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学園で現実に悩まされてます

「……困ったわね」


 そう呟く。というのも、あの後から準備を進めて三日が経過した。

 剣聖徒になるために必要なのは後は票だけ……と言いたい所だが、説明にあった擁立者の件でとんでもなく困ったことになってしまった。というのも……


(擁立者、ゲームだとそこまでポイントじゃないっていうか補正が掛かる要素だったけど……現実だとめっちゃ重要なんだよなぁ!)


 そう、ゲームと現実の違いが襲いかかっていた。

 ゲーム内では、最初に擁立者を選べる。シルヴィアくんなら全体的な人気に補正がかかるとか、ロウガくんなら妨害工作に対して成功率が低くなる……とかそういうゲーム的なシステムだった。ちなみに色んなキャラが選べて特性を見てるだけでも楽しめる要素だったりする。

しかし、現実になるとこれが想像以上に厄介だった。


(まず、貴族としての立場が関わるんだよな……! というか、レイカ様に味方をしてシルヴィアくんの敵になるってだけでハードルが高すぎるわ!)


 ヒカリちゃんなら庶民上がりなので、そういうしがらみがないので選びたい放題だよね! 原作で自由に選べていたのはそういうことかぁ……みたいな気持ちになる。

 しかし、レイカ様のような貴族になると「あの人はアクレージョ家派なのね」「擁立したということは、アクレージョ家と懇意なのね」という要素が絡んでくるのだ。

 ここでアクレージョがもし剣聖徒になれれば、先を見る力があると思われて評価されるだろう。しかし、負ければ泥舟に乗った見る目のない貴族とレッテルを貼られる。まずは、このギャンブルに乗ってもいいと思える生徒を見つけなければならない。


(そして何よりも……シルヴィアくんに喧嘩を売ってもいいって思ってる生徒を探さないといけない……それも二人もだよ)


 選挙でアクレージョ側につくということは、シルヴィアくんよりもアクレージョの方を評価しているということだからだ。まあ、今後のキャリアに関わってくるから慎重にもなるよね。

 とりあえずは、手当り次第というわけには行かないのでそれなりに格式のある貴族に頼まないといけない。心当たりとして良さそうなのは……まあカイトくんだな。というわけでカイトくんを探して話を振ってみた。


「すまない、師匠! シルヴィア殿から頼まれて……シルヴィア殿の擁立をすることになった! 今回もだが、オレは師匠の味方を出来ないのだ!」

「そう。いいわ、期待していなかったもの」

「本当にすまない!」


 というわけで、すでに擁立の件は抑えられていた。まあ、四大貴族が擁立するというのは大きいので、シルヴィアくんが先に手を打っているのは当然だった。

 それにオウドー家は、ブレイド家と仲が良い。当然ながら最初からそこは織り込み済みだったんだろう。


(ううむ、オウドー家が擁立するとなると余計に頼める相手が……一応ロウガくんにも聞いてみるか……)


 まあ、ダメ元だけどね。ここで擁立してくれたら嬉しいけど……



「ああ? するわけねえだろ」


 当然断られた。

 まあ、これは本当にダメ元だし、期待はしてなかったのでショックはない。


「あら、残念」

「わりいが、剣聖徒なんざ興味はねえし肩入れをする気もねえ。俺は俺のことで手一杯だからな。それに、ここでダメなら剣聖徒なんざ無理ってもんだろうが。」

「そうね。つまらない話をしたわね」

「気にすんな。それよりもだ。……俺以外の奴に無様に負けんじゃねえぞ? たとえどんな勝負だろうとな」


 そういうロウガくん。何だそのツンデレムーブは。

 あの後謝罪したら、勝ったのに謝るなって怒られたので一応関係は戻った。

 まあ、適度な距離感で仲良くしている。しかし……最近忙しそうにしているのは、自主的に訓練してるらしい。腐っていた時期にサボっていたツケだと、アクレージョに今度は勝つと奮起してるのだとレイジくんから自慢されたからだ。マウントを取るために主人の情報を開示していいのか……? とも思ったけども嬉しそうだったからいいんだろう。ロウガくんに教えたらめっちゃ怒るだろうけど。


「ええ。勝つ気もないのにするわけがないわ」

(ただ、その前段階で転けそうなんだよな……)

「はっ、そりゃそうか。じゃあな、まあやってみせな」


 そう言ってロウガくんを見送る。

 ……さて困った。先程も言ったが擁立する人間は誰でもいいわけじゃない。例えば、ヒカリちゃんを擁立者として頼むとしよう。しかし、それを見た生徒達は「アクレージョはちゃんとした貴族に頼む人望もないのか」とか思われて普通に不利になってしまう。まあ、これはどこでもそうだよね。実際にスピーチとかをしたり票に繋がる草の根活動で助けてもらうことになるので、誰でもいいわけじゃないのだ。


(……本当にどうするかな)


 マジで困った。

 本当に悩んでいるので、中庭にあるベンチに座りながらぼうっと空を眺めて悩んでいた。手詰まりすぎて、こうして良いアイデアを待っている状態だ。なにか良いアイデア思い浮かばないかな……


「――レイカさん!」

「……あら、ヒカリ?」


 と、聞き覚えのある声に振り向けばヒカリちゃん。当然のように誰にも教えてないし普段来ない場所なのに見つけてきたことには突っ込まない。だって怖いじゃん。変な回答されたら。


「あの、聞きました! 擁立する生徒が必要だって! 私が……」

「あいにく、貴方のような平民上がりに頼める事ではないわ」


 ガーンっていうショックを受けた音が聞こえてきそうな顔をする。でもごめん。これに関してはマジで仕方ないのだ。ヒカリちゃんを擁立してきたのを見て票になるかと言われるとならないんだ。むしろ不利になるかもしれない。


「だ、ダメ……ですか?」

「ただの人気投票をするわけじゃないのよ。貴族としての格や、人望も問われるのだから当然でしょう。これはクラウン学園の顔となる生徒を決めるの。己の学校で人脈すら用意も出来ない貴族をシルヴィアよりも良いと言える?」

「そう……なんですね。……あの、私にも何かお手伝いは出来ますか!?」


 その質問にちょっとだけ考えて答える。


「……そうね。私からはないわ。けど、好きにしなさい」

「はい! 分かりました!」


 断れないくらいに困っていたので、そういう返事になった。その言葉に元気を取り戻してどこかに走っていく。

 ヒカリちゃんには頼るのはどうかなぁって思った。しかし、現実的には手が足りないし頼らないとダメだからな……仕方がないので、とりあえずは二年生から誰か擁立してもらえないか当たってみよう。



「アクレージョさんの擁立!? ご、ごめんなさい! 流石にそれは……」

「シルヴィア様とちょっと関係を悪くするのは無理です……」

「申し訳ありません。ブレイド家とは懇意にしていて……」

「最近、何やら獣か魔獣がいるみたいで裏山の様子を見るのに忙しくて……」

「……あ、アクレージョ様が勝てると思えないので無理です!」

「よ、擁立はちょっと……」

「ひぃい! 許して下さい! 命だけは!」


 ……うん、当てになるかとそこそこの貴族に頼んでみたけども全滅だった。最後に関しては命乞いをされた。なんでだよ。

 断られる色々と事情はあったが、基本的にはアクレージョがシルヴィアくんに勝てると思わないというのと、普通に立場の問題で肩入れできないというのが大きかった。他の理由もあったけどまあそれはいいや。


(しかし、そうなると困ったな……頼れる人がいない。ここでなりふり構わずにお願いするっていうのもなぁ……)


 大前提として、シルヴィアくんよりも剣聖徒に向いている……そう思われないといけない。だというのに、この段階でレイカ様が頭を下げて擁立してくださいと頼み込んでいるのを目撃される事自体が票が減っていく要素なのだ。

 しかし……このままだと追放されてしまうかもしれない。


(なんでもあり……っていうのは無理っていうか、それをするとシルヴィアくん側もなんでもありの手段をとってくるからな……)


 シルヴィアくんは、あくまでもレイカ様がルールに従って反抗しているから同じ土俵で相手をしてくれる。しかし、こっちが何でもありと言い出したらシルヴィアくんもそれに合わせて手段を選ばない方法を取るだろう。そうしたら当然、人脈も歴史も権力も圧倒的に上のシルヴィアくんが有利なのだ。


「……どうしようかしらね」


 剣舞会とは違う、原作での情報が一切ない状態での戦いだ。

 このままでは追放されてソトノー国で平和に暮らすエンドという地獄のような余生が待っている。レイカ様に申し訳が立たない。くそう……どうすれば……


「レイカさん!」


 と、聞き覚えのある声。見ればヒカリちゃん。めっちゃ笑顔で走ってくる。


「……何かしら?」

「その、私の代わりにレイカさんの擁立をしてくれる人を見つけたんです! その、実際にあったことがないから話をして決めたいって!」

「ヒカリの代わりに?」


 ……誰だろ? ヒカリちゃんの交友関係しらないからな……原作だと、アラタちゃんっていう女の子が親友ポジションでとてもいい子だけど、別に立場のある貴族の家柄ってわけでもないし……ううん、誰だろう?


「それで、その酔狂な生徒は誰かしら?」

「ホーク・セイドーくんっていうんですけど……ご存知でしょうか?」

「……セイドー家」


 ……知っているも何も。

 カイトくんと双璧をなす同級生の攻略対象である王子様じゃん……

バトゥーキを無料だったので一気読みしたので初投稿です

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