リザルトと新たな展開
剣舞会を終えてゆっくりと休み、次の日に学校に来ると……まあ当然ながら、色々と変わったことがあった。
まず最初に、取り巻きではないが……こう、やけにキャアキャア言っていた女の子が減ったことだ。うん、これは嬉しい。
「ああ、レイカ様……今日も素敵……」
「いつ見ても自信満々でカッコいい……」
「レイカ様に踏まれたいわ……」
「分かる……」
ちょっと怖い発言は聞かなかったことにして、適当に近くに居たファンらしき女子を捕まえてみる。
「貴方」
「ああ、レイカ様がお近くに……え、えっ!? わ、私ですか!? はい! なんでしょうか!?」
「楽にしなさい。それよりも、前よりも騒がしいのが減ったけども理由は?」
「理由ですか? そ、それはその……昨日の剣舞会の決勝が理由です。もしも、こうして減ったのがお気に召さなければもっと人数を増やすように私達で……!」
「貴方達にもやめろと言いたいのだけども?」
喜んでないからな! と釘を差してから詳しい事を聞いてみる。
……どうやら昨日の剣舞会でヒカリちゃんを容赦なく叩き潰す悪役令嬢ムーブを見て、憧れよりも怖さが先に来てしまった女の子たちが多く居たらしい。そのせいで、憧れるよりも怖さが勝って熱が冷めたのだという。まあ、案外そういうもんだ。
しかし、そうなったらここにいる奴らは悪役令嬢ムーブを見ても変わらなかった精鋭なのか。うーん、その事情を聞いてしまうと更に怖くなったな。なんで知らない所でMっ気のある謎のファンクラブが生まれるんだ。
(……まあ、だからといって無理やりやめさせることはしないけどさぁ)
こういうのを締め付けて禁止したら地下組織とかになりそうだし、ソッチのほうが怖い。なら、まだおおっぴらにさせといてこっちで観測出来る範囲の方がいいという考えだ。犠牲になるのは視界に入ってげんなりする俺だけだ。ちょっとつらい。
ということで、そのまま事情を聞いたあとは無視して校舎に入る。すると、今度はレイジくんがやってくる。ロウガくんはいないらしい。
「アクレージョ」
「あら、キシドー家の飼い犬ね。ご主人様はどうしたのかしら?」
「ロウガ様は休まれている……流石に無茶をしすぎたのでな。むしろ、お前がこうして出席していることが驚きだ。決勝戦に出場したのも噂で聞いたが、本当に人間か?」
「あら、案外貧弱なのね。キシドー家は」
「お前が丈夫過ぎるだけだ」
えっ、そうなの? レイカ様の体だと普通に動けるからそういうもんだと思ってたけど丈夫だったのか……
そして、ロウガくんは今日は出席してないと。まあ、準決勝のやり取りに関して気まずい思いがある。結果は結果であり、勝利を譲られた……みたいなことを言えばロウガくんを侮辱してるのでそうは言わない。ただ、あの試合で迷惑をかけて水を差した事は申し訳なく思っているのだ。
だから、今日来てないことはちょっとありがたい。とはいえ、また今度何かしらお詫びをしておこう。
「まあいいわ。なにか用事があるの? わざわざ声をかけてくるなんて」
「……」
「何か言い返さないのかしら? 黙っているだけならカカシの方がマシよ。敵討ちだとでもいうなら――」
「いや……今日は、お前に感謝を伝えに来た」
「感謝?」
……え? 予想外の発言が出てきたぞ?
自分の主人をボコボコにして、最終的に負けさせた相手にロウガくん大好きなレイジくんがこの反応……? 何が来るのか分からず困惑している。
「聞け……ロウガ様の本当の休んでいる理由は、アクレージョに敗北したショックからだ。目覚めてから、酷い落ち込みようで、今も部屋に籠もられている。それこそ、学園に来てからここまで落ち込んでいるのは見たことがないほどに」
「……なのに感謝をいいに? もしかして、ご主人さまが嫌いなのかしら?」
「そんなわけがないだろう。私は……ロウガ様がこうして感情を露わにして揺さぶられている事が嬉しいのだ。ロウガ様を幼い頃から知っているからこそ、入学してからのロウガ様は……どこか捨て鉢になり、笑顔を浮かべることもなくなっていた」
原作でもそこには触れられている。王候補が判明して急遽本来の自分の望んでいた人生と全く違う、自分の嫌うような道を強制的に歩むことになったからね。ロウガくん。それでも真面目に学園にくる当たりは根が良い子なんだよな。
ちなみに王候補としてこの学園に通うまでは気のいいガキ大将って感じだったらしく、ブレファンの間でもぜひ過去のロウガくんを見せてくれとファンレターが届きまくったらしい。まあ、外伝でもお出しはされなかったんだが。
「だが、アクレージョ。お前との出会いからロウガ様は変わった。今まで見せなかった笑顔も増え……キシドー家の兄上様とも会話をするキッカケとなった。そして、今回の剣舞会ロウガ様は負けてしまった。だが、それを悔しがっている事はとても大きい。昨年のシルヴィア様に負けた時ですら、結果などどうでもいいと言っていたロウガ様がだ。剣舞会を、退屈すぎて遊んでいただけだと言われた時はショックだった。だからこそ……ロウガ様を戻してくれたお前に感謝をしたい」
そう言って頭を下げる。レイジくんがこんな素直にお礼を言うなんて……レイジくん推しに見られたら呪詛で呪い殺されそう。
しかし、ここで頭を下げてる構図は見られると勘違いされそうだ。
「頭を上げなさい。謂れのない感謝は気分が悪いわ」
「すまない。だが、それでも感謝したかった。私の自己満足だ」
「そう、そんな物いらないわ。キシドーがどうなろうと関係ない。私は私のやりたいことを通しただけだもの」
デッドエンドに向かうルートという目的に向かってな!
しかし、ロウガくん関係は最初から本来のルートとズレてたのか……何が駄目だったんだろうか? セリフは間違えてなかったし……なんかその前のフラグ構築とかあったのかな?
「……ふっ、だからこそロウガ様は面白いと思ったのだろうな。私はロウガ様のための影。だから、私にはロウガ様になにか出来るわけではない。ただ、ロウガ様の欲することを行うのみだからだ」
「そう。大した忠犬っぷりね」
まあ、歯噛みするだろうな。目の前で自分の敬愛する主人が良くない方向に変わっていくのを見ているだけしか出来ないのは。
「だが、それはそれとしてだ」
と、レイジくんはこちらを睨みつける。もう自分が果たすべき義理は終わったと言わんばかりに。
「大会からもロウガ様に対する不敬やロウガ様への無礼が多すぎる! アクレージョ、お前は多少は優れているかもしれない! だが、貴族位としてはお前はもっと礼儀をわきまえろ! たとえロウガ様やキシドー家が許してもこの私が――」
「……うるさいわね。感謝しているなら見逃しなさい」
「無理だ。感謝はしているが、それはそれとしてお前のことは気に入らない。だからわざわざ剣舞会に出場したのだからな。だから今後も言わせてもらう」
……あ、やっぱり私怨だったんだ。本気で嫌ってるなこれ。
しかし、こうしてストレートに言ってくれる当たりは……心をひらいてくれたのかもしれない。
「……いい性格をしているわね。貴方」
うん、本当にいい性格とキャラをしてるよ。そう思ってつい言葉に出すが、スルーされて小言を続けられるのだった。
――小言から逃げて、その後は授業を終わらせて放課後になった。
剣舞会の優勝者だからといってそこまで騒がれることはない。正式に表彰されるのはいずれある学園の集会でだ。なので、現段階ではあくまでも優勝者である肩書だけしかなく、お祝いは表彰されてからという謎ルールがあるので静かなものだ。
とはいえ、優勝者という事実は生徒達に影響がとてもある。なにせ、こうしてレイカ様が廊下を歩いているだけでも普段以上の畏敬の眼差しが注がれる。
だが、これだと誰も話しかけてくれなさそうだなぁ……と思っていたら、背後から聞き覚えのある声がかけられる。
「レイカさん」
「師匠!」
全く態度の変わらない二人だった。というか待ってくれ。
ヒカリちゃんは分かる、うん。いつもどおりだ。しかし、もう一人の方はなんだよ。予想外ではないけど……もしかして、カイトくんは今後もセットで来るの?
「師匠じゃないと言ってるでしょう」
「む、まだ認められないか……! だが、いずれ師匠も認めてくれるだろう!」
「そんな未来はないわ。それで、何の用?」
冷たい視線を向けながら用件あるんだろ? と聞いてみる。無いって言ったら普通に帰ろう。なんだかんだ、剣舞会の後で疲れてるんだよこっちも。
「あ、はい。実はカイトくんからレイカさんに言うことが……」
「うむ。シルヴィア殿から師匠を呼ぶように言われている。真面目な話だそうだ」
「シルヴィア様から……?」
ちゃんと理由があったらしい。でも、今後もカイトくん用事無く来そうだなぁ……と言う予感はある。
さて、それよりもだ。シルヴィアくんからの呼び出しとはなんだろう? 一応、ゲームだと剣舞会のあとは育成と好感度上げパートだからしばらくはイベントはないんだけど……それはあくまでもヒカリちゃんの話だしなぁ。
まあいいや。呼ばれたなら行くしか無いか。と、行く前に聞くことを思い出した……
「ヒカリ。怪我は無いかしら」
「……えっ!? あ、わた、私……!? は、はい! 怪我もなく元気です!」
「何を動揺しているの」
そう突っ込みながら、一安心。だって、手加減に失敗したからなぁ……もしも万が一、大怪我とか後遺症があると今後ヒカリちゃんの未来に不都合がある。
別にヒカリちゃんがどういうルートを通ってもいいのだが、後遺症とかで戦いが出来ないとかになると今後起こる様々な苦難を超えれない可能性がある。レイカ様のあとも国が崩壊するような事件とかがルートによっては起きるので、ちゃんと能力値上げないとダメだからな……
「あ、あの……名前を呼んでくれたので……」
「あら、嫌?」
「い、いえ! その、光栄だと思ってます! ただ、いきなり変わったんでどうしてかなって……」
おどおどしながらも聞くヒカリちゃん。そんなの答えは決まっている。
「――ヒカリ、貴方は私に実力を示した。だから名前を覚えた。それだけよ」
「そ、そうなんですか! ありがとうございます! ……えへへ……」
その言葉に、納得したのか嬉しそうに笑っているヒカリちゃん。レイカ様推しだけど、ヒカリちゃんカワイイな……
まあ、これに関してはレイカ様ならこうするという理由でしている。原作だと名前で呼んでくれることってほとんどないが、ここまで実力を示してやりきれるようなヒカリちゃんならいいだろう。ね、レイカ様!
「むぅ! ノセージョ、ずるいぞ! 俺もまだ家名だというのに!」
「そ、そう言われても……」
「ズルいも何もないわ。貴方にはそれで十分よ」
「ぐむ……分かった、師匠に力を見せれば認めてもらえるというわけだな! うむ! そのためにも特訓をせねば……!」
そういうつもりじゃないけど……まあいいか。
しかし、カイトくんグイグイ来るな。ヒカリちゃんルートに入ってるとは思うけど……本当に入ってる? レイカ様にめっちゃ懐いているけど、急にレイカ様にカイトくんルート生えてこないよね? いや、不安だけど大丈夫だろ……多分……
「まあいいわ。呼ばれているなら急がないとダメね」
「あ、レイカさん!」
「何かしら、ヒカリ?」
呼び止められて振り向くと、悩んでいるようだったが……何かを決意したような表情を浮かべる。
それは、今まで見せなかった表情。レイカ様に懐く後輩としてではなく……ライバルに挑む挑戦者のように。
「……今度は、負けませんから!」
「――」
ああ、強いなぁ。この子は。あんなに頑張って、ああやって負けて。それでも立ち上がる。
あんまりにもまっすぐで、俺がゲームをしていた時に魅力的だった主人公で嬉しくなる……だから、返事は一つ。
「そう。なら今度も叩き潰してあげるわ」
そう言って悪役令嬢スマイルを浮かべる。ヒカリちゃんも笑顔で答えた。
いつかレイカ様を倒すその日まで、せいぜいヒカリちゃんの壁として立ちはだかってやろうじゃないか。
――そして、二人と別れてからシルヴィアくんのいる学園事務室にやってきた。
学園の奥。一般生徒はあまり来ない場所にその部屋はある。
「失礼するわ」
学園事務室というのは、まあ学園運営に関わる生徒会みたいな組織だ。原作だと、ここに来るのはとあるイベントをクリアしないとダメなので貴重な瞬間だ。
ゲームでここに入った時には人がいっぱい居たが……今はシルヴィアくんだけしかいない。机の上に重なっている書類を、黙々と処理していた。
「ああ、呼び出してごめんねアクレージョさん」
「いえ、構いませんわ」
「剣舞会はお疲れ様。アクレージョさんが優勝するとは思わなくて驚いたよ」
「あら、お褒め頂き光栄ですわね」
ここに来てもまだ要件はわからないが……フリから考えるに剣舞会の表彰に関する話かな?
主人公ちゃん剣舞会優勝ルートの場合にはそういうのはなかったけど、これはレイカ様だからなのかもしれない。
「それで、今日の呼び出しはそれについての話かしら?」
「あはは、そういいたいけど……ごめんね、アクレージョさん。生憎だけど別の要件なんだ」
別の要件……? 剣舞会でもないなら、なんなのか? 心当たりが一切ない。
疑問符を浮かべるレイカ様に笑顔を浮かべたシルヴィアくんは宣言する。
「アクレージョさん……いや、レイカ・アクレージョ。これはシルヴィア・ブレイドとしての言葉である。剣舞会優勝者である貴殿に国外の学園に編入をしてもらいたい。場所はソトノー国。期間は無期限。国家間の友好のための要請だ。この要請を正当な理由なく断る場合にはブレイド家への翻意とみなす」
(……は?)
……そして、全く知らないイベントが始まるのだった。
学園奔走編、これにて終了なので初投稿です
次話から学園闘争編が始まりますのでご期待ください!
誤字報告など助かっております。「えっ、こんなミスしてるわけ……あるやんけ~!」ってなりながら感謝して修正しております
新展開となりますので、気にいっていただければ今後もお付き合いいただければ幸いです
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