厨二病○○襲来! 2
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見た目がイタイ厨二病っ子でも、魔人……それも魔王ともなれば、普通は恐れられる。
お見合いパーティーどころではない騒ぎとなってしまったので、わたしたちは、「恐れ敬え」とぎゃーぎゃー騒いで地団太を踏んでいるトルデリーゼをひとまず無視して、お客様の対応に追われていた。
相手が本当に魔王であっても、わたしたち家族とライナルトの戦力があれば対応可能だけど、普通の人はそうじゃない。
ましてやか弱いご令嬢ともなれば、魔王どころか魔人と出会ってもショックのあまり気絶するくらいの繊細さだ。
このままお見合いパーティーを続ける、という選択肢はわたしたちの中にはもはやなかった。
「本日は申し訳ございません。ええ、乱入してきた魔人の対応は当家でいたします。あ、こちらはお土産ですので」
使用人たちがぺこぺこと頭を下げながら、お見合いパーティーに参加した令嬢やその家族にお土産を渡して帰宅を促していた。
わたしたちも、国外からの参加者たちに似たようなことを言いながら謝罪をして回る。
我が家に滞在予定だった他国の公爵令嬢とその家族たちにも、申し訳ないけれど、我が家から離れてもらうことにした。
ニクラウスが急いで我が国内で最高級の宿の部屋を押さえて、そちらに移ってもらうようにお願いする。
彼らも、突如現れた魔人の近くにいたくないのか、快くこちらの提案に従ってくれた。
人の社会に溶け込んで平和にすごしている魔人もいるというが、そもそも出会うことが非常に少ない。
もっといえば、突然馬鹿なことを言いながら貴族のお茶会に乱入してくるような魔人が「普通」なわけないと、誰もが警戒していた。
明らかに話が通じなさそうな魔人とフレンドリーに接することなんてできやしないと、お土産を受け取った人たちは、そそくさとこの場から退散していく。
お詫びは後日にも改めてするとして……、さあて、どうしたものかしら。
お見合いパーティーの参加者すべてを我が家から追い出して、わたしたちは改めて魔人――厨二病魔王に向き直った。
完全に放置されていたトルデリーゼは、ぶすっとした顔で、冬の枯れた芝生をつま先で蹴とばしている。
見た目はとっても美少女だが、格好と言動がひどすぎるので、どこからどう見ても残念な子だ。
……帰れって言っても帰らないし、どうしたものかしら?
何故突然こんなところにやって来たのかは知らないが、いつまでもこのヘンテコ魔王に居座られては困る。
「……お父様、あの子、魔王だって名乗っているけど、魔王ってあんな感じなの?」
「いや……。前の魔王も話が通じないのは同じだったけど、あんなのじゃなかったよ」
「そうねえ。わたくしたちが討伐した魔王は、なんかこう……大きなカバみたいな見た目だったし、見た目からしてなんか違うわね」
「そうそう。それに、前の魔王は人類を敵視していたから、問答無用で人を襲っていたし……、あんな、よくわからない名乗りなんてあげなかったよ」
「ええ、わたくしたち、前の魔王の名前も知らないわ」
「というか、魔王ってこうもぽこぽこ誕生するものじゃないと思うんだよねえ」
お父様とお母様が困惑顔をしている。
確かに、前の魔王が討伐されて二十二年。そんな短期間で新たな魔王が誕生するなんて聞いたことがない。
「じゃあ、あの子は魔王じゃないのかしら?」
「うーん。でも、その身から発生させている瘴気の量は相当だよねえ。離れたところにいたライナルトが影響を受けてしまったくらいだし」
魔人の発生させる瘴気の量は、彼らの身に宿る魔力の量に比例すると言われている。
魔人は強大な魔力を持っているが、それでも、普通の魔人が発生させる瘴気は微々たるものだ。
だけど、目の前のイタイ子は、その何十倍……下手をしたら何百倍という量の瘴気を発生させているように見えた。
このまま一か月もこの場に滞在させたら、あっさり瘴気溜まりを生みそうなレベルである。
お父様の言葉に、お母様がおっとりと頬に手を当てる。
「そうねえ……。発生させている瘴気の量だけを取れば、わたくしたちが討伐した魔王以上ね」
「そうなの⁉」
あの子、全然強そうに見えないのに?
わたしたちがこそこそと話していると、芝生を蹴とばすのに飽きたのか、トルデリーゼがいつの間にかこちらをじっと凝視している。
その視線は、どうやらライナルトの方を向いているようだ。
ライナルトが首をかしげる。
「ねえ、ヴィル。なんかものすごく見られている気がするんだけど」
確かに、瞬きもせずに、大きな黒い瞳がライナルトを見つめているわね。
なんとなく減るような気がして、わたしはライナルトの前に回った。
まあ、ライナルトと身長差があるから、わたしがライナルトの前に回ったところで、彼の姿を隠せるわけではないのだけど、気分よ気分!
……ちょっと、うちの夫(未来)に、ガン飛ばさないでくださいます?
帽子の下にうさ耳が隠れているからだろうか、今のわたしはいつもより敏感ですよ。ライナルトの秘密は、守りま――って、あああ⁉
わたしが気合を入れてじろりとトルデリーゼを睨み返したときだった。
トルデリーゼが口の中で何かもごもごつぶやいた途端、わたしの冬の重たいドレスの裾を大きく巻き上げるレベルの突風が吹き荒れたのだ。
慌ててスカートの裾を押さえたわたしは、視界の端で、ライナルトの帽子がふわりと空高く飛んでいくのに気づいて青ざめる。
……帽子があ‼
大変だ、うさ耳! うさ耳ぃ‼
かくなる上はとティペットを脱いでライナルトの頭にかぶせようとしたわたしだったけど、時すでに遅し。
「やっぱりさっきのは見間違いじゃなかったわね!」
目をキラキラと輝かせて、トルデリーゼが宣言した。
「そこの人間! 光栄に思いなさい! 今日より、わたしの夫を名乗ることを許してあげるわ!」
その瞬間わたしは決意した。
……よし、こいつボコろう。
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12月5日に本作②巻が発売されました!
帯でも紹介いただいていますが、コミカライズも進行中です!
どうぞよろしくお願いいたします(*^^*)
タイトル:家族と移住した先で隠しキャラ拾いました(2)もふもふ王子との結婚
出版社:スクウェア・エニックス (SQEXノベル)
発売日 : 2025/12/5
ISBN-10 : 4301002170
ISBN-13 : 978-4301002178
書籍限定エピソード
・SIDEアンネリーエ 伯爵令嬢は見た!
・SIDEマリウス 見えていなかったもの
・SIDE???
・SIDEライナルト ヴィルヘルミーネの落とし物
・番外編 カジキでどーん!







