52 【空の国】のギルド
「はい、レイラはこれを着てね」
ディザがヴァンと相談して用意してくれたのは【空の国】の服装。スチームパンク風の衣装だった。
白のドレスシャツに黒のプリーツスカート。コルセットまではいかないけど、金具が沢山付いている幅の広いベルト。それとボレロ風のジャケットだ。金具で留めるタイプの黒いニーハイを履いて白い手袋をしている。
ディザは、黒のドレスシャツに濃い緑色のハーフパンツとベストを着て手袋をしている。どれも、金具が多い。頭にパイロットゴーグルを着けている。
「二人とも、このカフスを耳に付けて行ってくださいね」
今日は、研究所に行くと言うルミエールが私とディザにカフスをくれた。
「レイラのは、私がつけましょう」
ルミエールが耳にカフスを付けて、外れないように魔法をかけてくれたみたい。
「クスクス。ほら、鏡を見てごらん」
ルミエールに言われて鏡をみると
「目の色が紫になった。あっ、お耳が付いてる」
なんと、目の色が紫色になっている。更には、狼の耳が頭の上にピョコピョコと動いている。元の耳があったとこら辺を触ると長い耳がある感触がした。
「ちょっとした光の幻影魔法ですよ。これでヴァンの子供に見えるでしょう」
クスクス笑いながら説明をするルミエールにヴァンが「何やってんだよ」と笑っていた。
「レイラ、尻尾も付いてるよ」
ディザに言われて後ろをみるとちゃんと尻尾もあって、感触もある。
そう言うディザも、私と同じ狼獣人の子供と言うスタイルだ。
「まぁ、二人ともちゃんと兄妹に見えるからいいか…」
と、諦めたヴァンが私を抱っこする。玄関でブーツを履いてから転移をするつもりらしい。
「俺の借りている部屋に転移するからな。じゃあ、行ってくる」
ヴァンが見送りに来てくれたルミエールに手を挙げる。
「ルミエール、いってきます」
私も手をあげてバイバイする。
「いってらっしゃい、困ったことがあったら私かヴァンを呼ぶんですよ」
ウンウンと頷いてヴァンの上着をキュッと掴む。私を抱いているのとは反対の手をディザと繋ぐと「行くぞ」とヴァンが言う。
《コーディネートチェック…テレポーテーション》
フワッと胃が浮いた感覚が一瞬したと思ったら、違う部屋に居た。
「着いたぞ。ここが、俺の部屋だ」
見渡すとレトロな家具と機械仕掛けの道具が置かれていて、あまり生活感が無い部屋だった。
「ここは、ほとんど寝るだけだからな。面白いものは特に無いだろう。今日は、さっさとギルドへ行くぞ」
そう言うと、抱っこしたまま部屋の外へ出る。部屋を出るときにヴァンは、玄関にあった黒い口と鼻を覆うタイプのマスクを付けていた。ヴァンの部屋はマンションの様な建物の52階に有るそうだ。エレベーターに乗って1階まで行き外へ出ると、別世界が広がっていた。
イギリス産業革命の時代を思わせる建物と高くそびえる高層ビルは、蒸気で上まで見通すことはできない。道行く人達の格好は、スーツの男性やドレス姿に日傘を持つ女性だがその装飾品が少し変わっている。金属の機械部品の様な物に宝石や意匠が施されている。まさに、スチームパンク風と言ったところだ。
空を見上げ蒸気の隙間に見えるのは、飛行船と…。
「船が飛んでる…」
そう、船の形をした巨大な物体が空を飛んでいる。飛行機とは余りにも違う形に魔法と言う力に驚く。更に上方には、浮き島が2つ見える。
「ほら、あそこに見える建物が冒険者ギルドだ」
ヴァンが指差すのは、マンションから目と鼻の先にあるイギリスのヴィクトリアン様式を彷彿とさせる建物だ。
「観光は、後でしてやるから。先に用事を済ませような」
好奇心いっぱいの目でキョロキョロしていたせいか、ヴァンが苦笑いしながら私の背中をトントンしながらギルドへと入っていく。
室内は、クラシックなインテリアの中に機械のパイプが剥き出しに出ていたり、天井まで届く本棚があったりする。数人の人たちがソファーに座って話をしたり掲示板を見たりしているが、思っていたほど賑やかではない。
「この時間帯、冒険者は仕事中だ。早朝と夕方は煩い奴等が多いからおすすめは出来ないな」
私の考えていたことは、お見通しだったようだ。奥にある昔の銀行の窓口のようなカウンターでヴァンが受付のお兄さんに話しかけた。
「オディロンは居るか?会いたいと伝えてくれ」
「あぁ、はい。すぐに確認します」
受付のお兄さんが確認を取っている間にヴァンが依頼の掲示板を見せてくれた。
「この右上にある記号が依頼内容のランクだ。自分のランクより上の依頼は受けられない。下に貼ってある記号の無い依頼は、常時依頼中の誰でも受けられる依頼だ」
下に降ろして貰って常時依頼の紙を見る。
「レイラ、ほらここに薬草の採集依頼があるよ。こう言う常時依頼をコツコツやっていけばいいと思うんだ」
そんな話をしていたら後ろで悲鳴が聞こえた。
「キャー、ヴァン様が居るわ!」
「今日のランチをご一緒にいかがですか?」
「ちょっと!横入りしないでよ」
「あの!一緒にクエストに行ってください!」
とヴァンの回りに綺麗なお姉さんや若い冒険者達がいっぱい居た。




