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決戦、ロウガ・キシドー 後編

『おおっとぉ!? 物凄い土煙で会場が見えません! アクレージョ様に致命的な一撃を食らわせたように見えましたが……しかし、アクレージョ様ではきっとまだなにかある! そう思わせる強さがあります! 土煙の中でどんな事が起きているんだぁ!?』


 実況の声を聞き流しながら攻撃を外したロウガくんに聞く。


「どういうつもりかしら?」

「こっちのセリフだ」


 本気で怒っている。ロウガの表情は、ゾクッとするレベルで凶悪だ。最初に見せたロウガくんのスマイルなんて非じゃない。本当に背後が歪んで見えるようなくらいの怒気を上げている。

 ここまで本気でキレているシーンなんて、初めて見たな……


「手加減をしやがったな」

「手加減なんて――」

「お前みたいな奴が、ここで手を抜くわけがねえ。諦める? お前に似合わねえ言葉だな。だってのになんだ? 途中からの気の抜けた動きは」


 ……気付かれてたのか。集中を切らしてしまったことに。それが勝負に起因することならここまで怒らなかっただろう。

 ロウガくんのこの怒りは……この試合に関係ない事で、俺が集中を切らしてしまった事に対する激怒だ。


「……事情があっただけよ」

「事情? 今、この試合の勝敗よりもか? アクレージョ、てめえは勝ちすら狙えねぇボンクラだったか!?」


 その言葉が、ぐっさりと突き刺さった。

 確かに……俺の目的はなんだ? レイカ様らしく生きて最高の最後を迎えることだ。己を貫き通すために、障害を全て叩き潰すのがレイカ様だ。だというのに……ルートが違うからどうするかで悩むか? レイカ様ならきっとこういうはずだ。


(「運命? くだらないわ。そんなもの、犬にでも食わせなさい……」って)

「てめえはこの学園にいるバカ貴族共とも、王になるとかでスカしてる野郎とも違う。目的を持って無理に挑むことに出来るバカだ。勝利って目的のためなら、どこまでもストイックに挑める無謀なやつだ」


 ロウガくんの真剣な声。その言葉に反論などなく聞き続ける。


「だからこそ、俺はお前と戦うのを楽しみにしてた。俺の退屈を。俺の不満を。俺の日常を吹き飛ばせるようなバカとの戦いをよ! お前は立場も何も気にせずに勝利だけを見てる女だから俺は期待していた!」


 そう言いながら、大剣を持ち上げて構える。それは、知らなかったロウガくんの内心。


「これがただ、油断した間抜けだったらそれでいい。トラブルに対処できねえボンクラでも構わなかった。ただ運の悪いやつならご愁傷さまだ。それでも、真剣な勝負の上でなら勝ちは勝ちだ。俺だって満足した! こんなクソッたれた事は言わねえ。だがなぁ!」


 まるでこの場にこれ以上の不純物は必要ないと言わんばかりに宣言する。 


「俺を見てねえ奴に勝って、何が嬉しいんだ! それはなぁ! 侮辱って言うんだよ! アクレージョ! てめえらしく、自分を貫き通して俺と戦え!」

(……!)


 そう言って、大剣を横薙ぎに振るうと土煙が晴れる。おそらく、さっきの言葉を伝えるためにわざわざ魔法を使って目くらましをしていたのだろう。

 ロウガくんは、こういう小技は苦手なはずなのに。レイカ様のために……だ。


『な、なんとぉ!? 無事だ! 二人共無事だぁ!! 一体土煙の中で何が起きていたのか!? 想像するしかありませんが、しかし分かることは一つ! まだ、我々はこの試合を見ることが出来るということです!』


 実況も歓声も遠くなっていく。集中して、もう他の音は聞こえない。今、俺ははっきりと目が醒めた。

 ――確かに原作再現は大切だ。それは俺の知っている最高のレイカ様としてのデッドエンドを迎えるために一番確実なルートだろう。だけども、いつからかルートがズレている事に気を取られていた。レイカ様が死ぬために、ルート通りに進める事を気にするようになっていた。


(それで、俺は最後にレイカ様に胸を張れるか?)


 張れるわけがないだろ! 原作でも、闇魔法という禁断の手段に手を染めても運命に抗おうとしたレイカ様だぞ!

 もしも、今日を負けて終わっていたら俺は後悔で自分を殺したくなっただろう。そう、いちばん大切なことを忘れていた。俺は、俺の推しとして恥じないように生きないといけないのだ! 何が原作再現だ! 中身が俺な時点でレイカ様と全く同じ通りにできるわけがないんだ!

 なら、俺に出来ることは一つだけ!

 

「……感謝するわ。それと、謝罪を」


 俺が、レイカ様を最高にプロデュースしてやる! レイカ様を貫き通して……そして最後に派手にバッドエンドを迎えてやる! ルートなんて洒落臭せぇ! 俺が一番納得できるレイカ様をプロデュースして……最後に派手に悪役令嬢として散る! これで良かったんだ! 悪役令嬢として散るのは譲らないけどな!

 だから、俺は目の前のことに全力でぶつかればいい。もしもなんて、後で考えろ!


「ロウガ・キシドー。貴方を私の敵として認めるわ。ええ、少し余計なことを考えてしまったわ……その非礼に対するお詫びとして……叩き潰してあげる」

「かはは、悩みがなくなった面をしやがって。まあいい。俺は譲られた勝利なんざほしくねえ。全力のお前をぶっ倒してえんだよ。だから、詫びは受け取る。最後まで全力を出したら許してやるよ」

「あら、優しいことね」

「知らなかったか? 俺は優しいんだ」


 その軽口にお互いに笑いを浮かべる。

 なんというか……奇妙な友情を感じていた。ロウガくんとレイカ様の間に、まるで歴戦の戦いをくぐり抜けた戦士のような。河原で殴り合いをして認めあった不良のように。

 そして、俺は笑みを浮かべながら内心で呟く。


(……いや、これなんのゲームだよ)


 ……うん。よく考えると乙女ゲームの展開じゃないよ。ギリギリ解釈しても不良漫画だよ。

 そうツッコミを入れつつ、しかし俺は本気を出して準備をする。最後に向けて、出し惜しみをせず剣に魔力を注ぎ込む。炎は今までのように大きくならず、剣に圧縮されていく。これは、消耗の大きい隠し玉だからずっと使わずにいた。なにせ、これを使ったら最悪気絶してもおかしくないからだ。


『おおっとぉ!? アクレージョ様の剣が赤く燃えている! しかし、今までの試合に比べれば炎も上がっていません! アクレージョ様も流石に魔力が尽きたかぁ!?』

「――いえ、あれは違います」

「む、どういうことだ? ノセージョ」

「あれは、今までと違って剣に魔力を込めて圧縮しているんです。だから、剣自体に使っている魔法は小さく見えますが……あの剣に込められた魔力の一撃を食らったら、私やカイトくんはひとたまりもありません。ただ、あそこまで魔力を込めていると長時間は保たないですし、捨て身の手段ですけども……」

「なるほどな……くそ、オレと戦ったときも出し惜しみをしていたというのか……!」


 雑音は全て聞こえない。この剣を維持するのには相当な集中力を使うからだ。だから、ここから先は集中を切るか魔力の限界が来れば剣の炎は消える。

 そして、ロウガくんも対抗するように魔法で強化している。体どころか、武器まで魔法によって強化を施している。多分、あの大剣は今の状態なら鉄だってチーズみたいに切れるだろう。だが、こっちだって同じようなものだ

 お互いに隠していた秘密兵器を使った対決。もはや、出し惜しみはない。技工も何も関係ない。お互いの力を振り絞った満足するための勝負。


「――」

「――」


 二人の間にもう声はない。喋るよりも、息を吐くよりも早く剣を打ち付ける。

 魔法が激突する衝撃で、魔法炎……魔力の火花が飛び散る。魔力同士の激突の衝撃で、クラッと意識が遠くなるが気合でつなぎとめる。武器は……壊れていない。なら、戦える。あちらも同じような表情をしているだろう。魔法が切れるまでは問題なく使える。

 ロウガくんを見れば、凶悪そうな笑みを浮かべながらも、全力疾走をしたかのように汗を流し息が荒れている。こっちも同じような状態だろう。回避なんてない。フェイントもない。ただ、魔法剣を打ち付け合うだけの無骨でバカな戦い。

 だが、それが最高にカッコいいんだ。


「うらぁあああああああああああああああああ!」

「ああああああああああああああああああああ!」


 そして、今度はお互いに全力を振り絞る叫びながらの応酬。小賢しい技術なんて存在しない。あるレベルを超えた魔法の使い手同士による、純粋な魔剣の激突には不純物は必要ない。魔法炎が飛び交い、もはや視認すら出来ないほどの恐ろしい速度で振るわれる剣。激突する音が響き渡り、会場から音を奪い去る。


(ああ、くそ! 辛い! キツイ! いつ終わるんだよ!)


 一撃で魔力が大幅に削られて脳を揺すられたような衝撃に、気絶しそうな精神をつなぎとめるように愚痴を言う。だけども、これだけ辛くても自然と口は笑みを浮かべていた。

 これは、俺だけが見れるレイカ様だ。原作で、どれだけ望んでも。どれだけ願っても見ることの出来なかったレイカ様だ。ロウガ・キシドーの本気を引き出したのは……レイカ様の力なのだ。

 どれだけ辛くてもキツくても、その事実だけでどこまでも耐えきれる。


(俺の推しを! こんな特等席で! 俺が輝かせれるなら!)


 後悔なんてない! そして加速。限界を超えて、超えて、超えて――

 そして永遠に思える激突の幕切れは、あっさりと。


「くっ……ああ!」


 最後の剣がぶつかる音と共に。レイカ様の体でも、ついに限界が来た。

 ついに魔力の限界が来た。赤く灼けていた魔法剣が徐々に色を失って普通の色に戻っていく。すでに魔力は枯渇して、油断をすれば今すぐにでも気絶してもおかしくないレベル。だが、それでも負けたくないと……レイカ様に勝たせたいと気力で立ち上がっていた。

 そしてロウガくんを見る。


「アクレージョ」


 ロウガくんは、笑みを浮かべて幽霊のようにやつれた表情をしている。最初の血色やら、威勢が嘘のように弱々しい。しかし、それはこっちも同じだろう。魔力の急激な消費によって意識も体も相当にダメージを受けている。

 しかし――ロウガくんの武器はまだ強化されているままで魔法が続いている。ああ、これが始祖魔法の使い手と持たない人間の違いなのか?

 レイカ様を勝たせられない悔しさが自分の心を焼いてしまう。もっと俺に力が……あの時、迷いさえしなければという後悔が……


「……私の、負けみたいね」

「いいや」


 そういうロウガくん。どういうつもりだと思い、ロウガくんを見ようとして……音に気づいた。まるで何かが砕ける前のような音。それは……ロウガくんの強化されていた武器が立てている音だった。


「――俺の、負けだ」


 それは……ちょっとした差だったのだろう。ロウガくんの強化魔法は、本来のスペックを超える能力を引き出させる魔法だ。

 肉体は魔力で保護されている。だから、壊れることはない。

 ――しかし、武器はどうだろう?


(ああ、もうすでに限界だったのか)


 ロウガくんの魔力量に武器が耐えきれなかったのだ。

 普段使わない技だからこそ、全力を注ぎ込んでしまって……それに耐えきれなかった。もしも実戦で、ロウガくんのために完璧に調整した大剣を使っていればこんな事は起きないだろう。だが、これは剣舞会で使っている剣はどこまで言っても剣舞会で使うための模造剣でしかない


「ああ……畜生……負けたくねえ……」


 悔しさをにじませた声で呟いて……そして――ロウガくんの大剣が粉々に砕け散る。そして、ロウガくんも限界が来たのか倒れ伏した。


『――な、な、なんとぉおおおおおおおお!? なんということか! この試合を見れたことは、私の人生でも最も貴重な瞬間となりました! アクレージョ様が! キシドー様との長く激しい戦いを耐え抜き! 武器を破壊し、勝利致しましたぁあああああ!』


 ――ああ、レイカ様。

 なんか……勝っちゃいました。

今回はちゃんと起きていたので初投稿です

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