厨二病○○襲来! 3
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相手が子供でも容赦はしない。
目を据わらせてぱきぽきと指を鳴らしはじめたわたしは、飛び出していく前にお兄様に首根っこを掴まれた。
「落ち着け」
……これが落ち着いていられますかあ! 人の夫(未来)を勝手に夫とか呼びやがってこんちくしょう!
わたしの怒りメーターは長くないんですよ。今の発言であっさり振り切れましたからね!
……わたし、恋のスパイス(ライバル)は不要なタイプなんです‼
ライナルトは何が悲しくて、前の魔王に呪いをかけられ、ポッと出の新参魔王に夫にされなきゃならんのだ! 魔王のおもちゃじゃないんだぞ‼
フーッと猫なら毛を逆立てて威嚇しているだろう状態のわたしの手を、ライナルトがそっと握る。
「大丈夫だよ、ヴィル。心配しないで」
「でもライナルト、あの厨二病……じゃなくて自称魔王、言っちゃいけないことを言いましたよ!」
「ちょっと誰が自称よ! わたしはれっきとした魔王なのよ! 訂正しなさい‼ 偉大なる魔王トルデリーゼ様に対して無礼よ‼ ほら、謝って! 土下座して申し訳ございませんでしたトルデリーゼ様って、誠心誠意謝って‼」
あの魔王、本当に鬱陶しいわ。
……ああ、それにしてもうさ耳ライナルトの困った顔、尊い……。
こんな時だけど、わたしはちょっと拝みたくなってきた。
ライナルトはどんな時でもカッコよくて可愛いけど、うさ耳オプションが追加された彼はもう可愛さとカッコよさが天元突破してるわ。
脳が脱線しそうになってきたわたしに、お兄様が「いろいろ顔がうるさいからお前は下がってろ」なんて失礼なことを言う。
「ちょっとお兄様、顔がうるさいって何よ」
「怒るのか喜ぶのかどっちかにしろって言ってるんだ。……とりあえずここは、魔王討伐経験者の父さんたちに任せよう。おじい様たちも危険だから下がってくださいね」
「あ、ああ……。それにしてもカールもヴィルも、仮にも魔王を名乗る相手を前に落ち着きすぎてやしないか?」
さすがのおじい様もおばあ様も、魔王相手には冷静ではいられないのか、その表情には動揺が見られた。
対して、お父様とお母様、わたしやお兄様、ライナルトは、「変人が遊びに来た」くらいのけろりとした対応である。
たぶんおじい様たちの方が正常な反応で、わたしたちの方がおかしいんだろうけど……、魔王討伐経験者のお父様とお母様が慌てていないから、今のところそれほど危険な状況ではないのだろうという判断だった。
「あくまで、父上たちが討伐した前の魔王と彼女が同等レベルと考えたらですが、戦力差はそれほどないと思いますよ。対魔王戦において一番厄介なのは瘴気を含んだ魔法攻撃ですが、うちにはヴィルがいますし、攻撃力と言う点でも、俺を含めてうちには主戦力が三人いますからね。父上たちだけで魔王を討伐したときより立場的には有利です」
お兄様が冷静に分析しつつ、トルデリーゼを見る。
そうね、大魔術師の名をほしいままにしていたお父様、そして、ナルシストな性格のせいでついつい忘れそうになるけど、魔術師としてはかなり優秀な部類に入るお兄様、加えて潜在能力の高さならピカ一で、今なお成長中のライナルトがいますから。
お母様は強い白魔術師で、支援魔法はお手の物。
わたしも白魔術は得意だし、聖女の浄化の力まで使える。
一対一ではかなわないかもしれないけれど、総合力では劣っていないはずだ。
……それに、どうも戦闘になりそうな雰囲気はないのよね。
わたしたちを殺したいなら、この場に現れると同時に攻撃を放ってくるはずだ。
呑気にも名乗りを何度もリテイクし、わたしたちがお客さんの相手をしている間ものんびりと舞っていたトルデリーゼからは、わたしたちへの殺意は感じられない。
……とはいえ、わたしのライナルトをロックオンしてくれたことについては、きちんと落とし前を……。
「お前は出るな」
一歩前に出たわたしの首根っこを、お兄様が再び掴んで引っ張る。
「ちょっとお兄様離して! わたしの未来の夫にちょっかいをかけようなんて百年早いのよ。こういうのは身の程を教えてやらないと!」
「どこのレディー〇な考えだよ!」
あらわたしは別に、うちの男にちょっかいを出したら焼き入れてやるぞ、とまでは言ってないわよ! 似たようなものかもしれないけど。
だけど、こういうのははじめが肝心だと思う。
ここは、二度とライナルトにちょっかいを出せないように、骨の髄まで――
「お前その顔でそんな笑い方をしたら、まんま悪役令嬢だぞ。まあ、その通りだが」
「…………」
それはちょっと嫌だ。
わたしは自分の頬を押さえて少しの間大人しくしておくことにした。
ライナルトに怖いって思われたくないですからね!
わたしとお兄様がやいのやいのと騒いでいる間に、お母様が困った顔でトルデリーゼに話しかけている。
「トルデリーゼさんだったかしら?」
「魔王トルデリーゼ様、よ」
「……。それで、その魔王様は、一体何をしにうちにいらしたのかしら?」
あ、お母様、今「めんどくせー」とか思ったわね。顔に出てるわよ。
「魔王トルデリーゼ様」呼びを綺麗にスルーして、お母様が訊ねた内容は、この場にいるわたしたち全員の総意である。
ほんと、何しに来たのよあんた。
すると、厨二病魔王トルデリーゼは、ばさりとマントをひるがえした。
どうでもいいが、この魔王はマントをひるがえすのが好きらしい。カッコイイと思っているのだろうか。わたしには子供のごっこ遊びにしか見えないけど。
トルデリーゼはマントをひるがえした後で左手を腰に当て、びしっと右の人差し指をわたしに向かって突きつける。
「よくぞ聞いてくれたわ! わたしがここに来た理由は一つ! そこの聖女を子分にするためよ‼」
「「「…………」」」
ぽかーんとした空気と、ひゅ~っと木枯らしでも吹きそうな沈黙が落ちる。
わたしたちがあきれているのにも気づかず、どうやら悦に入ったトルデリーゼは、目を爛々と輝かせて続けた。
「光栄に思うことね! そこの聖女……聖女の女!」
名前も知らないくせに、わたしを子分にしようとか舐めてるわねこの子。
やっぱりボコろうかと半眼になるわたしに気づかず、トルデリーゼはさらに続ける。
「この偉大なる魔王トルデリーゼ様が、あなたを子分に迎えてあげるわ‼ 喜びなさい! そして跪いて涙を流しながらこう言うの! 『ああ、偉大なる魔王トルデリーゼ様、わたくしめを子分にしてくださるなんて何と光栄なことでしょう! ぜひ、生涯をとして誠心誠意おちゅ……』」
また噛んだ‼
両手で口を押えてその場にうずくまったトルデリーゼに、わたしは額を押さえた嘆息した。
……もう、この茶番にいつまで付き合えばいいのかしら?
跪いて涙を流せと言った本人が、その場にうずくまって泣いてるんだけど。
「ねえ、ヴィル、結構痛そうだけど、あの子大丈夫かな?」
優しいライナルトが、ぼろぼろと涙をこぼしているトルデリーゼに同情的な目を向けた。
……あの様子だと、かなり強くがりっといったみたいね。だけど、魔人に白魔術って通用するのかしら?
魔人と人とでは、体に流れる魔力の本質が違うはずだ。だから、人間が使う癒しが魔人に通用するかどうかはわからない。
しばらく成り行きを見守っていると、トルデリーゼは手の甲でごしごしと涙を拭ってから、すちゃっと立ち上がる。
「やるわね聖女! 今のはなかなかの攻撃だったわ!」
何言ってんだろう、この子。
調子に乗って自分で自分の舌を噛むという自爆をやらかしたくせに、なんか意味不明なことを言っているよ。
トルデリーゼはまたばさりとマントをやって、ふっふっふっと含み笑いをし――
「そっちがその気ならわたしにも考えがあるわ! こうなれば……」
なんだ、実力行使にでも出るつもりかとわたしが身構えた、その、直後。
「子分になってくださいお願いします‼」
偉大なる魔王トルデリーゼ様は、それはもう、見事な土下座を披露した。
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出版社 : オーバーラップ (オーバーラップノベルスf)
発売日 : 2025/12/25
ISBN-10 : 4824014573
ISBN-13 : 978-4824014573
あらすじ:
乙女ゲーム本編開始前の悪役令嬢に転生したマリア。
しかし、気付いた時にはこれまでの傲慢な言動のせいですでに周囲から嫌われてしまっていた!
このままでは断罪ルートまっしぐら。
焦ったマリアは「攻略対象以外のキャラと先に結婚しておけばゲームの役割から解放されるはず!」と迷案(?)を思い立ち、義兄・ジークハルトに求婚することに!!
仮初の契約結婚を提案したつもりだったのだが――
「学園卒業までにとある条件を満たせなければ、本当の意味で私の生涯の妻だ。どうだ、悪くないだろう?」
どうやらお義兄様の方はマリアを手放す気がないようで!?
お義兄様に振り回されながらも破滅回避を目指して突き進むマリアの行動は、やがて物語に少しずつ影響を与えていき……。
なぜかヒロイン不在のままイベントが次々と発生!?
解決に奔走するうちに、マリアを嫌っていた攻略対象達まで態度を変え始めて――?
ちょっぴりポンコツな愛され悪役令嬢による破滅回避ラブファンタジー!







