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剣舞会ラストバトル

 ――さて、試合が始まってからすでに数十分ほど経過した。

 試合内容はというと……


「はぁ……うぅ、くっ……」

「ここまで来たことは褒めてあげる」


 ボロボロになっているヒカリちゃんと、傷一つないレイカ様。

 戦いは一方的なものだった。ヒカリちゃんの攻撃の全ては見切られて弾かれ、決して気絶したり武器を壊さない攻撃をレイカ様が与える公開処刑のような試合。だが、それは当然だ。

 ヒカリちゃんは確かに勝ち上がってきた。だが、それは王子様達とは戦わずに上がってきた勝利だ。別に普通の生徒が劣るとは言わないが、王子様達と戦うのと戦わないのでは意味合いが全く違う。経験値とかの概念、現実になるとわかるんだよな……


「くぅ……ああっ!」

「そんな攻撃は通じないわ」


 手を変えようと、今度は突撃して剣を振るい勢いで押そうとするヒカリちゃん。だが、容赦なくその剣を弾き返す。なんとか剣は放さなかったが、勢いに負けて体勢を崩す。

 確かにさっきまでの戦い方と方法を変えるのは正しい。だが、それが通じる相手と通じない相手がいるのだ。


「それをするなら、まだオウドー家の子の方がマシね」


 そう言って、今までほとんど使っていなかった風魔法を剣から放つ。

 魔力で作られた風の弾をなんとか弾き返すヒカリちゃん。しかし、そのまま連発すると捌ききれずに喰らって倒れる。


「立ちなさい。試合は終わっていないわ」


 圧倒的。負けイベントだと理解させるための、反撃すら許さない殺戮のような試合。

 徐々に観客たちから、困惑の声が上がる。決勝戦でこんな試合を見るとは思っていなかったのだろう。嬲られ続けるヒカリちゃんに対する同情の声が聞こえてくる。


「な、なあ……いいのかこれ?」

「誰か止めないと……」

「アクレージョ様、怖い……」

『な、なんということでしょうか……まさかの決勝戦。ここまでの実力差があるとは思いませんでした……! ノセージョ様もボロボロになっているというのに、アクレージョ様には未だに傷一つありません! そして、試合はまだ続きます……!』


 実況すらこの展開を予想してなかったので困惑している。当然だろう。あれだけの激戦を超えての決勝戦がこんな酷い一方的な試合になるなんて思ってないだろうからなぁ。

 申し訳ない気持ちがあるが、それでも止めるつもりなどはない。


「ノセージョ。貴方は今この剣舞会の決勝に立っているという自覚を持っているの? これ以上醜態を晒すなら、ギブアップしなさい」

「……い、や……です……!」

「そう」


 そう言って立ち上がるヒカリちゃんを冷ややかに見つめる。

 ……実を言えば、この展開は予想していた。俺は最初からヒカリちゃんの試合は全て見ていて、どんなスタイルで何をするかも分かっている。シンプルな剣を使ったレイカ様と似たような戦闘スタイル。原作ではどんな武器でも使えていたから、そういう無節操な戦い方だと予想できずに苦戦はしたかもしれない。だが、スタイルが同じ以上その強みは今はない。まあ、それに関しては原作が無節操すぎるんだけども。


(魔法も、全てレイカ様が聞かれた部分を最低限教えてるからどういう手を持っているかも分かってる。一ヶ月の準備期間で特訓してたとしても、レイカ様に勝てるほどレイカ様は甘くないんだよな)


 レイカ様と似たようなスタイルということは、レイカ様のデッドコピーみたいなもんだ。何をしてくるかも読めるし、どういう手を使ってくるかも分かる。

 だから、ヒカリちゃんが勝てる要素はないのだ。


「くっ、はぁ……はぁ……」

「弱い者いじめをしても楽しくないのだけれども、勝負だから仕方ないわね」


 そう言いながら、ヒカリちゃんが食らいつこうとする一撃を弾き返す。

 カイトくんのような勢いのある連撃でもなく、ロウガくんのような一撃を食らうだけでピンチになるような威力もない。レイジくんのような絡め手も持っていない。

 確かにヒカリちゃんは優等生かもしれない。だが、優等生では駄目なのだ。


「それでも、私は貴方に何かがあるからここまで勝ち上がってきたのだと思っているのだけれども。どうかしら?」

「……私に、なにか……?」

「無いのなら、敗北を宣言しなさい」


 そう言ってもう一発、風魔法をヒカリちゃんに放つ。回避はできずに直撃するが、それでも諦めない。

 ズタボロになって痛々しいヒカリちゃんの前で、傷一つなくつまらなそうにいたぶっているレイカ様。おそらく観客たちから見れば冷酷無比な悪役令嬢と見えることだろう。


「な、なあ……ヒカリちゃん可哀想じゃないか?」

「いくらなんでも、こんなのはちょっと……」

「……ヒカリちゃん! 頑張れー!」

「がんばれ! 負けるな!」


 徐々に観客たちはヒカリちゃん応援ムードになっていく。

 アウェイだが……むしろ心地良いくらいだ。悪役令嬢は孤独な方が似合う。無駄に嫌われたいわけじゃないが、レイカ様はこうなる。


「……レイカさん」

「あら、泣き言でも言うのかしら??」

「いえ、違います……ごめんなさい。レイカさん」


 そういって謝るヒカリちゃん。なぜ、このタイミングの謝罪を? と思っていると、ヒカリちゃんは続ける。


「私は、ずっとレイカさんに憧れてたんです。とても強くて、格好良くて……厳しいけど優しいところもあって。だから、レイカさんになりたいと思ってました。私はレイカさんみたいになりたいと思って、レイカさんの真似をしてたんです」


 ……あ、やっぱりそうなんだ。似てるな~って思ってたけど、やっぱり真似してたんだ。流石に、レイカ様といえどそういう自惚れかもしれない発言をするのは難しいから言えなかったけど。

 納得していると、ヒカリちゃんは更に続ける。


「でも、それじゃあ駄目だって分かりました……私はレイカさんみたいになれません。少なくとも……このままなら私はレイカさんに絶対に勝てなくて……ずっと、レイカさんの後ろをついていくだけです」

「ええ。そうね。それでどうするつもり?」

「はい。だから、レイカさんに挑みながら……ずっと、考えたんです」


 強い決意の炎が見て取れる。

 それは、主人公にふさわしい熱だ。それこそ、この世界の誰よりも強くなれるであろう力を感じる目だ。


「考えて……分かりました。レイカさんみたいになっても駄目なんです。私は勘違いしていました。ずっと、自分の願いが分かってなかったんです」

「そう。なら、聞いてあげるわ。貴方の願いは?」

「はい……私は、レイカさんみたいになりたいんじゃないんです――」


 ヒカリちゃんの構えが変わる。これは試合中にも見たことがない構えだ。なんというか、突きを狙っているような構え。少なくとも、レイカ様の知っている技術ではない。

 ワクワクとしてきた。それは、未知に挑む事に対する興味と期待だ。


「私は、レイカさんに認められたい。レイカさんを超えたい……私は、レイカさんの隣で肩を並べたいんです!」

『おおっとぉ!? アクレージョ様とノセージョ様の勝負に動きがアルぞぉ!? 硬直し、ついに終わりも見えてきたかと思われましたが……ノセージョ様のあの構えはまさかぁ!?』


 えっ、なになに? 実況の盛り上がりに困惑する。

 未知に挑むワクワクってくらいに俺は知らないんだけど……いや、まあいい。ヒカリちゃんの言葉に答える。だから、レイカ様が言うならこれしかないという言葉を選ぶ。


「いいわ、なら見せてみなさい。叩き潰してあげるから」

「――いきます」


 そして、そのまま突進してきて分かりやすい突きをしてくる。

 何の変哲もない動き。ちょっとだけ、隠し玉でも来るのか期待してたのでガッカリした気分になりながらも、なにかあるかと考えながら突いてきた剣を弾こうとして……


(……んっ? いや、これ違う!?)


 慌てて武器で弾くのを止めて風魔法で牽制をする。すると、なんと剣で魔法を捕まえて、絡め取るように弾いた。

 えっ!? すごっ!? どういう技術だ!? 魔法を掴むって何をしたんだ!? 困惑と興味が襲ってくる! もしも、剣で防いだら……剣をあの魔法みたいに絡め取られて弾き飛ばされていたかもしれない。


『やはり! モジミー様の秘剣である『蛇絡め』です! まさか、あの試合で見た技を覚えたとでも言うのかぁ!?』


 えっ。そこが繋がってくるの? トテ・モジミー。一切見てないのに存在感と興味が増していく。なんだこいつ。

 いや、それよりもだ……


「猿真似で勝てると思っているのかしら?」

「――今の私にできることは、誰かの真似だけです。まだ、付け焼き刃ですけども……でも、レイカさんの知らない全てを組み合わせれば、きっとこの剣が届くと信じています」


 そういって、次の技。先程のこともあり、警戒をして受ける。どこか見覚えがあるが、しかし見たことがない技。

 そんな様々な技を連続で組み合わせて使ってくる。付け焼き刃の技と言ったとおり、たしかに粗はある。だが、その粗をお互いの短所を打ち消すように連携して攻撃してくるヒカリちゃんの攻撃は、今までよりも驚異だった。


『おお、あれはカーマセ様の技のようだぁ!? さらに、他にもこの剣舞会で見覚えのある技をどんどんと連続で使っていきます! まるで、今まで勝利してきた選手たちの思いを背負っていくかのように! ノセージョ様の動きに、会場も盛り上がっています!』


 うわっ、思いを背負ってるって言うとすげえ主人公っぽい!

 しかしなるほど……ヒカリちゃんの「原作だと何でも出来るオールラウンダー」という性質。現実になると他人の能力を理解してコピーできるってことになるのか。本人が使うのに比べれば確かに劣化コピーかもしれない。だが、それぞれの長所を組み合わせ続けたら確かに本物を超える技になるだろう。


「頑張れー!」

「いけー! そこだー!」


 観客も、ヒカリちゃんを応援している。すでに会場から全てヒカリちゃんのムードだ。

 徐々にヒカリちゃんもノッてくる。変幻自在な攻撃。突きが来たかと思えば、魔法を使った牽制。そして秘剣とやらも合わさって迂闊な対応を出来ない。こういう方向性か……うん、面白いな。


「レイカ、さん! これが今の私の……全力ですっ!」


 また突きが来る。だが、そろそろ技を見てきたのでこちらも対応をすることは……ん?


(いや、違う!?)


 突然、突きをしている剣が透明になって隠れた。そして、ヒカリちゃんは手元の動きを変える。まさかこれは!?


「キシドーの執事の魔法!?」


 まさか、実際に戦ってない魔法を見ただけで覚えたのか!?

 レイジくんほどじゃない、小さい範囲のちゃんと見れば分かる程度の迷彩だった。だが、それが戦闘中に……それも不意打ちで使うともなれば十分に驚異になる。


「いっ、けぇえええええっ!」


 そして、レイカ様の体に一撃が入る。

 決して届くはずのない、ヒカリちゃんの一撃。


(……すげえな。主人公)


 はっきり言えば、一撃も食らうことなく終わるつもりだった。そして、それを出来る実力をレイカ様は持っていた。なのに、それをひっくり返した事は凄い。

 感動と、称賛で心が埋まる。そして、ヒカリちゃんにレイカ様は称賛する。


「――褒めてあげるわ」

「……」

「当てられるとは思わなかった。だから……私の予想を覆したという意味では、ヒカリ。貴方の勝ちよ」

「……げほっ……」

「でも、私に勝つにはまだまだ足りないわ」


 その言葉と共に、ヒカリちゃんは息を吐いて崩れ落ちる。

 確かに虚を付かれて食らいついてきた事は驚愕したが……それでも、対応できないわけがない。俺はあのロウガくんとの勝負で勝てたのだから。

 だから、とっさにヒカリちゃんの攻撃に合わせてカウンターを決めたのだ。攻めることに全力を注いでいたヒカリちゃんは防御出来ずにモロに攻撃を喰らい崩れ落ちる。


『……き、決まったぁあああああ! アクレージョ様の勝利! たしかにこの結果は妥当だと言えます! しかし、しかし! 食らいつき、最後に一撃を与えたノセージョ様! その健闘は讃えられるべきでしょう! そして、全てを受けきって勝利を迎えたアクレージョ様! 決勝戦の始まりこそ、酷い試合かと思われましたが……最後には感動を与えてくれました! かつてないほどに盛り上がりドラマのあった剣舞会となりました! 皆さん、優勝者に拍手を! 今回の結果に関しては後日学校で表彰を致します! 剣舞会での詳しい情報については、クラウン新聞のご購入を是非!』


 ……あ、ちなみに実況の人はクラウン新聞というこの世界の新聞社の人だったりする。これで後日の新聞の売り上げが跳ね上がるので毎回志願してしてくれているらしい。


(しかし、終わったなぁ……)


 剣舞会も終わり……まさか優勝するとは。原作とは違う展開になったが、俺のやるべきことも見えたし……この結果自体は、レイカ様の知らない展開を見ることが出来るかもしれないと言う意味では嬉しい。しかし、今日はもう疲れたので休みたいな。

 と、帰る前に倒れたヒカリちゃんをお姫様抱っこする。手加減できずに、ここまで完璧な一撃を入れるつもりはなかったので自分の手で医務室に運ぶことにした。まあ、ちょっとした罪滅ぼしと称賛みたいなもんだ。


「んんっ……」

「ゆっくり寝ていなさい。この決勝に恥じない戦いをしたのだから」


 そう呟いて運んでいく。

 悪役令嬢ではある。だが、それでも実力を示してレイカ様の予想を超えたヒカリちゃんに……ちょっとくらい優しくしてもバチは当たらないだろう。

 こうして、色々とあったイベントを無事に終わらせることが出来たのだった。


 そして、後日の新聞で思いっきりこの場面を魔法によって撮影されていたらしく……新聞の一面にされていた。

 そして街でレイカ様が実は王子様で……とかいう与太話が流行る事になったのは余談だ。

次の話で学園奔走編が一段落なので初投稿です

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