聖女認定式と瘴気溜まり 7
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翌朝、わたしたちは改めて、テニッセン辺境伯とバーレ子爵から瘴気溜まりについて教えてもらった。
朝食後、そのままメインダイニングに残って聞いたことには、瘴気溜まりは、バーレ子爵が治めているこの町の東に馬車で六時間ほどの距離にある森の中にあるらしい。
森の近くの村は現在封鎖しており、森に一番近いのは街道沿いの小さな町ヴュストだという。
その町はヴュスト男爵が管理を任されている町で、すでに男爵にはわたしたちがバーレに到着したと連絡済みらしい。
今日の午後に出立して、今日の夜はヴュスト男爵家に宿泊させてもらい、明日、改めて瘴気溜まりの浄化に赴くのが無理のない予定だろうという判断になった。
ヴュスト男爵が治める町まではテニッセン辺境伯も同行してくれるそうだ。
浄化が終わった後はバーレ子爵家まで戻って来るので、荷物の大半はこのままここに置かせてもらうことにした。
できるだけ移動をコンパクトにするために、バーレの町からヴュストの町まで馬車は二台で向かう。
そのため、残念ながらライナルト殿下とわたしの馬車に、マリウス殿下とテニッセン辺境伯も同乗である。
後続の馬車はギーゼラたち使用人が使っているからだ。
……まあ、マリウス殿下もテニッセン辺境伯がいる前で嫌味なんて言ってこないわよね?
というか、ここに来るまでほとんど顔を合せなかったことを差し引いても、マリウス殿下は静かなものだった。今も、黙って馬車に揺られている。
婚約していたときは、わたしと同じ馬車に乗るだけで嫌そうな顔をしていたのに、ずいぶんと取り繕えるようになったものだわ。
頑張ったのは本人か教育係かはしらないが、わたしはちょっと驚いていた。
この年になって再教育したところで変わらないと思っていたけど、わたし、マリウス殿下に失礼だったかしら? 殿下だって反省することくらいあるわよね。
「この馬車は、驚くほど揺れが少ないですね」
少しはマリウス殿下を見直すべきだろうかと思っていたら、テニッセン辺境伯が緋色の天鵞絨が張られた座席を撫でながらしみじみと言った。
……ふふふ、テニッセン辺境伯にもこの馬車、好評みたいね!
勾配の多い地域や、舗装された道が少ない場所だと、この馬車のありがたみがとってもよくわかる。
振動も少ないからお尻も痛くならないし、これはとっても画期的な馬車なのよ!
お兄様~、売れそうだからじゃんじゃん作ってじゃんじゃん稼いでちょうだい!
「兄が改良したんです。まだ試作品なんですが、そのうち、我が国の特産品として売り出す予定です」
というか、お兄様が嫌がっても売り出すわよ。これを売らない手はないわ。
おじい様もおばあ様も気に入っていたから、わたしが何もしなくても、今頃王都でせっせと顧客を開拓していると思うし。
「そうですか、それは素敵ですね。売り出すことが決定したら、ぜひ我が領とも取引していただきたいものです」
「それはもちろん。国を超えてのやり取りになりますので、関税の取り決めなど細々としたことが決まればご連絡しますね」
……顧客ゲット‼
わたしが内心にまにましていると、ライナルト殿下が「よかったね」と言うように優しく微笑む。
「もちろん、シュティリエ国でも取引させてほしいな。父に言えば間違いなく食いつくだろうから」
「伯父様は新しいもの好きですもんね~」
「本当にね」
ライナルト殿下がくすくすと笑う。
お兄様が開発したお掃除ロボット「ルンタッタ君」も、シュティリエ国のお城にたくさん導入してくれたのだ。
お城の廊下や階段を、ルンタッタ君がしゃかしゃかとお掃除して回っているのは、なんとなく雰囲気をぶち壊しにしている感が否めないが、伯父様たちは気にしていないようだ。掃除担当のメイドたちも仕事が楽になったと喜んでいるらしい。
そして、お城で導入されたからだろうか、貴族たちの買い手がぐぐんと増えた。権力者に右習えの世界なので、上に落とし込めば驚くほど簡単に下に広がっていく。
わたしとライナルト殿下が微笑みあっていると、それまで黙り込んでいたマリウス殿下が顔を上げる。
じっと見つめられたので何か言いたいことでもあるのかしらと首を傾げれば、マリウス殿下がぽそりと言った。
「……我が国でも、導入を検討させてくれ」
あらあら、マリウス殿下が下手に出ているわ。
ほしいものがあれば「献上しろ」くらい言ってもおかしくない殿下が、「導入を検討させてくれ」ですって。要するに購入してくれるってことよね。
……人間の成長に、年齢は関係ないのね。
ちょっぴり哲学チックなことをしみじみと感じ入ってしまった。
あちらが大人の対応をしているのに、こちらが子供じみた対応をするわけにもいかない。
過去のことは水に……全部流せるかどうかはちょっとわかんないけど、まあ、いつまでも根に持っても仕方がないわよね。
「ありがとうございます。そのときはぜひ。兄にも伝えておきますね」
営業中ですからね、スマイルスマイル。
にこりと微笑めば、マリウス殿下が驚いたように目を見張って、それからすっと視線を下に落とした。
……うん、やっぱり、わたしはまだ嫌われているようね~。
でも、表情に嫌悪感が現れなくなったのはいいことだわ。わたしの精神的に。
この調子なら、瘴気溜まりを浄化して王都に戻るまで、マリウス殿下に悩まされなくてすむかしらと安心していたら、隣のライナルト殿下がぎゅっとわたしの手を握って来た。
「……?」
手を握るのは珍しくないけれど、その力がいつもよりちょびっとだけ強い気がして顔を上げると、ライナルト殿下はじっとわたしを見つめている。
……なんか、不機嫌?
気のせいかしら?
ライナルト殿下の纏う空気が、どことなくトゲトゲしているような。
ライナルト殿下はそれっきり口数が少なくなってしまって――
その日の夕方、わたしたちはヴュスト男爵邸に到着した。
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