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第十一章 169.王座をつかめ

【突発更新まつりフィナーレ】

 評議会は早々にエウゲネス王の戦死を宣言し、次の王としてマグヌスを指名しようとした。


「エウゲネス王を戦死とするのは性急に過ぎます」


 王冠を授けるために呼び出したマグヌスだが異を唱え、頑として譲らなかった。


 やむを得ず、評議会はメラニコスとドラゴニアを証人として呼んだ。


「では二人とも、エウゲネス王が亡くなられた現場は見ておらぬのだな」


 ドラゴニアが思わず手を口に当て、嘔気(はきけ)をこらえる。


「戦象部隊に踏みにじられた王の本陣跡は凄まじいものでした。生きた時の姿を留めるものはほとんどなく、内臓や脳漿が飛び散り……」


 メラニコスも眉間に深いシワを刻んで証言する。


「あれに耐えて生きておられるとは……正直……」

「だから、マグヌスが王を演じた時、奇跡だと思い皆が信じたのだ」


 マグヌスが抗議した。


「エウレクチュスの戦場跡は誰も精査していないし清めてもいない! 東帝国軍の脅威があったあの時なら仕方がないが、これから人手を出し、何が起きたか精査すべきでは?」

「義兄弟を思う情はわかる。だが、今から調べたのでは……」

「生き残ったテトス将軍の部下にも聞き取りをして欲しい」


 マグヌスは粘る。

 このまま、エウゲネスが死んだことになり、権利を復活された英雄マグヌスが王に選ばれる……評議会はそう絵図を描いていた。

 

 まさか、マグヌス本人が反対の先頭に立つとは。


「マグヌスよ、与えられる栄誉を受けよ」

「エウゲネス王の生存が否定されない限り、受けません」


 議長リュシマコスが頭を抱えた。


「捜索隊を出してください」

「それで、生きて見つからなければ諦めてくれるか?」


 マグヌスは唇を噛んだ。

 死んだという証明と生きて見つからないという状況の間には天地の差がある。


「捜索隊は……メラニコスとドラゴニアに……当時を知るものに……」

「そうしよう」


 マグヌスはうつむいた。

 大勝利の立役者というより、虚しい希望を抱く愚か者に見えた。


「不満がありそうだな」

「エウゲネス王に長く仕えた者なれば、その代わりという役目の重さを計りかねている」


 マグヌスは顔を上げた。


「王がどこかで見つかることを神々に祈っている」


 彼はそう言いうと議長が止めるのを振り切って外に出てしまった。


「マグヌスには本当に王位を受ける気がないらしい」

「このまま王が決まらなければ、誰が祖霊神の祭祀を行うのだ?」

「王子テオドロスを仮の王とするか……」

「いやテオドロス様は未成年、無理がある」

「ゲナイオス殿に再び王位に……」

「いっそ、先の王妃の時代に倣って、ルルディ様にお願いしては?」


 議会は堂々巡りを繰り返していた。




 空の王座がある。

 誰もが王座をつかもうとするだろう。


 指導者の役割の重大さを熟知しているゲナイオスさえ、王位に就いた。


 人を避け、祖霊神の神殿の裏の低い石垣に腰掛けていると、正面の小高く尖った山の間に、夕日が落ちていった。


「あれから、幾月経った……」


 今も王宮を訪れれば、義兄王(エウゲネス)が王座に座っているような気がする。


 空はバラ色から暗赤色までの多彩な色を示し、明るく金色に輝く星が光を放ち始めていた。


「迷っているのかえ?」


 人声に驚いて振り向くと、マグヌスの養母、先の王妃が後ろに立っていた。

 白い着物に鮮血が滴り、細い首にはぐるりと一周する赤い筋が刻まれていた。

 マグヌスは驚きもしなかった。


「オオカミの姿には飽きられたとみえる」

「ふ、あのピュトンがついに死んだからねえ」


 先の王妃はマグヌスの隣に座った。


義母(はは)上、ご存知なら教えて下さい。あなたの愛する息子は生きているのですか?」

「死んだと思われて生きているものもあれば、生きていると思われてすでにこの世にない者もいる」

「はぐらかさないでください!」


 先の王妃は怖い顔をした。


「死者を統べるグダル神の掟により、語ることは禁じられている」

「そうですか……」


 王妃は血に濡れた腕でマグヌスの肩を抱いた。


「マグヌスや、王座をつかみなさい」

「義母上まで……エウゲネス王はあなたの息子ではないのですか!」

 

 マグヌスが腕を振り払う。


「私の言うことが聞けないというのかえ?」

「聞けません!」


 王妃の姿はいつの間にか黄色いオオカミの姿になっていた。

 マグヌスはとっさに剣を探したが、評議会議場の入口で預けて来たのを思い出した。


「しまった……」


 ついで短剣を抜こうとしたがあいにく使い慣れた黄金の短剣はルルディの寝台に刺さっており、鞘しか持ち合わせていない。


「戦士にあるまじき備えの悪さよ」


 オオカミが笑った。

 マグヌスは身を翻すと、祖霊神の神殿の入口まで走った。


「魔を退ける神域まで……」


 オオカミが飛びかかった。

 鞘尻で目を狙って殴り返す。


 一瞬ひるんだ隙に彼は神殿の内側に滑り込み、祖霊神の神像にすがった。


 石を敷いた床がひんやりと彼の興奮を受け止めてくれた。

 ただならぬ雰囲気に、神官と巫女が小走りにかけよってきた。


「騒がせてすまない。追われて逃げて来たのだ」

「誰かと思えばマグヌス様……心静かに祈りたい時もあるでしょう。……ここにいる者ほとんどがそうなのですが……」

「邪魔をした」


 彼は神殿の床にひざまずいている人々に小声で詫びた。

 夕闇が迫ろうというのに、一心に何かを祈っている者たち。


「マグヌス様、あなたがお心を乱されるのも無理はありません。ここへいらっしゃったのも万物の根源たる祖霊神のお導きあってのこと。ゆるりとお過ごしください」


 巫女が言葉を添えた。


「薄い粥ですが夕餉の準備もございます」


 マグヌスはここ数日の疲れが溶けるように消えていくのを感じた。


「感謝します。祖霊神よ、エウゲネス王のご無事を祈らせてください……」


 闇が満ちる前に壁際のランプに次々と火が灯されていく。

 暖かい粥が夜を徹して祈る人々に配られる。


 マグヌスも一碗を貰い受け、一口ずつすすった。

 挽き割り大麦に味付けは塩だけの質素な粥。


「貧者への炊き出しには干魚なども入るのですが……」


 巫女が済まなそうに言った。

 

「彼らは働かなくてはいけませんから」

「いえ、これで十分」


 マグヌスは碗を返しながら感謝した。


「ありがとう。心が決まりました」

 



【突発更新まつりフィナーレ】

すみません!! 野暮用で12時過ぎてしまいました。

待ってくださっていた方、ごめんなさい!!


次回、第170話 ルルディ


夜8時ちょい前にお会いしましょう!

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