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第十一章 167.仮面が落ちる時

【突発更新まつり実施中!】

 マグヌスは、エウゲネスの衣装をまとって評議会に出席した。

 いつかは事実を告げなければと考えるのだが、常勝エウゲネスの勝利を喜ぶ市民たちを見るにつけ、告白の機会を失っていた。


 評議会はおおむね好意的だった。

 互いの首尾を称え合う。


「この度の大勝利、見事」

「敵兵を一歩も入れぬ鉄壁の守りこそ感嘆に値する」

「守備についた両将、特に竜将ドラゴニアの目配りは素晴らしかった」


 ピュトンを失った悲しみと疲労で、メラニコスが十分に働けないとわかってからの彼女の采配は、ケチを付けるのが仕事の評議会をも黙らせるものだったに違いない。


 マグヌスがアルペドンまでの長距離を移動したのも、ミソフェンガロで敵軍四万を一気に葬るためと納得した。

 エウゲネスとして壇上に登ったマグヌスはアルペドン軍の活躍を称賛するが、内心では犠牲になった者たちのことを思って喜びきれなかった。


「しかしながら、敵将第三皇子アンドラスを返したのは僭越に過ぎよう」


 予想通りの批判が飛んだ。


「まず、この大戦に関しては自分が全権を与えられているはずだ」

「そこを超えているのではないかという主旨だが?」


 少し考えてからマグヌスは口を開いた。


「ただ返したのならば非難に値しよう」

「違うというのか?」


 マグヌスは不気味な含み笑いを見せた。


「彼は第三皇子、現皇帝に何かあれば皇帝になる。その何かを起こさせるために十分に説得して返した」

「ということは?」

「盤石の東帝国分裂の毒を含ませて帰したのだ。作戦行動は全権に含まれると思うがいかが?」


 東帝国で内乱が起きれば、こちらを攻める余裕はなくなる。

 ため息が聞かれた。

 そう言い抜けられてしまっては咎めようがない。


「質問はこれで終わりかな。私としてはせっかく勝利を祝う日に舌先で罪人を作りたくないのだが」


 リュシマコスの言葉が全てだった。


「エウゲネスの行為を是とする」


 先程の議員が自分の問いを撤回した。


「では、審議はこれで終わりだ。エウゲネス、祖霊神と都市の守護神に生贄を捧げよ」


 生贄はすでに評議会会場から遠からぬ祖霊神の神殿に準備してある。

 まるでこの日のために生まれてきたかのような、純白の美しい雄牛だった。

 都市の守護神はの生贄は一段階下で、茶色の若い雌牛だったが、これも雌牛としては申し分なく美しかった。


 議長であるリュシマコスに言われ、マグヌスは沈黙した。


「どうしたのだ?」


 人は騙せても神々は騙せない。


「エウゲネスよ……」


 マグヌスは顔を上げた。


「私はエウゲネスではありません」


 リュシマコスが眉間にシワを寄せた。


「エウゲネスではないと? では誰だ」

「ラウラの子、マグヌス」

 

 議場に怒号が湧いた。


「マグヌスなら遅参した上に毒にあたって動けないのではないか?」

「違います。私がマグヌスです」

「信じられない! 本当にエウゲネスではないのか!?」

「私はラウラの子マグヌスです」


 マグヌスは繰り返す。

 評議会議員が一人、立ち上がって叫んだ。


「では、証拠を見せろ」

「……証拠とは?」


 しんと会議場は静まり返った。


──烙印(スティグマ)


「これで見間違うものはおるまい」


 戦死したピュトンの嘲る声が聞こえるようだ。


 しばらくマグヌスは躊躇(ちゅうちょ)した。

 彼にとってそれを晒すのは命を奪われるほどつらいことだからだ。

 議員たちは動かないマグヌスを凝視した。

 衣の上からでもそれが見えるかのように。


 やがてマグヌスは重いため息をつき、衣に手をかけた。


「これでご満足か?」


 評議会会場では本来許されぬことながら、マグヌスは着物を肩から滑らせ、両胸をあらわにした。


「……おお」


 声にならない声が議場に満ちた。

 まごうことなき二重の十字。

 死刑囚の証。


「マグヌス!」

「私が戦場に遅参したときすでにエウゲネス王は行方不明だった。同盟国の離反を防ぎ、戦場の混乱を収めるため、あえてエウゲネス王を演じた。詳細はエウゲネス王の従卒がすべて知っている。必要なら宣誓供述者として呼ばれるが良かろう」


 無言の動揺が走る。


「髪を切ってくれたのは私の侍女テラサ。アルペドン軍の指揮官ヨハネスも承知のことだ。……勝手知ったるアルペドンまで東帝国軍を誘導したのは私だ」

「それであの水攻めか!」

「四万の軍隊を一度に……」


 マグヌスは表情を歪めながら、


「最後に敵をミソフェンガロに導いたのはその地の住人五百人の男女。マッサリアの力で彼らを鎮める顕彰碑を建てていただきたい」


 レステスたち。

 墓標もなく湖の底に眠る。


 マグヌスはむき出しになった烙印を戻すべく、肩を入れようとした。


「待った! 外の市民たちはまだ誤解を解いていない!」


 ゲナイオスが大声をあげた。


「もはや、それは恥ずべきものでは無い! 俺に証明させろ!」


 傍聴席から飛び出して、マグヌスを肩車する。


「ゲナイオス、何を……」

「良いからそのままにしていろ!」


 ゲナイオスは、マグヌスを担いだまま評議会会場から表に出た。


「同胞よ!」


 何事かと市民たちが足を止める。


「この度の大戦を勝利に導いた者が分かった。彼を見よ!」

「止めてください……」


 マグヌスはゲナイオスの頭の巻き毛をつかんだまま抗議した。

 ゲナイオスは逃さぬとばかり両腕に力を込める。


「この人だ! 知らぬ者はおるまい。罪なくして烙印を押された者を!」

「エウゲネス様ではないのか?」

「エウゲネス王は行方不明だ。その代わりに敵の四万の軍勢を全滅させたのがこのマグヌスだ!!」


 ゲナイオスはマグヌスを担ぎなおすと、


「旧会議場まで行進するぞ。覚悟しろ」


 いずれ知れることとは思っていたがまさかこんなに派手に演出されるとは。

 マグヌスは目を閉じた。


「行くぞ!」


 ゲナイオスが歩き始めるのが伝わってきた。




【突発更新まつり実施中】にて明日も更新します!


第168話 マグヌス! マグヌス!


朝8時ちょい前を、どうぞお楽しみに!!


※朝です! ご注意を!!

(朝8時ちょい前、昼12時ちょい前、夜8時ちょい前の1日3回更新でフィナーレを飾ります)

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