学園で魔獣と対決する
さて、中型の魔獣の登場に混乱しているヒカリちゃんを守るように魔力を剣に纏わせる。
魔獣は首を動かしながら、獲物がどこに行ったのかを探しているようだ。
「ヒカリ、動かないで。魔力も消しなさい。魔獣は魔力の強い生き物を優先的に狙うわ」
「は、はい! 分かりました! ……で、でも、レイカさんは……」
「あら、こんな獣に負けるとでも?」
ニヤリとヒカリちゃんに笑みを向ける。
当然ながら、魔獣というのは恐ろしい敵だ。だが、レイカ様が負けるはずがない。なにせ、ロウガくんに勝ったし最終的には主人公陣営全員を敵に回して戦うのだからな! こんなところで負けるわけがない!
「あっ! レイカさん――」
と、視線をヒカリちゃんに向けた瞬間。魔獣は弾丸のように真っ直ぐに恐ろしい速度で大きな口を開け、レイカ様を喰らおうと突撃してくる。だが、当然ながら来ることは分かっていた。
その口を剣に魔法を纏わせて直接受け止める。しかし、簡単に切り裂けた小型の魔獣と違って、ガチンと金属同士でぶつけたような硬い音がする。ギリギリと鍔迫り合いをしてお互いの動きが止まる。
「あら、硬いのね」
驚いていると、ガリガリと口を動かして剣を削り取るように……あ、いや。これ剣に纏わせている魔力をそぎ取って食べてるのか。徐々に腕に重みを感じる。
落ち着いて、剣を引いて冷静に魔獣の体勢を崩させる。そのまま追撃といきたいのだが……地面に落下したらグニャリとスライムみたいに体が波打って魔獣はこちらを向いていた。
(うわー、現実で見ると本当に気持ち悪いな……)
ゲームだとRPGだったし、3Dモデルではなく2Dモデルなので実感はしなかったが……現実の魔獣はとんでもなく気持ち悪くて戦いにくいな。ヘドロが意思を持って襲いかかってきてるみたいな感じだから、生理的嫌悪感がある。
というのも、魔獣というのは魔力で出来てる生物だ。骨もなければ内臓も存在しない。
見た目が獣みたいなのは、あくまでも体を維持するためらしい。まず生物ですらないのだ。生物とは違うルールで生きている生物なので、慣れていなければ本当に対処できない。まず、コイツらはノーモーションで動くおまけに魔力を介さないと武器がすり抜ける。初見殺しすぎる。
(このサイズの魔獣は流石に初めて戦うんだよな……柔らかいのに硬いっていうのも不気味だなぁ)
何度か小型の魔獣は討伐した経験はあるし、個人的な事情で魔獣を退治したこともある。
しかし、目の前にいる魔獣のサイズは今まで見た中で一番大きい。さっきのは兎程度の大きさの魔獣だったが、目の前の魔獣は熊をベースにしているのだろう。サイズもそのくらいの大きさがある。
……そういえば、わざわざ魔獣の見た目を影絵みたいにしたのは手抜きか納期の関係かそれともわざとなのかで、プリブレファン内で論争あったな……と思い出す。
モンスター好きなユーザーが、影絵で手抜きするなってよく怒ってた。個人的には理由あると思ってる派だったけども。
「レイカさん、危ないです!」
「あら」
魔獣がレイカ様に音もなく近寄ってきていた。
マジで巨体なのに物音がしないし呼吸も声も出さないのどうかと思う! 製作者たちがちゃんと理由を考えてるから魔獣がここまでガチガチにヤバい生物になってるに決まってるだろ! 手抜きならもっと雑な獣くらいの強さで楽できたのに! 今、確信したわ!
生身が齧られる前に、風魔法による牽制程度の魔力の弾を作り発射。それを食らうと魔獣は大げさに見えるくらいに大きく弾かれて後ずさる。それを見て、ヒカリちゃんが不思議そうな顔をする。
「えっ、あれ? なんであれで……」
「あれは生物じゃなくて魔獣よ。生物と違って魔力による攻撃は効果的。あの程度の威力でも、あの魔獣にとっては馬にでも突撃されたように感じるでしょうね」
当然ながら、魔力で出来た体に対抗するには魔力だ。とはいえ、サイズが大きくなるほど魔力の密度が高くなるので通りは悪くなるが。
こうした軽い魔法攻撃でも相当にダメージを食らう。魔獣を倒す時の注意点はもう一つ。
「ただ、この程度じゃ意味がないわ。体を半分以上喪失しないと動きは止まらない」
まだまだ魔獣は健在だ。こちらに向かって突進してこようとしている。剣で受け止めるが、やはり硬い。魔力の密度が高いのだろう。
魔獣は体の半分以上を喪失すると、自分の体を構築してる魔力を維持できずに溶け出す。逆に言うと、首っぽい所を切り飛ばしても普通に動いてくるので油断して攻撃される人もいる。
まったく、ゲームだと普通に倒せる経験値だったけど現実だと本当に厄介だな!
(とはいえ、レイカ様が負ける要素はない)
冷静に観察する。こちらからの攻撃も通りが良くなっていて、徐々に体が削れてきている。
サイズが大きくなると魔法を使う魔獣もいるので警戒していたが……どうやらコイツはそういった攻撃をするタイプの魔獣ではなさそうだ。ということで、止めを刺すように武器に魔力を込める。
こちらの込められた魔力に反応して、魔獣は光に引き寄せられる虫のように愚直に突っ込んでくる。
「終わりよ」
その飛び込んできた魔獣を、全力を込めて両断。これに失敗すると、魔力を齧られて相手の餌になってしまう。
だが、レイカ様がそんなミスをすることはない。問題なく、魔獣を両断。
レイカ様がゲームに出てくるザコ敵程度に負けるはずがない! そして、真っ二つになった魔獣はドロドロの死骸となって溶け出した。ほっと倒したことを確認して息を吐く。
「――ふぅ……全く。依頼の訂正をして貰いたい所ね」
「れ、レイカさん! 大丈夫ですか!?」
と、倒したことを確認してヒカリちゃんが駆け寄ってくる。
そして、倒した魔獣の死骸を見て、すこし怯んだように呟く。
「……魔獣は、こんなにも大きくなるんですね……」
「これでも中型よ。大型ならもっと厄介だわ」
「これよりも大きいのがいるんですか……!?」
「ええ。遭遇することは殆どないけどもね。でも、いずれ何処かで出会うかもしれないわ。覚悟しておきなさい」
「は、はい!」
一応注意しておく。普通に生きてるだけなら出会うことはないんだけども、ゲーム中では結構な遭遇率あるし……あれ、実際はどうなんだろう?
ゲームのストーリーですら要所で遭遇することはあったし、エンドコンテンツのボスとして大型と戦ってるので多分戦うのだろう。
「とはいえ……事実確認が必要ね」
「え?」
「セイドーを呼びなさい、ヒカリ。もう動けるでしょう? セイドーに依頼内容の確認をするわ」
「は、はい! 行ってきます!」
そう言って走っていくヒカリちゃん。まあ、これはホークくんの落ち度なのでこちらとしては気楽なもんだ。
さて、人の気配もなくなったので……
(はぁ……疲れた……)
疲労が限界に達していたので、休息のために近くの木の根元に座り込む。
余裕そうに見えたが、けっこう大変だった。魔力の消費で体力を使うのは当然だが、魔獣は魔力を食うので余分な消耗をさせられてしまう。そのせいで、人と戦うよりも疲労度は高い。
魔力の消耗は本当に辛い。いうなら、水中で息継ぎなしで泳いでいるような苦しさだ。魔力が枯渇すると酸欠みたいになるといえばイメージできるかもしれない。
(流石にヒカリちゃんのいる前ではこういう姿は見せられないからな……)
これは矜持みたいなものだ。主人公の前で悪役令嬢が弱みを見せるわけには行かない。
しかし、本当に疲れた。ホークくんに言いたいこともあるけど……ううむ……なんだか眠く……
「こっちです!」
「わ、分かりましたからノセージョさん! ゴホッ! そんなに、走られると……!」
――私はホークくんを呼んで、レイカさんのいる森の前までやってきた。
レイカさんに何もしてあげられなかったから、せめて早くしてあげようと走ってきた。
「レイカさん……あっ」
「アクレージョさん!? ……いや、寝ているだけか」
見ると、レイカさんはゆっくりと眠っていた。
……魔獣と戦うのはとても魔力を使う。レイカさんも限界が近かったのだろう。
「流石に怪我は無いようで安心しました。それで、その死骸は……これですか。なるほど、このサイズは確かに予想外です。出没しているのは小型程度の想定でしたから……」
ホークくんは魔獣の死骸の跡を見て、驚いている。
「しかし……本来、このサイズなら複数人の生徒で協力して倒すような大物です。これをよく一人で……」
「それで、レイカさんは大丈夫でしょうか!?」
「えっ? アクレージョさんなら大丈夫でしょう。見た所、魔力の消耗による疲労です。魔獣にやられた傷は魔獣の毒で黒く変色します。ですが、あまり放置するのもよくないでしょう。医務室に運んでください」
「はい! レイカさん、失礼しますね……!」
その指示を聞いて、すぐにレイカさんを背負う。とても軽い体に、驚いてしまう。こんなにも華奢な体で、私を助けてくれたんだ。
こうして背負って医務室まで運ぶ。剣舞会の決勝戦の時と逆だが、情けない気持ちになる。
あの時と違って、何も出来ない私を守るためにレイカさんは立ち向かって消耗してしまった……剣舞会の決勝で戦えた程度で喜んで。今も、まだ追いつくことも出来ない自分が嫌になる。
(……いつか、私が守れるように……)
今は無力でも、この人をいつか助けれるように。
……そんな思いを抱きながら私は医務室へと急ぐのだった。
明日、新幹線に乗るので初投稿です
しばらく実家に帰省をするので初投稿できない日がかもしれませんが、その場合は連絡しますのでご理解のほどお願いします。出来る限り帰省している間も毎日初投稿出来るように頑張りますのでお楽しみに!




