モテすぎるのも困りもの 7
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パーティーが終わった深夜。
わたしたち家族とライナルト殿下は、お父様の書斎に集まって家族会議を開いていた。
「カールがモテるのはわかっていたが、建国早々、王太子の婚約者を巡って傷害事件なんて、目も当てられんぞ」
「おじい様、傷害事件ではありません、未遂です。確かに二人は掴みあっていましたけど、どこも怪我をしていません」
お兄様がおじい様に即座に訂正を入れるけれど、わたしとお母様が仲裁に入らなければ、取っ組み合いの喧嘩の末に大怪我をしていてもおかしくなかったと思うわよ。あの二人、昔から仲悪いんだから。
「お兄様、問題はそこじゃないのよ。まあそこも問題なんだけど。こんなことがこれから先、何度も起きる可能性があることが問題なのよ」
パーティーやお茶会で、毎回毎回お兄様を巡って争いが起きるなんて勘弁してほしい。
「せめてお兄様がもう少し女の子に冷たくしていれば違ったんでしょうけど」
「いやだよ、可哀想じゃないか。それに、せっかくカッコイイって言ってくれてるのに、嫌われるようなことはしたくない。俺はちやほやされたいんだ」
……この兄ぃ‼ 欲望に忠実すぎるわよっ! わたしだってライナルト殿下ともっともっといちゃいちゃしたいのに、必死に自制してるのに! 自制できているかわかんないけどっ!
これには、お兄様の前世のモテなさすぎた人生を知っているお父様もお母様もため息である。
お兄様のすごいところは、子供だろうと年寄りだろうと、貴族だろうと平民だろうと、もっと言えば、美人だろうとそうでなかろうと関係なく、平等に女性を「可愛い」というところだろう。
しかも本心からなのがもっとすごい。
お兄様の目には女性限定の特殊なフィルターがかかっているのではなかろうかと、本気で心配するくらいである。
おかげで、お兄様の女性たちからの人気は天井知らずだ。
……そりゃあ、外見だけは完璧な超絶イケメンが愛想振りまいて「可愛い可愛い」言ってお姫様扱いしてくれれば、誰だってぽーっとなりますよ! 女ならね‼
まったく、モテなかった人生の反動がここまで大きいなんて誰が想像できただろうか。
ライナルト殿下は完全に困惑顔だ。
うん、理解できないよね。いくらなんでも、これはないよね。
……大丈夫ですよ殿下、その感覚は普通です。兄が異常なだけなんです!
「そろそろ、婚約者選びに本腰を入れた方がよさそうねえ」
おばあ様が微苦笑を浮かべてそう言った。
わたしの場合ロヴァルタ王家から打診が入って断れない状況だったから、一度目のマリウス殿下との婚約にはわたしの意思は反映されなかった。おかげでひどい目に遭ったけど、その結果ライナルト殿下と婚約できたのだから、結果だけを見れば万々歳だけど。
貴族の婚約に本人の意思が反映されるケースは少ないけど、うちは家族がみんな仲良しで、正直家を盛り立てることと結婚を切り離して考える傾向にある少数派貴族だったので、お兄様の婚約はできるだけ本人の意に沿う形でまとめてあげたいとおじい様たちは言っていた。
だけど――もう無理ね。
お父様のときみたいに、そのうちお兄様が自分で好きな女性を連れて来るかもしれないと思っていたのかもしれないけど、お兄様は今のところ自分が一番大好きだから。
女性にちやほやされて有頂天になることはあっても、その中の誰かを見初めて~なんて、今のところないと思う。
「母上、そうは言うけど、カールの婚約者選びをはじめるなんて言えば、国内外から山のように姿絵が殺到すると思いますよ。それを全部確認していくのは正直骨が折れるというか……」
「そうねえ、一部屋、姿絵で埋まるかしら? 一部屋ですむかしら?」
おばあ様がころころ笑うが、笑い事ではないだろう。
そんなに姿絵が集まれば、もう、誰が誰なのか、一体誰を選べばいいのかもわからないし、順番に顔合わせをしていくともなれば何年がかりになるかわかったものではない。
うぅむ、と家族が顔を突き合わせて悩んでいると、ライナルト殿下が「それなら……」と控えめに声を上げた。
「ひとまずのところ、婚約者候補選びの茶会を開くという形にしてみたらどうですか? 一度に招待してしまえば、姿絵を確認して一人ずつ顔合わせをしなくてもすみますし、効率がいいのでは? その場では幾人かの候補を絞るだけで一人に決めるわけではないとしておけば、こちらとしても気が楽ですし」
……ライナルト殿下、ナイスアイディア!
何十人……下手をすれば百人を超える女性の中からたった一人を選ぶのはなかなかに大変だ。
だけど、百人の中から幾人かの候補者を選ぶだけならまだましである。
候補者が数人ならば、その中でお兄様との相性を見て選ぶこともできるだろう。
お兄様も、連日見合いに駆り出されるよりはましだと思ったのか、それならばと頷いていた。
口ではなんだかんだと言いつつも、そろそろ婚約者を決めなければならないと、頭ではわかっていたのだろう。意外と素直に受け入れている。
もっとごねるかと思ったけど、お兄様にも王太子としての自覚が少しくらいはあるのかしら?
わたしがロヴァルタ国で開かれる聖女認定式と、それから瘴気溜まりの浄化の件でしばらくこちら側に留まることになるだろうから、どうせならわたしがいるうちにお茶会の日程を組もうとお母様が言い出して――
瘴気溜まりの浄化に行く日程が決まったあとで、お兄様の婚約候補選びのお茶会の日程が組まれることになった。







