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ヴィクトリア様の瞳からスッと涙が一筋流れ落ちた。そして、真っ直ぐ私の目をキッと見て答えた。
「私は、国民に対する義務を全力で果たす所存です。私の正しい事を成し遂げようとする意志は誰にも負けないと信じておりますわ」
同じ名前の女王様も同じようなことを即位の当日の日記に書いていたな。とぼんやりと考えていた。
オンディーヌ様が立ち上がってパチパチとヴィクトリア様に拍手を送る。アイテール様は、私がお膝に居るからそのままだけど拍手をしている。
周りの王族達も同じように拍手を送っている。
「レイラ、彼女の額にキスをしてあげなさい。頑張ってと言う気持ちを込めて」
アイテール様に言われてヴィクトリア様の側へ行くと私の前に跪いた。
《彼女の未来が明るいものでありますように。どうか、幸せな事が沢山ありますように》
日本語で祈りを捧げて跪いたヴィクトリア様の額にキスをする。すると、私の周りに花弁が降り注いだ。懐かしい桜の花弁がヒラリヒラリと舞い続ける。
「へぇ、レイラの祝福はとても綺麗だねぇ」
「えっ?祝福?」
アイテール様に言われて、これが祝福だと初めて気づいた。
「彼女は、きっと誰よりも心優しく強い女王になれるよ」
「良くできました」とアイテール様に誉められて5歳児は、満面の笑みで大喜びです。
「レイラ様、ありがとうございました。自分の弱かった心に気づくことが出来ました。これからは、国民の為に私が出来ることを全力で頑張って行きます」
そう、気合い十分のヴィクトリア様にオンディーヌ様が声をかける。
「あら、そんなに肩に力が入っていてはすぐに息切れしてしまうわよ」
「そうね。たまには、気心知れた女友達と息抜きも必要よね」
獣王国の王太子妃のロシエル様も話に乗っかってきた。ここは1つ提案をしてあげよう。
「女友達と食事やデザートを食べながらお話をすることを女子会っていうんですよ」
そう言うと、第2王子妃のマリエンヌ様が「それ楽しそうね」と参加を表明する。
「基本的には恋バナと愚痴を延々と話すんですけど。夜に女子会をするならパジャマパーティをおすすめします」
オンディーヌ様が「恋バナって何?」と聞いて「パジャマパーティについてもっと詳しく」とロシエル様が真顔で詰め寄ってくる。マリエンヌ様は、ヴィクトリア様の手を握って「いつ、いらっしゃる?」と微笑んでいる。
「これで、彼女は【獣王国】と【水の国】の後ろ楯が出来たね」と、ディザが黒い笑みを浮かべて呟いた事はアイテール様だけが気づいて頭をコツンッと叩かれていた。
「お疲れ様」
と、アイテール様に抱き上げられてグッタリと力を抜く。
「パパ、ギュッてして」
「うん、いいよ。ギュー」
アイテール様に抱き締められて何だか泣きたいくらい幸せを感じた。
「アイテール様にディザ様、愛し子様。今夜は、お帰りになると聞いておりましたが、いかがなさいますか?王宮にお泊まりになりますか?」
王太子のサンテュール様が聞いてくる。
「また、日を改めてレイラがお邪魔することになると思うから。今日は、遠慮させてもらうよ」
アイテール様がそう答えると「お待ちしております。ロシエル達もきっと喜びます」と言って、戻っていった。出来る王太子は、引き際もスマートだ。
「さて、レイラのお仕事も無事に終わったし。私たちは着替えて狐族領へ遊びに行こうか」
アイテール様がそう言うとディザが「ビーストに着替え用の部屋を借りています」という用意周到な返事が返ってきた。
世界樹の中には、ちゃんとお部屋が出来ていた。軍人ぽいイメージに似合わず、カリフォルニア風の爽やかサーフ系インテリアでちょっとビックリしたけど印象がアップした。
アイテール様が着替えに用意してくれたのは、なんと和服だった。
私の着物は、水色に古典花柄で帯は、赤と白と紺の幾何学模様。帯揚げと襟は、紫色。草履は濃い赤の鼻緒で大正ロマン風の可愛らしい仕上がりだ。
着付けはルミエールがチャチャッとしてくれて驚いた。
皆の格好は、アイテール様が着流しにトンビコート。ディザは、黒シャツに蝶ネクタイ。濃い緑色の着物に茶色い袴、ブーツ。ヴァンは、濃いグレーの着流しの下に細身のパンツを履いてブーツにインして、首もとには黒いスカーフを巻いている。ルミエールは、薄い水色の着流しに羽織を着て、草履を履いている。
最後に、私とディザとアイテール様はルミエールから渡されたカフスを耳に付けて外れないように魔法をかけてもらう。
今回は、黒瞳黒髪で三人が親子に見える。アイテール様が感激したのは、言うまでもない。




