初イベントを頑張ろう
さて、時は進んで剣舞会の当日。特に修行パートはない。そういうのはレイカ様は大丈夫だから。
ということで、三日に分けられて行われる剣舞会の最初の予選パートだ。
この時期はゲームだと剣舞会出場するキャラとは出会えなかったり、練習でコミュが進まなかったりする。場合によっては好感度下がるのでマインスイーパーと呼ばれている……タイミングで好感度上がったり武器を貰えるので余計に厄介なんだよな。
(まあ、俺としてはヒカリちゃんがレイカ様にストーカーしなくなったので一安心だったけど)
もしもこの時期までストーカーミサイルされていたら泣いてしまったかもしれない。剣舞会って結構大変なイベントなのでちゃんと能力上げしてくれないと困るからね……俺もプレイしてた時に普通に能力値足りなかったりミスってゲームオーバーしたし。
まあ、今回のヒカリちゃんは当日になるまでちゃんと練習をしていたようでこちらに来ることはなかった。ルート的な意味でも、俺の精神安定的な意味でも一安心である。
(しかし……こうしてみると、剣舞会って本当にお祭りだなぁ)
ゲームでも、盛り上がっているのを見ていたが……実際に見ると本当に熱量が凄くて圧倒されてしまう。
まあ、ゲーム内でもトップクラスの学校。それも、次代の王様候補が集い学んでいるのだ。その学校の優秀な生徒が、それぞれ学んだ技術を使って模擬戦闘を行う。そんなの金を払っても見たいくらいだろう。そりゃあ盛り上がる。
さて、とりあえずは初日がどうなるかだ。会場は中庭近くにある決闘場というリングがあり、そこで対戦が行われる。ここで初日は16人に絞られて、二日目で残り4人まで戦う。そして三日目には大盛りあがりの準決勝、決勝というわけだ。張り出されたトーナメント表を確認。
(んー、相手は……特に固有キャラってわけじゃないな。モブ生徒だ)
まあ、一戦目でいきなり王子様戦が始まったらこう……ストーリー的に台無しだからな。一応ヒカリちゃんの対戦表も見ておこう。
……あー、そうだそうだ! ゲームでもヒカリちゃんの初戦の相手は固定だった! ここでも同じなんだ! ちなみに名前はカーマセという貴族だ。
と、その話をしていると大声が聞こえてくる。
「おやおや、僕の相手は……ははは! 平民上がりかい! ふっ、出来るのならアクレージョ家にでも相手をしてもらいたかったのだがねぇ! このカーマセの名を国中に響かせてやろうじゃないか!」
あ、いた。カーマセ。原作でなんでか聞こえてきて謎だったけど、シンプルに声がデカかったんだ。
見た目はスマートでカッコいい貴族。さっきのような調子に乗った発言はレイカ様も流石にお怒り……とはならない。というのも、コイツは面白すぎるんだよな。だって……
(能力値、初期のヒカリちゃんでも勝てるくらいに弱いんだよな……)
もう名前から分かる通り、噛ませなのだ。一体どうしてこれに参加できたんだというのも不思議なレベルだ。いや、これに関しては原作でもいまいち確定情報がないので分からない。なんでコイツ参加できてるんだ……? 深く考えるとなんか怖いので辞めておこう。
と、そこで聞き覚えのある声がかけられる。
「レイカさん」
「あら、ちゃんと準備はしてきているようね」
ヒカリちゃんだ。普段よりもマジメで緊張した声。いきなりレイカ様に話しかけるのは原作にない展開だが、これまでの関係性が違うので誤差でいいだろう。
「はい。どこまで出来るかわかりませんけど……私、勝ち上がって決勝にたどり着いてみせます」
「あら、私は上位に残れば、特別に許してあげると言ったのだけれども?」
「それだけじゃ足りません。レイカさんに認められるためには、勝ちたいんです。だから、決勝を目指します」
そう言って決意の表情を浮かべる。
……あれ? めっちゃ張り切ってるな? 予想外だけども、まあ大丈夫。剣舞会で勝ち進むルートも一応あるのだ。なのでこれは想定内。
「そう、せいぜい私の足元に追いつけるようにすることね」
「はい」
と、そこでカーマセがやってくる。
「おやおや! この僕を無視して盛り上がらないでいただけるかな? それにだ――」
そういって、ビシっとレイカ様を指さす。何そのバレエダンサーみたいなポーズ。面白いんだけど。
「アクレージョ、君と戦うのはこの僕だ! ふふ、今日という日にこの国はカーマセの名を覚えることになるだろう!」
「あ、あの……今日はよろしくおねがいします」
と、そこでヒカリちゃんが挨拶。
独特の世界観をもっている人に対しても礼儀正しいな……ゲームでもこの変人カーマセに同じように挨拶するシーンがあったので原作通り。思い出を間近で見れて感動だ。
「おやおや! いい挨拶だね! ふふ、礼儀正しいことだノセージョくん! だが、今日は僕のこの華麗なる剣技に敗北することになるだろうね!」
「……私も、負けませんから!」
「ははは! なるほど、強気じゃないか! だが……いいだろう! 後は試合で語るとしようじゃないか!」
そう言って颯爽と去っていくカーマセ。演出見れたら背景にバラとか散ってるよ。面白いなぁ……これでめっちゃ弱いんだもん。
「……まあいいわ。結果だけが全てよ」
「はい! きっと、戦ってみせます!」
そういって、お互いに分かれる。
……カッコいい~! レイカ様とヒカリちゃんのこのやり取り! 原作になかった気もするけど、カッコいいから問題なし! いやー、主人公とボスのこういうシーンが嫌いなやつは居ないでしょ! いない!
と、興奮しすぎた。ここからちゃんと、原作再現をしつつも柔軟に対応をしていくぞ!
決意したが特に変なことは起きずに、自分の試合が始まる。まあ、イベントが起きまくる主人公がおかしいんだよね……本来……
さて、ゲームのときはRPGパートだった。しかし、ここは現実なのでそうはいかない。普通に模擬刀を使って魔法をまとわせてのガチンコ勝負だ。オーソドックスなのは剣に魔法を纏わせて戦ったり、剣から魔法を飛ばして戦う。中には魔法を使ってトラップを仕掛けたりなど、現実ならではの戦い方があるのでとても面白い。
まあ、とはいえ……
「ま、参りました」
「そう」
相手の武器を破壊して這いつくばらせる。降参を聞いたので、剣を下げて颯爽と試合会場から去っていく。
まあ語ること無く、普通に剣の腕前と魔法で見事に武器を破壊して勝利だった。気絶するかギブアップ。もしくは武器を破壊すれば模擬戦は終了になる。レイカ様これでも王子様候補に勝てるポテンシャルあるやばい人だから早々負けねえからな!
『さすがぁ! アクレージョ様の勝利だぁ!! 勝利は当然と言わんばかりの風格! その格好良さには、学園の生徒も歓声の黄色い声が止まらない!』
実況の声と観客の歓声を聞きながら、控室に戻る。
実況もいるので本当にショービジネスって感じだ。一年の頃は権力の地盤硬めに忙しかったので参加していなかったが、こうして参加するとお祭りという感じで楽しい。時間が許せば参加したかったなぁ。
「やあ、アクレージョさん」
「あら、シルヴィア様。見ていらしたのね」
お、ここでシルヴィアくんがやってくる。久しぶりだなぁ。いきなりどうしたんだろう?
「一年の時には参加していなかったのに、今回は参加すると聞いて驚いたよ。興味がないとばかり思っててね」
「あいにく、一年の時は家のことで忙しかったの。でも、今は落ち着いたから参加したまでよ。意外なのは、こちらもよ。シルヴィア様はてっきり参加するとばかり思っていたわ」
「はは、かわいい一年に頼まれたら出番を譲るべきだと思ってね。貰うべき栄冠は一年の頃に貰ったよ」
優秀が服を着て歩いてるような事を言うなぁ! うーん、イケメンだ。
しかし、栄冠ということは……一年の頃の剣舞会優勝者はシルヴィアくんなんだ。これは知らなかったので素直にブレファンとして嬉しい情報だ。意外と過去の情報ってないんだよね。その分考察とか想像が出来ていいんだけど。
「かわいい一年ね。それは、オウドー家かしら?」
「はは、ご明察だ。カイトくんは小さい頃から知ってるから、つい贔屓をしちゃってね。まあ、今年は運営側として頑張らせてもらうよ」
「そう」
「それで、アクレージョさん。……剣舞会では一体何が目的なんだい?」
ふと、マジメな表情で聞いてくるシルヴィアくん。
おお? 何が目的って言われても……イベントですって言ったらダメだよね? うん、ダメだな。
「あら、栄冠を取るだけでは駄目かしら?」
「十分にアクレージョさんは学園で栄冠を持っていると思うけどね。僕から見て、十分すぎるほどに」
……えっ、なになに? どういうこと? 八百長しろってこと? いや、違うよね?
むう……分からないがここはとりあえずレイカ様っぽく……
「私は、私が納得のできる栄冠を欲しているだけよ。私にはまだまだ実力も名声も足りないわ」
「なるほど……アクレージョさんは……」
そして言いよどむ。シルヴィアくんにしては珍しいな?
「とても上を見ているんだね」
「ええ。足りないものを自覚すれば何もかも必要だわ。そして、剣舞会の栄冠も私には必要なだけよ。この答えでご満足かしら?」
そういい切る。まあ、ぶっちゃけるとシナリオ的に必要なんだよね!
原作的には「気に入らない主人公に現実を叩き込むために参加した」みたいな側面あるけど、それ言ったらダメだしなぁ……悪役令嬢をするのも面倒くさいのだ。
「うん、色々と答えてくれてありがとう。影ながら応援してるよ」
「あら、ありがとう」
そう言って去っていくシルヴィアくん。
……何だったんだろう? まあ、シルヴィアくんはそんな悪い子じゃないし大丈夫だろう。
「さてと……ヒカリの試合でも見に行こうかしら」
正直暇だし。他のキャラの剣舞会を生で見たいので、観客席に歩いていくのだった。
ちなみにその後、カーマセは普通にヒカリちゃんにふっとばされて一本負けしていた。
――控室から出て歩きながら、僕はアクレージョさんの言葉を思い返しす。
彼女の周りで使っている傭兵や、最近の動き。秘密裏に調べてた情報と合わせて確信する。
(……彼女は名実ともに、栄誉を欲している。やはり彼女がほしいのは王の座だ)
彼女が学園で栄誉を手に入れるほど、彼女の名前が認められるほどに僕の危惧する状況が生まれていく。
それは、彼女も王になってもいいのではと世論が動くことだ。決して変化が悪いわけではない。だが、国内では先王の死から色々な事情が合わさり酷く混乱している。その中でアクレージョという、嵐のような人間がかき乱す事は……不確定要素すぎるのだ。
彼女の存在は、この国にとって……毒か薬かも分からない。薬であればいいだろう。だが、もしも毒であるなら……今まで守ってきていたものが壊されるかもしれない。
彼女はあまりにも優秀で危険すぎるのだ。揺らぐ国では、彼女という嵐に耐えれない。
(だから、僕も覚悟を決めるべきなのかもしれない)
平和に学園で過ごしていたかった。それでも僕は自分たちの国を守るために……彼女の目的を阻むために戦うという覚悟を決めるべきなのかもしれない。
10話目に到達したので初投稿です




