第二幕:復帰直後だからこそ
昼食を終え、休憩を挟んで、再び各自決められた午後のスケジュール通りに出発していく。
俺はナユタさんと一緒にライブスタッフとのミーティングに顔を出した。顔つなぎと、今後のことも踏まえて全体の段取りや進行、進捗を自分自身で把握しておくためだ。こないだみたいになるのはもうゴメンだしね!
このミーティングは昨日、ナユタさんが倒れた騒ぎで順延してもらってたもので、彼女が今日の午前中に連絡を回して取りまとめ、改めて集合してもらったんだそうだ。彼女、このあたりのスケジュール調整は抜群に上手いんだよね。とても真似できるとは思えない。
ミーティングを終えて、事務所で俺が必要な仕事も特にないとの事だったので、今度はリンたちの巡回に合流する。今日の巡回はリンと、ミオとハクか。ただ合流した途端にオルクスの出現があってバトルやるハメになった。
新ライトサイドには、ドラマ主題歌のタイアップで看守の制服をイメージした新衣装が完成していたので早速使う。今度の新レフトサイドのもそうだけど、新ライトサイドの衣装も9人分用意してあるので、ミオやハクの分も当然あったりする。
こちらの衣装はなかなか強いし使い勝手も良かった。リンにテアトルを張ってもらって、ミオとハクの実戦を見れたのも良かった。ふたりともさすが、歴戦の猛者って感じ。ただし。
「お疲れさん。ミオ、少し休もうか」
「クッ……、これしきの事でバテたりしませんよ失礼な!」
「体力的な心配はしてないけどさ、他人の指揮に従うと余計な神経使っちゃうだろ?」
「…………まあ、それは否定しませんが……」
ハクはともかくミオはまだ指揮されることに慣れてない感じがする。まあこればっかりは、数をこなして練度を上げていきつつ慣れてもらうしかないな。
それでも表向きは文句も言わずに従ってくれるので、こちらとしては大変助かる。戦闘にも拘り持ってて指示を聞かないとかだと無駄に苦労するからね。
3人がゲートまで討伐できたので、次はレイたちの出演しているイベント会場へ。そのまま終わるまで袖で待機し、出番を終えた彼女たちと合流する。
「マスター。大袈裟に疲れた顔しないで下さい」
「いやでも、今日はあちこち行かされてばっかりでさあ……」
「まだ治っていないのだから無理は禁物よ?」
「解ってるけど、先週までずっと休んでたからね。身体がなまってるせいでもあると思う」
「んじゃ、とっとと帰ろうぜ〜」
まあ正直な話、ナユタさんに俺の分の元気まで吸われてしまってる気がしないでもないんだけど。
とりあえず、レイたちの出番も終わったことだし帰ろうか。
『桝田さん、レフトサイドがイベント出演中ですのでそちらにも顔を出してもらえますか?』
あー、そうっすね。
ナユタさんの仰せのままに、はい。
「本当に大丈夫かしら?私、手伝いましょうか?」
「いや、大丈夫だよレイ。それにレイにはアキを引率して帰ってもらわないと」
「あぁ!?そんな監視つけなくたって逃げやしねえっつの!」
いやお前が早く帰りたい人なのは分かってるし、そんな心配してねえよ。心配してんのはお前の方向音痴だ。
「そう……。本当に、無理はしないでね」
「解ってる。ありがとな」
「しかし病み上がりのマスターをこき使うとか、ナユタさんもなかなか鬼畜ですね」
「病み上がりだからこそ、だよサキ。方々に顔を見せて復帰の挨拶もしないといけなくてさ。それもあって今日はあちこち行かされてんだわ」
「昨日ほとんど電話連絡で済ませたんじゃないんですか?」
「電話だけじゃ済まねえのさ大人の世界は。特に芸能界なんて信用第一の世界だからな、ちゃんと顔出して筋通したかどうかがその後の仕事のやりやすさにも直結するんだよ。
ま、今日の仕事は次が最後だからな。最後のひと頑張りしてくるわ」
まあ本当は、今日の仕事はこれで終わりじゃないんだけどね。ひとまずマネージャー業務のほうは終わりだけどさ。
気を取り直して移動して、レフトサイドが出演を終えるまでにイベント会場に到着することができ、無事に合流もできた。現場で関係者に挨拶して回って、ユウたちを引き取って。
あとは、今度こそ帰るだけだ。
「マスター、お顔が疲れてますよ?」
ユウにまで言われてしまった。
ていうか君ら、すっかり全員マスター呼びに変わってない?
「だって、レイさんがライブであれだけハッキリ宣言なさいましたから。私たちも外で呼びやすくなりました♪」
「出来ればマネージャーと呼んで欲しいのには変わりないんだけどな……」
新人マネのくせに自分をマスターなんて呼ばせている、何様のつもりだ、と一部のまとめサイトなどで根強く批判が出ているのは知っていた。
もちろん擁護の意見も多くあるし、大きな炎上にこそなってはいないが、いつ何のきっかけで火柱が上がるか分かったもんじゃないし、もし炎上してしまったらそれはMuse!の評判にも直結する。気にするなって方が無理ってものだ。
…でも、分かんないからこそ気にしたってしょうがない、とも言うよね。
まあなあ。ユウの機嫌もそれなりに直ってるみたいだし、とりあえずは現状維持ってことで、いっか。
帰りの電車内では、今日のイベントのことなど積極的に話を聞く。こないだみたいに全員無言で態度もバラバラ、なんてのは絶対ヤバいので、とにかく会話をさせようと話題を振る。
あ、でも新衣装の話はここで話したらダメだからね?ライブのとっておきなんだから。
でもまあ心配は杞憂だったみたいだ。ユウが話を振って、ハルがノッて、マイも釣られて……って感じではあったけど、なかなか雰囲気は悪くなさそうだ。
うん。全体的な雰囲気は悪くない。
見てて安心する。
「……どうしたんですマスター?さっきからお顔がニヤケてますよ?」
「えっそうか?別にニヤニヤしてるつもりはないんだけど。⸺前と比べて仲良くなったなあ、ってほっこりしてただけだよ」
「元から仲良いですよ!私ユウさんもハルさんも大好きですから!」
マイのその言葉に、ユウもハルも満面の笑顔。これなら新レフトサイドは心配なさそうだな。
お読み頂きありがとうございます。
次回更新は10日です。




