学園でバグキャラと対決
涼やかで、余裕を感じさせる顔立ち。
切れ長の冷静さを感じさせる瞳。
刀を持ち、髪を後ろで束ねているその姿はどこに出しても恥ずかしくない達人の侍に見える。
しかし、その正体は思い込みと天然ボケが悪魔合体したとんでもないおバカな子。それがツルギくんだ。
(そうだよ! 修行のための山ごもりで森にいるんだった! すっかり忘れてたよ! クイータ先生も、この事を言いたかったのか!)
そりゃ、自主的に今に至るまでずっと山に籠もって降りてこないヤツのことなんて意識から飛んでるよな!
とりあえず、なんとか平和的に解決しないか試してみる。
「……私はレイカ・アクレージョ。この国の――」
「問答無用」
「くうっ!?」
一閃。受け止める。マジで問答無用だな!? とんでもない速度の攻撃だが、なんとか受け止められる。
そのままギリギリと鍔迫り合い。レイカ様が魔力を込めた剣で受け止めてるのに、魔力を込めてない刀に押し負けてるってどういうことだよ!
「貴族、なのだけども! ……私に、見覚えは、ないの、かしら!」
「ない」
「そう!」
そうだよね! 君、ずっと山ごもりしてたもんね! そりゃ見覚えはないよな!
二年生になってすぐに山ごもりをした降りてくるまで学園の情報すら知らないから、新入生どころか同級生の顔も覚えてないもんな!
「レイカさん――」
「む」
突然、手元が軽くなる。
一瞬虚を突かれ気づいた時には遅かった。
「あっ、ぐ……」
「すまぬな。何をするか分からぬ故、排除させてもらった。」
一瞬で閃光のように翻した剣で峰打ちをして、ヒカリちゃんを一撃で昏倒させた。
武器がないとはいえ、ヒカリちゃんですら反応すら出来ず気絶させるとか、本当に人間か?
「武器を持たぬ者の命までは取らぬ。それに、情報を聞かねばならぬからな」
「……お優しいことね。私にも手加減をしてくれるかしら?」
「あいにく、お主は手加減をできる相手でもないのでな」
そう言って刀を構える。
くそ! ツルギくんから強敵認定されてしまった。レイカ様の実力を認められたことは嬉しい。しかし、ツルギくんが油断をしない本気で相手をされることになる。本気のときのツルギくんは、クイータ先生ですら勝てないっていうのに!
だが、ここまで来たら諦めるしかない。こちらも構えて、ツルギくんの情報を思い出しながらどうするか対策を考える。
(えっと、ツルギくんは……シンプルに強い! ゲームでも本当にそれしか言いようがないんだよ! 戦闘に関しては!)
色々と考えるが、全部ダメだ。
シンプルな強さには小技が意味をなさない。その攻撃を見切って、鋭い攻撃で一瞬で反撃してくる。
「……来ぬなら、こちらから行くぞ」
「くうっ!?」
言葉を発した瞬間、まるで魔法のように一瞬で距離をつめてきて一閃。直感でなんとか受け止める。
そのままとんでもない力で押し切ろうとしてくる。対抗するように魔力を込めて鍔迫り合いに持ち込む。
(瞬歩とか、盛りすぎだろ! 現実だと本当にツルギくんだけ別ゲーをやってるな!?)
本当にきつい。こうしてレイカ様に自分の一撃を防がれても動揺すらしない。そのまま冷静に刀を引いて次の攻撃につなげてくる。
「ふっ」
「く、ああ!」
受けて、引いて、また攻撃を受けて……くそ、手玉に取られている。決して愚直に打ち込んでくるわけではなく、引っ掛けるための刀でのフェイントも混ぜてくるのが嫌らしい。
こちらも対抗して魔法の牽制……いや、意味がない。ロウガくんとレイカ様の実力は多少は拮抗していた。だが、ツルギくんは格上であり、何よりも状態異常にも強く動揺をしない。牽制を打つ隙に一撃で負ける未来が見える。
(ああ、もうこうなれば……)
「舐めない、ことねっ!」
「……」
出し惜しみは無しだ。ロウガくんに対して使った魔力剣を発動。魔力を連続で大量に消費したことで、意識が持っていかれそうになるが歯を食いしばり気合で意識を引き止める。
魔力に込められた魔力に気づいたのか、攻撃の手を止めて一旦引くツルギくん。隙すら見せず、ここで一旦様子見をするのが本当にムカつくくらいに強い動きだ。
「あら、受けてくれていいのよ?」
「迂闊に刃を合わせれば折られるかもしれぬのでな」
「なら、今度はこちらから踊ってもらおうかしら!」
今度は反撃をする。剣を振り、反撃を許さないように連撃を続ける。
刀で受けれないと判断し、攻撃を見切って紙一重で躱しながらチャンスを見ているツルギくん。当たってくれるわけがないよな!
「躱すだけなら、話し合いをしてほしいのだけども!」
「あいにく、先程のように魔獣を仕向けられたくはないのでな」
「そう!」
クソ! ここまで話が通じないのは侵入者のせいかよ!
多分、魔獣を差し向ければ問題ないと思ったんだろうが……ツルギくん、一人で大型の魔獣を倒せるくらいぶっ壊れてるからな! そりゃ侵入してきた誰かもビビって逃げるだろうよ!
そして、攻撃を繰り返すが限界は来る。
「くっ……うっ」
「そこだ」
魔力を使い続けていることで、一瞬意識が落ちかける。
その瞬間に、刀による峰での一撃がやってくる。体に刀がめり込む苦痛で意識が覚醒した。
(まずっ!)
このままでは、確実に骨を砕かれて戦闘不能にされる。だから、とっさに魔力剣に込めている魔力を暴発させる。魔獣に使った魔法とは違う、本当に制御をしてない破れかぶれの方法だ。
「むぅ!」
「くっ、あああ!」
剣が魔力によって爆発する。
その衝撃に、レイカ様の体が吹き飛ばされる。近くの木に激突して止まる。なんとか、剣は離さなかった。
そのままヨロヨロと立ち上がる。ダメージは甚大だ。そして前を向けばツルギくんに殆どダメージはない。
「……見事。己が傷つくことすら厭わぬとはな」
「何が、見事よ……最悪の、一日だわ……」
そうぼやく。なにせ、こちらはボロボロだ。先程の一撃のせいで骨にヒビでも入ったのか、呼吸をするだけで痛みが走り立っているだけで苦痛だ。爆発で吹き飛ばされたせいで、制服も所々が破れているし、体は傷だらけ。レイカ様に申し訳が立たない。
更に最悪なことは重なる。剣を握り魔力を通す。まるで崩れそうな積み木を重ねているような、不安定でいつ壊れるかわからない感触。もう既に先程までのような魔力剣は使えないだろう。
もう限界寸前。ここで諦めて負けるほうがこれ以上怪我もせず賢いだろう。しかし……
「――お主は強敵だ。故に、斬らぬようするのは諦めよう」
(ああ、やっぱり手加減してたか)
その言葉を聞いて納得した。峰打ちでやっている以上、こちらを傷つけないように戦っているのではないかと思っていた。
だが、それを改めて口で言われると……
「……ああ、駄目だわ。腹立たしい」
レイカ様と俺の思考が完全に一致する。
当然だ。たとえ相手がどんな強くて恐ろしい相手だとしても……レイカ・アクレージョという人間は侮られることも、甘く見られることも許せない。
勝てないとしても、そのまま負けてやるだなんて……死んでも許せない。それが、レイカ・アクレージョだ。
「勝てないことも腹立たしいわ」
「そうであるか。なら、諦めて斬られるがよい」
「嫌よ。貴方に勝てない。それは認めるわ。でも、諦めるなんて死んでも嫌よ」
「そうか。なら、死ぬしかあるまい」
そう宣言をして刀を構える。今度は峰打ちなどを狙わない本気だ。
気迫が増す。場の空気が張り詰める。殺す覚悟を決めたツルギくんは、あまりにも恐ろしい。
だが、もはやそれで臆することはない。俺は剣舞会で、レイカ様に誓ったのだ。
(どうあろうとも、レイカ様に恥じないように生きる)
ここで死ぬことになろうとも、負けを認めて情けなく負けるなんてことは……レイカ様に対する裏切りでしかない。
だから、考えろ。必死に脳髄を回転させる。あの馬鹿野郎に、一撃を喰らわせる方法を。
だが、最高の手段なんて思いつかない。だから……最低の手段しかない。
(……ああ、クソ! これしかないか!)
レイカ様に心のなかで土下座をして謝罪する。
もしも失敗したら死んだ俺をもう一回自分の手でぶち殺してやる。そういう覚悟を決めた。
「――勝てないなら、一矢報いるまでよ」
「不可能でしかないな」
その言葉と共に、気づけば目の前にツルギくんの刀が目の前に迫っていた。
手加減もなにもない。斬ると決めたツルギくんの動きはここまで早いのか。そういう驚きと共に……
(見えたなら、いける!)
ここで反応すら出来ずに斬られたときが本当の敗北だった。
だから、不格好でもいいとその刀を大勢を崩しながらも回避。しかし、完全にバランスを崩したレイカ様はもう回避はできない。
だから、捨て鉢のように剣をツルギくんの顔へ向かって突き出す。体勢を崩した状態で放った突きをツルギくんが食らってくれるわけがなく、首を捻って回避した。ああ……
「さらばだ」
「貴方がね」
ニヤリと笑みを浮かべる。
無駄な動きをしないツルギくんなら、そうやってギリギリで回避してくれると信じていた!
「――まさか!」
ツルギくんは気づいたようだが、もう遅い。
壊れかけの剣に、コントロールも何も関係なく今出せる全力で魔力を込める。ガクンと意識が落ちるが……問題はない。
爆発音。そして、激痛で覚醒する。
「ぐうっ、ううううう!」
噛み殺しても漏れてくる悲鳴。
手を見ればぐしゃぐしゃだ。それも当然だろう。壊れかけの剣にありったけの魔力を込めて爆発させたのだ。当然ながら無事では済まないし、骨までイカれている。
だが……
「……これ、で……一矢……報いたわね……」
「……不覚……!」
ツルギくんを見れば、アゴから額に向けて、ザックリと切り裂かれて血を流していた。その傷は左目にも届いている。もう、あれでは見えていないだろう。
「……男前に……なったわね……」
そう言って笑うレイカ様に、ツルギくんは血を流しながらまっすぐに見る。
「――一歩間違えれば自死していただろう。そして、途中で意識を失えば不発だったろう。見事なり。そして、この傷は拙者の未熟……好敵手よ。敬意を持ち苦しまぬように斬ってやろう」
「……はぁ、悔しがり、なさいよ」
ああ、余裕たっぷりでムカつくな。左目を失ってんのに。
レイカ様は今にもぶっ倒れそうだ。なにせ、剣を持っていた右手がグシャグシャになっている。出血もひどいし、体中が爆発でボロボロだ。多分、このまま放置されても死ぬだろう。
ああ、クソ……こんな所でこんな終わり方をするのか……
(ああ、勝ちたかった……)
「さらば」
そして、剣が振り下ろされ……
「何をしている! この馬鹿者がぁ!」
怒号と共に、見覚えのある大男が弾丸のように飛んできた。
完全に意識をしてない方向からのドロップキックを食らって、ツルギくんはぶっ飛んでいく。
「アクレージョ様! すぐに治療を――」
「……遅い、わよ……」
もっと早く来てくれれよ。本当に……
そう思いながら、クイータ先生の顔を見て意識を失ってしまうのだった。
今日、手直しをしていたら2000文字くらいデータが吹っ飛んでしまい泣いたので初投稿です




