学園で主人公達と共闘を
魔獣が突進をしてくる。牽制のために魔法を打つが、大型というだけあり中型までなら吹き飛ばせる魔法でもビクともしない。
そしてヒカリちゃんに激突。しかし、ヒカリちゃんは魔力を注ぎ込んだ剣で防御している。しかし、当然ながら大型の魔獣の突撃を受けきるのは相当に消耗するので、苦しそうに顔を歪めている。
「くっ、うう……!」
「ノセージョ! そのまま耐えていろ! 俺が追撃する」
「う、うん!」
その宣言どおりに、カイトくんは魔獣の背中へと双剣を使った連撃で攻撃する。
しかし、弾かれて効果的な一撃にはなっていない。カイトくんの戦い方は硬い相手に対してはダメージが通りづらいので相性は悪い。
牽制は通らず、カイトくんの全力でも傷は与えられない。とはいえ、ヒカリちゃんはなんとか受け止められているようだ。
(……あれは高耐久なタイプの魔獣か。このメンバーで耐久型なのはわりと幸運だなぁ)
「ヒカリ、オウドー。回避して集合」
その言葉で2人は攻撃をやめて回避。そのままこちらへと集まる。
さて、俺は何をしていたのかというと……魔獣の観察だ。魔獣は大型から個体によって個性が出る。ゲームでも大型に関してはタイプが違うのでちゃんと見切らないと全滅するという事態に何度もなってしまった。
例えば攻撃が激しいタイプなら回復が必要とか、魔法を使ってくるヤツには対応できる王子様を連れてくるとか。
今回は防御力が高い耐久型の魔獣。このタイプの魔獣は一気に焼き切る火力がなければ延々と消耗させられて敗北する。
むやみな攻撃をしても、ダメージを与えるどころか魔力を奪われてどんどんと回復されて不利になる。普段出会うことはない大型だからこそ、その理不尽さが身にしみる。カイトくんは相性が悪いのだが、それでも勝機は十分にある。
「いいわ。大体は理解した」
「本当ですか!?」
ヒカリちゃんが驚く。まあ、大型なんて普通に生きているこの世界の人間なら出会うことなんてないだろうからな。レイカ様がきっと頼もしく見えるだろう。
「策もなしに見ている馬鹿だと思った? 今から勝つための指示をするわ」
先程までは消耗しないように、様子を見ろという指示だった。
しかし、ここからは反撃の時間となる。
「動きを変えるわ。オウドー、撹乱しなさい」
「了解だ!」
「ヒカリはオウドーの援護。一撃を重視しなさい」
「はい。分かりました!」
レイカ様の指示通りに、カイトくんは向かってきた魔獣の攻撃を避けていく。余裕を持ち安定した動きだ。
カイトくんは双剣を使った相手に反撃を許さずに叩き潰すような速攻タイプだが、実は敵の攻撃の回避も上手なのだ。これに関しては剣舞会というステージの問題でもある。
ゲームではダメージを無効化する回避盾みたいな運用もしていたことを思い出して指示をしてみたら、どうやら現実でも問題なく出来るようだ。
「カイトくん!」
「む、助かる!」
カイトくんが回避ができなくなりそうなタイミングで、ヒカリちゃんが一撃を入れる。カイトくんとは違って、ヒカリちゃんは無節操とも言えるくらいに様々な戦い方が出来る。頼んだらこっちの望む動きをしてくれるというのは本当に便利だな……
うまく回り始めるが、当然ながら決め手にはならない。多少のダメージで倒れるのなら魔獣がそこまで被害を及ぼすことはないのだ。このままでは疲労でジリ貧になっていくだろう。
(――だからこそ、レイカ様が重要になる)
ありったけの魔力を剣に込めながら魔法を形作っていく。
大量の魔力を、剣に丁寧に組み上げる作業はとんでもないほどに神経を使う。だからこそ、2人に陽動をしてもらっている。
(だけど……)
突然、グリンとこちらに向き直る魔獣。
そりゃそうだ。全力の魔力を使っているのだ。魔獣にとってご馳走が用意されたような気分だろう。
「ちっ、ヒカリ。そっちに全力で引き寄せて!」
「はい!」
こっちの指示に、ヒカリちゃんはとっさに大量の魔力を武器に込める。一瞬、意識を取られそうになるほどの量だ……というよりも、あれは剣舞会でロウガくんとの決勝で見せた魔力剣か。一応、あれも練習がいる魔法なんだけど……見るだけでコピーを出来るのは恐ろしすぎる。他のキャラ視点から見る主人公はぶっ壊れてるなぁ……
すぐに魔力に気を取られて意識をヒカリちゃんに向け捕食のための突撃。その攻撃を正面から受け止めるヒカリちゃん。やはり、ヒカリちゃんは魔力量が尋常じゃない。決勝戦の戦いでもそうだったが、ヒカリちゃんは技術こそ追いついていなかったが魔力がとんでもない。
レイカ様なら、疲労を感じる量を使ってもヒカリちゃんならちょっと息が上がる程度で済むだろう。
(だからゲームで大型魔獣を倒せてたのか。相性だな)
「そのまま受け止めていて。時間を作りなさい」
「分かりました!」
魔獣に知能がないわけではない。だが、サイズが大きくなるほどに体の維持に必要とする魔力が増えるのだ。そのため、大型の魔獣は常に飢えている。多少の魔力なら問題はないが、ヒカリちゃんほどの魔力には惹かれてしまうのだ。
(まあ、死にそうなくらい腹ペコな時に目の前に雑草とステーキがおいてあったら、分かっててもステーキに飛びつくみたいなもんだ)
ヒカリちゃんも先日とは違って落ち着いて対処しているようだ。
おそらく、レイカ様から指示を受けて動いていること。それに、中型の魔獣と一度相対したことが原因だろう。そのおかげで慌てることなく落ち着いて対処が出来ている。カイトくんは元から怖いもの知らずなのと、貴族であり戦闘訓練も昔から受けているから問題がないのである。
と、そこで焦った声が聞こえる。
「……くっ、ああっ! ごめん、なさい!」
バキンという音が聞こえる。おそらく、ヒカリちゃんの剣が折れたのだろう。そして、吹き飛ばされる音。
魔力剣は先程も言ったように繊細な魔法だ。ヒカリちゃんがここまで使えていた事自体がとんでもないが、それでも練習していない魔法に剣が耐えきれず壊れたのだ。
「甘い見通しだったわね……!」
まだ、準備はできていない。
仕方ない。失敗すれば食われてしまうだろうが、それでもやるしかない。そして構えようとして……眼の前に飛び出す影。
「オウドー!?」
「師匠! 時間を作る!」
そして攻撃を受けるカイトくん。
だが、カイトくんは攻撃を受けれるタイプの戦い方ではない。腕に魔獣が食いついて、カイトくんの魔力を捕食し始める。
「ぐああああああああ!」
肉が魔力で焼ける音。激痛と魔力を捕食される不快感で本来ならすぐにでも逃げ出したいだろう。
だというのに、カイトくんはそれでも受け続ける。レイカ様の時間を作るために。
「がっ、ああああ! ぐっ、まだ、まだぁ!」
「――悪いわね、助かったわ」
カイトくんを横から殴って弾き飛ばす。
こんなに長い時間魔力を食われてしまえば、このくらい強引にしなければもう動けないはずだ。だが、おかげで完成した。
「空腹なら、食べさせてあげるわ。お腹が弾ける程ね」
弾き飛ばしたことで喰らう物がなくなった魔獣口の中へ、魔力を込めた剣を突き刺した。
餌が飛び込んできたと理解した魔獣が齧ろうとした瞬間に、剣に圧縮して込めた魔力を開放。
「――爆炎撃」
押し込められていた魔力が一気に開放され拡がっていく。
突然、大量の魔力が腹の中で満たされた魔獣は体が大きく膨れあがる。だが、魔獣の体を維持する力の方が高く、まだ打ち崩すには至らない。魔力を捕食して生きている魔獣だからこそ、魔力を消化する機能も優れているのでこのまま一瞬で消化されるだろう。
だが、ここで終わりならこんなに時間はかからない。収まったように見えた瞬間に、この魔法の本領が発揮される。
(ここからさらに……魔力が爆発するんだよ)
ドクンと、魔獣の体が大きく躍動し始める。
圧縮された魔力は、火魔法という力で膨張する。収まったように見えた魔獣の体から爆発音と共に、更に剣から解放された魔力が膨れ上がっていく。
まるで水底から上がった泡が弾けるように体が膨れ上がり、そして体を維持する力を超えた。
魔獣の体から魔力が漏れ始める。
「いい仕事をしたわね。カイト」
そうつぶやいて、剣を引き抜いた。
その瞬間、轟音と共にレイカ様の目の前で魔獣の体が弾けとんだ。
死骸は爆発と共に拡がっていく。汚い花火を起こし、半分以上が弾け飛んだ魔獣は、ドロドロと残された部分が溶け出していく。
「高い食事代になったわね」
(……ふう、なんとかなった)
――魔獣も生物と同じで内部からの攻撃には弱い。だからこそ、最初からこの大型魔獣を倒すために内部から爆発させることを考えていた。
クイータ先生がいるなら、また違う戦法だったんだろうがヒカリちゃんもカイトくんも魔獣に対する一撃を持っていないからこその戦い方だった。やはり、まだまだ俺も実力が足りていないな……
「ヒカリ!」
「くっ……は、はい……!」
「カイトの腕をこれで直しなさい」
近くの茂みからよろよろと出てきたヒカリちゃんに、蝋燭を渡す。
その言葉にぶっ飛ばしたカイトくんへ駆け寄るヒカリちゃん。苦しそうな顔をしながら、荒い息を吐いている。
「ぐっ、がぁ……!」
「レイカさん、これって……」
「人間の体も汚染されるわ。早く浄化しないと手遅れになるわ」
カイトくんの魔獣を受け止め食われていた腕は、真っ黒になっている。このまま放置すれば侵食され死に至ることもある。
蝋燭の火でカイトくんを照らすと、少しづつ汚染が引いていく。
……苦しそうだったカイトくんの表情も和らいで、呼吸が落ち着いてくる。
「……うぅ、師匠……」
「あまり喋らない方が良いけど、何かしら?」
カイトくんは少しまだ苦痛を感じているようだが、こちらに目を向ける。
「先程……カイトって呼んで……」
「……求めただけの仕事をしたのだから、認めるのは当然でしょう」
「ふ……ふふふ……やった……これで……」
「弟子じゃないわよ。くだらないことを言ってないで寝ていなさい」
その返事にちょっと残念そうな表情を浮かべて、眠るカイトくん。……うん、ブレないね君も。
とはいえ、カイトくんは魔力と体力の消耗くらいだろう。後遺症もないようだから一安心だ。
「ヒカリ、体調は?」
「大丈夫です……ただ、剣が壊れてしまって……」
「なら問題はないわね。体を休めておきなさい。クイータは……まだみたいね」
まあ、逃亡した侵入者は魔法で身元を隠していたし……一筋縄では捕まえられないだろうな。
とりあえず時間はあるだろう……それまでは考えないようにしていた、飛び散らせた魔獣の死骸の浄化という地味な作業を……
「……っ!?」
「えっ!?」
とっさに気づいて、ヒカリちゃんに向かって振り下ろされた一閃を受け止める。
一体何が……あっ!!
とんでもないことを! 思い出した!
「ほう――」
その男は、受け止められた刀を引く。
そう、剣ではなくこの国ではほとんど使う人間のいない刀……そうだ。忘れていた。
「なるほど、仲間が怪我をしているのか……追う手間が省けた」
この森には、修行をしている最後の王候補がいたんだった。
それも、その強さは超一流……というか、ゲーム中でも最終完成形になったヒカリちゃんですら勝てないかもしれないレベルのバグキャラ。
「忘れてたわね……貴方がいた事を」
「あいにく、拷問で口を割らせるのは得手ではないのでな……苦しい思いをしたくなければ素直に吐くといい侵入者よ」
「侵入者というのが勘違いなのだけども」
「認めぬか。ならば仕方あるまい」
そして……とんでもないバカ野郎!
「名乗らせてもらおう。拙者はツルギ。さあ、覚悟するがいい」
ある意味では魔獣以上に危険なボス戦が突然始まるのだった。
雨と湿気でしっとりしているので初投稿です




