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65 狐のお宿

「ようこそいらっしゃいました」


アイテール様が予約したのは、温泉旅館だった。和洋折衷の黒を基調としたモダンなお宿で狐族領のメインストリートの突き当たりにあった。お宿までの道は、世界樹の世代交代に文字通りお祭り騒ぎだった。


「こちらの離れのお部屋になります」


案内された離れのお部屋…すっごく広い。よしっ、お部屋の探検をしよう。5歳児がワクワクしはじめる。


「お夕食は、お部屋にお持ちしますね」


案内のお姉さんが出ていくのを見届けて「ヨーイ、ドン!」とお部屋の中を走り回る。


探検の結果。豪華な内風呂と景色の良い露天風呂のお風呂が2つアメニティも匂いが選べて嬉しい。寝室の2部屋は、お布団が敷いてあった。残りの1部屋は、ベッドだった。広いリビングはソファがあってゆったり出来そう。小上がりの和室があって畳の良い匂いがする。小さなキッチンまで付いていて至れり尽くせりだ。全体的に和風の物が使われていて落ち着く。


「探検は終わったのかな?」

「うん。とっっても広かったの!」


アイテール様に報告すると「お仕事のご褒美だからね」と教えてくれた。


「まだ、夕飯までには時間があるから。少し旅館の中も探検に行こうか」


アイテール様の提案に「行くー!」と即答して、本館のロビーに行ってみる。すると、入り口付近に黒い着物に銀の月の紋様が入った浴衣の男の人が立っていた。


「あれ?トウガ、今日は居ないって言ってなかったっけ?」


アイテール様が声をかけるとトウガと呼ばれた人が「オゥ」と手をあげてこちらに歩いてきた。


「思いの外、仕事が順調に終わってな。出迎えには間に合わなかったが、よく来てくれた」

「この子が、私の娘のレイラだよ。今日は、お仕事を頑張ったからご褒美にここへ来たんだ。狐族の領へ来るのをずっと楽しみにしていたんだよ」


アイテール様が紹介してくれたからご挨拶する。


「レイラです。よろしくお願いします」


すると、大きな手で頭を撫でてくれる。


「此方こそ宜しく頼む。俺は、狐族の長をしている稲荷(トウガ)だ。狐領を楽しみにしてもらえたなんて嬉しいね」


ニカッと笑うと犬歯が見えるけど、怖くはない。トウガさんは黒い髪の毛に金色の瞳をしている大きなお兄さんだ。狐の耳も黒くて艶々した尻尾もある。


「レイラは転生者でね。まぁ、私が連れてきたんだけど。日本の生まれなんだよ」

「へぇ、それは僥倖。俺の番と同じ郷里だな、後で紹介しよう」


日本出身の人が、簡単に見つかった!きっと、アイテール様は、それも含めてここに連れてきてくれたんだね。


「今夜は、初夏の会席料理を出すからな。堪能してくれ」


そう言うと、トウガさんは番頭さんに呼ばれて行ってしまった。


「アイルパパ、ありがとう」

「うん?パパは、なにもしてないよ」


すっとぼける姿が可笑しくて皆で笑ってしまった。

ロビーのおみやげ物屋さんを覗いて、お店のおばちゃんに美味しい甘味処をいくつか聞いて明日行ってみることにした。他にも和風庭園があって鯉に餌をやったり、小さな御食事処を見つけたり、温泉浴場がいくつもあって驚いたり。沢山、見て回ってお部屋に戻った。


「レイラ、先にディザと一緒に露天風呂に入ると良いよ」


露天風呂は、部屋から飛び石を渡った先にある。ちゃんと脱衣室があって洗い場もあるから体を洗ってからディザと露天風呂に浸かる。


「ふぁ。気持ちが良いねぇ」


日本庭園の木々がシャラシャラと音を立てて耳に心地良い。


「僕は、温泉は初めてだな。外のお風呂は気持ちが良いね。家にも露天風呂作ろうかな」


ディザはフフっと笑いながら、2階の裏側にバルコニー風の露天風呂とか良いね。と独り言を呟いている。


ゆったりと温泉を満喫したらのぼせない内にお風呂を上がる。浴衣をルミエールに着せてもらって小上がりで麦茶を貰って飲む。畳にゴロンと寝転んだらすぐに眠ってしまったようだ。


ーーーーー


許さない…



黒い生き物…傷つけるアイツ…



瑠璃色の瞳…悲しまないで…



私が…アイツを…



×××…から…


ーーーーー


-Saidアイテール-


フッと目を開けたレイラは、視点の定まらない目からツウッ涙を流す。目をスッと細めると殺気が溢れた。


「レイラ、もう良いから。もう少しお昼寝しなさい」


レイラを抱き寄せて眉間にキスをすると、フゥと眠りについた。


ルミエールとヴァンがサッと部屋を出ていった。夢の干渉者の足跡を追跡に行ったのだろう。


最近、闇に蠢く者たちの報告が多くなってきた。今日、オンディーヌに確認したところどうやら目的地は【水の国】ではなく【エルフの国】ではないかという話になった。


【水の国】は、国の周りを水竜が護っているというのはお伽噺ではなく事実だ。彼の者が居る限り易々と闇に蠢く者は入り込めないだろう。そうなると、【エルフの国】は何の目的でそのような者を国へ引き入れようとしているのか?今日、チラリと見掛けた【エルフの国】の王族に変わったようすは見られなかった。


ヴァンとルミエールにも、オンディーヌの見解は伝えてある。【エルフの国】で働くルミエールが内部深くまで入り込めるだろう。もうしばらく、この穏やかな一時にレイラの昼寝を見守ることとしよう。

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