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決戦、ロウガ・キシドー 前編

 試合が始まり、改めてロウガくんを見る。


(ゲームではロウガくんは一撃の強力なアタッカーだけど……)


 現実でもちゃんと反映されている。ロウガくんはとてつもなく巨大な大剣を武器にして構えている。人間くらいの大きさの大剣使いって嫌いな男の子とかいないだろってレベルでカッコいい。正直使ってみたい。

 物語の後半で王子様達と戦うことになるルートも多いのだが、ロウガくんはその中でもかなりの強敵として有名だ。油断をしていると超火力で一瞬で持っていかれる。懐かしいなぁ……セーブできないタイミングで普通にぶっ倒されて泣く泣くリセットする事になったなぁ……

 そして、ロウガくんが動き始める


「さあて、まずは小手調べだ」


 そういって、地面を蹴って飛び込んでくる。そのまま、剣を振り落とすロウガくん。

 当然ながら、ゲームと同じで小細工なしのガチンコスタイルだ! というか、人くらいの大きさのある大剣を物凄い速度で振らないで欲しい。めっちゃ怖いんだよ!

 だがレイカ様なら対処は楽だ。その振り下ろされた大剣を余裕を持って……よ、余裕を……


(うおっ!? 早すぎるって! アブねえ! ギリギリで避けれたけど当たる所だった!)


 本当に最小限の動きで回避する。ロウガくんの一撃は、大剣だというのに重さを一切感じさせない軽やかな一撃だ。そして回避したのを確認して切り返しですぐに大剣を次の動作に繋げる。

 くぅ、どんどんと次の攻撃に移るせいで回避に集中しないとキツイ! こちらも動きが硬直しないギリギリの回避をしなければ終わりだ。パワータイプはゲームの中だと一撃で終わりだが、現実のパワータイプは即死レベルの攻撃をどんどんと打ってくる。加減してほしい。


「いいぜぇ! よく躱せてるじゃねえか!」

「っ、小手調べ、でしょう? だから、当然よ」

「そのとおりだ! なら、もっと速度を上げて行くぜぇ!」


 あっ、軽口で返したら難易度に反映されるの? まって、難易度下げる選択肢無い? 正直、レイカ様の体でもめっちゃギリギリなんだけど!

 そして、ロウガくんは更に速度を上げて、本当に棒切れでも振り回しているように大剣を振り回して攻撃をしてくる。防御を捨てたガン攻めスタイル。ちょっとは加減しろ! 武器が壊れても負けなので、下手にこの剣で受け止めてるわけにもいかないのに!

 回避、回避、回避。達人の刹那の見切りみたいに見えるかもしれないが、実は少し当たっている攻撃もある。そのせいで体力が削られていくし、このまましていてもロウガくんの消耗は期待できない。魔法を使ってるくせに平気な顔してるし。この体力お化けが!


「おいおいどうした! 反撃しねえのか!?」


 くぅ、そうだよな。反撃しないとレイカ様じゃないよな! カイトくんのときと違ってこっちのほうが先に限界来るだろうし!

 だが、ある程度ロウガくんの呼吸は掴めた。だから、いけるはずだ。


「無粋なダンスだから、一人で踊りたいとばかり思っていたわ。なら、もっと優雅に踊れるように私がリードをしてあげるわ」


 そう言って武器を構える。今までの試合のように、温存して魅せプレイに派手に魔法を使うのとは違う。今回はガチの魔法の使い方をする。

 まず、剣を炎で強化。その魔力も自分の体力を削りすぎないラインで強化。牽制の風魔法は意味がないので考えない。魔力を込めて使ってもいいが、あの体力お化けに牽制してもどこまで効果があるかわからないし魔法に耐性が高いと無駄撃ちになるリスクが高い。


(まず、この大剣を振り回す攻撃が厄介なんだよな)


 デカい武器をとんでもない速度でひたすらぶん回せば強い。バカみたいな話だが、シンプルな戦法は強いのだ。シンプルな解決方法しか無い場合、その方法を使えないと手詰まりになるし。

 受けきれない超火力の攻撃の連続。牽制や小技は意味がない。ならば、どうやって対処するのかというと……


(知らなかったか? レイカ様は……攻めて攻めて攻めまくる御方なんだよ!)


 呼吸は掴んだ。いくら早く振るえても、大剣の大きさではどうしても使っている人間に死角や隙は生まれる。受ける防御を捨て、回避してすぐに攻撃を加えるシンプルな回答だ。

 ロウガくんの攻撃に合わせて先にこちらも剣を振るう。一歩間違えれば無抵抗で大剣でぶっ飛ばされるが、レイカ様がここでそんなミスはしない。回避成功して、魔法を纏った剣が体に直撃……動じないなこいつ!? フィジカルの強さに魔法に対する抵抗力が強すぎるんだよ!

 とはいえ、致命打にならないとしても、攻撃を受けることでロウガくんの動きが阻害される! 当て続ければいつか倒せる! つまり、お互いにやりたいことの押し付け合いだ。失敗したほうが即敗北のチキンレース。


「ぐっ、がぁ! くっ、は、ははは! やる、じゃねえか! アクレージョぉ!」

「はぁ、うるさい……わっ! 岩で、できてるのかしらっ! 体も、頭もっ……!」


 蝶のように舞い、蜂のように刺す! 実際にやってることは必死に回避しながら隙を見てチクチク攻撃してるだけだが、それでも効果はあるはず! だが、魔法で強化した剣で打ち込んでも全然止まる気配がない。本当にロウガくんの耐久力ぶっ壊れてるな!?

  

「ちっ……! ぐっ、当たらねぇ!」

(ロウガくんにダメージは入ってるっぽいけど、流石にこっちも回避しながら攻撃してるからこれ以上は魔力を込められないな……それに、回避しきれなくて掠ってる攻撃もあるからキツイ……)


 お互いに魔法を使って強化しての全力勝負。ギリギリの回避をしながらの戦いは傍目から見ればダンスでも踊っているような光景だろう。

 しかし、精神を限界まで研ぎ澄ませた攻防はどんどんとお互いの精神と体力を削っている。徐々にレイカ様へカスる攻撃が増えてきて、目に見えるような傷が増えていく。ロウガくんもダメージが無視できなくなってきたのか、攻撃を回避したり、こちらが反撃できないようにする動きも増えている。だが、そのおかげで一撃の威力が低くなり対処しやすくなっている。


「少しは、ダンスが……上手になったんじゃないかしら?」

「くっ、ははは! よく、言うぜぇ! お前だってキツイだろうになぁ!」


 軽口を叩いているお互いに呼吸が乱れてきている。

 ゲームだとHPが減ったり、MPが減ることでしか実感できないが、現実だと本当にキツイ! このままだと勝手に力尽きてしまいそうだ! RPGって現実だとめっちゃ大変なんだね!

 軽い現実逃避のような思考をしながらどんどん攻撃と回避を繰り返していく。思考するよりも先に体が動いていく。


「ちっ、クソ……じれってえなっ!」

「ええ、そうねっ……無粋な、ダンスも飽きてきたわ」


 開始から飛ばし続けていたが……決め手がない。お互いに全力だからこそ、下手にバランスを崩すと不利になると理解しているからだ。

 正直に言おう。もっと格差があるかと思ったが、予想以上にレイカ様はロウガくんに食らいついている。個人的には、レイカ様は最強だと思うがこの段階でのイケイケな王様候補で武闘派なロウガくんには流石に歯がたたないとばかり思っていた。


(俺の推し、すげえなっ!)


 感動してしまう。俺が知らなかったあらゆるものをレイカ様として体験している。どういう経緯で俺が死んだのかは知らない。

 でも、レイカ様として……こうしてこの世界に生きている。それだけで苦しくて辛いはずの戦いも楽しすぎる!


『――願い――だから――』

『――は――のために――』

(……なんだ? 今、何か思い出しそうな……うおっ!? あっぶねぇ!)


 何かを思い出しそうになったが、ロウガくんの攻撃によって現実に引き戻される。


「かはは! 疲れたかぁ!? なあ、アクレージョ!」

「あら、退屈すぎてアクビが出ただけよ」


 軽口で返答すると、心底楽しそうな表情をしてロウガくんは吠える。


「俺は楽しいぜぇ! 期待以上だ! お前みたいな奴がいたなんてなぁ! かはは! 俺の見ていた世界は狭かったらしい!」

「あら、そうなの。随分と視野が狭いのね」

「全くだ! だから、今が楽しくして仕方ねえんだけどよぉ!」


 そういいながら、なんと加速するロウガくん。本当にシンプルに強いな! どんだけ体力があるんだよ! セリフを言った後に強くなっていくってレトロゲーのボスかよ!

 そして回避……うおっ!?

 足を取られそうになり、無理やり体を動かして対処。くそ! 無駄に体力を消費した! ステージの地面がロウガくんの攻撃の余波で壊れている。魔法である程度保護されているはずなのに、どんだけ威力がある攻撃なんだよ。


(だけど、大丈夫だ。勝機は見えている。だから……ん?)


 攻撃を回避、そして反撃。回避しきれずにロウガくんが一撃を食らって呼吸を乱す。どうやら、クリティカルヒットしたらしい。よし、先が見えてきた。

 しかし、なにか大切なことを忘れているような。

 なにか……忘れている事……あ。


(いや、負けないとルートからズレるじゃん!)


 楽しすぎて忘れていた! ロウガくんとの戦いに集中してたけど、本来ならルート的にはここで負けるんだった!

 ……正直、続けても負けるかと言われると怪しい。というか、さっき勝機が見えてしまったって思ったし。このまま勝利してしまうと自分の知らない事だらけになる。そうすると、俺がどこまでレイカ様をやりきれるのか……ちゃんとデッドエンドにたどり着けるのかわからない。しかし……


(わざと負けるなんてレイカ様に失礼なことは出来ねぇ! くそ、どうする? どうすればいい? )

『この打ち合いは一体どこまで続くのかぁ! まるで前もって打ち合わせでもしたかのような完璧な攻防! これが演舞だと言われても納得してしまうでしょう! もはや私も息を呑んで見守っています!』


 と、実況の声が聞こえて観客席の大きな歓声が耳に入る。

 どうやら相当に集中していたようだ。悩みが集中を乱したせいで、本気で周りの音が聞こえていなかった。くそ、駄目だ。集中がどんどん切れていく。


「おら、どうした!」

「くっ!」


 一度リズムが崩れると対処するのは難しい。先程までの形成が逆転する。


(あっ!)


 集中が切れたまま回避のために足を踏みしめたことで、足場が砕けてバランスを崩す。それは、先程は対応出来たようなズレだが今の俺には致命的だ。


(――いや、これは仕方ない。()()()()の敗北なんだから……)


 そう思い、心の中で諦めがついた。だから、ロウガくんの攻撃を食らう覚悟を決めて最後の一撃を待つ。レイカ様……体に傷をつけてしまいます。ごめんなさい。


『おおっとぉおおおお!? アクレージョ様がバランスを崩したぁ! そして、そこにキシドー様の一撃が――』


 そして大剣はまっすぐにレイカ様の体に振り下ろされて――

 破壊音。土煙と共にステージが隠される。

 ――ああ、試合も終わりルートに……ん?


(……あれ? おかしい。痛くないし……無事だ)


 意識を現実に戻す。瞑っていた目を開けてレイカ様にダメージがないことを確認し、視線を目の前に向ける。


「――てめえ、ふざけんじゃねえぞ」


 そこに、攻撃を外したロウガくんが本気の顔で烈火のごとく……怒っていた。

仮眠をしたらガチ寝をしてしまい起きたら4時だったので初投稿です

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