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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿ーパンデモニウムー前夜】
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第一幕:アイドルに必要なもの

新章【新宿伏魔殿】開幕です。

今回の章はちょっと長くなる予定なので、もしかしたら後々分割したり、章タイトルの変更があったりするかも知れません。




 ライブから一夜明けて。


 ドアをノックする音で目が覚めた。


「マスター、ミオです。起きていらっしゃいますか」


「んあ……ミオ……?」


 眠い目をこすりつつ時計を確認すると、まもなく朝の7時になるところだった。

 なんだよもう。今日は日曜だろ?


 ……朝7時?


 慌てて飛び起きる。ドアを開けようとしてトランクス一丁だった事に気付いて、慌ててズボンを履きTシャツを被る。

 ドアを開けると、案の定というか、ミオはいつものトレーニングウエア姿で、タオルを首に巻いていた。

 走る気満々じゃねぇか。


「……マスター。もしや、まだ寝ていたのですか」

「あー、まあ、うん。……一応聞くけど、朝のトレーニング、だよな?」

「もちろんです。日課ですので。しかしセキュリティを解除して頂きませんと、外に出る事が出来ません。いくら待っても降りてこられないようなので、お迎えに上がりました」

「悪い。すぐ開けるわ」


…しかしほんと、ミオは真面目だなあ。ライブの次の日ぐらいトレーニング休めばいいのに。


 欠伸をしつつ、彼女と一緒に事務所に降りると。


「なんだ、もう起きているのか。オフの朝ぐらいゆっくりしていても構わんのだぞ?」


 ちょうど、所長が開錠して入ってきた所だった。

 えっなんで?所長今日仕事すんの?


「おはようございます所長。私は日課のトレーニングがありますので」

「なるほど。それでマスターを叩き起こしてきたのか」

「まあ……そんなとこです。で、所長は今日は?」

「ああ。ナユタをオフにしたのでね。今日は代わりに私がオペだ」


 うへえ、マジか。

 所長が来てるって知ったらみんなロクに寛げねえぞ。


「まあそういう顔をするな。私としてもオフなのは分かっているし、巡回業務以外でとやかく言うつもりはないよ」


 いや、そうじゃないんですよ。所長が居るだけで空気が締まっちゃうんですよ。

 まあ、こればかりは言っても分かんないでしょうけど。


「……では、行って参ります。30分ほどで戻りますので」


 とか内心でげんなりしている俺の気も知らず、いつも通りの言葉を残してミオはさっさと走りに行ってしまった。


「というわけで、だ。巡回のメンバーだけ決めておいてくれ」

「はあ。分かりました」


…もしかして、こないだの日曜に独断で巡回までサボらせたのバレてるんじゃない、これ?


「まあ、とりあえず朝メシ食ってきます」

「ああ。朝食を終えたら、1度所長室に顔を出してくれないか。話がある」

「え、俺、なんかやらかしました?」

「そうではないから安心したまえ。今ここで話すような話ではない、というだけの事だ」

「そうですか……」


 そう言われても、こっちは色々と心当たりがあるからなあ。怖い怖い。



 所長室に向かう所長と別れてダイニングに上がると、ちょうどマイが朝食の準備を終えた所だった。

 他のみんなもぼちぼち降りてきていて、居ないのはミオとアキと……


…リンが居ないね。


「あっ、マスター。おはようございます!」

「ああ、うん、おはようマイ。ミオがさっきジョギング行ったから」

「あっはい。……ミオさんも今日はゆっくりだったんですね」

「いや、俺が寝てたから行くの遅れただけ」

「そ……そうなんですか……」


 こらマイ。呆れの感情が隠せてないぞ。


「レイ、リンは?」

「今朝は姿を見ていないわね。まだ寝ているのかしら?」

「そっか」


 まだ起きて来ないなんて珍しいな。体調悪くしたとかじゃなきゃいいけど。

 ちょっと様子見てくるか。


「ユウ、ちょっと一緒に来てくれる?」

「はい♪」


 念のためユウについて来てもらい、三階のリンの部屋に向かう。


「リン、起きてるか?」


 ノックしてみても返事はない。ドアに耳をそばだてると、中から目覚ましのアラーム音がする。だがそれ以外の物音がしない。

 どうやら本当にまだ寝ているみたいだ。


「リンさんが寝坊するなんて珍しいですね。まあ、昨晩はずいぶんはしゃいでらっしゃいましたから」

「だよなあ。ちょっと携帯鳴らしてみるか」


 と言いつつ、なんとなしにドアノブを触ってみると、さして抵抗もなくノブが回った。


「……ユウ、ドア開いてるわ」

「あら。リンさんたら不用心ですね」

「中入って様子見てきてくれないか?」

「はい、分かりました」


 そうしてユウが部屋に入って数分後。


「いやああああああああああああああ!!」


 中からリンの絶叫が聞こえてきた。

 直後にドアに駆け寄ってくる足音がして、ガチャリ、と鍵のかかる音。


「アンタ!絶対入ってきたらダメだからね!入ったら殺すから!」


…いや、施錠しといて何言ってんのかなこの子は。


 まあ、女子寮各部屋のマスターキーも預かっちゃいるけどな。でもさすがに、寝起きの女子の部屋に踏み込むほど無粋でもないっつうの。


「心配しなくても入らねえよ。俺は先に下に戻るから、手早く準備して降りといで。

あ、あとアキもまだ降りて来てないから起こしてきて。よろしく~」


 それだけ言って、返事を待たずにダイニングへ戻った。待っているみんなにリンの寝坊を伝えて、もう少し待ってもらう。

 結局、リンとユウが不機嫌MAXのアキを連れて降りてきたのは、ミオが帰ってきてシャワーを浴び終えて席に着いた時だった。いやいや、もう8時過ぎてるんだが?



 朝食を食べながら、今日の巡回メンバーをどうするか話し合う。その都合上、今日のオペレーションは所長が担当することを伝えると、案の定年少組を中心に緊張の感情が走る。まあそうなるよな。

 話し合いの結果、巡回メンバーは午前中がレイ、サキ、ミオ、ハク。午後がユウ、リン、ハル、アキと決まった。

 マイは終日オフってことで。


「あの、私、お休みでいいんですか……?」

「問題ないよ。みんなもそれでいいよな?」

「もちろんよ。貴女は昨日一番頑張ったのだもの。頑張った分のご褒美は受け取らなくてはダメよ」

「そうそう。それに、昨日の今日でアンタが巡回に出たりしたら、街がちょっとした騒ぎにもなりそうだしね」

「マイさんは昨日頑張っただけでなく、今日の朝食も作って下さいましたから。後はのんびり休んでて下さいね♪」

「そ、そうですか……でもぉ……」


 リーダー3人から口々に『ご褒美』『頑張った』と言われてまんざらでもなさそうだけど、それでもマイは口ごもる。

 まあ、何かしてないと落ち着かないんだろうな。だけどこないだのオフでは大掃除始めて怒られたわけだし、オフだと言われても何していいか分かんないんだろう。


「まあでも、残念ながら『完全オフ』とはいかないんだよなあ、実は。マイにはまだ大事な業務(・・)が残ってるんだ」


 食べ終えた食器を食洗機に並べながら、わざと大げさに残念そうな手振り口振りをしてみせる。


「……えっ?何か、お仕事ですか?」

「サイン、まだ決めてないだろ?」

「あら、そう言えばそうね」


「サイン…………わ、私のですか!?」

「それ以外に誰がいんだよ。マイ以外は全員サイン持ってるんだから、お前もサイン作っとかないとだろ?」


「サインは大事よ~?ライブ終わりとか、サイン会や握手会とかでどうしても書かなきゃならないものだしね!」

「では、今日はマイさんにはご自分のサインを決めてもらうということで♪」

「はうぅ……!」

「まあ、今日は1日独りぼっちで留守番ってわけでもないからな。居残りメンバーにも相談してじっくり決めたらいいよ。出来上がったら夕方にでも見せてくれればいいからさ」

「マスター、それでしたら私とハクもサインが必要なのでは?」


 そう言われて振り返ると、目を輝かせたミオがいた。

 いやいや君らデビューもまだじゃん。


「んー、まあ確かにデビューしたら必要にはなるけど。⸺ん、分かった。じゃあふたりは午後オフだから、午後からはサイン決めね」

「はい!分かりました!」

「サインが決まるまではトレーニングもシミュレーションバトルも禁止な」

「え゛」


「じゃ、俺所長に呼ばれてるんでちょっと行ってくるから」


 青ざめるマイとミオを残して、そそくさと所長室に向かった。







いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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