだ。


(……やるか! ボスとして立ちはだかるためのレベル上げ!)


 ……決めてから、悪役令嬢がする事なのかちょっと悩ましくなってくるのだった。

他国が出てきたけど、多分あんまり本筋には関わらないので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[一言] >やるか! ボスとして立ちはだかるためのレベル上げ! 居たなぁ。 裏ボスで、小さい頃からレベル上げしてて、カンストで闇属性な悪役令嬢。 書籍化までされた奴。 3巻まで発売されたけど、自分…
[良い点] ゲームのレイカさんも闇魔法に翻弄されたぽいですから、危険じゃないですか? あと、これアウトぽいですね。世界を揺るがす陰謀を潰し損なったぽいですから。 悪役令嬢として君臨するのは一筋縄には行…
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