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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【はじまりの1週間】
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第五幕:杏色の機嫌

 そんなこんなで、12時半過ぎには次の収録予定のTV局に着いていた。そろそろリンたちも来る頃だろう。

 と思っていたら、駅の方からやって来るリンとアキの姿が見えてきた。


「あっ、リンちゃん達来ましたね」

「ナユタ!お疲れ!」

「チーッス」


「……と、アンタもいたの」


 いや行くって言ったじゃん。

 てかリンとアキの温度差が凄いな。


 局の通路を楽屋に向かいながら、先ほどユウとサキにした話をふたりにもお願いする。

 特に異論は出なかったのだが。


「呼び名なんて繕っても多分無駄じゃねーか?」

「なんで?」

「だってよ、どうせハルのヤツがなーんも考えずに大声で呼ぶぜ?」


 ああっ、言われてみれば確かに!あの子なんにも考えてなさそう!

 うわー、対策考えとかないとヤバいな!


「……ハルちゃん、色々と自由ですからね……」

「あー、ハルには今日帰ってからすぐ話しないとなあ。んで明日の仕事に送り出す前にもう1回言っとかないとでしょうね……」

「覚えるまでは何度でも言った方がいいですよ」

「ですよね……」


「ナユタ、もう楽屋入るわよ!」

「あっはい、行ってらっしゃい!」

「収録中は袖で見てるから」

「アンタは要らないから帰りなさいよ!」


 うーん、かなり拗ねてんなあ。


「リンちゃん、ああなると結構しつこいですよ?」

「……うう。なんかご機嫌取る手段考えます……」


 とはいえ、どうしたもんかな。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「皆さん、収録お疲れさまでした」


 スタジオの関係者に挨拶回りして、それからスタジオの袖で収録を見守って。3時間ほどかかって収録は終了した。これが放送時には90分番組になるってんだから、編集って凄いよなあ。


「はぁ……。もう、何なのよあのチャラ男ども!

アタシ、ああいうのが一番嫌いなのよね!」


…うわあ、リンの機嫌が急降下してんじゃん!


 あっ、あれか!収録の合間とか休憩時間にやたらと声をかけてきてた、ムーンライトの男性アイドルグループのメンバーが原因か!


「リンちゃん、〖ルクステラーエ〗の皆さんはムーンライトさんの所属だから……」

「分かってるわよ。だから困ってんじゃない」


 あーこれはアレだな。共演NGってやつだな。


…でもムーンライトは大手だし、割とどの収録現場でも一緒になるんじゃないかなあ。


 でもまあ、ルクステラーエのメンバー限定でなら。


「じゃあ、今後はなるべく共演しない方向で調整してみようか。⸺まあ、絶対避けられるとまでは約束できんけど」

「はあ?アンタにできんの?そんなこと」

「ムーンライトの社長さんにはもう挨拶済ましてあるからさ。事情を話して、ルクステラーエのメンバーのスケジュールさえ入手出来れば、後はまあ何とかなるんじゃないかな」


「……へえ。じゃあお手並み拝見といこうかしら」

「うん、まあ、頑張ります」


 横からナユタさんが小突いてくるけど、気付かないフリしてよう。


「マスタ……じゃない、マネージャーよお、いいのか~そんな安請け合いしてよお?」

「だって仕方ないじゃん。みんなに気持ちよく働いてもらうのもマネージャーの仕事、でしょ?」


 おっと。リンとアキの感情が明らかに変わったよね今。


「ほほ~う?んじゃま、せいぜい頑張ってもらいますかねえ。ついでにオレの休みも増やしてくれると有り難いんだけどよ」

「それは無理」

「チッ、使えねぇな……」


 無理なものは無理。


「アキちゃん、ワガママはダメですよ」


…ほら、ナユタさんもダメって言ってるし。


「さて、じゃあナユタさんはふたりを連れて帰ってもらっていいですかね。俺、マイのレッスン覗いてきますんで」

「分かりました。マイちゃんのこと、よろしくお願いしますね」

「はい。多分慣れないレッスンで死んでると思うんで」

「マイなら大丈夫よ。あの子、意外とガッツあるから」


 何故か自信満々にリンが言い切っている。

 ってそうか。俺がホスピタルに閉じ込められてる間、みんなは先にマイと会ってたんだもんな。リンはリンなりにマイのことを認めてるのかもな。


 ⸺と、その前に、リンに朝のお詫びもしとかないとな。


「あ、でもその前にみんなで寄り道してもいいですかね?」

「寄り道、ですか?」

「はい。この近くに最近新しくオープンしたスイーツカフェがあるみたいなんですよ」


 予想以上にリンの反応(・・)があった。

 彼女は個人ブログにいくつもスイーツ関連の記事をアップしてるから、多分そういうの好きなんだろうと思ってたけど、やっぱりビンゴっぽいな。

 まあ、収録の袖でちょちょいと検索して見つかるくらいには話題になってる店だし、リンが知ってても当然か。多分、すでに情報押さえてて今度の休みにでも行くつもりだったんだろう。


「せっかくだから寄っていきません?」

「でも、まだ仕事中ですし……」

「ナユタさんだって少しは気になるでしょ?収録長引いたってことにすれば帰りが少々遅くなっても平気だし。それにリンの個人ブログのネタのためって考えれば業務の一環とも言えますし。

あとナユタさんのマネージャー退任祝い……祝いってのも変な話ですけど」

「い、意外と良いこと言うじゃないのアンタ!」

「それにそんなに長居するわけでもないし、今日のMuse!のアイドル業務はもう無いですし」

「マネージャーよお?就任早々サボりたあ、なかなかやるじゃねぇかよ」

「だから業務の一環だって!⸺それに俺、おごりますよ?」


…もう一声、かな?


「じゃあ、ちょっとだけなら……」

「そう来なくっちゃ!そうと決まれば早速行きましょ!」

「おい待てリン先走んな!」

「さっさと来ないと置いてくわよ!」


 いやだから俺のおごり(・・・・・)だっつってんだろ!



 で。

 ナユタさんはふわふわパンケーキ、リンはパンケーキと特製パフェにマンゴープリン、アキはフルーツタルト、俺がスイートポテトをそれぞれ頼んで、リンのスマホで俺が何枚も写真撮らされて。


「やっば!うっま!」

「本当、美味しいですね」

「んなもんどの店で食ったって大して変わんねえって」

「変わるわよ!アキ(あんた)舌バカなの!?」

「まあまあ、仲良くしようぜ」


--って、リン食べ過ぎじゃない?


 まあ、朝の怒りが嘘のように上機嫌になったからいいけどさ。さっきまで赤銅色の怒りが消えてなかったのに、今じゃすっかり(あんず)色でうっとりしてて満面の笑みで。

 分かりやすいツンデレな上にチョロいとか、ちょっとこの子大丈夫かな。






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