70
甘味処を出ると調べておいた文房具屋さんに向かった。この文房具屋さんには、沢山の万年筆が売っているんだよね。
「へぇ、綺麗な万年筆がけっこうあるね」
ディザとショーケースを見ていると、深緑の万年筆を見つけた。銀色で細工が入っていてとても綺麗だ。
「ねぇ、ディザ。この万年筆どうかな?」
「うん、いいと思うよ。レイラの瞳の色と髪の毛の色が入っているから大喜びすると思うよ」
ディザとコソコソと相談をしてお店のおじさんにプレゼント用に包んでもらう。実は、アイテール様に日頃の感謝を込めて万年筆をプレゼントしたいとディザに相談をしていたんだ。
「レイラ、あの万年筆。お揃いにしない?」
「わぁ、綺麗だね。インクは何色にしようかな」
ディザが指差すショーケースの中を見ると、少し小さめの薄い緑とサーモンピンクの色違いの万年筆を見つけた。蓋には綺麗なデザインが施されている。インクもカラフルにいろいろな色があって迷っちゃう。
一番の目的であった万年筆が買えたから後は、自分の欲しかった物を探してお店の中を見て回る。ノートと便箋も結構な種類が置いてあり、気に入ったデザインのものとアルバムも数冊購入した。
「あっ、可愛いテープあった」
マスキングテープとのりを見つけて欲しいものは一通り揃った。本当は、いろんな色のペンが欲しかったけどそれは無かったから色鉛筆を購入した。
「レイラは、万年筆の色は何色にしたの?」
「紺色にした。ディザは?」
「僕はね、黒と紺の万年筆はあるから。濃い緑色にしてみたんだ」
そんな色もあったんだ!と、盛り上がりながらお店を出ると。買ったものをアイテムボックスにちゃんとしまう。ホント、便利だよね。
「さて、お買い物は終わったかな?」
「うん、皆のお土産も買えたし欲しい物も買えた」
アイテール様に報告すると、お昼御飯を食べに行くことになった。
「お昼は、鰻屋さんを予約してあるんだ」と言うディザの案内で鰻屋さんに行った。
「レイラが、鰻を食べたかったとは知らなかったな」
とアイテール様に言われてしまったが、さすがにウェスタに鰻の蒲焼きを出してとは言えないもん。
「鰻は家庭料理じゃなくて、やっぱりお店で食べるものなの」
と、説明すると「他には何か食べたいものある?」と聞かれる。
「うーん。カレーライスとかラーメンが食べたいな」
そう言うと、アイテール様が「カレーライスは、トウガの旅館で食べれるよ」と教えてくれてビックリした。日本人の転移者の奥さんが作ってくれたのかな。
「作り方教えてくれるかな?」
「宿に帰ったらトウガに聞いてみようね」
そんな話をしていたら、お料理が運ばれてきた。
「鰻重になります」
御盆の上には、鰻重にお吸い物、お付けものにお浸しが乗っている。
早速、鰻重の蓋をパカッと開けると鰻のタレの匂いがフワリと香る。
「はぁ、おいしそう。いただきます」
鰻を一口大にお箸で切るとタレのかかったご飯と一緒に大きな口で頬張る。
「おいしいぃ」
頬っぺに手を当てて余韻に浸っていたら皆に笑われてしまった。すこし皮が焦げた香ばしさにタレが良く合う。気持ち硬めのご飯も私好み。
「ディザ、ここのお店を選んでくれてありがとう。凄く美味しい」
ディザにお礼を言うと「良かった」とニッコリ笑ってくれた。せっかくの鰻重だったけど、5歳児に完食は無理だった。残りは、ヴァンがしっかりと食べてくれた。
「さてと、一旦旅館へ戻るけど大丈夫かな?トウガが奥さんを紹介してくれるみたいだよ」
トウガさんの奥さんは、日本からこの世界に転移してきた人だ。
「昼過ぎなら時間があるからって言ってたんだよね」
アイテール様に抱っこされてお宿に向かう。その間、どんな人かずっとドキドキしていた。
「オゥ、帰ってきたな」
お宿に戻るとロビーにトウガさんが待っていた。そして、その隣には。
「練り香水を作ってくれたお姉さん!」
なんと、オンディーヌ様とティターニア様へのお土産にと練り香水を作ってくれたお姉さんが居た。黒髪に黒目のお姉さんは確かに日本人顔をしている。
「おや、イオリにもう会ったのか?」
トウガさんに言われてルミエールがお店での事を説明してくれた。
「そう、あなたがレイラちゃんだったのね。私は、伊織って言うの。よろしくね」
「レイラです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると「お人形みたいに可愛いわぁ」とギュッと抱き締められてしまった。
「悪いな、家には息子しか居なくてな」
つい最近、何処かで聞いたような話だね。
「話は、部屋でしてもらおうかな」と、アイテール様が言うので泊まっている離れに移動することにした。




