学園で選挙の開始を
さて、ルドガーにお説教をされてグワングワンする頭を抑えながら休み……日が明けて、ホークくんと剣聖徒の選挙期間の作戦を立てた。
色々と戦略を立てながら内心で「うわ、性格悪いなこいつ」と思った。多分向こうもそう思ってる。そのままその日は一日を使い就寝。万全の体調に整えた。
……その翌日。剣聖徒選挙の開会式が始まる。
(さて、剣聖徒を決める戦いか)
朝の校舎。そこで剣聖徒を決める選挙の開会式が行われる。
候補者は参加している生徒の前で発表されて、一週間の選挙活動を行う。そして、最終日に全生徒は誰に投票するかを決めるのだ。一人一票。魔道具を使っての選挙なので不正は出来ず、複数票も出来ない。とはいえ、抜け道は色々とあるのだが……まあ、それはおいおい考えよう。
校庭には仮設のステージが用意される。まあ、ステージというか宣言をする壇だが。紹介をされた後に壇上へ上がって挨拶をすることになっている。
校庭に見に来た生徒が集まったのを確認し、近くの実況席でマイクが準備される。そこには見覚えのある生徒がマイクを握っていた。
『さあて、剣聖徒を決める選挙が始まりました! 今回の選挙期間で実況をするのは私、クラウン学園の実況放送担当ことマウジヤ! 剣舞会に引き続き今回も担当をさせていただきます! 前回の剣舞会記事のクラウン新聞は大好評でした! 今回の剣聖徒もクラウン新聞のうりあ……人気に貢献してくれることでしょう!』
おい、欲望ダダ漏れにするなよ。まあ、貴族とはいえ色々な家がある。彼のようにクラウン新聞と関わりの深い貴族もいるのだ。この国の貴族は戦うのが苦手であれば文化的な貢献なども重要視されるので、こういう活動もちゃんと評価される。
ちなみにクラウン新聞はちゃんと学校側に交渉して許可をとっているので、新聞社自体は学外の組織だが学内の行事によく関わるが問題はないのだ。そのせいで前回の市井で流行ったレイカ様は王子様という与太話だって合法だから止められない。どうして。
『さて、まずは候補者として立候補したのは……当然ながらこの人! 昨年の剣舞会優勝者であり、学園での人気は図りしれず! この人が名乗り出なければ剣聖徒を決める選挙は始まったとは言えないでしょう! クラウン学園の誇る王子と呼ばれているシルヴィア様です!』
その言葉に、壇上に上がるシルヴィアくん。
「お呼びに預かりました、シルヴィアです。すこし持ち上げられすぎて恥ずかしいですが……それでも、今回に関しては謙遜は致しません」
そういうシルヴィアくんに、開会式を見に来た生徒がどよめく。
シルヴィアくんは温和で物腰の柔らかい子で、対立などを避ける。だから、こうした場では謙遜をする事が多い。だが、今回はそれをしないという。
「今回の剣聖徒に関して言いましょう。過去にも様々なイベントがありました……僕は本音で言えば、参加したとしてもその名に相応しい方がいるなら譲ってもいい……そういう気持ちで挑んでいました。ですが――今回は僕こそが剣聖徒として相応しいと思って立候補をしています。ですので、応援をよろしくおねがいします」
そう言って一礼して壇上から降りる。シルヴィアくんの今まで築き上げてきた温和で穏やかなイメージを覆した、強い意志を感じられるスピーチ。
そのギャップなどに歓声と何故かちょっと悲鳴が聞こえた。ファンがかっこよさの許容量を超えたのかな?
『……ありがとうございました! いつもは穏やかなシルヴィア様でしたが、今回の剣聖徒に対する意気込みは気迫を感じるものでした。人によっては貴族として、その優しさが不安という話もありました。しかし、今のシルヴィア様には他人を引っ張る意思を感じます!』
司会も大絶賛だ。まあ、確かにこういう場を盛り上げるような生徒に対しては好意的になるよな。
『さあ、続きましては……今年の剣舞会優勝者! その実力は折り紙付き! 自他共に厳しく、ですが時には優しさをもって迎える学園の女王! 市井でも、アクレージョの名を言えばすぐに分かるほどに人気を誇っております! レイカ・アクレージョ様!』
おい、まて。市井ってあの与太話まだそんなに広まってるの? 問いただしたいが、そんな状況ではないので仕方なく壇上に上がる。
沢山の生徒がいる。目の前にいる生徒……いや、それ以上の生徒達にレイカ・アクレージョがこの学園の顔として相応しいと認めさせるわけか。武者震いがしてくる。なにせこれは……
「レイカ・アクレージョよ」
俺の行う、最高の推しプレゼン会場ってわけだ!
俺の手で、レイカ様を布教する。だから、俺は決してブレたりはしない。ここでレイカ様という存在の魅力を全生徒にぶつけてやろう!
「無駄な話をするつもりはないわ。剣舞会で頂点になった。だから、次は剣聖徒として学園の頂点を目指す。それだけよ」
ちょっとどよめく生徒たち。まあ、確かにここで好印象を与えて票につなげようというのが普通だろう。だが、俺の推しはそんなことをして魅力が伝わるわけがないのだ!
レイカ様という反骨精神とプライドの権化はここでこういう!
「私が相応しいと思うものは私に投票しなさい。私は結果で示す。それだけよ」
そう言って壇上から降りる。困惑の声と歓声が半々。歓声自体はシルヴィアくんよりもちょっと少ない。
ううむ……これは難しい戦いになりそうだ。だが、後悔はしていない。今後一週間の期間でどれだけ票に繋げられるかだろう。
『……なんと、とんでもないスピーチでした! かつて、この壇上にて笑顔を浮かべて様々な応援を求めるスピーチはありました! しかし、何という簡潔で力強いスピーチなのでしょうか! それは、圧倒的自信がなければ出来ません! 苛烈であり、そしてなによりも自他共に厳しいレイカ・アクレージョ様の個性が出たスピーチでした!』
そう言って司会はレイカ様の番を締める。
そしてこれで終わり……
『さて、最後の候補者となります!』
――ではないのだ、実は。コレに関しては俺も驚いた。なんでお前が!? となった。しかし、現実に出場しているので受け入れるしかない。
候補者はシルヴィアくんとレイカ様。そして……
『さあ、剣舞会でこそ一回戦でノセージョ様に負けましたが……学内でも人気の高い生徒! 今回の剣聖徒にも当然だろうと参加をしてきました! その実績も高く、胸に抱く自信は無限大! 学園のファッションリーダーにしてパトロンマスター! コザ・カーマセ様です!』
うん、剣舞会でヒカリちゃんに一回戦負けをしたカーマセなんだ。
というか、剣舞会でも謎だったけど……どうやって出場してるんだろう、カーマセ。
「さて、当然僕の顔は知っているとは思うけども……改めて自己紹介をしよう。僕がコザ・カーマセ。剣聖徒となって、カーマセの名を響かせる男さ!」
そして、演説が始まる。カーマセに関しては普通のスピーチだ。特に内容に興味はないので聞き流してつぶやく。
「……どういう経緯で立候補出来たのかしら?」
「おや、気になりますか?」
と、シルヴィアくんが話しかけてくる。普段と違って、好戦的な笑みだ。
敵情視察か、挑発か。どっちもあるのかもしれない。
「ええ。ヒカリに負けた相手としか覚えていなかったもの」
「……ああ、ノセージョさんですね。そうですね。カーマセくんは魔法や実技の実力は高くありません。ですが、文化的な貢献が大きいですからね。市井から貴族まで、カーマセ家の手掛けた商品は広く浸透しています。学園でも彼のファッションや芸術に対する造詣は素晴らしく、市井へのパトロン活動にも積極的ですからね。その活動が評価されているんですよ」
「……ああ、なるほど」
そういえば原作でもあったな。剣舞会などの出場資格はゲーム的な都合なのか、総合成績で判断される。なので、戦闘とか魔法に関係ないステータスとかを伸ばしてそれで無理やり枠を勝ち取る方法。
低レベルクリアとかで使われる手法だ。一回試してみたら地獄だった。多分あれをやる人間は狂ってると思う。しかし、カーマセはそういうタイプだったのか……原作だと描写されてなかったが納得だ。
「とはいえ、敵ではありませんが」
「あら、随分と強気ね」
「ええ。アクレージョさんにもカーマセくんにも負けると思ってすらいません。事実ですから」
ニコニコとした笑顔でそう告げるシルヴィアくん。ううむ、強者の余裕ってやつか。
決して言葉は多くないが、その目はきっと国外に追放してみせるという意思を感じる。その役目、本来ならレイカ様からヒカリちゃんに向けてるんだけどな。
「そう。後で泣き面を見るのが楽しみだわ」
「ははは、出来るといいですね」
……そこまで煽られて一矢報いねばレイカ様ファンの名が廃る。剣聖徒になって吠え面かかせてやろうじゃないか!
その誓いを胸に、剣聖徒選挙の開会式が終わるのだった。
さて、放課後に集合するのは特別に開放された教室。イベントの際に使わせてくれるのだ。
そこで集まったのはホークくん、ツルギくん、ヒカリちゃん。うん、頼りになるかわからないメンツだ。
「レイカさん! 演説かっこよかったです!」
「うむ。見事だった」
「世辞はいいわ。それで、セイドー。事前調査はどうかしら?」
二人の発言はバッサリと切り捨てて聞く。まあ、褒めてくれるのは嬉しいが今は選挙が優先だ。
「ええ。早朝に開会式に集まった生徒に取ったアンケートでは、人気はシルヴィアさんが7割。アクレージョさんが2割。カーマセさんが1割ですね。出席したのは半数程度ですが、投票にだけ来る生徒もいるのでまだ票は変わりそうです」
「……意外ね」
「そんなものですよ。元々シルヴィアさんの信用が根強い事が大きいですからね。アクレージョさんを認めていても、剣聖徒で誰に投票するか悩む人はシルヴィアさんに流れてます。優しく人格者で理想の生徒。今回の開会式で不安に思われていた他者を自分から引っ張るリーダーシップを見せたのも大きいでしょう。だからアクレージョさんの票が少ないのは……」
いや、そっちじゃなくて……
「カーマセの方よ。1割もいるのね」
「そうですね。彼は剣聖徒……というには少々器が足りません。ですが、一部の生徒に人気はありますし何より話題性がある。アクレージョ対シルヴィアという構図に乗りたくないような浮遊票が投票するので一定数は奪われますから」
「そう、理解したわ。それで、作戦は?」
先日の話し合いで幾つかの作戦は話し合っていた。
しかし、今回の事前調査によってその方法は変えるという事も決めていた。まあ、軍師に立候補したのでホークくんに任せるのもレイカ様っぽいなと思っての選択だ。
「そうですね。僕に秘策があります」
「秘策?」
「ええ。ある意味では予想通りの票差……ですので、この場合に想定していた作戦があるんですよ」
「……聞いていないのだけども?」
昨日話し合ったじゃん。掲示板クエストを利用した直接の好感度アップとか、貴族の弱みを生かした脅迫作戦とか、ヒカリちゃんを使った泣き落し作戦とか。
それだけ言い合って隠していたって犯罪行為じゃないよな?
「ええ。コレに関してはこちらで準備が必要だったので話し合いの戦略としては出せなかったんです。昨日、帰宅して約束を取り付けられたので使える作戦です」
「犯罪行為かしら?」
「いえ、合法です。とても平和的ですよ。はい」
「……まあ、信用するわ」
流石にここまで言うなら大丈夫だろう。弱みを見せるタイプじゃないし、こういう話は信用してもいい。
とはいえ、秘策と言ってから楽しそうな笑みを浮かべるホークくんにちょっとだけ不安を感じるのだった。
夜に虫がすごいので初投稿です
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