学園は闘争を求める
さて、先日のシルヴィアくんの衝撃的な発言。
そして知らないルートへの突入。色々と考えることも多いが、とりあえず学校の休みにグリンドル傭兵団を呼び出しておいた。
「――んで、アクレージョの当主さん。聞きたいことってのは?」
「ソトノー国について聞かせて頂戴。傭兵なら知っているでしょう?」
まず、どういう国に送り込まれるのか。その情報を知らなければ意図は読めない。場合によっては一切断ることが出来ない場合もあるし。
だが、それをあの場で聞き返すことは出来ない。なぜなら、シルヴィアくんは自分の家名を使った上であの宣言をしたということは、下の貴族には一切反論を許さないということだからだ。
「ソトノー国? ああ、まあいいところですぜ? 観光出来る眺めのいい場所もありゃ、美味い酒を出す店をある。露店で掘り出し物だって見つかる……ただ、それだけの国でさ。まあ、ちと交通の便は悪いですが逆に追われてる時なんかは潜伏して平和に過ごすのに便利なんで、ケツに火の付きそうな奴が旅行に使ってる事も多いですぜ?」
「そう」
端的にまとめてそういう団長に、渋い顔をしてしまう。
……うん、これは明らかに意図がわかる。学園での交換学生というのは国家間の関係を深める上で重要ではあるがなかなか起きない。国外に送るのだから品行方正な生徒で優秀な生徒でないと相手の国からの評判に関わる。だが、そういう生徒は自国に居て欲しいからなぁ。
「それでどうしたんですか? おじょ……当主さんには縁のなさそうな国ですがね。あそこにゃ、ドロドロとした貴族の気苦労も何も持ち込まないようなのんびりとした場所ですぜ? 俺たち傭兵の仕事だってないような場所でさ」
「あいにく、そこに追放されそうなだけよ」
「追放? ……そりゃ、穏やかじゃありませんなぁ」
そういう団長の目の色が変わる。こちらを値踏みするような目。彼らは金になればいい。だからこそ、依頼主との縁を切るタイミングはいつだって頭の中で考えている。己たちが最も利益を得て損をしないタイミングを。
つまり、ここで変な答え方をするとトンズラされるってわけだな!
「そうね。私も流石に抵抗するつもりよ。この国にレイカ・アクレージョがいることが気に入らない誰かがいるみたいだけども、言うとおりにする筋合いはないわ」
「……さすがアクレージョ様で。勇ましいことで」
「あら、嫌味?」
「いやいや、この前の新聞でえらい派手に一面を飾っていたのと全く同じだなぁと思っただけなんでね」
「……次にそれを言ったら契約は打ち切るわよ」
「おっと、そりゃ失礼」
アレ、本当に不本意なんだよな……レイカ様が新聞でああいう感じで祭り上げられて人気とか解釈違いです!
と、まあ思考を戻す。
(まあ、確実にこれは「レイカ・アクレージョを王位から遠ざけるための動き」だよなぁ。だって、わざわざこんな風にしてまでアクレージョ家の当主であるレイカ様を国外に追放する理由はないし)
ううむ……原作と乖離している事は覚悟の上とはいえ、これは困る。このまま幽閉ルートだと、流石に戻ってきてからクーデターとかしたらそれはもう想像を絶するショボい最後を迎える。多分一瞬で戦力を整えられて粛清だ。
なにせ、あの状況が成功したのは王位継承前の混乱している国内だったからだし……
「そんで、誰がそんな事をしたんで? まあ、場合によっちゃうちの傭兵団でヤっちまいましょうか?」
そう言って悪い笑顔を浮かべる団長。ヤるの部分に込められた意味は……まあ、そういうことだろう。そういう気の利いたセリフは嬉しいんだけども相手が悪い……なにせだ。
「お生憎様。ブレイドからの直々の命令よ」
「ほぉ、ブレイド……ブレイド!?」
流石に余裕の笑みを浮かべていた団長も目を見張って驚く。
そりゃあ驚くだろうな……だって、ブレイド家って……
「なんで前王の血縁がわざわざそんな命令を出してるんで!?」
「さあ? 余程気に食わなかったのでしょうね」
「気に食わねえって……ああ、まあいいですわ。そりゃ手出しは無理ですわ。俺たちだって金を貰えば何でもやりますが、死ねという命令を聞くほど命は捨ててないんでね」
「ええ。それでいいわ」
権力で言えばこの国で並ぶ家はないレベルだからな……ブレイド家。前王がなくなって選定中ではあるけども、決まるまでは実質的に国王と同じだけの権力を持っている。
ちなみに、ブレイド家は国内で一番王を輩出している貴族だ。なので、ブレイド家が王にならない時期でも高い権力を持っている。そんな家の子供であるシルヴィアくんだが、本来は家のことはあまり好きではないので家名を名乗らないようにしているのだ。だから、シルヴィアくん呼びで家名は伏せている。
まあ、それを使ってまで命令してきたというのなら……
(……シルヴィアくんに俺の目的……まあ、最終目標は分かってないだろうけど王座を狙ってることバレてるよなぁ。交換学生っていうのが厄介だよなぁ……だって、提案としては悪いどころかむしろ良い提案だし)
交換学生に送る間、その家は次代の担い手が不在になるので大きな保証がされる。
具体的には、交換学生に送られた家にはその件に関わる貴族から保護されて大きい縁が出来る。ブレイド家との縁ということは、つまり四大貴族に並び立てる可能性が生まれるわけだ。王を狙ってないなら飛びつくんだけどなぁ……
「それで、手はあるんで? ブレイド家からの要請とありゃ、下手なことは出来ませんでしょう?」
「ええ、本来なら無理よ。でも、命令をしてきた相手は学生。そして、ソトノー国が平和ならこれは学園の事情に関係する事でしかない。それなら手はあるわ」
その言葉に首をひねる傭兵団の団長。
まあ、これに関しては学園の事情に詳しくないと分からないだろう。
「傭兵の戦場で使う技術もルールも貴族相手には通用しないでしょう? それは学園でも同じよ。子供の戦場には、子供の戦場の理屈と手段があるってことよ」
「なるほど、納得しました」
まあ割と正攻法というか……ヒカリちゃんがニ年にならないと発生しないイベントなので、まあこれを使わせてもらおうと言う感じだ。多分大丈夫だと思う。ゲームでも主人公視点で関わることないし。
「ところで、失礼を承知で俺も聞きたいことがありましてね。いいですかい?」
「あら、高いと言ったのに?」
「それでも聞きたいってことで。まあ、雇い主の先行きがわからないんで割引していただければ嬉しいですがね。共倒れってのもつまらない話でしょう?」
そう言って団長はニヤリと笑う。ううむ、痛いところを突かれた。実際、ソトノー国に行くことになったら傭兵に頼むことがなくなっちゃうんだよな。
それに、裏切るのは死にそうになってからにして欲しいからなぁ……今からまた候補を探して雇うのも面倒だし。
「……こちらの落ち度だからいいわ。それで、何を聞きたいの?」
「この国で、何をするつもりで? ああ、ここらには人払いをしてますんで、俺以外に聞かれることはありませんぜ」
やっぱりその質問か。多分、ある程度は察しているが確認をしたいのだろう。
まあ、実は答えること自体には問題はない。なのに答えなかった理由は……金で動く傭兵だからだ。どこまで信用できるかはわからないし、万が一、この情報を金になるからで売られたら……なんてこともあるから言わなかった。
だが、働きを見る限り教えてもそんなルール破りはしそうにないからいいか!
「大したことじゃないわ。誰だって上を目指したいでしょう? だから、それと同じように私は上を目指しているだけよ」
「上……というと、どこまでで? 」
「あら、頂点よりも高みがあるのかしら?」
その言葉に、ぽかんとして……大爆笑。
コイツ、いっつも俺の話を聞いて爆笑してるな。まあ、凄い事言ってるからな。子供のいう夢物語を大真面目に語っているししょうが無いか。人間だけど、神になります! とか言うレベルだし。
「あっはっは! し、失礼! いやあ、そこまでデカく出るとは思わなかったんでさ! ……あー、いや、こりゃとんでもない雇い主に当たったもんですわ」
「あら、それなら辞める?」
「ははは! 馬鹿言わないでくだせえ。金さえ貰えば何でもやるグリンドル傭兵団。未来の女王御用達となりゃ、箔もつくもんですわ」
そういってニコニコとする団長。
うむ、面白いなぁ。この団長。傭兵団というわりには意外と分かりがいいし、こういう気の利いたセリフをポンポン出してくれる。めっちゃ悪役やってるなぁ! 感があって楽しい。本当にモブか? 原作でてないよね?
「そう。納得してもらえてなによりだわ」
「ええ、面白い当主様についていけば稼ぎ時ってもんですわ。それじゃあ、これからもご贔屓に…と、そういや当主さん。以前から依頼されてる闇魔法についての情報について報告ですぜ」
「あら、進展があった?」
「ええ。情報が集まったといやあ、集まりましたが……それが入国から面倒な国外にあるらしいんですわ。んでそこを調べるのに人員を割くつもりですぜ。んで、ちとしばらくは傭兵団のメンツが少なくなるんでそのご報告ってことで」
ふむ、人が少なくなると。それだと頼める幅が減るってことか。
意外と便利だし役に立ってくれてるんだよな傭兵たち……あの時は悩んだけど選んでよかったー。質問しないし、ちょっとグレーゾーンな仕事も報酬払えばやってくれるし。
「なんで、当主さんがドンパチするっていうなら集めるだけ集めますが……しばらくの間は、そこまでの戦力を動かせねえってことで。大喧嘩をするならチと考えてしていただけりゃあと思いまして」
「……なんで戦う前提なのかしら?」
「いやいや、王になるってんなら最終手段はやっぱり腕っぷしでしょうよ。まあ、なんで本気でヤっちまう時には緊急用にこれを。魔法の通信機ってもんで、連絡が届きゃ腕利きを送りますぜ」
「ええ。預かっておくわ」
暴力で解決するように見るなんて失礼な! といいたいけど……実際原作でも最終的に闇魔法を使った暴力で解決しようとしてるから何も言えない。。
やはり暴力……暴力が物をいう! ってわけだ。
「いいわ、下がりなさい。必要になったらまた連絡するわ。あと、他に頼んでいる仕事の進展もまた報告」
「かしこまりましたっと。それじゃあ、今後もグリンドル傭兵団をご贔屓に」
そういって笑みを浮かべて去っていく団長。ううむ、いいなぁ。こういう感じの傭兵を顎で使う感じ。学園悪役令嬢ムーブもいいんだけど、こういう暗躍してる感じ楽しい……
……さてと。色々と脱線したがシルヴィアくんからの国外追放イベント。これを解決する方法は唯一つ。
(それは2年生で起きるイベント……剣聖徒になるしかない!)
それがこの状況を解決する俺の秘策だった。
……やっぱりクソダサいな、このネーミング。
新章に入ったので初投稿です




