聖女認定式と瘴気溜まり 5
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馬車に揺られること六日。
テニッセン辺境伯領内の、二番目に大きな町バーレに到着した。
テニッセン辺境伯は普段は領主館のある、領内の中心部に位置する一番大きな町で暮らしているのだけれど、わたしたちの到着に合わせてバーレに移動してくれたらしい。
バーレは、バーレ子爵が治めている町でもある。
テニッセン辺境伯領は広く、フェルゼンシュタイン国が公爵領だった時と同じように、そこには多くの貴族たちが領主から土地の管理を預かり暮らしているのだ。
つまり、テニッセン辺境伯が大領主で、バーレ子爵が小領主である。
もっとわかりやすく言えば、テニッセン辺境伯が県知事で、バーレ子爵は町長というような感じだ。前世と違うのは、それが世襲であるということだろうか。
ただ、世襲とはいえ、ロヴァルタ国はテニッセン辺境伯から土地を奪う権利を持ち、テニッセン辺境伯はバーレ子爵から土地を奪う権利を持つ。
この権利を簡単に行使していたら国や領地が荒れるので滅多なことで領主が交代することはないけれど、罪を犯した場合、その度合いによっては地位を追われるのである。
過去には罪を犯した侯爵が身分を剥奪され、他の侯爵がその地の領主になった例もある。そのときに、その領地の町や村を治めていた貴族の大半も交代させられたというから、領主を挿げ替えるのはとっても大変なことなのである。
わたしたち一行は、身分が高いこともあるけれど、ロヴァルタ国王の命を受けて瘴気溜まりを浄化しに来た使者でもあるので、到着して案内されるのは、この町で一番リッチなところ……つまり、バーレ子爵の館だった。
町が一望できる小高い丘の上に立つバーレ子爵の館は、赤レンガの外壁に青い屋根の、年期を感じさせる建物だった。貴族の館にありがちな長方形のシンメトリーである。
長方形でシンメトリーな邸の作りは、百年ほど前まで貴族の間で流行していたから、この手の形をした建物はとても多い。
貴族の館なんてものは莫大なお金をかけて建築されるから、一度建てたらそう簡単に建て替えたりしないもんね。
「ようこそいらっしゃいました、聖女ヴィルヘルミーネ・プリンセス・フォン・フェルゼンシュタイン殿下、並びにライナルト・プリンス・フォン・シュティリエ殿下、マリウス・プリンス・フォン・ロヴァルタ殿下」
それにしても……わたしの呼び名、何とかならないものかしら。長い……。
もともとのわたしの正式名称は、ヴィルヘルミーネ・ヘアツォーク・フォン・フェルゼンシュタインだった。それが公爵家ではなく王家に変わって、プリンセスを名乗るようになったわけだ。
伯爵以下はあまり名前に爵位を表す冠詞を用いないけど、侯爵家以上は入れることが多いから公爵家を表す「ヘアツォーク」が入っていたってわけ。
これ、ライナルト殿下と結婚したらさらに名前が変わって、聖女ヴィルヘルミーネ・プリンセス・フォン・フェルゼンシュタイン=シュティリエ王子妃殿下、になるのよね。
貴族って名誉とかが大好きだから、何かあるごとに名前がどんどん長くなる。
ついでにどこどこの誰だれ、という身分を表す称号でもあるから、安易に省略もできない。
もし、ライナルト殿下が王族位を保有したまま公爵位を賜ったら、ライナルト・プリンス・フォン・シュティリエ=ヘアツォーク・○○となって、それにともないわたしの名前もさらに……となる。
だから、たいていは省略した名前を名乗ったりするんだけど、こういう場では正式名称で呼ばれたりするんだよね。
この場でマリウス殿下の名前が最後に呼ばれたのは、国王の使者であるわたしが立てられたからだろう。
ライナルト殿下はわたしの婚約者であるし他国の王子でもあるので、その次に呼ばれたわけだ。
王太子でありながら最後に挨拶されたマリウス殿下はさぞ不快に思ったことだろう……と、ちらりと隣に立つ彼を見たのだけど、意外にも平然とした顔をしていた。表情を取り繕えるくらいには成長したのだろうか。不思議。
わたしたちの到着に合わせてバーレ子爵邸に移動していたテニッセン辺境伯も挨拶をしてくれて、ひとまずは解散となった。
宿泊する部屋を案内してもらわないといけないし、旅の疲れもあるから、晩餐までは自由時間である。
瘴気溜まりについての話は、明日、改めてしてくれるそうだ。
……ライナルト殿下の隣の部屋にしてもらえたし、荷物を片付けたら殿下とのんびりしよ~っと。
バーレ子爵家の使用人に案内されて、ライナルト殿下と二階に上がる。
階下から、マリウス殿下がじっとこちらを見つめていたことには気が付かなかった。
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