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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マイのデビューライブ】
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第二十幕:ライブ当日⸺開演前

「おはよう」


 7月22日、朝7時。

 リビングに降りると、もう全員揃っていた。


「おはよう。よく眠れた?てか無精ヒゲくらい剃りなさいよね」


 そう言うリンはよく眠れたみたいだね。

 無精髭については、まあ気にすんな。


「今日も1日がんばろー!おー!」


 いやハル、「おー!」は周りが言うセリフだからな?


「おはようマスター。美しい朝ね」


 そうだねレイ。今日もよく晴れてるね。


「えー、確認になるけど、今日は昨日と同じく9時に会場入りな。んで、10時半から午前公演、昼を挟んで3時から午後公演ね。

ハードな1日になるけど、しっかりやり切って行こう」


 今日はいよいよライブ当日。そのせいか、みんなも朝から気合いが入っている。

 ユウの作った朝食をみんなで食べ、食後のお茶を味わって、8時前に全員で事務所に降りる。今日も所長やナユタさんをはじめ事務所スタッフが揃って待っていてくれた。


「皆、準備は整っているようだね。今日はいよいよライブ本番だ。皆も知っての通り、今回はマイのデビューライブとなる」

「連日の巡回で渋谷の汚染度も順調に減少していますし、皆さんのリハーサルも順調です。今回は新生〖Muse!〗のお披露目ライブでもありますから、皆さん、絶対に成功させましょうね!」

「「はい!」」


 所長とナユタさんの檄に応えて、全員が力強い返事をする。

 みんな頼もしい、良い顔をしている。


「桝田君、君も今日が事実上の“お披露目”となる。しっかり頼むぞ」

「はい、もちろんです」


…まあ、“お披露目”は旧ライトサイドのミニライブでやられちゃったけどね。


 しかしマイもついにステージデビューかあ。緊張こそしてるけど、決意のこもった良い顔になっちゃってまあ。

 うう。こんなに立派になって……!


「あの、マスター。そんなに泣かなくても……」

「マスターも、マイさんにはずいぶん心を砕かれたようですからね」

「マスターのためにも、このライブ、絶対に成功させるわよ、マイ」

「はい!私、やります!」


「良い返事だ。さあ皆、会場に向かってくれ」

「了解!」


 Muse!の9人、俺とナユタさん、それに裏方役の職員さんたち、みんなで昨日と同じくマイクロバスに乗り込む。パレスを出発したバスは、薄曇りの土曜の朝の街並みをスムーズに走り抜けて会場へ。

 8時半には会場に到着し、楽屋に入って準備を整え、昨日と同じくホールのスタッフさんやバックミュージシャンの皆さんに挨拶を済ませて、9時からステージ入りして軽く発声練習と音合わせ。



 10時の開場とともに、チケットを握り締めたファンたちが続々と会場に入ってくる。

 思った通り、客席はあっという間に埋まっていく。


 そんな中、ナユタさんだけがやや浮かない表情をしている。


「どうしました?何か心配事でも?」

「それが……。取り越し苦労ならいいんですが、どうも渋谷地区にはまだ見逃したゲートがありそうな気がしてならないんです……」


 マジか。


「特に昨日、出現がなかったのが気になっていて。

今日の観客の発するアフェクトス目当てに出現するんじゃないかと思って……」


「あー。面倒ごとの前フリですね。

ちょっと、お花を摘みに行って来ます」


 たまたま横で話を聞いていたサキが、そう言って踵を返そうとする。


「えー!サキちゃんさっきもトイレ行ったばっかじゃーん!」

「ちょっ、ハルさん!乙女のトイレ事情を男性の、それもマスターの前で言わないで下さいよ!」


 うん、いや、気持ちは分かるけど、今のは俺悪くないからな?

 ていうか、そもそも話題に上げたの君だからね?


「でも、もし本当にゲートが残ってるのなら気になりますね……」

「いや、マイさんは今日はステージに集中して下さい。せっかくのデビューステージなんですから」

「でもサキちゃん。デビューだからこそ何も気にせずにステージに集中したいの。そのためにも見逃したゲートがあるなら破壊しないと!ライブ中に人が襲われるかも、って思うと放ってはおけないよ!」


 マイ……figuraとしても成長したなあ。


ビーッ、ビーッ、ビーッ。


 その時、ナユタさんの持つタブレットからアラート音が鳴る。


「……どうやら、予想が的中したようですね」

「ゲートの反応ですか!?」

「はい、たった今……って、えぇ!?」


 タブレットを確認したナユタさんから驚愕の感情が吹き出す。普段、ゲートの検知でここまで驚く姿は見た事がない。


「ど、どうしたんですか!?」

「どこに出たんです!?」

「そ、それが、“マザー”が示したのは、この会場の正面ゲートのすぐ外なんです!」


 マズいな、まだ外には入場待ちのファンが大勢いるはずだ。今すぐ討伐しないと!

 でも今近くにいて、すぐ連れていけるのは年少組3人だけ。


…選択の余地はなさそう、だよね。


「マイ、ハル、サキ!他のみんなに知らせている暇はない!すぐに行くぞ!」

「はい!行きます!」

「はぁ……。だから逃げようとしたのに。

全く、マスター並みに迷惑な生き物です」

「いや俺そこまで迷惑なのかよ!?ほら、いいから行くぞ!」

「先行っちゃうよ~!?」


 言いながら、俺とサキも含めて全員が駆け出している。

 ただし、正面ゲート(おもて)から堂々と出てしまっては周囲が騒然となりファンたちに囲まれてしまう。それは避けなくてはならないため、一番近くの職員通用口からこっそり外に出た。

 ファンに見つからないようにゲートとオルクスを捕捉できる位置まで接近したところで、一番慣れているサキに“舞台(スケーナ)”を張らせ、俺も戦闘指示プログラムを立ち上げる。とにかくファンのみんなに気付かれないように、そして被害を出さないように。その上で開演に間に合わせないと!






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は10日です。

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