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キアランさんの話の中で気になってしまったことを聞いてみる。
「あの、【魔国】って何?」
ディザとのお勉強でも聞かなかった【魔国】とは何なのか。
「何て説明すればいいかな…【魔国】は、勉強の時に見せたスウェンターレの地図のずっと北側に有る大陸で僕たちとあまり接触の無い魔族の国なんだよね」
世界樹が無いためディザも【魔国】については詳しく知らないそうだ。
「あそこは、世界樹が無くてもマナが多く存在する大陸なんだ。スウェンターレの中でも飛び抜けて魔力の高い魔族が住んでいて魔獣もこの辺に居る物とは比べ物になら無いほど強いんだよ」
「世界樹が無くてもマナが多いと言うことは、土地が豊な国と言うことですか?」
アイテール様の説明にディザが興味津々だ。
「そうだね。土地も豊かだし、魔王が絶対的な王政を敷いているから争いも無い。ただし、魔族は魔力量が多すぎてね…普通の魔力量の人たちからすると恐怖を感じてしまうんだよ」
「魔王様は私も恐怖で震えが来るほどの魔力量をお持ちでした。両親もリリアンを嫁がせたくなかった理由の1つだったと言っていましたから」
キアランさんもアイテール様の話に同意している。
私も魔力量が多いと言われているけど?と思ったら世界樹の愛し子だからか魔力の質が穏やかで怖くないそうだ。
「リリアンさんは、魔王様を怖がっていたの?」
私の素朴な疑問にキアランさんが表情を柔らかくした。
「いや…リリアンは、魔王様の元へ嫁ぐことを心待ちにしていたんだ。魔王様から届く手紙をとても大切にしていた」
「つまりはだ。今回の騒動は、エルフの王とそれを唆した【魔国】のジョーカー。それからお前の両親と【空の国】の前皇王が元凶と言うことか。まったく、レイラを巻き込まないで欲しいよね」
今回の後始末をしなくてはいけないアイテール様が面倒くさそうにため息を吐いた。
「被害者は、【水の国】のイネス、虹の妖精のシェル【獣王国】のジェラルド【空の国】のキアラン。それから、レイラの5人だね。加害者の首謀がエルフの王で共犯者が【魔国】のジョーカー。それから【空の国】の前皇王とリリアンの両親にも責任あり…と」
アイテール様は、何処からか書類を出すとサラサラッと何かを書いて「あぁ…そっか、面倒くさいなぁ」と呟いてルミエールにヴィクトリアを呼んでくるように頼んだ。
「ヴィクトリア嬢をお連れしました」
ルミエールがヴィクトリアを連れてくるとソファに座るようにアイテール様がすすめる。
「失礼しますわ。あぁ、キアラン…無事だったのね」
キアランさんの顔を見るとヴィクトリアは涙ぐんで「良かったわ」と呟いていた。
「ヴィクトリア嬢。感動の再会のところ申し訳ないが、幾つか質問に答えてもらえるかな?」
アイテール様が苦笑いしながらヴィクトリアに声をかける。
「失礼しましたわ。何でもお聞きください」
スッと表情を引き締めてアイテール様と向かい合うヴィクトリアは、以前よりも凜としている。
「突然ですまないが、ヴィクトリア嬢は【空の国】の時空牢の鍵を前皇王から引き継いでいるかい?」
「ええ、勿論ですわ」
おっとぉ、問題が1つ解決しそうだね。
「その時空牢の中に、そこに居るキアランの妹君が入れられているのはご存じだろうか?」
アイテール様の質問にヴィクトリアが絶句する。これは、知らないのかもしれない。
「そんな…、申し訳ありません。私が父から引き継いだ時空牢に入れられている者のリストにはリリアンの名前は有りませんでしたわ」
小さく震えながら「キアラン、ごめんなさい」と謝るヴィクトリアの肩をキアランさんが抱き寄せた。
「私もヴィクトリアは知らされていないだろうと思って聞いていなかった」
ヴィクトリアを巻き込みたくなかったとキアランさんが説明していた。
「そんな気はしていたんだけど。一応、確認をしておこうと思ってね。ちなみに、時空牢の管理は誰がしているの?」
「叔父様が、父の弟に当たる王弟殿下が父が生前の頃から管理なさっています」
あぁ、あの空気読めないオジサンか…。
「ヴィクトリア嬢とキアランは、ヴァンと一緒に【空の国】へ行ってリリアン嬢を保護してきてくれるかな?」
ヴァンが一緒なら、いざとなった時にギルドで匿えるしね。
「【エルフの国】は、オルデニルの退位は確定してクリストフ王太子が即位することは、さっき決めてきたから。後は、オルデニルの処罰と賠償問題だから…ルミエール。残って何かあったら連絡入れてね」
ヴァンとルミエールが「承りました」と礼をするとヴィクトリアとキアランさんを連れて出ていった。
「レイラとディザは、私と一緒に魔王に会いに行くよ。ジェラルド、君は一旦、国へ戻って国王と共に待機していてね。緊急事態だから我慢して」
ジェラルドが不満気にしているが、アイテール様は無視している。
「今から【魔国】へ行くの?」
「リリアンの事を教えてあげないとね。魔王が暴走しても困るしさ…。それから、ジョーカーのこともあるからね。きっちり、罰を与えてもらうよ!レイラに手を出したんだから覚悟してもらわないとね」
アイテール様が黒い笑みを浮かべてディザとアイコンタクトしてる…。コワッ!
「じゃあ、行こうか」
ジェラルドに見送られていつものごとくパッと移動した先は謁見の間だった。




